第31回主催講演会「中国民主化運動の現状と課題(王戴氏)」講演録

※既に公開したものですが、当日の動画も再掲いたします

 アジア自由民主連帯協議会第31回主催講演会「中国民主化運動の現状と課題」講師 王戴(民主中国陣線副主席)が、2月25日、東京市ヶ谷の講演会で開催されました。

 王戴氏は、まず、中国共産党独裁に対する民主化運動は、1978年の「北京の春」に始まり、その大きなピークはやはり1989年の天安門事件であること、その後一時的に様々な問題から運動が停滞する時期もあったが、この前惜しくも亡くなった劉暁波氏の「08憲章」によって再び運動は復活しつつあることを述べました。

 2011年、チュニジアのジャスミン革命のツイッターやネットを活用した方法を取り入れて、中国でも同様の行動が企画されましたが、これは残念なことに当局が事前に察知して失敗。そして、昨年から、在外中国人の運動家たちの中で大きなインパクトを与えたのは、郭文貴の告発だったと王氏は指摘しました。郭文貴はもともと中国の大富豪だが、だからこそ共産党内部の腐敗や権力闘争の情報を握っており、彼の告発には一定の意義があると王氏は評価しました。

 ただ、郭氏の告発は、、特に中国庶民に影響を与えており、その情報の価値は大きいが、郭氏は現在のところ、最大の悪であり独裁者である習近平への批判は避けている、もちろん、これには戦略的な意味もあって、今習近平を直接批判するよりも、周囲の腐敗をつくことで、共産党の実態を知らしめ、習近平の言う腐敗根絶と現在の共産党がいかに遠い存在であり国家財産を奪っているかを暴露することの方が重要だということもあるだろう。しかし、やはり自分や、今アメリカに住む風刺画家ラージャオさんのような人は、民主化のためには、習近平の独裁体制をそのものを直截的に批判すべきだと考えていると王戴氏は述べました。

 その上で、民主運動家や共産党に反対する勢力の中で様々な意見の違いがあることはそれはそれでいいのだけれど、いま中国政府は民主運動家に対し、海外追放、厳罰による見せしめ、運動に参加する可能性のある人たちを早期に発見し事前に逮捕するなどの弾圧を強化しており、それに対し、民主運動家の側が友好な反撃をできていないのは、正直、運動の側にも問題があることを認めねばならないと王戴氏は述べました。

 まず、日本でも、民主化運動の組織である民主中国陣戦が二つに分裂しており、また、かって運動を指導していた人物の中には、現在、中国大使館が絡んでいる可能性のある、チャイナドレスのイベントなどにも協力しているふしがある。政治理念を変えるのは自由。しかし、一度民主化を訴え日本の人たちに支援を求めた人間があっけなく変節してしまっては、運動それ自体への信用を失わせかねないと王戴氏は指摘しました。

 それだけではなく、現在の民主化運動は日本だけでなく海外の運動もしばしば分裂し、連携を失うことによって力を減らしている、これはもちろん中国共産党の工作活動もあるだろうが、何よりも、民主化運動家自身にも、自分の考えや運動方針を絶対化して他の人の意見を聴こうとしなかったり、経済的に困窮すると節を曲げたりすることがある。民主化運動自身が反省しなければならない面も多いと王戴氏は運動内部の問題点を指摘しました。

 その上で、これまで日本や欧米の民主主義諸国は、中国に経済支援を行い生活を向上させ、中産階級を作り出せば、市民社会が生まれ、自然と民主化に変わっていくと考えてきたが、結果的にそれは全くの誤りだったと王戴氏は分析、その理由として、鄧小平の談話を紹介しました。

 鄧小平は1992年の南巡講話にて、冷静に天安門事件後の情勢を分析し、経済がすべての課題であり、はっきり言ってしまえば、中国共産党幹部に金儲けをさせ、腐敗も許容する、その上で彼らを共産党に従わせればいいという意味のことを指示している、それは中国共産党独裁と資本主義経済は両立するというもので、お金儲けをしたい、中産階級の生活をしたいと思ったら、逆に共産党に従属しなければそのチャンスも回ってこない。共産党官僚による経済支配によって、健全で市民的な中産階級の成立を抑え、外国資本を逆に共産党独裁のために利用することが鄧小平以後の政策であり、それは見事に成功、民主化なき独裁体制と、膨大な格差社会が出来上がったと王戴氏は述べました。

 仮に民主主義国家で政治腐敗があれば、裁判やマスコミの言論がそれをただすだろうが、中国独裁においては現在のように「腐敗防止キャンペーン」が上からなされるだけで、しかも現実の中国経済は国民の約5%の「太子党」に握られていて、ほかの95%の国民がその恩恵にありつけないなか、一部の富裕層内の勢力争いに過ぎない。このような国では欧米式の中産階級は民主化がなされるまで出現することはなく、中国国民の不満は爆発寸前にまで高まっていることは事実だと王戴氏は分析しました。

 しかし残念ながら、現在の欧米諸国は、中国経済に目がくらんでいるのか、独裁への批判を避けるばかりか、ドイツのメルセデス・ベンツが、ダライ・ラマ14世の発言とされる言葉を自社製品とともに映した画像をインスタグラムに投稿した時、中国からの抗議を受けて謝罪するという事件もあった。正直トランプ大統領もそうで、昨年北京を訪問した時、中国の人権や民主化運動への弾圧に対し一言も触れようとしなかった。その意味で、欧米にも日本にも、もっとこの問題について理解し発言してほしいと王戴氏は述べました。

 その上で、中国民主化運動の今後について、王戴氏は以下の点を強調しました。

1、中国国内の現状に国民は強い怒りと矛盾を感じている。弾圧されている、ウイグル、チベットなど各民族の独立傾向、内陸部と沿岸部の膨大な経済格差などを見ればそのことはあきらかであること。
2、今必要なのは、このような現状を見据え、その解決を目指す力のある民主化運動であること。この運動の再建が絶対的に必要。
3、中国共産党内の権力闘争は激化しており、薄熙来の例を見てもわかるように、ある種のクーデターの可能性もある。
4、国際社会の民主化運動への支援。これもまた絶対に必要な点で、天安門事件以後、日本も含め、本当に欧米・自由民主主義陣営が団結して中国への経済制裁と民主化への要求を続けていたら、少なくとも現在のような覇権主義独裁の中国は生まれなかったかもしれない。

 そして王戴氏は、現在の中国には、軍事力も、またお金もあるかもしれないが、国民は全く幸せになっていないと述べ、民主化運動の再建のために自分も努力していくことを告げて講演を終わりました。

 質疑応答の場では、今後、習近平が、ある種の「大統領」を目指す、完全な独裁体制を作るためにあえて偽装の選挙を行う可能性まであることなど、様々な議論がなされました。約2時間の充実した講演会でした(文責 三浦小太郎)

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