北韓人権事件レポート「2010年7月 明澗郡で牛の密売罪により徐(ソ)イチョル等5名が公開銃殺」 : 北韓人権情報センター

事件情報

2010年7月中旬、徐(ソ)イチョルと妻を含む5人は、牛を密売した罪で明澗郡の川辺の堤防で公開銃殺された。特にソ・イチョルは死刑場で自身の罪を悔いる発言をすれば助けてやるという郡保安署の話を信じて、数万人の観衆の前で贖罪をしたが、その場で死刑宣告を受け、妻や他の同僚3人と共に銃殺された。

事件の発生時期および場所
・発生時期(期間) : 2010年7月中旬の午前
・発生場所 : 咸鏡北道明澗郡の川辺の堤防

人権侵害の類型
・権利の類型 : 生命権 / 個人の尊厳性および自由権
・侵害の類型 : 司法的執行 / 拷問および暴行
・細部な項目 : 公開銃殺 /


事件の細部内容

 ソ・イチョルは1975年生れで咸鏡北道明澗郡月浦区に居住し、2010年当時は牛の密売をして生計を維持していた。そんなある日、共に密売をしていた人が申告によって、明澗郡郡保安署に捕えられた。彼は保安員チョン・チュングォン(1975年生れ、男、咸鏡北道漁郎郡武溪湖里出身)から拷問にあい、共に仕事をしていた人たち5人の名を自白させられた。

 ソ・イチョルと彼の妻も、自白の名簿にあったので保安署に連行された。牛の密売にかかわった他の人たちも、やはり捕まって調査される過程でひどい拷問を受けた。この事件を処理するために平壌にある中央裁判所から判事1人が明澗郡に来た。2010年7月中旬の午前、明澗郡の川の堤防付近で開かれた公開裁判で、判事はソ・イチョルに、最後に言いたいことがあるかと尋ねた。 ソ氏は自身の罪を悔いており、生かしてさえくれれば国のために働くと話した。 だが、これは裁判以前に保安署で仕組まれたことだった。 群衆の前で贖罪すれば助けてやると、ソ氏を懐柔したのだった。

 ソ氏が贖罪の発言をすると、判事はマイクを奪い取った後、判決文を読んだ。 判決は死刑だった。 当時の目撃者によれば、死刑を宣告された時、ソ氏はとても驚いて床にぺたりと座り込んだそうだ。そして死刑場にある杭に縛られた時も非常に苦しみ、ばたばたもがいたという。死刑場には杭一本に一名ずつ、五人が縛られた。ソ・イチョルと彼の妻は、杭の両端に離れて縛られていた。 銃は清津市道保安署から15人来て、3人が一人に三発ずつ撃った。

 銃を撃つ人たちは、素面でするのが辛くて、酒を飲んでから撃つという。また後に被害者の家族から報復されないようにと、他の地域の郡の出身者が来て撃つという。当時、公開処刑は昼休み前に執行され、明澗郡の住民と郡拘留場にいた人たち、鍛練隊生、そして隣り村の明川郡(ミョンチョングン)幹部まで参加させ、銃殺を見させたという。


事件関係者情報

被害者
・ソ・イチョル (1975年生れ、男、化城(ファソン)農業専門学校労務者、咸鏡北道明澗郡月浦区(ウォルポグ)居住)
ソ・イチョルの妻、金○○(名前が二文字、党員、除隊軍人)外3人

加害容疑者(機関)
・咸鏡北道明澗郡郡保安署、死刑執行は咸鏡北道清津市道保安署
・全(チョン)チュングォン(1975年生れ、男、咸鏡北道漁郎郡(オラングン)武溪湖里(ムゲホリ)出身、保安員) – 拷問実行者

情報提供者
・情報提供者は2011年入国者で上の事件を直接目撃した後証言したが、自身の身辺安全上の理由から実名の公開を許諾していない。


情報出処及び検証

情報の出処 : (社)北朝鮮人権情報センター人権調査面接紙
情報受付時期 : 2011年12月
情報受付場所 : 北朝鮮人権記録保存所調査室
情報受付方法 : 面談調査
情報取得および事件分析者 : 北朝鮮人権情報センター研究員
検証者 : 北朝鮮人権情報センター北朝鮮人権事件リポート検証委員会


事件に関する背景の知識及び情報

 北朝鮮当局は住民を統制するための手段として、公開処刑を広範囲に施行している。 公開処刑とは、市、郡所在地など一定地域に居住する人民を、競技場、川の堤防、公園、市場のような広い空地に集めておき、犯罪項目を羅列した後、社会秩序を乱した犯罪者に対する死刑を公開的に執行することを指す。

 北朝鮮当局は公開処刑を通じた社会統制効果を極大化させるため、事前に公開処刑の日時と場所、公開処刑対象者の名前等を公開する。また公開処刑の当日には人民を公開処刑の場所に動員するため人民班と党組織を活用し、学校と企業所、農場等、職場に通知して、放送車両を使って宣伝放送を進める。公開処刑には検察署、保安署、保衛部、裁判所等から参加して、主席檀の後方には朝鮮人民共和国の徽章をかけておく。

