中国カシュガル ウルムチ暴動から3年 宗教管理強化が裏目に : MSN産経ニュース

 中国新疆ウイグル自治区の区都、ウルムチで2009年7月5日に起きた暴動から3年が過ぎた。中国当局は住民への監視を続ける一方、同地域の経済活性策を次々に打ち出すなど、硬軟織り交ぜた政策を展開している。しかし、ほとんど効果を上げていないのが実情で、6月末には「ハイジャック未遂事件」が同自治区で発生するなど、ウイグル族による抵抗は続いている。新疆で今、何が起きているのか。ウイグル族が9割を占める同自治区西部の中心都市、カシュガルから報告する。(カシュガル 矢板明夫、写真も)

 中央アジアに隣接し、古くからシルクロードの要衝として知られたカシュガルで6月末から7月初めにかけて、「中央アジア・南アジア商品交易会」が開かれた。文字通り中央アジア、南アジア各国との貿易を促進するための一大イベントだ。空港から市中心部に向かう道路の両側は、交易会を宣伝する看板やのぼりであふれていた。

 しかし、イベント会場まで数百メートルのところに来ると突然、車両は通行止めとなった。自動小銃を持った武装警察による厳しい警戒態勢が敷かれていて、会場に入るのにも空港並みのボディーチェックを受けなければならなかった。警察官は漢族への検査にほとんど時間を掛けないが、ウイグル族に対しては、荷物をすべて開けさせるなど徹底的に調べていた。

 会場内でアルバイトをしていたウイグル族の女子大生(21)は、「私たちの町なのに、なぜテロリスト扱いをされなければならないのか」とつぶやいた。

 交易会では、電気製品や生活用品の多くが上海や広州など沿海部からの出展で、地元からは玉やスカーフなど簡単な物しかなかった。

 会場で警備員をしていたウイグル族男性に案内してもらった際、彼の腕時計の時間が2時間も遅れていることに気付いた。

 聞くと、「これは新疆の時間だ」と教えてくれた。中国は法律上、全国で北京の時間を使うことになっているが、カシュガルのウイグル族の間では非公式に、北京時間より2時間遅い新疆時間を使っているのだという。ウイグル族が1930年代に一時独立した際に使われていた時間の名残との説がある。

 「学校も役所もテレビも北京時間を使っているのに、不便さを感じないのか」と尋ねると、警備員の男性は「北京と同じ時間は使いたくない」。漢族の支配に対するウイグル族のささやかな抵抗だろう。


 漢族が多数を占める新疆最大の都市ウルムチと比べ、カシュガルはウイグル文化の中心地といえる。中国語を話せないウイグル族が多く、イスラム教への信仰も厚い。昔から独立運動が盛んで、警察当局としばしば衝突してきた。3年前のウルムチ暴動の際も直後にカシュガルに飛び火した。

 こうした中、中国当局は2010年からカシュガルを経済特区に指定、広東省の深センをモデルに多額の資金を投入してインフラ整備を進めている。その狙いは、ウイグル族居住地域の経済活性化により貧富の格差を縮小させ、漢族と中央政府への不満を和らげることにある。

 しかし、こうした経済のてこ入れ策で潤ったのは、ほとんど漢族だった。空港の近くに5月末にオープンした5つ星ホテルの従業員など高収入の仕事については、中国語が堪能な1割ほどの漢族が優先的に雇われた。貧富の差はますます広がりつつある。

 また、特区建設に伴う漢族の進出で、カシュガルの市内のマンションの値段は1平方メートル当たり約2千元(約2万4千円)から約3千元(約3万6千円)に急騰した。

 市中心部で羊肉専売店を経営するウイグル族の男性は、「マイホームはますます買えなくなった。経済特区には何も良いことはなかった」と不満を口にした。


 新疆ウイグル自治区公安庁の発表によると、6月29日午後、ホータン発ウルムチ行き旅客機で「ハイジャック未遂事件」が起きた。ウイグル族の6人組の男たちがコックピットを襲撃したが、乗客と乗員らに取り押さえられたという。

 ここ数年、このようなウイグル族によるテロ活動のニュースがよく発表される。中国当局は海外亡命ウイグル人組織、世界ウイグル会議(ラビア・カーディル議長)などが背後で指揮しているとして、同会議への批判を強めている。

 これに対し、同会議の下部組織、日本ウイグル協会のイリハム・マハムティ代表は産経新聞の電話取材に対し、「中国側は犯人の住所や職業など具体的な情報を何も明らかにしていない。ハイジャック未遂事件そのものがでっちあげの可能性がある。事件があったとしても、圧政に対する地元ウイグル人の反抗だ」と話している。

 今回の事件について、カシュガルのウイグル族たちは「支持しないが、気持ちはわかる」との反応を示す。一方、「地下教会の連中の仕業に違いない」とみるのは、ある漢族の治安当局者だ。

 カシュガルやホータンなどウイグル族居住地域周辺には、多くのモスク(イスラム教礼拝所)がある。

 ウルムチ暴動後、中国当局はこれらモスクの管理を強化した。聖職者の布教活動に露骨に干渉し、熱心な信者に対しては講習を行うなど愛国主義教育を徹底的に実施した。金曜礼拝の時などは大量の警察官を動員し、礼拝者を監視した。

 その結果、当局の過度な干渉を嫌う多くのウイグル族たちがモスクに行かなくなった。自宅など警察の目の届かない場所で礼拝するようになり、小規模な組織が数多く形成された。中国の治安当局者はこれを「地下教会」と呼んでいる。

 若者が多い地下教会は過激思想の影響を受けやすいとされ、中国当局は、これまで摘発された「テロ事件」の多くに、こうした地下教会が関与したとみている。

 社会の安定のためと称し、宗教内部に踏み込んだ中国当局の政策は、結果として地下教会を量産し、過激派をつくり出すという悪循環を招いているようだ。


 ウルムチ暴動 2009年7月5日、新疆ウイグル自治区のウルムチで、ウイグル族住民が漢族住民や武装警察と衝突した。広東省でウイグル族が殺害された事件がきっかけだった。中国当局の発表では197人の死者と、1721人の負傷者を出した。死者が千人を超えたとの情報もある。


中国カシュガル ウルムチ暴動から3年 宗教管理強化が裏目に : MSN産経ニュース
2012.7.8 12:00
http://sankei.jp.msn.com/world/news/120708/chn12070812010000-n1.htm



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