2012年5月から6月にかけて起きた宗教弾圧について : 日本ウイグル協会

――ウイグルの子供たちを助けてください!――
東トルキスタンで起きている宗教弾圧について

2012年6月11日リリース

今年の5月以降、東トルキスタン各地で、中国当局が「違法な宗教施設」だとするイスラム教の私塾で学んだ子供たちが、命を落とす、逮捕されるなどの事件が続発しています。

1.5月20日、コルラで、当局が「違法」だとする宗教施設でコーランを学んでいたウイグル人の少年が警察に拘束され、拘留中に死亡。拷問死と見られる。
2.5月31日にはカシュガル地区の各地方裁判所で、9名のウイグル人が不法な宗教活動を行ったなどとして、6年から15年の実刑判決を受けた。
3.6月6日未明にはホータンの宗教学校が警察により襲撃を受け、12名の生徒と3名の職員がやけどにより病院に搬送され、11名の女性を含む47名が逮捕された。

<詳細>
1)イスラム教を学習し警察に拘束されたウイグル人少年の拷問死
5月20日、11歳の少年ミルザヒド(Mirzahid)は、コルラの教師宅でイスラム教を学び、コーランの暗唱をしていたところを、二人の生徒、教師と共に警察に逮捕された。
米国政府系メディア、ラジオ・フリー・アジア(RFA)の現地情報源によると、その後、警察から母親に、ミルザヒドは拘留中に自殺したと連絡が入った。母親が遺体を確認すると、体中に殴られた跡が、首には絞められた跡があり、ミルザヒドは警察による拷問で死亡した疑いが濃いという。さらに警察は母親に、ミルザヒドの死を口外せず、速やかに埋葬するよう命じ、22日、警察立ち会いのもと、コーランの祈りが捧げられることもなく埋葬された。(*1)

このミルザヒド少年の死亡に関するRFAの情報を、中国版ツイッター「微博」に書き込んだウルムチ在住のウイグル人男性パミール・ヤシン(Pamir Yasin)は、「有害な虚偽情報(デマ)を流した」として警察に逮捕された。(*2) 当局はパミール逮捕の発表の際、ミルザヒド少年の死にも触れ、「違法なコーラン教習所で経文を覚えられなかったことから教師に暴行を受け20日に死亡」と発表した。しかし、これは事実ではない疑いがきわめて濃い。(*3)

2)違法な宗教教育に関与したとして9名が有罪判決
5月31日、カシュガルで9名のウイグル人男性が、違法な宗教学校や宗教教育に関わったとして、6年~15年の懲役刑を受けた。
現地の報道によると、判決は3つの公聴会で発表され、最長15年の刑を受けたサディク・クルバン (Sadike Ku’erban)については、自宅で「過激な宗教思想を植え付け、聖戦を行うよう扇動した」としている(カシュガル・デイリー)。(*4)
世界ウイグル会議のスポークスマン、ディルシャット・ラシットは、ウイグルのイスラム教徒は政治的迫害にさらされており、判決は、法的手続きを経ず、当局の政治的な判断によって下され、防御手段も上告の権利も奪われた状態で行われた、との見解を発表した。(*5)

3)ホータンの宗教学校への当局の襲撃、子供12名が負傷、54名逮捕
6月6日未明、ホータン市にある、コーランを学ぶ私塾にいた子ども12名が火傷を負い病院に運ばれた。
現地メディアは、警察が「違法な宗教学校」に立ち入り、54名の子どもを「救出」し、3名の容疑者を逮捕した。「救出」の際、容疑者が爆破装置に火をつけたため火災が発生し、12名の子どもがやけどで病院に搬送されたとしている。また、3名の警察官と2名の学校の教師も負傷したとのことである(天山ニュース・レポート)。
これに対し、世界ウイグル会議スポークスマン、ディルシャット・ラシットは、現地情報等(下記)をもとに、武装警察が子どもたちのいる教室に催涙ガスを撒いて侵入し、火災はそのガスへの引火によるものだろうとの見解を示した。(*6)

「宗教学校(私塾)」は、ホータン市内の共産党の学校の隣に位置し、6階建てビルの5階にあった。子供たちは通常の学校が始まる前の早朝ここに通い、イスラム教を学んでいた。そこへ警察が押し入って催涙ガスを撒き、その後、銃撃があったとの現地情報も寄せられている。
中国の公式報道でいう、「子供たちを違法な宗教施設から救出」という点についてだが、子どもたちが保護者の同意無しに宗教学校に通っていたということはない。
そもそも、中国の施政下においては、18歳未満はモスクなどでの礼拝に参加することができず、イスラム教の教義を学ぶための手段を奪われている。したがって、こうした私塾に通うしかないのだが、これを中国政府は「違法学校」だとして、近年とくに取り締まりを強化している。現在ウイグル人は、このような宗教学校(私塾)や自宅でイスラム教の教義を学ぶことにおいてさえ、警察による拘留と暴力的迫害の危険にさらされてれているのである。(*7)

(以 上)

■ 上記に関するお問い合わせ:
日本ウイグル協会

http://uyghur-j.org

e-mail : info@uyghur-j.org


付 属 資 料
<事件の背景>

従来、中国政府は、信教の自由に対し厳しい制限を課してきました。東トルキスタンのウイグル人への締め付けはとくに厳しく、

1.イマームなど宗教指導者は、定期的に愛国教育を受ける義務がある
2.政府公認のコーランと宗教書でなければ使用できない
3.18歳未満、学生などはモスクに立ち入り禁止、などとし、本来許されるはずの多くの者をモスクに入れないようにしている
4.学校内や職場ではラマダーン(断食月)に断食することが禁止され、期間中だけ昼食を取ることを強要される

