12月15日 アジア自由民主連帯協議会・北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会関東支部共催学習会報告
12月15日、東京四谷の会議室にて、北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会関東支部及びアジア自由民主連帯協議会共催による、「中国の民主化 脱北者の人権」と題した学習会が開催されました。参加者は約50名。当日は、「反旗 中国共産党と戦う志士たち」育鵬社、「チベットの秘密」(集広舎)、そして守る会理論誌「光射せ」なども販売され、参加者の多くが手にとって購入していました。
まず、中国人作家・研究者の劉燕子さんが登壇。まず、集広舎から発行された、ツエリン・オーセル氏、王力雄氏共著の「チベットの秘密」翻訳記念出版界に寄せられたオーセル氏からのメッセージが紹介されました。以下が全文です。
『チベットの秘密』出版記念会へのツェリン・オーセルさんのメッセージ
日本のみなさま、今日は。
中国共産党党大会の一週間だけで、7名がからだを炎で燃やし、命を捧げて、抗議しました。毎日毎日、この胸が張り裂けるほどの痛みを覚えています。
チベットの習慣では、今、ラサにいる私は、みなさまに「タシデレ」と言うべきです。「タシデレ」の意味は、「タシ」は喜慶、「デレ」は吉祥で、「タシデレ」でおめでとうという挨拶になります。
しかし、チベット人にとって、現在では、「タシ」でもないし、「デレ」でもないのです。お互いに「サプサプチェ」と言って気をつけていなければならないのです。恐怖に包まれているチベット人の気持ちが、お察しできるでしょう。
党大会が開かれる三カ月前、私は警察により北京から強制的に退去させられました。
海抜五千メートルのふるさと、ラサにおいて、私はまるでアパルトヘイトに置かれたようです。私の親族、友人はみな、警察から訊問や嫌がらせを受けています。
今、私はセラ寺に近いアパートに住んでいます。頭を上げると、ポタラ宮を眺めることができます。ポタラ宮は、ダライ・ラマ十四世の家です。
半世紀以上、この家には住む人がいなく、がらんとしています。昼は観光客の喧噪と厳重な警戒が敷かれていますが、夜のポタラ宮は寂寞としています。でも、至純な輝きを発しています。
私は信じています。その輝きの中で、私は「大きな秘密」と出会っていることを。
数日前、燕子が国際電話をかけてきました。日本語版『チベットの秘密』出版の喜びを二人で分かち合うことができました。
しかし、私の電話はたくさんの「耳」に聞かれています。隠れた盗聴者は、この出版に憤慨したでしょうか、喜んだでしょうか。
日本のジャーナリスト、福島香織さんは、ツイッターで、この日本語版出版を知らせてくれました。
「劉燕子の翻訳はとてもすばらしい。オーセルの詩やエッセイの翻訳がとても上手に表現されています。涙を流しながら本を読み終えましたが、現実のチベットのニュースには、言葉で表しきれません。」
私は、燕子が精魂込めた翻訳と解説で、「チベットの秘密」を日本の読者に伝えてくれたことに感謝します。
集広舎の川端さんに感謝します。数年前、私の父が遺した写真に証言を編集した『殺劫』も出版してくれました。
本日は、ご多忙のなか、準備してくださるボランティアのみなさんに感謝します。ご来場のお一人お一人に心より感謝します。みなさんのお顔を拝見することはできませんが、この「チベットの秘密」を通してご縁ができ、お会いすることができるでしょう。
遠からず、いつの日か、親愛なる日本の読者と、雪国の高天原が自由の陽の光を浴びて、至高の美に光り輝くなかで、お会いしましょう。
2012年11月14日、ラサ
そして、劉氏はオーセル氏が中国共産党全人代大会を前にしてさらに厳しく監視下に置かれ、外出もままならないことを伝えるとともに、オーセル氏はまず何よりも詩人であり、いくつかのオーセル氏のチベットの悲劇を訴えた詩を紹介しました。
その詩の一つは、「私はあるアニ(尼僧)に会いました」で始まる一文で(「チベットの秘密」(47ページ)、自分が28歳の誕生日に(1994年)目の前でチベット問題を訴えて即座に逮捕された若い尼僧についての詩でした。このアニに再開した時、彼女は頭に毛糸の帽子をかぶっていた。あまりに酷い殴打で、彼女の頭は「壊れてしまって」いたのでした。この詩には、このアニが逮捕された年齢の時、オーセル氏自身は、ベトナムと戦う中国人民解放軍をたたえる作文を書いていたという一行をこの詩に付け加えています。オーセル氏の詩は決して単なる告発文ではなく、自らの過ちや中国世界全体の偽善や問題点から決して目をそらしていない文学作品であることの表れでしょう。
