【書き起こしと動画】「韓国の現状と今後の朝鮮半島」講師 久保田るり子氏

1月21日の久保田るり子氏 講演会の動画です。

また、以下は講演会の書き起こしです。
概要につきましては、こちらの記事をご覧ください。


アジア自由民主連帯協議会 第23回講演会
「韓国の現状と今後の朝鮮半島」
ジャーナリスト 久保田るり子氏
2017年1月21日(土)

 お顔を存じ上げている方もいらっしゃいますが、三浦先生からご紹介をいただきましたように、私の簡単な略歴を申し上げますと、1983年に初めて朝鮮半島に行きまして、87年から1年ほど留学をし、1991年ぐらいに最初に北朝鮮に行ったと思います。北朝鮮には5回ぐらい行って、韓国には2003年~2008年まで特派員で5年間おりましたから、かれこれ30年にわたる朝鮮半島との付き合いをしているという経歴であります。
 朝鮮半島を南と北と分けて考える方が多いのですが、これはコインの裏表で、北朝鮮のことがわからなければ韓国のことはわからないし、韓国のことがわからなければ北朝鮮のことは本当にはわかりません。ただ、今、北朝鮮は天然記念物みたいな存在になってしまって、金正恩がいかに危険な人物かということだけが独り歩きしていて、それと朴槿恵の研究を一緒にやっている学者も少なくなってしまったというような感じです。きょうは8割方は韓国の話をしますが、残り2割は北朝鮮の話もしようかと思っております。
 今朝未明、トランプアメリカ大統領の就任演説を聞いた方もいらっしゃると思います。私も2時まで起きて聞きました。持たれた感想はいろいろだと思いますが、私はたいへん失望いたしました。それは、ただただ「アメリカ第一主義」を主張し続けて、大国アメリカが今の世界をどういうふうに見ているのか、あるいは世界の平和と安定にどのように寄与するかについては、全くと言っていいほど触れませんでした。中国については厳しい姿勢を見せていますが、東アジア情勢にどういうふうに関わっていくのかについては、就任演説では全く見えなかったという気がしました。
 2017年の世界と日本ですが、アメリカは大国、ヨーロッパも安定しているというのがこれまでの姿でした。しかし今年は全く違う情勢の中で年明けをしたと言えます。トランプ政権は一国主義を掲げるビジネスマンと軍人の政権ですし、もう一つはEUの結束が危機に陥っているということです。ブレグジットということでイギリスがEUを離脱し、ハードブレグジットということで市場からも撤退することをメイ首相が明言しました。今後フランスの大統領選挙も注目されますし、ドイツも選挙がありますし、EUも内向きになっているということで、アメリカとヨーロッパが揺らいでいる中で、われわれアジアも習近平の中国共産党大会が秋にあります。そして北朝鮮は危険度を高めていて韓国は権力の空白状態という中での年明けということで、その中で日本は唯一安定していると言えると思います。安倍政権については批判的な方もいらっしゃると思いますし、いろいろ注文もあるかもしれませんが、政権としては存在感を示すと同時に、アジアでのリーダーの役割を果たそうとしているという意味で言えば、国内的にも国際的にも日本のプレゼンスを示しているという意味で、安定しているかと言えます。
 さて本題ですが、韓国の朴大統領弾劾訴追、あるいは大統領選挙がいったいどのようになるのか、どこに問題があったのかということについての話をしたいと思います。今、毎日のようにいろいろな情報が出てきていますが、全体像がわかりません。新聞やテレビはその日のことを細かく伝えていますが、これからどういうことになっていって、いつごろ、何がどんなふうに変わっていくのかということについては触れていないので、その点を整理してみますと、弾劾裁判というのは審査を出して6カ月、180日がマキシマムです。12月9日に弾劾訴追案が国会で可決され、弾劾審査に入ったので、若干の猶予期間を入れても、マキシマムでいうと6月まで審査が可能になるけれども、前倒しでおそらく3月~5月までのあいだに弾劾審査の結論が出るのではないかと思っています。
 その根拠の一つは、弾劾と並行して特別検察官がサムスンの会長に逮捕状を出しませんでしたが、これは韓国の国会が指名してやっている弾劾とは別の特別検察というところでやっていることで、それが3月ぐらいに結論が出ます。そうすると、その結論が検察の取り調べの結果となりますので、その結果を踏まえた上で弾劾の審査をすることになると思われますので、おそらく3月~5月のあいだに結論が出るのではないかと考えています。
