第五回講演会報告と動画「南モンゴルの現状」講師 ケレイド・フビスガルド、オルホノド・ダイチン

第五回講演会「南モンゴルの現状」講師:ケレイド・フビスガルド、オルホノド・ダイチン

7月28日、東京下北沢タウンホールにて、「南モンゴルの現状」と題し、二人の日本在住モンゴル人、ケレイド・フビスガルド(アジア自由民主連帯協議会副会長、内モンゴル人民党)オルホノド・ダイチン (アジア自由民主連帯協議会常務理事 南モンゴル自由連盟党)が講演を行いました。

ケレイド・フビスガルド

まずフビスガルド氏が演壇に登り、現在の内モンゴル(南モンゴル)自治区が形成されたのは、1947年、中華人民共和国建国2年前の事だったこと、ある意味その自治区とは、それ以後のチベット、ウイグルなど各民族に対する中国政府の侵略と植民地化の始まりであり、ある種の予行練習とさえいえると述べました。そして、特に文化大革命時代には、民族ジェノサイドというべきひどい虐殺と弾圧が繰り広げられたことを指摘し、その上で、今日は、未だに現在の南モンゴルでどのような弾圧が続いているかを語りたいと述べました。

フビスガルド氏はまず2011年5月、大規模な遊牧民による抵抗運動がおこったこと、実は同様の抗議は80年代初頭にも、南モンゴルに漢人の大量移民が生じた際に、学生を中心とした抗議運動が起きたのだが、中国政府は完全に情報を遮断し、弾圧してしまったが、今回はそれと違い、自らの遊牧と大地を守ろうと、遊牧民、農民が立ちあがり、またネットの発達などもあって情報を完全に中国政府もコントロールできなかったことを指摘しました。

フビスガルド氏によれば、現在の南モンゴルの人口比率は大量移民の結果、漢人が約80%を占め、モンゴル人は20%未満にすぎない、そして、ウイグルなどとの違いは、都市部では特に漢人とモンゴル人は分離してすんでいるのではなく同じところに混在しており、モンゴル人の漢人化がかなり進んでいることを述べました。そして、そのような情勢下、遊牧民たちが自分たちモンゴル人の最後のよりどころである大地を、故郷を守ろうとして立ちあがったことを再度強調したうえで、昨年から現在まで抵抗運動が続いていることを述べました。

ケレイド・フビスガルド

まず、昨年5月には、モンゴル人が自らの土地に、漢人が石炭を運搬するためのトラックを通し、遊牧民にとって最も大切な羊のための牧草を破壊していったこと、それに抗議して地方政府に訴えても何ら処置を取ってくれず、ついに耐えかねたモンゴル人がトラックの無断通行を止めさせようと抗議行動に移った時、そのトラックは抗議の中心人物メルゲン氏をはね、車で引きずって死に至らしめるという殺人を行った。これにはついに、これまでどのような弾圧にもおとなしく耐えてきたモンゴル人たちの怒りに火が付き、先祖代々の遊牧生活をここまで破壊されなければならないのかという思いから、ついにこれまでの学生運動や抗議運動の枠を超えて、モンゴルの民族自決と誇りを守るための抵抗運動が始まったと述べました。

これ以後も、2011年6月、7月と抵抗運動は続き、今年2012年4月2日にも、ジレム盟(いわゆる通遼市)ナイマン旗の明仁ソムにあるトゥリグ村において、数百名のモンゴル人が草原破壊に反対して抗議の声を挙げた、それは漢人企業が、中央政府の力を背景に村内の土地を不法占拠し、強引に土地開発を推進しようとしたからだとフビスガルド氏は語りました。