また劉氏は「私の両手には何もありません でも右手にペンを握り、左手で記憶をつかみ、この時、記憶はペンの先から流れます」(同書58頁)という詩、そして「雪山よ もし君が人間のように立ちあがらなければ 世界の最高峰でも ただその醜さをはっきりとさらすだけだ」という詩を初めて知った時の衝撃が、劉氏をチベット問題他様々な中国の民族問題に取り組ませたことを語りました。そして一つの提案として、本書には王力雄氏による「チベット独立へのロードマップ」が収録され、民族問題について良心的な漢人の立場からの提案がなされています。
このように、チベットにおける様々な問題を訴えたのち、劉氏は、今自分がこうして中国政府の施策を批判していると、劉燕子は日本の右派に利用されているとか、もしくは日中の相互理解の必要性を訴えれば、やはり劉は中国人だとか、とにかく政治的な決めつけで見られる傾向があると語り、そのような決めつけではなく、まず事実を見てほしい、日本と中国がお互い隣国であるという現実は永久に変わらないのだから、仲良くなって星と考えるのは当然だと思う、その上で、中国共産党の独裁政治の力を強めてきたのは、実は日本ではないかという意見があることを知ってほしいと述べました。
これは劉氏がアメリカに亡命した民主活動家によく言われることのようですが、日本が中国を侵略したのは確かに歴史的事実かもしれないけれど、同時に、日中国交回復以後、独裁政権の民主化や人権改善を求めることなく無原則な経済支援、ODAを継続してきたのも日本政府ではないかと問題を提起しました。その上で、例えば戦前、孫文の革命を支援した宮崎滔天のようなアジアの連帯や民主化の精神は今の日本には引き継がれていないのではないかと思ってしまうこともあると語り、盲目の人権活動家でアメリカに亡命した陳光誠氏にお会いしたけれども、彼が尖閣列島問題で、自分は常に国境を越えて自由と人権、そして民主主義の側に立つ、独裁政権の領土が少しでも狭くなり、民主主義国の領土が少しでも広くなることを望む、そう日本の方に伝えてほしいというメッセージを受け取ったと述べました。
そして、今の日本での中国に対する言論は、ひたすら中国を弁護するか、日中の無原則な和解を求める声、もしくは、中国を全否定し交流すらも不要とする論が多いように思う、自分としては、日中両国の市民レベルでの友好のために、ここでいくつかの提言をしたいと劉氏は述べ、以下の点を訴えました。
まず、日本の大学や学会が、(1)現在中国で弾圧され、出国の権利も奪われている王力雄氏やオーセル氏などをぜひ招請し、中国政府に出国許可を出すよう求めてほしい(2)現在まで続くODAなど中国への経済支援の実情と効果を明らかにし、できれば停止してほしい(3)中国でも、環境問題などをはじめとして、市民意識が確かに芽生えつつある、それを支持し、日朝の市民レベルでの地道な交流を政府とは違う次元で行ってほしい(4)言論の自由や民主化を求める中国国内の声に対し、それを支援するための民主化基金を日本でも設立し、例えば弾圧された運動家の家族への救援などを行ってほしい。台湾にも民主化基金があるのに、アジアで最も優れた民主主義国である日本に存在しないのは疑問を持つとオーセル氏は語りました。
そして最後に劉氏は、日本企業の考えるいわゆる「チャイナリスク」の解決のためには、独裁政権の民主化と法治の原則の適応しかないことを述べ、また、例えば日本政府が、在中日本人の為に、外務省がホームページなどを開き、環境問題、有害贖罪対策などの情報を提示すれば、中国政府の発表を信じていない中国人自身もそのサイトを見るはずだ、そのような形で、環境問題に対しいい影響を与えることもできるはずだと述べました。
そして、今必要なのは「民主化のための土つくり」であり、これには長期的な規模で取りかからなくてはならない、今すぐ中国やチベットの民主化や独立のために何か出来なくても、少なくともオーセル氏のような人たちを賞賛し、その運動を人々に紹介することはできるはずだ、そして、このような場を通じ、日中の心ある人々が地道な交流をしていくことが、実は日中の和解にも中国の民主化にも、民族問題の解決にもつながっていくと講演を結びました。
