【講演録および動画】ラエイマウン氏講演会報告「ミャンマー民主化の現状と『ロヒンギャ』問題」


アジア自由民主連帯協議会 第33回講演会にて、「ミャンマー民主化の現状と『ロヒンギャ』問題」をテーマに ラエイマウン(ミャンマー民主活動家)が講演された際の動画です。(2018年5月20日)
講 師 ラエイマウン(ミャンマー民主活動家)

 5月20日午後3時より、ミャンマー人でアラカン州出身のラエイマウン氏の講演会が開催されました。ラエイマウン氏は、かって日本でミャンマー民主化運動に参加、その為に帰国できず、父親が亡くなった時も故郷に帰ることはできませんでした。ミャンマー民主化以後帰国、現在は貿易や観光などの仕事を通じて、ミャンマーと日本の友好のために尽くそうとしていらっしゃいます。

 そのラエイマウン氏が、現在危惧しているのは、祖国ミャンマーの民主化の現状が、ロヒンギャ(この名称に対しても同氏は異論があるという)に対し、スーチー政権が迫害を続け、難民が流出しても冷淡だという理由から、イギリスをはじめ欧米諸国、また日本までも批判が高まっていることでした。ラエイマウン氏は、まず、ミャンマーの現政権は、いまだに過去の軍政時代の影響から軍人たちの影響が強く、スーチー氏は憲法改正も民主化も、極めて困難な状況の中で一歩一歩進めていくしかない状況であることをまず指摘し、少なくともミャンマー国民は、スーチー氏を類いまれなリーダーとして尊敬し支持している人たちが殆どだと述べました。

 その上で、ロヒンギャ難民の問題として報じられていることについて、ラエイマウン氏は、現在の報道、特にBBC経由の報道には大きな問題点があるとし、以下のように述べました。

『ロヒンギャという名称自体、本来は存在しないし、たとえばイギリスの著名な辞書にもこの民族名は、第二次世界大戦以前は掲載されていなかった。ミャンマーでは、彼らは「ベンガリー」という名称で呼ばれており、これはベンガルから来た人々、という意味です。例えば私の生まれたミャンマー、ラカイン州には、ロヒンギャと言われた人々は、たとえはおじいさんや父の時代にはほとんどいなかった。』

『19世紀、イギリスがビルマ(ミャンマー)を植民地にした段階では、ミャンマーは事実上の仏教国で、イスラム系のロヒンギャはほとんどいなかった。しかし、その後イギリスは、労働力としてベンガルから数多くのイスラム教徒を入植させていく。これが、今ロヒンギャとされているベンガリ―のルーツなのです。』

 なお、ラエイマウン氏を日本に紹介した、雑誌「宗教問題」編集の小川氏によれば、イギリスが植民地化するまでは、ビルマは各王国が支配する幾つもの国家に別れており、統一したビルマという国が出現したのは実は植民地下においてだったことを指摘。その時に、インドにおいてもヒンズー教徒とイスラムとの対立をあおって支配体制を固めたように、イギリスが意図的にイスラム教徒を入植させ、彼らを支援する形で支配権を確立していった経緯があることを解説しました。

『第二次世界大戦中、イギリスは、イギリス軍は、日本軍と戦わせるために、ロヒンギャ(ベンガリ―)に武器を与え、また、日本軍はビルマ独立を支持する形で、アウンサン将軍を支援しました。この後、武器を持ったイスラムによって、多くの仏教徒が虐殺されたという悲劇も起きています。』

『ビルマが戦後正式に独立したのちも、ベンガリ―達はバングラデシュから親族を呼び寄せるなどして数を増やし、1950年代「自分たちは先祖からミャンマーに住んでいる『ロヒンギャ民族』である」と宣言しました。しかし、これはある種のフェイクニュースです。イギリスの植民地政策によってもたらされ、ある時期以後は不法移民に近い存在として生きてきた人々なのです。』

『しかし、事態が急速に悪化したのは、2016年に表れた、アラカン・ロヒンギャ救世軍(ARSA)というテロ組織の登場からです。彼らは仏教徒に対し無差別に暴力を加え、残酷に殺害、子供や女性にもひどい傷を加えたうえで殺しています。ロヒンギャが難民になっていることばかりが報じられますが、実は多くの仏教徒も、両親を殺されて孤児になったり、暴力を恐れて難民化し山中に逃れざるを得ない状況に置かれたのです。』

 ここで、ラエイマウン氏は、多くの衝撃的な写真を公開しました。そこでは、仏教徒の墓が暴かれたり、また女性や子供がひどい傷を負って殺されている写真などでした。数百名が殺害されたといいます。

『このような事態に対し、ミャンマーでは掃討作戦が行われました。その過程で、確かに行き過ぎがあったかもしれませんが、そのような一面のみを強調して、以上のような歴史的背景も、また、現実に起きているテロもすべて無視するような、一方的にロヒンギャ(ベンガリ―)が犠牲者でミャンマー政府が迫害者であるかのような報道は不公正です。このARSAは、確証はありませんが、中東諸国の支援を受けているともいわれています。少なくともその残酷な殺害手段は、イスラム・テロリズムの影響を感じさせます。』

 そしてラエイマウン氏は、日本国がぜひ公正な立場でミャンマーの問題を見つめ、スーチー政権を支持してほしい、欧米や日本が、このロヒンギャ問題を理由にミャンマーへの支援をためらうようになれば、逆に中国の影響が強まってしまうと警告しました。開場からも様々な積極的な質問がなされ、この問題について新たな視点を教えられたという声も多く寄せられました。

 当協議会は、ラエイマウン氏の意見に全面的に賛同するわけではありません。しかし、この問題において、ミャンマー側の声があまりマスコミなどに登場しない中、一つの参考意見として、ぜひ皆様にお届けしたいと思います(文責 三浦)


(参考資料)
自由の戦士か災いをもたらす者か?ロヒンギャ武装組織指導者 異色の人生
http://www.afpbb.com/articles/-/3145077

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