その上で、中国政府は、モンゴル人の遊牧が土地を砂漠化させているという宣伝をしているけれども、事実は逆で、表土が薄く降水量の少ないモンゴル高原の土壌は、ひとたび鍬を入れて掘り返せば、たちまち砂漠化してしまうこと、遊牧が奪われることは、モンゴル人にとって最後の希望が大地とともに失われることだと訴え、それを守るためにはモンゴル人は命をも惜しまない思いで戦っているのだと、事態の深刻さを訴えました。そして、この抵抗に対し、中国側は重武装した警察部隊80人以上、警察車輌30台以上が出動し、抗議を行っていたモンゴル人に対して殴打するなどの暴行を加えた。そして22名が連行され、5名が重傷を負わされたこと、それでも抵抗運動は続いていると述べました。

そしてフビスガルド氏は、中国政府は内(南)モンゴルにおいては経済発展が進みGDPが上昇していると宣伝しているが、現実のモンゴル人の生活は全く改善されておらず、漢人はともかくモンゴル人個々人の平均収入はむしろ低下している、かって自分がモンゴルで学校に行っていたときに、ある先生が、モンゴルに鉄道が引かれることは私たちモンゴル人にとって果たしていいことと思いますか、悪いことと思いますかという趣旨のことを話されたことがあり、その時は先生の言いたいことがよく分からなかったが、漢人中心の発展や鉄道建築が何をもたらすのか、きっとあの先生は自分たちに考えさせたかったのだろうと、今思えば先生の授業での発言の意味がよく分かったと語りました。そして、繰り返すが、穏やかなモンゴル人も最早耐えられないところに来ていることを再度強調して報告を終えました。

オルホノド・ダイチン

続いてダイチン氏が登壇。まず、モンゴルの歴史に対し簡単に述べました。ちょうど百年前の1911年に辛亥革命が起こり、中華民国が成立すると、外モンゴルは独立を宣言し、内(南)モンゴルもそれに合併した形での統一モンゴル独立を望んだけれども、それはロシア(それ以後はソ連)の干渉で叶わず、1924年にソ連の衛星国としてモンゴル人民共和国が樹立された。そして1925年には、内(南)モンゴルで内モンゴル人民党が結成され、その主たる目的はモンゴルの独立と中国人のモンゴルからの追放だったと述べ、さらにその後、一方、1932年に満州国が建国されると、内モンゴル東部は満州国となったこと、1939年には、徳王が日本の支援を受けて蒙古連合自治政府を樹立したことなどを指摘しました。

その上で、1945年8月15日、日本の敗戦の時点で、モンゴル人は、1911年同様外・内モンゴル統一独立を望んだけれども、ヤルタ会談におけるソ連と中華民国との取引の中で、内モンゴルは蒋介石の中華民国に事実上引き渡されてしまったと、国際政治の中で翻弄されたモンゴルの悲劇を簡潔に語りました。

そしてダイチン氏は、この時の中華民国と、現在の中華人民共和国とを比較し、前者は亜資本主義国であり、後者は共産党独裁であるけれども、基本的に、中国人による多民族への人種差別、民族差別という点では変わらないのではないかと述べました。そして、例えばモンゴルにおいて最もひどい虐殺が行われたのは文化大革命の時代であること、その背景には、共産主義者ではあったかもしれないが、モンゴル自治区の最初のリーダーであるウラーンフーなどのモンゴル人高官たちは、中国の要求する農耕納入を拒否し、あくまでモンゴルインの生活伝統を守ろうとした、そしてまず中国共産党政府は1966年ウラーンフーらを追放し、その後、内モンゴル人民党という、すでに解散していたはずの勢力を一掃するという名目で、中国政府が認めているだけでも、 三十四万六千人が「反党叛国集団」か「民族分裂主義者政党」の「内モンゴル人民革命党員」と見なされ、抉り出すように逮捕され拷問にかけられていったと述べました。そしてダイチン氏は、おそらく10万人が殺され、12万人が障害者となった、どのモンゴル人世帯でも一人は犠牲者がいるほどの虐殺と恐怖政治が惹かれたと指摘しました。

オルホノド・ダイチン

その上で、確かに文化大革命では多くの漢人も犠牲になっただろうけれど、このモンゴルや諸民族の犠牲とは大きな違いが一つあり、それは、民族差別に根差した、民族ジェノサイド、抹殺政策の一面を持つことであること、そしてそれは、現在の中国においても全く変わっていないのではないかと語りました。