 これは誰が審査をするかというと、憲法裁判所の裁判官9人のうち6人が弾劾だと言えば弾劾になるわけです。ところが、3月まで2人の欠員があるので7人になりますが、7人であってもそのうちの6人までが賛成しないと弾劾にならない。つまり2人反対が出たら棄却されてしまうという状況になっています。ただ、今の見通しでは弾劾になり、罷免される可能性が高い。もし棄却されたらどうなるかですが、既に朴政権は機能不全になっています。4月に退陣するということを一度言っていますので、棄却されたとしても満期までにはならないということで、選挙運動期間が2カ月ありますので、早ければ5月、遅くても夏ぐらいまでには新しい韓国の政権が誕生するだろうというのが日程的な話です。
 新政権が発足することについて、次は左翼政権になるのではないかといわれています。泡沫候補も含めると10人ぐらいの候補者がいますが、保守の候補者が実は1人もいないのです。潘基文を保守だという人もいますが、あの人は盧武鉉政権のときの外務大臣であった人で、つかみどころがないという意味で「油うなぎ」というあだ名がありますが、いわゆる主義主張というものがなく、どっちにも転ぶタイプの、外交官であり、極めていいかげんな人で、野心だけ大きい人だといわれています。(注:講演後に出馬とりやめを宣言)そういうことで保守の候補者がいないのです。この場合の保守というのは何をもって保守かというと、まず米韓関係重視、親米、反北朝鮮が基本姿勢であります。今、主だった候補者は3人ないし4人いますが、そのトップを走っているのは文在寅から始まって泡沫候補まで含めても親北朝鮮です。ということはこの時点でもう保守ではありません。
 文在寅という名前はこれからどんどん出てきますので簡単にご紹介しておきます。文在寅は弁護士出身の市民活動家から政治家になった人で、学生時代、1975年に朴正煕時代に学生運動をしていて逮捕された反朴正煕の人物です。1982年に弁護士仲間の盧武鉉さんと一緒に弁護士事務所をつくりました。盧武鉉さんの時代の政府側の秘書室長、日本でいうところの官房長官に近いかもしれませんが、大統領に非常に近い存在で補佐をするという役割を担っていました。盧武鉉さんはご承知のとおり自殺しましたが、そのときの葬儀委員長を務めたのが文在寅氏です。
 彼は親北・親中・反米・反日で最悪の候補です。どんなふうに最悪かというと、一つのいい例として、昨年10月、朴槿恵さんの疑惑が出た直前に出てきた文在寅さんに関するある疑惑が明るみにでました。それは宋旻淳という盧武鉉時代の外務大臣の回顧録の中に出てきた話で、盧武鉉政権は2007年、国連の北朝鮮人権決議案で決議をするときに、前年に賛成票を投じて話題になっていて、棄権が多かったのですが、2007年にどうするかという話になったときに、大統領秘書室長であった文在寅さんが主導して北朝鮮に意見を聞いてみようという話になった。当然向こうは拒否するわけで、そういうことがあったという内輪話を書いた宋旻淳さんの回顧録が出ました。9年ほど前の話ですが、その話題がワッと盛り上がりそうになったときに朴槿恵さんの崔順実事件が暴露されたのです。なんとなく気分が悪い感じがあるのですが、そういうエピソードがあるくらいに北朝鮮に近い人であります。最近で言えば、大統領候補で話題になったときに、彼は「韓国の大統領になったからといって一番にアメリカに行かなければいけない理由はない、自分は平壌に先に行く」と言ったぐらい親北の度合いが非常に強い人です。
 ここで、弾劾審理で何が問われているかについて整理をしておきます。崔順実さんというのはドイツにいたおばさんで、財団をつくり、そこにお金をたくさんもらって、朴槿恵さんの親友といわれる人ですが、この人の国政への介入について朴槿恵さんは共犯なのかどうかということです。韓国検察は崔順実を逮捕するときに大統領と共謀関係にあったと言っていますが、はたしてそれが本当だろうかということを判断することが一つ。それはつまり大統領が職務権限を使って崔順実に便宜を図ったのか、という大統領の権限の濫用ということが二つ目です。三つ目は、朴槿恵さんは自分に都合の悪いことを言う反政府の立場の人をリストアップしていたとか、うちの加藤ソウル支局長もそうですが、言論の自由を弾圧したことなどにより大統領の資格がないのではないかということです。
