「中国政府はウイグル人弾圧にパリのテロを利用している」国外退去の仏女性記者独占インタビュー : 産経ニュース

【国外退去の仏女性記者独占インタビュー(上)】
2016.1.25 05:00
http://www.sankei.com/world/news/160124/wor1601240012-n1.html

 中国から昨年末に国外退去となったフランスのウルスラ・ゴーティエ記者が産経新聞の独占インタビューに応じ、中国政府は国際社会での反イスラム過激派テロの機運の高まりに乗じてウイグルなど少数民族の弾圧を正当化し、情報統制を強化していると語った。さらに、その実態を明らかにしたために、スケープゴートとして国外退去にされたとの見方を示した。一問一答は次の通り。(パリ 岡部伸、写真も)

テロを捏造?

 --なぜ、国外退去にされたのか

 「昨年9月、新疆ウイグル自治区の山岳部にある炭鉱が襲撃され、作業員や警察官十数人が死亡する事件があった。しかし、当初、一切報じられなかった。米国の『ラジオ・フリー・アジア』によると、3人の指導者の下、幼児や女性を含む部族とみられる数十人が山岳地帯の洞窟に逃げ込んだ。事件は自治区内の部族間対立のようなもので、犯罪行為に過ぎなかった。

 ところが、11月にパリで130人が死亡した過激派組織『イスラム国』(IS)による同時多発テロ事件が起きると、突然、中国メディアが同自治区で『国外の過激組織に指揮された武装テロリスト28人を掃討した』と報じた。

 事件から2カ月近くもたって突然、発表されたことに違和感を覚えた。しかも中国の習近平国家主席は、フランスのオランド大統領に弔電を送り、『フランス、国際社会とともにテロに打撃を与えたい』と伝え、王毅外相は『中国もテロの被害者』として、『反テロ統一戦線』の構築を訴えた。

 自治区内の犯罪行為をテロと呼んでいいものか。中国政府は少数民族、ウイグル族に厳しい弾圧を行っている。ウイグル族が反乱を起こしたとしても中央政府の強圧的な民族政策への抵抗という側面がある。

 実際、『ラジオ・フリー・アジア』によると、テロリストとして殺害されたのは28人でなく50人で、リーダーの孫など婦女子17人が含まれていた。彼らが中国政府がいうジハーディスト(イスラム過激派の聖戦主義者)だとは到底思えなかった。

 パリのテロ事件の3日後に、『中国政府がフランスとの連帯を訴える背景に、ウイグルの人たちへの弾圧に国際社会の理解を得ようという思惑がある』との記事を書いた。中国政府は、地方の復讐劇をISのテロだと捏造して、ウイグル弾圧正当化のプロパガンダにパリのテロを利用していると伝えたかった」

愛国メディアが過剰反応

 --どのような反応があったのか

 「記事が掲載された2日後、中国共産党の機関紙、人民日報系で、愛国主義を打ち出すタブロイド紙『環球時報』が『一線を越えた』『現実をねじ曲げ、でまかせを書いている』と、私を名指しで攻撃する社説を掲載した。ウイグル族を抑圧したい愛国主義者たちは私の記事に立腹したのか悪意と誤解から事実誤認が混じった内容で、私の言葉を変えて引用していた。

 『環球時報』は何度も私を攻撃し、記事掲載1週間後、私は『テロリストの友人』『テロ行為を支援している』と攻め立てられた。中国は外国メディアがウイグル族のテロ行為を民族問題とみることを『ダブルスタンダードだ』と批判する」

3度の謝罪要求

 「『環球時報』が報じたのをきっかけに、中国外務省が記事の撤回と謝罪を3回にわたって迫ってきた。外務省は大変当惑している様子で解決方法を見いだそうと謝罪を迫った。『環境時報』の報道は誤りであると説いても聞き入れなかった。私としても、自分が話しても書いてもいないことで謝ったり、訂正したりすることはできない。

 そうすると報道官は『テロの片棒を担ぐ誤った言論を謝罪しておらず、もはや中国での取材活動を続けるにはふさわしくない』との声明を発表した。取材に必要な記者証の更新は認められず、昨年大みそかの夜、日付が変わる1時間前に、事実上の国外退去を余儀なくされた」

経済関係に配慮?