 裁判部では群衆に処刑対象者の経歴と罪名を知らせ、求刑と判決手続きを経て、予め準備した判決文を朗読し、死刑の決定後、処刑を執行する。 処刑方法はほとんど銃殺刑が施行されていて、一部絞首刑が執行されたりする。

 北朝鮮当局によって公開処刑にあった大部分の被害者は、北朝鮮の刑法上死刑が許されない犯罪行為をした人たちだ。 しかし彼らが公開処刑される理由は、2007年12月19日最高人民会議常任委員会政令第2483号で採択された『朝鮮民主主義人民共和国刑法付則(一般犯罪)』のせいだ。刑法付則では極めて重い形態の国家財産略取罪、国家資源密輸罪、極めて重い形態の麻薬密輸・密売罪、特に重い形態の不良者行為罪、不法営業罪等に対して死刑に処せられるようにすることで、ほとんどの犯罪行為に対する死刑賦課を可能にさせた。北朝鮮政権は刑法付則を適用して人身売買、麻薬密売、殺人等の犯罪行為者らに対して公開処刑を実施している。

 本事件は刑法第5章1節第94条(特に重い形態の国家財産略取罪) ‘国家および社会協同団体財産略取行為の首謀者が、特に重い場合には無期労働教化刑に処する。’と刑法付則の第2条(極めて重い形態の国家財産略取罪) ‘国家財産略取行為の首謀が、極めて重い場合には死刑および財産没収刑に処する’と関連がある。 北朝鮮で牛は国家財産なので、これを不法に密売したり屠殺した場合、上の法条項に抵触する事案と見ることができる。だが刑法付則2条の場合、法自体が反人権的な法律なので、これは国家の立法による制度的殺人と解釈することができる。

 北朝鮮人権情報センターの「NKDB統合DB」によれば、2011年8月を基準にして、司法的執行による死亡は2,466件であり、その内公開処刑は2,190件である。


事件関連北朝鮮法規および国際人権条約違反事項

1.裁判
・朝鮮民主主義人民共和国刑事訴訟法第9章第1審裁判第5節判決第340条(判決の条件)
- 裁判所は裁判審理で充分に検討確認された科学的な証拠に基づいて、犯罪事件が正確に明らかになった場合、法の要求に合わせて判決を下す。
・市民的および政治的権利に関する規約(B規約)第14条1項
- すべて人は裁判において平等である。すべての人はそれに対する刑事上の罪の決定、または民事上の権利および義務の争いに関する決定のために、法律によって設置された権限のある独立的で公平な裁判所による公正な公開審理を受ける権利を持つ。
・市民的および政治的権利に関する規約(B規約)第14条5項
- 有罪判決を受けたすべての人は、法律に従ってその判決および刑罰に対して、上級裁判所で再審を受ける権利があ。

2.牛密売
・朝鮮民主主義人民共和国刑法第5章社会主義経済を侵害した犯罪、第1節国家および社会協同団体の所有を侵害した犯罪、第94条(特に重い形態の国家財産略取罪)
- 国家および社会協同団体財産略取行為の首謀が、特に重い場合には無期労働教化刑に処する。
・朝鮮民主主義人民共和国刑法付則第2条(きわめて重い形態の国家財産略取罪)
- 国家財産略取罪行為の首謀が、極めて重い場合には死刑および財産没収型に処する。

3.死刑執行
・朝鮮民主主義人民共和国刑事訴訟法第12章第421条(判決、判定執行の監視)
- 判決、判定の執行に対する監視は検事がする。死刑判決の執行は検事の参加の下でする。
・朝鮮民主主義人民共和国刑事訴訟法第12章第422条(死刑の執行機関)
- 死刑判決の執行は死刑執行指揮文件と判決書謄本を受けた刑罰執行機関がする。 死刑執行指揮文件は該当裁判所が発給する。
・朝鮮民主主義人民共和国刑事訴訟法第12章第423条(死刑執行結果の回報)
- 死刑執行指揮文件と判決書謄本を受けた刑罰執行機関は、死刑を執行し結果を3日以内に該当裁判所へ知らせなければならない。

4.公開銃殺
・市民的および政治的権利に関する規約(B規約)第6条1項
- すべての人間は固有な生命権を持つ。 この権利は法律によって保護される。 どこの誰も恣意的に自身の生命を剥奪されない。
・市民的および政治的権利に関する規約(B規約)第6条2項
- 死刑を廃止しないでいる国家において、死刑は犯罪当時の現行法に従って、またこの規約の規定と集団殺害罪の防止および処罰に関する協約に抵触しない法律によって、最も重い犯罪に対してだけ宣告できる。この刑罰は権限のある裁判所が下した最終判決によってだけ執行できる。
・市民的および政治的権利に関する規約(B規約)第6条4項
- 死刑の宣告を受けた人は誰でも、赦免または減刑を請求する権利を持つ。 死刑宣告に対する一般赦免、特別赦免または減刑は、すべての場合に付与できる。
・市民的および政治的権利に関する規約(B規約)第10条1項
- 自由を剥奪されたすべての人は、人道的にまた人間の固有な尊厳性を尊重して取り扱われる。


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