 四つ目は、高校生が300人近く亡くなったセウォル号事件が起こった直後、朴槿恵さんが7時間居所不明、空白の7時間疑惑ということがずいぶん長いこと取り沙汰されました。あれについて国民生命保護義務違反に当たるのではないかということもいわれています。五つのポイントというのは、国会が審議案を出したときの理由でして、あと収賄があるのではないか。お金をもらうほどこの人は困っていませんが、この五つの点で争われているということです。
 20~30万人の人たちが大規模デモをしました。朴槿恵を早く政権から下ろせということですが、韓国に駐在したことがあるいわゆるコリアデスクの人たちがみんなこぞって一泊二日で見に行きました。何が起きているのかということなのですが、私も行ってきました。何がこんなに韓国国民を怒らせているのか。日本人からすると、一人の親友の女性に便宜を図ったとか、その女性の娘の大学進学に関してサムスンからお金が流れていて特別扱いしたとか、そのへんが中心になっているわけですが、よく理解できないわけです。
 朴槿恵スキャンダルには韓国の矛盾が凝縮しています。それは表面に表れている事実関係だけを追っても実はよくわかりません。私がきょう皆さんにお話ししたいのは、朴槿恵さんという一人の女性政治家の宿命というか、個性についてが一つ。それから韓国の儒教的な伝統文化と80年代に政治体制において民主化された形、伝統と民主化という社会的な背景で出てきた問題、つまり社会背景が二つ目。三つ目は、大規模デモを韓国人は「ロウソク民心」と呼ぶのですが、ロウソクを振って自分たちの意見を表す。ロウソクは自分たちの命だというふうに民心を最大限に重要視する価値観の特異性です。この三つを理解しないと今回のデモはわからないと思うのです。
 まず朴槿恵さんという人物についてですが、ご存じのとおり朴正煕の娘で、10歳から27歳まで大統領府で育ったお姫様です。彼女は60年代から80年代までを大統領府で過ごし、韓国がIMF救済を受けた98年に自分で自ら政治家として立ち、現在に至るということです。特に60年代から80年代まで、10歳から27歳まで育った時間というのは、朴正煕が現代韓国の土台をつくった時代であるという反面、さまざまなことが起こっているわけです。例えば日韓の国交正常化は1965年。それからベトナムに派兵をし、延べ31万人の韓国人がベトナムに行きました。何のためにベトナムに派兵したかといえば、日韓の国交正常化もそうですが、朝鮮戦争で全く荒れ果ててしまった国土を再建するために資金が必要であったことから、日本からは賠償資金、すなわち経済協力の資金を得て、ベトナムに派兵することによってアメリカからの資金を得て高速道路をつくり、財閥を育て、鉄鋼業を育て、ダムをつくることをやったわけです。 そして60年から80年代というのは朴正煕と金日成が激しく争った時代です。有名なのは68年の青瓦台襲撃事件です。二十数人のスパイが青瓦台に侵入して1人を除いて全員が射殺されました。未遂に終わりましたが、そういう事件もありました。金大中事件もそうです。朴正煕が政敵であった金大中を日本のホテルでKCIAが拉致した事件で、あれは1973年のことです。文世光事件は朴槿恵さんの母親が暗殺された事件で、大統領の朴正煕自身が暗殺されたのが1979年です。
 ですから、60年代から79年までのあいだにさまざまな事件が起きたのですが、その中心に子供から大人になりつつある朴槿恵さんが大統領の娘として青瓦台にいたわけで、それが終わったあとに、お父さんとお母さんの血で濡れてしまった洋服を青瓦台で洗ったあとに、とぼとぼと出ていったわけで、そのあとに待っていたのは父に対してのものすごい非難と中傷で、それに耐えなければならなかった10年があったということです。名誉回復までかなりあったわけで、そういう時代を生きた人なのです。だからこそ韓国人はこの人を特別の思いをもって見るわけです。
 ところが、彼女はそういう苦しい時代を経て、心を決して政治の表舞台に出て、親子二代にわたって大統領にまでなったはずなのに、その韓国の心臓部である青瓦台の密室の中で、崔順実という、わけのわからないおばさんにいろいろ便宜を図ったというのが今回の事件なのです。それに対して、反政府運動をしている人たちだけではなく、保守の人も、自分の子供を大学に入れるのにすごく苦労をしている普通の主婦の人たち、そういう中間層の人たちまでもが裏切られたと思ったわけです。朴槿恵は大丈夫だ、そういうことはしないと思っていたのに裏切られたという思いが強くある。彼女だからこそ、怒りが募ったという面があるのだと思います。