というような政策が行われてきました。
中国政府は、自らが認可を与えた団体の存在・活動のみを「合法」とし、それ以外のあらゆる宗教活動(個人のお祈り等を含む)、団体を厳しく弾圧しています。したがって、ウイグル人にとっての伝統的宗教であるイスラム教の教義を学ぶには、今回の被害者らのように、一種の「地下学校」に通うしかない状況に置かれているのです。

中国政府は、東トルキスタンのウイグル人の民族の根幹を成す、言語、文化、信仰などへの制限を近年ますます強化しています。公教育からのウイグル語の追放は大学から始まり、現在では幼稚園から中国語教育が行われています。児童や学生の宗教活動への参加は厳禁、大学の寮などでは、学生が、日々の祈りを行っていないかを教師が見回っています。
カシュガル旧市街の町並みなど、民族の歴史的な遺産は破壊され、民族の歴史や文化に関する出版活動も当局の意に沿うよう制限されます。地域住民の集まりなども自由に行なうことはできません。宗教的・地域的つながりを奪われた若者たちは、日常的にも多くの抑圧と差別を受けることからモラルを見失い、ドラッグに溺れるといった深刻な事態となっています。

2009年7月5日に起きた「ウルムチ事件」をご記憶でしょうか?
発端は、広東省のウイグル人が惨殺された件でした。このウイグル人らは自ら望んで広東省へ出稼ぎに行ったのではなく、当局により強制的に移送されたのでした。当局は、「ウイグル人の貧困解消のため」といいますが、なぜ、ウイグル人の貧困を地元での雇用によらず、何千キロも離れた沿岸地域に移送することで解消しようとするのでしょうか? 
ここには別の意図が隠されていると見て然るべきなのです。
東トルキスタンが中国共産党の支配下に入ってから、大勢の漢人が入植してきました。60年前、総人口に占める漢人の割合は6%に過ぎなかったものが、現在ほぼ半数を占めるに至っています。いまやウイグル人は、自国においてすら、「少数民族」となりつつあります。
地元の職は漢人によって占められ、ウイグル人は厳しい差別に遭い、大卒者でも満足に地元で職を得られません。つまり、漢人の大量移住とウイグル人の若者の大量移出は、東トルキスタンの同化政策の一環として行われているのです。
こうした政府の政策に異を唱える者は、「分離主義者」「テロリスト」というレッテルを貼られ、法的な手続きも経ずに刑務所や強制労働所に送られるのです。


<参考>

*1 Death in Detention Draws Denigration

http://www.rfa.org/english/news/uyghur/death-06042012180843.html?searchterm=Mirzahid

日本語訳 :中国当局に拘束された11歳のウイグル人の子供が死亡。拷問死か?

http://www.uyghurcongress.org/jp/?p=4406

*2 Uyghur Detained Over Tweets

http://www.rfa.org/english/news/uyghur/pamir-yasin-06052012181049.html

*3 「ウイグル族少年が留置場で死亡」デマ流布者を処罰=中国・新疆

http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2012&d=0604&f=national_0604_058.shtml

*4 12 children hurt as China police raid religious school

http://www.independent.co.uk/news/world/asia/12-children-hurt-as-china-police-raid-religious-school-7820183.html

*5 Nine ethnic Uighurs jailed in China’s Xinjiang

http://www.google.com/hostednews/afp/article/ALeqM5h9HKdLK9F0exZkBd9dChogi7qI8Q?docId=CNG.7a4b171af9c3a48e7611d1e1cda88a09.381

*6 12 children hurt as China police raid religious school

http://www.google.com/hostednews/afp/article/ALeqM5h9HKdLK9F0exZkBd9dChogi7qI8Q?docId=CNG.7a4b171af9c3a48e7611d1e1cda88a09.381

警察突?新疆宗教学校引?暴力冲突

http://www.bbc.co.uk/zhongwen/simp/chinese_news/2012/06/120606_uighur_school.shtml

コーラン学ぶ子が不審死・やけど 新疆ウイグル自治区

http://www.asahi.com/international/intro_m2/TKY201206080536.html

*7 Raid on Hotan religious school reflects brutality of official Chinese policies amid crackdown on religion in East Turkestan

http://uyghuramerican.org/article/raid-hotan-religious-school-reflects-brutality-official-chinese-policies-amid-crackdown

*8 東トルキスタンで起きている民族問題や人権問題については、
世界ウイグル会議 http://www.uyghurcongress.org 日本ウイグル協会 http://uyghur-j.org 東トルキスタンに平和と自由を http://saveeastturk.org ウイグル関係団体以外でも、Human Rights Watchのレポート(例:Devastating Blows(2005))、Amnesty International、Congressional-Executive Commission on Chinaの年間レポート、欧州議会、国連人権委員会、RFAなどで扱われている。

pdfファイルはこちら
http://uyghur-j.org/image/suppress_201206.pdf


2012年5月から6月にかけて起きた宗教弾圧について : 日本ウイグル協会
http://uyghur-j.org/news_20120611.htm

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