アジア自由民主連帯協議会 第7回講演会
ベトナムの現状と今後の民主化について 報告
10月27日、東京の下北沢にて、在日ベトナム人で、ベトナムの民主化を目指して活動中のアウン・ミン・ユン(ベトナム革新党)を招いて、アジア自由民主連帯協議会主催の第7回講演会が開会されました。
ユン氏は、まず、ベトナムであれ中国であれ、北朝鮮であれ、共産主義体制は皆同じ独裁体制と人権抑圧を行っているが、同じ構造ではあるが、たとえば北朝鮮の人権弾圧は、その中でもあまりにもひどく苛烈なので目立ちやすい、中国は大国であるから、世界でも問題にされる。しかし、ベトナムは小国であり、世界ではほとんど注目されていないため、その人権抑圧はほとんど報じられることもないのだと述べました。
そして、一般の日本人がベトナムを旅行しても、観光地は風景も素晴らしい、食事もおいしい、観光地なら自由な撮影ができる。旅行者にとってはそれで楽しいから、ベトナムの実態はわからない。しかし、現実のベトナムの人権弾圧は今始まったことではなく、1955年、ベトナムが南北に分断され、北にベトナム民主共和国こと共産主義政権が成立した時にはじまっていると指摘しました。
それは、1955年の農地改革で、地主を人民裁判で裁くという中国の毛沢東と全く同じやり方にはじまり、彼らの土地を奪い、15000人の地主を死刑にし、3万人を投獄した、そして、中国の文化大革命そっくりの、何千人の知識人を刑務所に入れたと述べました。
そして、ベトナム戦争が共産主義の勝利に終わった時、世界の人々は、統一ベトナムの実現を温かく評価し迎えた、特に人々は、世界の超大国のアメリカにベトナムが打ち勝ったことを、日本の知識人も含め高く評価したが、これはとんでもない錯覚だとユン氏は指摘しました。
アウン・ミン・ユン氏
当時のベトナムの国力や技術力でアメリカに勝てるはずはない。アメリカは北ベトナムに負けたのではなく、明らかに、世界の反戦運動、マスコミの反戦・親北ベトナム報道に負けた。当時は日本も、今の脱原発運動同様、全国の大学生の間ですごい反戦運動が、例えば小田実さんとか日本の知識人とともに起きていて、特にアメリカでは、イスラエルを支持しているメデイアが、どちらかと言えば、もはやベトナムではアメリカは勝てない、中東のイスラエル防衛に力を注いだ方がいいという発言を行っていたと述べました。
ユン氏はさらに、イスラエルの有名な隻眼の将軍、ダヤンが60年代にベトナムを訪問、基地で戦況を3日視察しただけで、イスラエルに戻って、アメリカは絶対に負ける、ベトナムから早く撤退した方がいいと発言した、その後アメリカのマスコミはそれに従い、露骨にベトナム寄りの報道が目立つようになったと述べ、例えば北ベトナムのゲリラや解放戦線が、罪のない南ベトナムの村を襲い、村長をナイフで殺すようなテロを行っても、ほとんど報道されなくなった。しかも、1968年の北ベトナムのテト攻勢で、南ベトナムのユエ市民5000人を、縛ってスコップで殴り、ほとんど生き埋めにする形で殺害したのに、日本もアメリカもマスコミはほとんどこの犯罪を報道しなかった、これはポルポトの虐殺と同列に語るべき犯罪行為だと批判しました。それなのにマスコミは、南ベトナムやアメリカ軍が、仮に間違って10人くらいの民間人の犠牲を出しても、1週間くらい連続して『残虐行為だ』と批判する報道をしていたと、ユン氏は当時の報道の不公正さを指摘、このマスコミ報道の偏向性は現在もあり、アジア重視の外交を取ろうとしたオバマ大統領の支持率はできるだけ低いように報じられ、中東問題に積極的な発言が強く取り上げられる傾向があると述べました。
そして、1975年、ベトナム共産主義が南に侵略し、勝利した後、南ベトナムの軍人、公務員などは再教育キャンプに入れられたが、そこはまるで強制収容所だった、この再教育キャンプや強制労働キャンプで何人が死んだのかは誰にもわからないが、自分の得た様々な情報では、少なくとも10万人くらいが亡くなったと考えているとユン氏は述べ、さらに、軍人以外の一般市民も、土地を共産主義者に奪われ、とても暮らしていけないような山の中に強制移住させられた。そこでは生きていけないため、故郷の村や町に戻っても、もちろん住むところもなく、公園や道端に休んでいても、政府はなぜ戻ってきたのかと追い立てる、このような人たちが自由と命をつなぐためにボート・ピープルとなっていったが、この言葉自体、ベトナムでの弾圧とそれに続く難民流出の中で世界で初めてできた言葉だとユン氏は述べました。そして、果たしてどれくらいの人が海の藻屑となったかも誰にもわからない、そして、この時日本政府が1万人の難民を受け入れ、かつUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)に資金援助をしてくれたことには本当に感謝しているとユン氏は述べました。