 そのいい例をいいますと、今の韓国というのは第6共和制といわれており、盧泰愚という人が1987年に民主化宣言をして直接選挙制を取り入れ、はじめて大統領を国民が直接選挙で選ぶという憲法をつくったのですが、それを実現した第6共和制がいままで続いています。それ以来、盧泰愚、金泳三、金大中、盧武鉉、李明博、朴槿恵と続くのですが、一人として、不正蓄財、斡旋収賄、利権介入等で身内、あるいは近しい人に逮捕者を出していない大統領はいないのです。そのぐらい大統領に群がる人たちが多いということですが、そういう中で朴槿恵は大丈夫だとみんな思っていた。ところが、その朴槿恵もだめだったという失望を味わった。
 もう一つは、社会的背景と言ったらいいのでしょうか、分裂と言ったらいいのでしょうか。韓国は中国から儒教文化を取り入れたのですが、その中で儒教的な道徳観念、忠、孝、仁といったものが今も社会生活の中に深く根付いていまして、父親を敬ったりする気持ちを大事にしています。その一方で大きいのが一族主義というものです。一族の中で一人出世すると、みんながそこに群がってくるというのが日本以上に多いのです。いわゆる人脈社会というのでしょうか、向こうで住んでいると、びっくりするぐらいに人脈がまるで毛細血管のように社会の中に張りめぐらされている感じがします。例えば大学の同期の人脈、あるいは親戚縁者の人脈、学校や軍隊の同期の人脈、それの先輩・後輩の人脈などです。先輩のことは自分の肉親でなくてもお兄さんとかお姉さん、後輩のことは弟、妹と呼ぶ。そういう人のつながりが非常に強い社会なのです。それは伝統文化としてけっして悪いことではないと思いますが、大統領に権力が集中してくると、その悪い面が出てきてみんながそこに群がるということが起こる。
 政治を民主化しようということで1987年に第6共和制ができたときに、直接大統領を選んで政治腐敗をなくそうと言ったわけです。金泳三さんがブンブン群がってくる「金を包んでくるハエに注意しろ」と言っているにもかかわらず、利権行使の文化と民主化の衝突、これを「葛藤」と韓国語で言うのですが、相反するものが今も色濃く残っており、それがこれらの事件に象徴されているといえます。
 最後にもう一つあるのが「ロウソク民心」です。韓国の裁判は日本と同じ三審制ですが、その上にもう一つ裁判所があると言われています。それは人民裁判所だといわれるぐらい、国民の情緒、主観というものを正義だととらえるのです。彼らはけっしてポピュリズムとは言いません。人びとが大規模デモをするのは民意であり、これが韓国の正義だと見ているのです。だから、朴槿恵の五つのポイントについても、本当に大統領権限を悪用したものであるのか、大統領を罷免するほどの罪なのかということで法的に検証していったら、おそらくそうではないと思われます。ただ、民心がこのくらい怒っている以上、弾劾しなくてはだめだという空気がほとんど支配的なんですね。「ロウソク民心」という価値観、正義は非常に自己中心的で、なかなか外のものを受け入れられない。慰安婦問題でもそうですが、自分たちの正義が正しいという価値観がかなり強くあるわけで、これが今回の朴槿恵弾劾訴追にも大きく影響していると思われます。
 親北派の運動ということについてですが、このロウソクデモのど真ん中で仕切っているのが労働団体、それも非常に北朝鮮と近い過激な団体であり、そのほかには挺対協のような団体もここに入っています。そういう団体が数十集まって朴槿恵弾劾を推進する委員会みたいなものもつくっており、表面的には彼らの名前は出てきませんが、そういった親北団体が主導しているわけです。11月末のデモを見てよくわかったのですが、5mぐらいの、ものすごく大きいスピーカーが各所に置かれていて、そこからデモをやっている人たちを、列が乱れないように、あるいは、警察隊と衝突しないように整然と進むように誘導しているのです。あるいは若者に人気のあるようなタレントさんを呼んできて、小さなステージで歌を歌わせたり、行進をしているときはエモーショナルな、気分が攻撃的になるような音楽をガンガンかけるとか、非常に洗練されたデモのプロデュースをしているという感じでした。
