【書評】「韓流時代劇と朝鮮史の真実」 宮脇淳子著

【書評】「韓流時代劇と朝鮮史の真実」 宮脇淳子著

 本書は、著名な韓流時代劇から、日本では余り知られていないマイナーな作品にいたるまで、いわゆる「韓流時代劇」と言われる古代から近世までの韓国歴史ドラマが、いかに史実からかけ離れているか、そしてそのような脚色や誇張の原因を、韓国の歪んだナショナリズムと屈折した精神、時には現実の政治・領土問題に根差していることなどを丁寧に分析している。韓国政府が、高句麗を中国領土とみなした、いわゆる「中韓歴史論争」において中国政府に断固抗議するために、高句麗の偉大さをテーマにした歴史ドラマ「朱蒙」を制作し、ついに公的には中国政府を黙らせたという話などは、著者も認めるように日本もちょっと学んでほしいほどだ。

 そして本書のもっとも大きな魅力は、朝鮮史について著者独自の分析や通説への適切な批判が随所にみられることだ。特に、専門であるモンゴルの朝鮮半島への影響についてはきわめて示唆に飛ぶ指摘がなされており、李王朝の創設者である李成桂が満州族出身だったこと、ハングルとチベット語の関連など、東アジアの文化交流の減少としても大変興味深く読むことができた。朝鮮半島の歴史を、日本を含む東アジア全体の流れの中で考えなければならないという著者の歴史観の真髄を垣間見た思いである。また、李朝時代を舞台にしたドラマ「イ・サン」を論じた章は、ドラマを離れて、儒教精神の見逃されがちな問題点、それに基づく朝鮮半島の停滞、そして日本統治を巡る様々な歴史問題などについて鋭い論考がなされている。

 さらに驚いたのは日本の漫画の影響である。「チャングム」では、本来医師として活躍するはずのヒロインが、なぜか前半料理人として延々とライバルと料理対決をし続けるのだが、これは何と日本の料理対決漫画「将太の寿司」にヒントを受けて番組に取り入れたところ、予想外に好評だったので延々と料理対決シリーズが続いたという。

 そして私はこの漫画の指摘を受けて考えたのだが、韓国に不足しているのは独自のサブカル文化ではないだろうか。成功例として、漫画「新暗行御史」(尹仁完、梁慶一)を挙げたい。朝鮮民話や歴史のエピソードを題材に取り込みながら、全くの架空世界を舞台に、しかも日本人にも楽しめる普遍的な作品となっている。歴史はファンタジーによりかかることなく事実を直視することによってこそ真の誇りにつながるはずだし、ファンタジーはまた歴史伝統のもっとも深淵の水源に根差してこそ魅力的なものとなる。そのような文化的成熟こそが、今韓国には切実に求められていることを、本書は逆の面から照射している(終)


韓流時代劇と朝鮮史の真実|書籍詳細|扶桑社
http://www.fusosha.co.jp/books/detail/437



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