 --仏政府の支援はなかったのか

 「在北京仏大使館など仏政府は懸命に行動し支えてくれた。帰国する飛行機の搭乗口まで大使館員がサポートしてくれた。仏外務省は言論と表現の自由に反するとの声明も出した。しかし、いかんせん事態がすぐ大きくなり、対応が遅すぎた。メディアの多くも応援してくれたが、決定を覆すに至らなかった。

 パリに戻ってからも上院議員らを通じて仏政府に働きかけているが中国政府を非難するに至っていない。欧州全体がそうであるが、経済関係を配慮してか、中国に強い立場を取れないのかもしれない」

在パリの中国女性が密告

 --仏語の記事を中国当局はどう検閲したのか

 「2009年から6年間北京で特派員を務め、1979年から89年まで10年間学生として中国に滞在したが、初めての経験だった。新疆ウイグルについては、2014年に当局による弾圧の実態などを詳しく書いたがおとがめはなかった。

 今回、ウエブサイトに掲載された私の記事をパリ在住の中国人女性が見つけて北京の『環球時報』にコメント付きで送ったようだ。中国人の立場から、『新疆に住む全ての人、ウイグル族の全ての人がテロリストではない』という私の記事に不快感を示し、“密告”のような形で伝えたという。彼らは、『ウイグル族全てがイスラム原理主義過激派テロリスト』との立場だった。

 私は中国を語る上で、チベットや新疆ウイグルの少数民族が不可欠だと認識しているが、中国の大多数である漢族の国民は、少数民族の実態をほとんど知らない。だから、外国人ジャーナリストとして彼らよりは中国を理解していると自負していた。その後、すべてはパリ在住の中国人女性の『環球時報』への通報から始まった」

 --この中国人女性は、在パリ中国大使館の外交官や情報部門の専門家ではなかったか

 「2009年から6年間北京で特派員を務め、1979年から89年まで10年間学生として中国に滞在したが、初めての経験だった。新疆ウイグルについては、2014年に当局による弾圧の実態などを詳しく書いたがおとがめはなかった。

 今回、ウエブサイトに掲載された私の記事をパリ在住の中国人女性が見つけて北京の『環球時報』にコメント付きで送ったようだ。中国人の立場から、『新疆に住む全ての人、ウイグル族の全ての人がテロリストではない』という私の記事に不快感を示し、“密告”のような形で伝えたという。彼らは、『ウイグル族全てがイスラム原理主義過激派テロリスト』との立場だった。

 私は中国を語る上で、チベットや新疆ウイグルの少数民族が不可欠だと認識しているが、中国の大多数である漢族の国民は、少数民族の実態をほとんど知らない。だから、外国人ジャーナリストとして彼らよりは中国を理解していると自負していた。その後、すべてはパリ在住の中国人女性の『環球時報』への通報から始まった」

 --この中国人女性は、在パリ中国大使館の外交官や情報部門の専門家ではなかったか


【国外退去の仏女性記者独占インタビュー(下)】
2016.1.25 08:00
http://www.sankei.com/world/news/160125/wor1601250004-n1.html

 「テロリストの友人」とのレッテルを貼られ、中国から国外退去となったフランスのウルスラ・ゴーティエ記者は産経新聞の独占インタビューで、愛国主義に傾斜する中国の危うさを警告した。同記者が「スケープゴート(見せしめ)」として“国外追放”になった背景には、中国共産党が主導する愛国主義路線があるとの見方を示した。一問一答は次の通り。(パリ 岡部伸)