 彼らはけっして前面には出ないのです。私が韓国に駐在していたころは狂牛病のデモとか、反日デモなどがありましたが、そのころはよく警察と衝突していました。ところが今は全く衝突をしません。洗練されたコントロールする術を駆使しています。でも、よく見ると同じようなロウソクやプラカードをみんなが持っている。それはただで配っている人がいるからなのですが、それをプロデュースするのもものすごい数のデモですから相当の資金がないとできないわけなので、そういう組織的なものが後ろにあるということです。
 びっくりしたのは、トイレ案内隊というのがいるのです。女性や子供もけっこうデモに参加していたので、「トイレ行きたい人いないですか」と書いたプラカードを掲げて叫んでいる若いお姉さんたちがいます。そういうところまでちゃんと準備をしているような人が支えている親北派運動の人たちによって、この「ろうそく民心」の運動が行われているわけです。きょうも6時からやっていますが、これを続けることによって弾劾が正義であり、早く保守勢力をぶっつぶせということになっている。そういうイデオロギーの背景がここにはあるということです。
 今、3方面からお話をしました。朴槿恵さんという独特の個性、そして伝統と民主化という社会的な背景、そして「ろうそく民心」という価値観の正当化というものが背景にあって、それがシンボライズされたうえではじめて弾劾というものが、今回は力が結集されて発展したというように、私には思われます。
 韓国は、青瓦台は黄教安さんという首相が大統領代行となっていますが、現状維持はできても新しいことは一切できない政治空白の状態になっています。その中で出てきたのが今回の釜山の慰安婦像設置の問題です。釜山に慰安婦像を設置しようというグループは1年前から準備をしていました。1年前に安倍さんと朴槿恵さんが電話会談を行い、尹炳世外交部長官と岸田外相とのあいだで合意ができており、その1周年を目指して釜山に少女像をつくろうという運動をしていたことは確かですが、ちょうどうまい具合に弾劾訴追になり、釜山に像を建てたということです。さらに竹島もそれに乗った形で昨年10月ぐらいから計画が進行中ですが、それだけではなくて、北部のいくつかの市の団体や民間の団体、高校生の連合などが主催して三つか四つの設置案ができています。
 われわれ日本側から見ると、合意したのは日本大使館の前の像をなんとかしてくれということであったわけです。それについて韓国側は努力をしますと言いました。ただ、日本側は何度も早く撤収してくれというと韓国側にプレッシャーになるだろうというので我慢をしていたのです。自民党の外交部会などでは10億円を拠出する前に像の問題を決着しないでやるのはおかしいじゃないかという声もずいぶんありました。しかし、安倍さんは約束をしたのだから先に進めようという指示を出したわけなのですが、あの合意の中ではきちんと触れているのです。
 尹炳世は慰安婦像撤去について、韓国政府は関連団体と協議をして適切に解決するように努力すると言っているのですが、今はとてもできないとしている。でも、その前も何も手を付けていなかったので撤去をされなかった。向こうの言い分は、今は政局がこういう状態だから対抗措置をしないでくれというふうに言っていますが、それは向こうの問題であって、合意は合意であるから、それについてわれわれは対抗措置を取るしかないし、放っておけばこれがどんどん増える状況にあるわけです。こうして慰安婦問題は次の政権に引き継がれることになり、その間に新しい慰安婦像をつくろうという計画も進んでいます。韓国政府は相変わらず身動きがとれないということで、次の政権は大統領候補の10人が10人、ほとんどが反日の人たちなので、慰安婦像問題は悪化の一途をたどるしかないというのが現状です。
 日本がとっている四つの対抗措置があります。まず一つは大使と総領事の一時帰国です。一時帰国というのは一見穏やかな言い方ですが、大使を送還したということで外交措置としては非常に強いものです。2番目に日韓通貨スワップ協議の中断です。これはIMFのような形で、金融危機になったときにお金を立て替えてあげるということの協議ですが、向こうがそんなことはお願いしなくてもいいということで切れていたのを、延長をお願いしたいという話が去年の夏に韓国側からあったので、再開する協議を始めていましたが、これを中断しました。三番目として民間のハイレベル経済会議も延期しましたし、四番目は釜山の市の行事関係の協力はしないということにしました。