80年代後半から、世界の共産主義体制が崩壊していく中、生き残るためにベトナムも改革開放経済というドイモイ政策を取り、多少ビルが建ち、高級車が走るようになったが、それらは現在でも共産党幹部が所持するばかりで、民衆の生活は苦しく、山中の村には今も最低限の医療施設すら足りない、本当の経済改革をやれば豊かな農作地を持つベトナムはすぐ豊かになれるのに、未だに共産党幹部の特権層が経済改革の成果を独り占めし、多額のわいろがなければ企業も進出できないようになっているとユン氏はドイモイ政策の現状を告発しました。
特に日本からのODAは20%ほどしか国民に届かないため、ユン氏ら在日ベトナム人は、ベトナム首相来日時、ベトナムへの安易な経済支援や企業進出をやめるよう抗議デモを行ったが、そこで日本の会社であるPCIが、ベトナムはそんな賄賂社会ではないし、経済もうまくいっているなどというから、それならあなたの会社はそうかもしれませんが、他の企業はアメリカでも日本でも賄賂なしには進出も投資もできないのですよと反論した、するとその以後、当のPCIが不正や賄賂にかかわっていたことが発覚したと指摘し、日本の一部経済人の姿勢を批判しました。
続いて、中国のベトナム領土侵略というべき南沙諸島の問題に触れ、ベトナムでもすべての国民が、これは侵略であることはわかっているが、侵略反対のデモは、ベトナム政府の絶対の管理下でしかできず、自発的な反中国デモを行えば弾圧されるのでできない、その意味で、北京オリンピック前年、聖火リレーに反対し、自分は長野で、また、多くの在外ベトナム人がデモができたのは大変な効果を本国にも与えたと述べました。しかし、仮にベトナム国民が国内で自発的なデモを行ったら、短くても3年、悪くすれば10年は獄中に入ることになるので、中々難しいのだと述べ、自分達ベトナム革新党は、外国でアメリカ国籍や欧州、オーストラリア国籍を持っている難民であることを利用し、自らがベトナムに入り、ビラを配り、Tシャツや帽子などで、南沙諸島はベトナムの領土だ、中国は侵略をするなと訴えていると述べました。
自分たちは他国の国籍を持っているから、たとえつかまっても、1週間くらいで出れる。仮にベトナム政府がそれ以上交流するなら、自分たちは全世界のベトナム大使館に抗議デモを行う。それでも釈放しないなら、例えばアメリカ国籍なら、アメリカの外務省に、自国の刻印を護れ、ベトナム政府に抗議せよと訴える。それだけの覚悟を持っているから、これまでは1週間、長くて2週間で釈放され、入国禁止ということでベトナムを追放になるが、それでも新しい党員が行動を続けていると、ユン氏は現在の活動について述べました。
そして、今ベトナムでは、自分の土地を政府に奪い取られた農民たちの必死の抵抗運動が起きている、最近でも、ハノイのカトリック神父が、奪われた教会を返せという裁判を政府相手に起こし、公判の場での発言すら封じられたが、信者たちは神父の釈放を求めて祈祷会を行い政府に抗議している。土地を奪われた農民たちは失うものは何もなく、全国のあちこちで農民たちは、死んでも戦うという意志を持ち始めている。ベトナム共産主義政府も彼らの存在を恐れ始めており、民主化と独裁政権打倒への道は、難しくとも我々ベトナム革新党は戦い続けてゆくとユン氏は述べました。
最後にユン氏は、日本政府へのお願いとして、(1)人権の尊重を条件にした経済援助、人権尊重なくして経済協力なしという姿勢を貫いてほしい(2)ベトナムの政治犯の即時釈放を求め(3)現在のベトナム政府の人権弾圧をやめさせるよう、日本政府が圧力をかけてほしいと述べ講演を終えました。
その後は会場との質疑応答となりましたが、ベトナムの弾圧の実態、ベトナム戦争の真実については未だにあまり知られていない中、貴重な講演会ができたことと思います。次回は、台湾の現状と未来についての講演会を行う予定です。今後ともよろしくお願いします(文責:三浦小太郎)
当協議会事務局長、古川郁絵。登壇した三浦小太郎氏。
※講演会の動画はこちらです。
第七回講演 ベトナムの現状と今後の民主化について アウン・ミン・ユン
http://www.youtube.com/watch?v=fV2RTuQ-bOQ
※講演会でご紹介したイベントなど
・第2回アジアの民主化を促進する東京集会 「日印国交樹立60周年を記念して」 : アジアの民主化を促進する東京集会実行委員会
https://freeasia2011.org/japan/archives/1818
・東トルキスタン独立記念行事と記念講演「ジューンガル帝国の興亡:新疆はいかにして清朝の領土になったのか」講師 宮脇淳子 : 日本ウイグル協会
http://uyghur-j.org/news_20121111.html
・ウイグル人亡命者の強制送還をやめるよう、アジア各国へ日本国政府からの働きかけを求める請願
http://uyghur-j.org/image/seigan_120430.pdf
制作・協力 ラジオフリーウイグルジャパン
http://rfuj.net