 ◇党機関紙が政府方針

 --なぜ、中国政府にあなたの反論が受け入れられなかったのか。

 「過去にも中国からビザが下りないトラブルがあったが、相互主義から最終的には下りることがあった。ただし、今回は私は直ちに『中国の敵』『テロの支援者』とのレッテルを貼られてしまった。これは愛国主義者たちの巧妙な仕業だった。中国共産党の機関紙人民日報系の『環球時報』が一度報じた内容(方針)を外務省が覆すことは困難なのだ。愛国者たちの意見が強く反映される共産党機関紙が今日も政府方針に影響を与えている。あたかも愛国主義者たちが政府を操作しているようだ。

 中国政府が一環して強硬姿勢を取った背景に、『環球時報』の愛国主義者たちの強硬路線がある。私は中国政府を人質に取った強硬姿勢の愛国主義者たちのスケープゴートにされた。

 それには、2つのメッセージがあった。1つは、外国人特派員は従順になれ。2つ目は、当局は厳しく対処することができるのだというポーズを愛国主義者たちに示したことだ。

 ウイグル族の弾圧こそ中国国民の多数を占める漢族の強硬路線の愛国主義を満たす政策だからだ」

 ◇チャンピオン志向

 --なぜ、愛国主義者たちは過熱して愛国路線に固執するのか。

 「中国は、過去何世紀にもわたって常に外国の帝国主義に辱められてきたという議論がある。中国は外国の帝国主義に服従して、その犠牲になってきたというものだ。毛沢東時代、『われわれは犠牲者ではない。戦う』と言っていた。

 しかし、中国の指導層は再び被害者意識を持ち始めている。なぜなら、彼らは自分たちが世界一になることを他の国々が望んでいないということを知っているからだ。超大国の米国や他の帝国主義者たちが中国の発展の邪魔をしているという理由が必要なのだ。

 都市部で家や車を持つホワイトカラーたちは政府を支持する。しかし、それは生活が上向いているときだけだ。ほかの約10億人の国民は政府に不満を抱いている。指導層は虚弱だ。だから経済成長や開発、国力などのチャンピオンにならなければならない。強い愛国路線を崩さない理由はここにある。

 中国の習近平国家主席でさえも、愛国主義に走る国民に手を焼きながら影響を受けざるを得ない。中央政府はプロパガンダ(政治宣伝)で国民を愛国主義で洗脳したが、今、それが強くなり過ぎて政府の手足を縛っているのだ」

 ◇不満回避に反日

 --なぜ、中国は南京事件や慰安婦問題の反日プロパガンダを繰り返すのか。

 「確かに、習政権になって反日発言が多くなった。過去の指導者よりも力量があるとの自信からプロパガンダを行っているようだが、国民は必ずしも日本に怒りを向けていない。国民が怒っているのは、政府の腐敗や政策に対してだ。

 国民から信頼を得ていないことを理解している政府も国民の怒りの矛先をかわすために反日を繰り返している。政府が最も恐れているのは、洗脳したはずの国民である。世論は、自由ではなく、成熟しておらず、大変情緒的で流されやすいからだ」

 ◇激化する情報統制

 --中国の報道の自由はどうなるのか。

 「愛国主義の傾向が高まる国民の声を背景に、中国政府は私たちに中国政府の指示どおりに、(テロとの戦いを進める)プロパガンダを広めることを求めてきた。しかし、外国人ジャーナリストは中国の国民よりも多くの真実を知り得ている。それを受け入れることはできなかった。

 今後情報統制が強まり、外国人ジャーナリストにとって、中国での取材はますます困難になる。報道の自由も徐々になくなるだろう。今回の私のような中国の急所にふれるような微妙な問題を扱えば、危険が生じてくる。私は国外退去で済んだが、逮捕や収監もあるだろう」

 --中国の未来をどう見るか。

 「大変心配している。1989年の天安門事件まで戻っている気がする。中国の経済成長はピークを過ぎて下降するだけだ。中国がどのように下降していくのか。軟着陸できれば、扱いやすいが不透明だ。習近平主席が、山積した問題を解決するのは困難だろう」

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