南モンゴル4・2事件の経緯 : 内モンゴル人民党

 モンゴル民族に対する文化的虐殺と草原生態の破壊が続いている中国占領下の南モンゴル(いわゆる内蒙古自治区)において、昨年に引き続き、またも中国政府による暴挙が行われた。

 2012年4月2日、ジレム盟(いわゆる通遼市)ナイマン旗の明仁ソムにあるトゥリグ村において、数百名のモンゴル人が草原破壊に反対して抗議の声を挙げた。中国人が経営する『興隆高林』という企業が、政府の力を背景に村内の土地を不法占拠し、強引に土地開発を推進しようとしたためである。

 表土が薄く降水量の少ないモンゴル高原の土壌は、ひとたび鍬を入れて掘り返せば、たちまち砂漠化してしまう。そして、周囲に深刻な被害を及ぼす黄砂の発生源となるのである。
 数千年にわたり草原で暮らしてきた遊牧民族の末裔であるモンゴル人にとって、そのようなことは子どもでも分かる常識であるが、農耕民族である中国人は土地を見ると耕さずにはいられないらしい。

 中国人がモンゴル高原に入植し始めた約一世紀前から、草原を耕作しては、数年以内に荒廃させるという愚行が数え切れないほど繰り返され、かつてな緑豊かであった南モンゴルの大地も、今では僅かに一部の地域を残して、黄土が剥き出しの無残な不毛の地と化してしまったのである。

 このような事実は、もはや誰の目にも明らかであるにも関わらず、中国人達は反省するどころか、さらなる草原開拓を行おうとし、モンゴル人達が絶望的な抵抗を続けているのである。幸いにして世界の耳目を集めるに至った今回の事件も、氷山の一角に過ぎないということは言うまでもない。


 しかし、自分達の生命線である草原を守るために立ち上がったモンゴル人の訴えは、またもや軍靴の下に蹂躙されることとなった。中国当局は当然の如く、残虐な暴力によって応酬したのである。ナイマン旗公安局からは重武装した警察部隊80人以上、警察車輌30台以上が出動し、抗議を行っていたモンゴル人に対して殴打するなどの暴行を加えた。そして22名が連行され、5名が重傷を負わされたのである。

 抗議活動のリーダーの一人であるボルフー氏(仮名)によれば、中国企業の土地不法占拠に対する戦いは去年から続いていたとのことである。元々、約4000平方メートルの土地を中国企業が数年間にわたり不法占拠していたが、去年から彼らが森林の管理すらもしなくなったので、土地の正当な権利者であるトゥリグ村の人々が返還を求めたのが事の発端であるという。

 モンゴル人は、「内蒙古自治区政府」や「通遼市政府」などの各級行政機関に働きかけて事態の解決を図り、さらには北京の中央政府にも4名の代表を送って陳情した。しかし、ナイマン旗公安局は北京に人員を派遣し、陳情に向かった代表団を強制的に連れ戻したのである。その後、旗長は代表団と面会したが、彼らの主張に耳を傾けるどころか、関係者を逮捕し、投獄すると言い出して彼らを脅迫した。そして実際にその通りになってしまったのである。

 ボルフー氏は辛うじて逮捕を免れたが、警察の家宅捜索を受け、オートバイを没収されてしまった。弾圧の現場で一部始終を目撃していたボルフー氏の証言によれば、警官達が警棒でモンゴル人を容赦なく殴りつけたために、何人かは出血し、ある女性は髪の毛を引っ張られたまま連行されたという。ボルフー氏の兄弟も現場で逮捕されている。

 別の目撃者の証言によると、連行されたのはハスチョロウ、シュアンゾル、ゴワ、バオチュアン、メイロン、バオデイ、チェンフデイ等であり、シュアンゾルとゴワは夫婦で、その二人の娘である5歳の女の子が一人家に残されて泣いていたという。事件後しばらくの間は警察車輌が村内を巡回し、付近は真夜中まで物々しい雰囲気になった。


 このような警察権力の横暴に対し、モンゴル人側も黙ってはいなかった。事件の翌日である4月3日、40名以上のモンゴル人が、不法逮捕された人々の解放と土地の返還を求めながらダーチンタル鎮に置かれている旗政府庁舎に向かってデモ行進を行った。彼らは終日抗議活動を続けたが、旗政府は依然として素知らぬふりをしている。

 前日の弾圧で逮捕された人々は、手錠をかけられて警察車輌に連れ込まれた後、口の中に何らかの薬物を噴射された。弾圧時に激しく殴打されて鼻から大量に出血したために病院に搬送された人の話によると、口内に薬物を噴射された時は、強烈な吐き気と眩暈に襲われたという。逮捕された人々は残酷な拷問を受けており、何人かは今すぐに治療を要する深刻な事態になっている。

 4月3日の抗議活動の代表者5名は、旗政府の責任者と面会し、土地開発についての抗議活動を中止することを約束して署名すれば拘束中の者を釈放すると言われた。しかし、彼らは不当逮捕時の暴力に対する賠償を勝ち取り、土地を返還させるまでは断固として戦うという姿勢を見せている。

 今回の事件は、アメリカ合衆国のニューヨーク市に本拠地を置く南モンゴル人権情報センター等を通じて情報が海外に漏れたため、世界中で報道されるに至った。中国当局は現在、事件の情報を漏らした人間を血眼になって探している。この南モンゴルの悲痛な叫びを世界が見て見ぬふりをすれば、また同様な事件が繰り返されることになろう。チベットやウイグルと南モンゴルの問題の本質は同じである。我々は極悪非道な中国政府の蛮行を、人類の進歩と発展に対する重大な挑戦として受け止めるべきである。

2012年4月5日
提供 ケレイト・フビスガルト(内モンゴル人民党)

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