続いて、脱北者で日本に在住する山本葉津子さんが登壇しました。山本さんは守る会理論誌「光射せ」でも連載をしておられますが、今回は自らの脱北の経緯、そして中国で捕らわれたのちの体験など様々な実例に基づく証言を行いましたが、まだご家族が北に残されている点もあり、また今後の守る会理論誌にてさらに詳しく記述することになりますので、ここでは報告を控えさせていただきます。また、動画につきましても、現時点ではカットさせていただくことをお許しください。
その上で、山本さんは、脱北して中国に行って分かったことは、確かに豊かさという点でも、多少自由があるという点でも中国は北朝鮮よりは進んでいるかもしれない、しかし、正直本質的には全く同じ共産主義独裁国で、もしかしたら本質においては中国の方が悪質ではないかとすら思ったと語りました。
その理由として、中国では脱北者を捕まえると、若い女性でも平気で男性の取調官が裸にして調べ上げる。少なくとも女性の警察を使ったらいいのに、そういう発想はまるでない。そして、多少は豊かで自由なはずの中国で、平気で脱北女性を売りとばしたり、男性をただ働きさせ、給料もろくに払わず、抗議すれば警察に密告する。貧しい北朝鮮よりも、もしかしたら道徳的に間違っているようなところを自分は何度も見てきたと語りました。
そして、北朝鮮では、90年代飢餓の時には、人が人の肉を食べる、人の肉を偽って売るようなうわさまでたくさん聞いた、しかし、どんなに飢えても、これからも北朝鮮では民衆が立ちあがるとか、かっては東欧、今はエジプトやリビアで起きたようなことは起きにくいだろうと述べました。それは北朝鮮では徹底的なまでの独裁体制が数十年続き、国民の精神がある意味おかしくなっている、具体的に言えば、国民自身がお互いを監視し、一言でも政府に逆らうようなことを言ったり、又何かを組織しようとか考えて呼びかけたりしたら、すぐに密告されるという時代がいまもずっと続いているのだから、暴動とか政府への反乱とか、そういうことが考えられるような人間同士の連帯などは考えられないと述べました。
そして、そのような世界で生きてきた人たちだから、日本や韓国のような自由な国に来ても、自分も含め、中々なじめなかったり、他人を信じられなかったりして誤解を与えたり、トラブルを起こしてしまうこともあると思う、しかし、それはあの共産主義独裁というものが、人間を他人を信じられない人間、自分の事しか考えられない人間に作り変えてしまうのであって、時間はかかるけれども、立ち直って大学に通っている脱北者も、日本人と同じように懸命に働いている脱北者もいるのだから、ぜひそこを理解してほしいと述べて講演を終えました。
これが2012年最後の学習会となりましたが、司会はアジア自由民主連帯協議会の古川事務局長が務め、イリハム・マハムテイ専務理事もウイグルの現状についてコメント、守る会と協議会の最初の共催としては成功に終わったと思います。
それでは、今年の皆様方のご支援に深く感謝いたします。
来年もよろしくお願いいたします。(12月31日 三浦小太郎)
講演会でご紹介した書籍
・チベットの秘密
著者:ツェリン・オーセル、王力雄
編著:劉燕子
定価:2,800円+税
発行:集広舎
http://www.shukousha.com/
・反 旗―中国共産党と闘う志士たち
著者:石平・劉燕子
定価:1575円(税込)
発行:育鵬社 発売:扶桑社
http://www.ikuhosha.co.jp/
・北朝鮮帰国者問題の歴史と課題
著者:坂中英徳、菊地嘉晃、韓錫圭
定価:2,500円+税
発行:新幹社
http://shinkansha.exblog.jp/
・日本から「北」に帰った人の物語
著者:韓錫圭
定価:2,000円+税
発行:新幹社
http://shinkansha.exblog.jp/
・守る会理論誌「光射せ!」第10号
(特集1)朝鮮学校教科書・補助金問題
(特集2)朝鮮学校と補助金 各地の動き
「ネットと愛国」著者安田浩一インタビュー他
北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会
http://hrnk.trycomp.net/
動画
「中国の民主化、脱北者の人権」講師 劉燕子
http://www.youtube.com/watch?v=38uAyp5xh3A
制作・協力 ラジオフリーウイグルジャパン
http://rfuj.net