 この四つを今、やっているのですが、段階的に解除をすることは可能ですが、少なくとも現政府の努力を形で表さないかぎりは、たぶん大使、総領事も帰任させないと思います。官邸は今、非常にこれについては厳正に当たるという空気があります。つまり、次の政権が危ない政権なので、ここで甘い顔を見せたらさらにつけあがってしまうことがあるわけです。合意違反をしているのはそちらだという態度で、1体だけを除去しないどころか、新しいものをつくるというのは何事だという話であり、関係は悪化の一途をたどるしかない状況にあります。
 さて北朝鮮は今年どうなるのかということですが、短期は安定していますが、中長期は不透明です。これは一にも二にもトランプ政権がどういう北朝鮮政策をとるかにかかっています。昨年10月ぐらいから金正恩はずっと静かにしています。それまで二十何発もの弾道ミサイルを撃ちまくっていましたが、今は静かにしています。それは韓国の朴槿恵政権がつぶれそうなので、ここで何かやってしまったら自分に損になる。北朝鮮に対して厳しくあたってきた朴槿恵の没落を静かに見守っているという状況なのですが、もう一つは、アメリカでどういう政権ができるかということをウォッチしているわけです。
 ご承知のようにトランプは海外の展開にしている駐留部隊についてその経費を出せと主張しており、韓国はそれほど出していないのでこの問題でもめる可能性があります。ただ、対北政策については強硬に出るのではないかという観測もあります。それは次期国防長官マティス氏、CIA長官ポンペオ氏というのは大変な強硬派で知られる人です。またホワイトハウスの国家安全保障の補佐官も強硬派が就任の見込みであります。トランプのような一国主義では、北朝鮮について、何の見返りがあるのか、自分たちに得になることをしないではないかと見るだろうし、北の核ミサイルの脅威が上がることは彼らの国益に反するわけで、それに対してトランプが北朝鮮政策に強硬に乗り出してくる可能性はあると思います。何かをもらうためではなく、アメリカを守るために北朝鮮に強く出て交渉するということはあり得ると思います。
 ただ、その方法については全く不透明です。北朝鮮側は核軍縮交渉をしろというふうに言っているわけで、トランプという人は、いわゆる取引外交、ビジネスで外交を進めるという手法をとるので、核軍縮、いいじゃないかというふうに言わないとも限らない。とても普通だったら考えられないことに臨む可能性がないわけではありません。北朝鮮に対してアメリカがどう出るかは、3月初旬から米韓合同の軍事演習が始まるので、そこではっきりすると思います。米韓合同軍事演習は2016年、最大級の規模でしたし、空母、ステルスなどの導入などもやっていましたので、アメリカがどういう軍事演習をやるのか、あるいは米韓の軍事同盟をどのように考えていくのかというのが、春の合同軍事演習あたりから見えてくるのではないかと思われます。
 北朝鮮の今年の目標というのは、一つは金日成の生誕105年といった数字的なこともありますが、核の小型化によるミサイルの実戦配備を目的にしているのではないかと思います。つまり、使える武器は早く実戦配備することによってアメリカと交渉しようということではないか。昨年、いろいろな実験をして、潜水艦型のICBMをつくろうとしているとか、潜水艦型の核弾頭ミサイルを完成しようとしていることを見てもわかるように、早く核武器の実戦配備をねらっていて、それを占有したいと思っている。そこのところが一つのポイントになるかと思っています。
 そして東アジアというのは、アメリカの政権が変わったことによって、たいへん大きな影響を受けます。日米、米韓、米朝、南北、そしてそういうことを背景にして中韓、あるいは米中が連動してゲームのように動いていくということです。最初にお話ししたとおり、トランプの演説を聞いて不安に思ったのは、そこに一つの大きな原因があるのですが、トランプがいったい何を考えている人なのか、自分の国を守るということだけははっきり言っているが、それ以外のアジアに対する関与、世界秩序に対する関与については全く言わなかったということが最大の不安要因であります。日本を取り巻く今年の現状と朝鮮半島情勢は厳しい状況にあります。ご清聴ありがとうございました。



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