現在の中国でも、確かに漢人も多くの人権弾圧を受けてそれに抗議しているし、また海外を含め、中国民主化運動は存在する、しかし、この民族差別、漢人優位という点では、実は民主化運動の人たちも共産党と同じ差別意識を持っているのではないかとすら思うことが時々ある。中国民主化運動が成功しないのは、実はこの差別主義が民主運動家自身にも克服できていないせいではないかとダイチン氏は指摘しました。そして、チュニジアでたった一人の青年が抗議の焼身自殺をしたことでアラブに民主化の春が花開きつつあるのに、チベットでは数十人が焼身抗議に及んでも何ら中国政府が動かないのも、また民主化の力が進んでいるようになかなか見えないのも、この差別主義に要因があるのではないかと思う、中国の民主化がモンゴルにとって大事であることはわかっているからこそ、民主運動家の方々に、民族差別からの脱却を呼びかけたいとダイチン氏は述べました。

そして、具体的に今南モンゴルで起きている問題として、フビスガルド氏同様、漢人大量移民と牧畜の禁止、無理な農耕や資源の乱獲によって砂漠化が進んでいること、同時に、モンゴルの文化伝統を破壊するために、牧畜をやめさせて代わりに助成金を与え、一種の移民村を作らせているが、自分たちの調査によれば、それまで家族で数百頭の羊を飼って自分たちなりの幸せな生活をしていた家族が、この牧畜放棄を強制させられたことによって、今はみじめな仕事に就かざるを得ないこと、助成金も現実にモンゴル人にはとどかず、漢人の開発業者や自治とは名ばかりの漢人支配者に奪われてしまうことなどを指摘しました。

その上で、モンゴル人として哀しく、また真剣に考えなければならない現実として、漢人化され、中国政府に忠節を誓う一部のモンゴル人自身が、モンゴル人の立場ではなく政府の立場から同じモンゴル人を批判し、弾圧する側に回っていることを挙げました。昨年5月に漢人開発業者がモンゴル人をひき殺した時に、「くさいモンゴル人の命など価値がない、金で解決できる」というあまりにもひどい言葉を吐いたことに、今の中国政府の人種差別政策の基本的な精神があり、これは政府だけではなく漢人民衆にも、いや、民主運動家の一部にもある意識ではないか、この問題を解決しない限り、中国の民主化も、モンゴルの民族自決も独立も実現しないだろうと、中国全体の意識の変革の必要性をダイチン氏は強調して講演を終えました。
(文責:三浦小太郎)

ペマ・ギャルポ、イリハム・マハムティ
登壇したペマ・ギャルポ氏とイリハム・マハムティ氏。


動画

アジア自由民主連帯協議会 第五回講演会「南モンゴルの現状」
http://www.youtube.com/watch?v=y4atLRIKpX4

2012年7月28日、東京下北沢の北沢タウンホールで行われた、アジア自由民主連帯協議会第五回講演会「南モンゴルの現状」の動画です。

講師:
内モンゴル人民党 ケレイド・フビスガルド
南モンゴル自由連盟党 オルホノド・ダイチン
登壇者:
ペマ・ギャルポ
イリハム・マハムティ
司会:古川郁絵

●講演会告知より
 中国共産党の独裁支配の後、内モンゴル(南モンゴル)では、チベット、ウイグルと同様の激しい弾圧の中、自由も、民族の固有の生活・文化も、そして尊い多くの命をも奪われてきました。文化大革命時代の虐殺と拷問、そしてそれ以後の自然破壊などは、今もモンゴルの現代史に深く刻まれています。
 そして今や、漢民族の開発業者が本来モンゴル民族の故郷である大地を買い取ろうとしています。自由、人権、民族伝統、そして大地までもが奪われようとしているのです。
 今二人のモンゴル人活動家が、これまでの中国共産党の圧政と、現在の収奪について告発する学習会に、ぜひ多くの皆様方がご参集ください。

・ラジオフリーウイグルジャパン
http://rfuj.net

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