【第34回・講演録】藤井厳喜先生講演会報告「米中対決とアジア情勢を読む」

 9月22日、拓殖大学文京キャンパスにて、協議会主催による、国際政治学者藤井厳喜氏の講演会が開催されました。参加者は訳50名。講演会の模様は記録として録画しましたが、一般公開は今回は致しませんので、講演会報告を事務局三浦の文責にて行います。

 まず藤井氏は、当協議会のテーマであるアジアの民主化と民族自決について、チベット、ウイグルなど抑圧されている民族に希望が生まれてきたことを語りました。これはトランプ政権の誕生によるところが大きく、しかし同時に、今アメリカも反トランプとトランプ政権との間に、事実上の「内戦」というべき状況が起きている、これは、日本で言えば、安倍首相がその信念を本気で言い始めた時にマスコミと対決せざるを得ない状況がくることと同じで、今トランプは、アメリカのメインストリートメディアと内戦状態にあると藤井氏は指摘しました。さらに今、トランプは、アメリカにおける、国務省など官僚に深く根差した親中派を敵としており、これは日本とまったく同じ状況であると述べました。

 藤井氏は、日本ではまだこの戦いは全面的に表れてはいないけれど、アメリカでは、「オープンバトル」の状態で、リベラル派・親中派官僚(司法省、国務省に多い)、メディア、そして共和党内部の敵も含めて、今やトランプの闘いは全面戦争となっていると述べました。

 そして、現在言われているロシアゲートにおけるトランプ批判は根拠が薄弱であることはすでに判明しつつあるが、ここで押さえておかなければならないのは、もしも、先のアメリカ大統領選挙でヒラリー・クリントンが勝利していたら、アジアにおける民主化運動は下手をしたら壊滅していたかもしれないことだと藤井氏は指摘しました。ヒラリーは国務長官時代、彼女の個人メールはほぼすべてチャイナに流れており、中国共産党に情報が筒抜けだった危険性が高く、一つの事例として、リビアのベンガジ事件※において、アメリカの臨時大使が殺害されたのは、彼の行動予定が漏れていた可能性があると指摘しました。

※ベンガジ事件 
2012年アメリカ在外公館襲撃事件。アメリカ合衆国で作成された映画”Innocence of Muslims”(イノセンス・オブ・ムスリム)がイスラム教を侮辱するものとして、これに抗議するためエジプトやリビアなどアラブ諸国のアメリカの在外公館が2012年9月11日以降、次々に襲撃された事件である。一連の襲撃事件で、在リビアのアメリカ領事館ではクリストファー・スティーブンス駐リビア大使ら4人が殺害された。

 そして、もしもヒラリーが大統領に当選していれば米中は本格的な蜜月時代を迎えたかもしれない、日米の主流マスコミはトランプを批判しているが、トランプが勝つことによって、日本も、そしてアジアにとっても良い結果になった、つまり、米中対決の時代になったと藤井氏は述べました。

 かってのブッシュ政権時代も、保守派と言ってもそこまではいかなかった。ブッシュ大統領は、中東政策中心で、中国に対しては対立政策を取り切れず、オバマ時代はアメリカの弱体化を招いた。ブッシュ(ジュニア)大統領時代、これはアーミテージらも含めて、中国に対しては、軍事的には封じ込め政策、経済的には改革開放を即し推進するというもので、要するに経済的、人的交流が中国を次第に民主化するという発想だった。しかし、この政策は結局失敗に終わる、それをはっきり認めたのがトランプ政権だと藤井氏は指摘しました。

 トランプ政権の分析は、チャイナは世界の覇権を握ろうとしている、それは経済力が付いたからであり、そうさせたのは欧米、そして日本の経済支援であるという認識に立っており、今米中間で起きているのは貿易対立ではなくて、チャイナの新植民地主義、世界征服の覇権主義(19世紀まで欧米が行ってきた帝国主義そのもの)とアメリカとの戦いだと藤井氏は問題の本質を指摘しました。

 藤井氏は、チャイナは改革開放を経済面では行ったかもしれないが、政治思想的には共産主義思想を捨ててはいない、その証拠に、マルクス生誕200周年を彼らは盛大に祝った。共産主義からすれば、自由、人権、民主主義といった政治的理念には何の意味もなく、外国との様々な条約、契約も無視してかまわないという思想であり、このような思想とアメリカをはじめ、民主主義や法治の原則に立つ国々が相容れないのは当然である。例えば知的所有権の問題も、共産主義からすればブルジョア的な否定すべき概念に過ぎない。この問題を焦点に、今アメリカは中国との経済戦争を始めていると述べました。

 そして、トランプ政権の本質とは、今アメリカが、グローバリズムから、経済ナショナリズムにかじを切り替えつつあるとし、これはアメリカの大企業のほとんどを敵に回すことになる、これは日本も同様であって、トヨタ、日産からパナソニック、皆、チャイナに投資中であり、財界は明確に親チャイナ路線、これが安倍首相の足を引っ張っていると藤井氏は批判しました。

 アメリカも同様で、フェースブック、アップル、グーグルなどのITエリートは、みんな親中傾向、このような企業がトランプに反対しており、中立的なはずのネット世界も今は反トランプの扇動が高まっている。そして、トランプの政治指向は本質的にグラスルーツ保守に根差しているが、共和党主流派ビジネス界の意見を反映する傾向があり、ここにも対立構造があると藤井氏は指摘しました。

 そして、今、ITをはじめとする企業は、かっての「多国籍企業」ではなく、完全な「無国籍企業」となっており、国家、国境を敵とする存在であり、ここに、リベラル急進派、伝統破壊派とこれらの企業が連帯する思想的な根拠があると述べました。そして、無国籍企業の発想は、行きつくところ、より低賃金で物を作れる貧しい国で物を作り、それを世界に売りつけるという発想に行きつく。

 これに対抗するために、2014年、FATCA(外国口座税務コンプライアンス法(Foreign Account Tax Compliance Act)が、米国の税金を逃れるために海外(米国以外)の金融機関の口座に資産などを隠すことを防止するために制定された。いわゆる先に述べた無国籍企業は、この仕組みを解体しようとしていたが、トランプはこれを維持している。そして、今のトランプ政権の経済政策の基本は、「ボルカ―ルール」と呼ばれる、金融機関に高リスクの自己勘定取引を禁じる法律で、預金者のお金をリスクの高い取引に投じないよう、銀行に自己勘定の取引やファンドへの出資を厳しく制限するものであり、これによってリーマンショックのような事態を防ぐとともに、ある種の自国経済の保護、経済ナショナリズムを復活させようとしていると藤井氏は述べました。

 そして、この夏から、カトリックのベンス副大統領や、ボンペオ国務長官らが、ウイグルの人権弾圧、宗教弾圧などを強く批判する発言が出てきた。これは、経済戦争と同時に、中国共産党イデオロギーの根本を討つことにつながり、今後、アメリカのグラスルーツのクリスチャンが立ちあがることも可能性も出てきた。藤井氏はこのように未来への希望を語ったのち、アジアの民主化や民族自決は、大国に頼るのではなく、アジア諸民族自身の力と、アジアの連帯によって実現しなければならないが、このようなアメリカを含む世界情勢をよくつかみ、その流れを活用していくことも重要だと述べて講演を結びました。(文責 三浦)

.