ビルマ(ミャンマー)軍によるカチン州での空爆、人権侵害に対する声明 : ヒューマンライツ・ナウ

 ビルマ軍とカチン独立軍(KIA)との間では、17年間(1994‐2011)続いてきた停戦協定が破綻し、2011年6月9日、両者間の紛争が再燃した。これにより何万人ものカチン州一般市民が巻き込まれ、家を追われて難民となるなど、犠牲が生じている。

 ビルマの市民団体ビルマ・パートナーシップによると、2011年10月8日、ビルマ軍はカチン州のNam Lim Pa村に侵攻し、不法な逮捕を行った。拘束された市民は酷使され、強制労働させられた者もいた(1)。また、ビルマ軍がカチン州において攻撃を行う際、対人地雷を用い、14歳の子供を含む徴兵も行ったと報じられている(2)。

 さらに、2012年12月19日、カチン州Mohnyin村におけるビルマ軍とKIAの戦闘に伴い、貨物列車が爆撃され、引き続いて銃撃が起こり、その際に3人が負傷した(3)。また同年12月27日以降、ビルマ軍はKIAに対して頻繁に空爆を行っており、これが民間人の生命に絶大な脅威を与えている(4)。特に中国との国境に位置するLaiza村における空爆はほぼ連日のように続いており(5)、Laiza村にほど近いLajayangでは1人の男性が死亡し3人の市民が重傷を負ったとアメリカ人フォトジャーナリストにより伝えられた(6)。複数のメディアが以上のとおり報じている。

 2013年1月10日には、ビルマ軍がLaiza村にて攻撃を行い、3人の市民が死亡し、6人が怪我をしたとKIAが伝えた(7)。KIAのスポークスマンによると、その中には15歳の少年が含まれていたという(8)。

 その他にも、国連ニュースセンターによれば、およそ75,000人の人々が土地を追われている(9)。そして、約31,000人の難民がカチン州の州都ミッチーナ等の政府監視区域に住んでいるが、中には「政府治安部隊がKIAと関わりをもった疑いで逮捕・拷問を行っている」と恐怖におびえる市民もいると報道されている(10)。

 なお、報道によれば、ビルマ政府は空爆の存在を認めているが、これはKIAが弾薬を運んでいた部隊を妨害したことに基づく「自己防衛」であったと主張している(11)。

 国連はビルマ政府に対して、人道支援のためにカチンの人々が住む不安定地域への支援許可を重ねて申請してきたが、2012年7月からかなっていない(12)。国連人道チーフValerie Amos氏は、政府統治地域とKIO統治地域の双方に、国連が進入することが許されていないと述べている(13)。現在でも、不安定地域において活動が許されているのは一握りの援助組織であり、未だ支援は不十分である。

 内部避難民及び難民の救済ネットワーク(RANIR)の幹事を務めるLaRip氏は、難民キャンプの状態が悪化していることに言及し、難民や避難民が直面する食糧及び水の供給の危機的状況に警告を発した(14)。多くのカチン族の人々が避難してエリアが満員となったことにより、食糧不足、水不足、不衛生な状況はさらに悪化している(15)。マラリアなどの病気や下痢の症状も広がるようになっている(16)。

 以上の状況に鑑み、パン・ギムン国連事務総長は、ビルマ政府に対し、地域に居住する市民の生命を脅かすいかなる行動も停止し、地域においてこれ以上紛争が激化することのないように、また政治的和解に向けて取り組むことを求めた(17)。また、同じく市民の大規模な強制異動をもたらす持続的暴力の結果が重大であることを強調し、加えて不安定なコミュニティに対する支援を行うために適時のアクセスを実現することが不可欠であると述べた(18)。テインセイン大統領は、2013年1月17日に軍に停戦を命じたが、軍は攻撃を継続していると報道されている。(19)

 HRNは、ビルマ政府に対して、いかなる理由があろうとも、これ以上市民の生命を危機に晒す爆撃や空爆などのあらゆる暴力を将来に亘り停止することを求める。また、ビルマ軍の攻撃に遭うなどして深刻な状況に瀕している市民が居住する、不安定地域への人道支援を直ちに受け入れるよう求める。また、自己防衛という理由を用いて何万もの市民が暴力の犠牲になるような攻撃は決して許されるべきではない。

 さらに、HRNは、国連に対しても、当該地域の悪化する状況に対するモニタリングを強化することを求める。人権侵害は見逃されるべきではなく、犯罪行為に責任のある主体は結果に応じて処罰されるべきである。このようなビルマの状態の悪化には緊急の注目をしなければならない。

以上

1)Partners Relief & Development 2011, Crimes in Northern Burma: Results from a fact-finding mission to Kachin
State, [Accessed 16 January 2013].
2) Murdoch, L 2012, ‘Burmese under fire for abuses in Kachin’, The Sydney Morning Herald, 21 March, www.smh.com.au/world/burmese-under-fire-for-abuses-in-kachin-20120320-1vi1d.html> [16 January 2013].
3) Radio Free Asia, Burma 2012, Bomb blast, shelling in Kachin, 27 December, docid/50ed3406c.html> [accessed 16 January 2013]
4 )Olarn, K and Mullen, J 2013, ‘Myanmar airstrikes on Kachin rebels raise global concerns’, Cable News Network(CNN), 3 January, [Accessed 16 January 2013].
5) Ibid.
6) Ibid.
7) AFP 2013, ‘Kachin rebels say three dead in Myanmar strike’, Channel NewsAsia Singapore, 14 January, www.channelnewsasia.com/stories/afp_asiapacific/view/1247837/1/.html> [Accessed 16 January 2013].
8) AAP 2013, ‘Three die in Myanmar attack on Kachin base’, The Australian, 14 January, www.theaustralian.com.au/news/breaking-news/three-die-in-myanmar-attack-on-kachin-base/story-fn3dxix6-1226553783191> [Accessed 16 January 2013].
9) The United Nations News Centre 2012, ‘UN relief chief asks Myanmar Government to allow aid deliveries in off-limits area’, The United Nations, 7 December, [Accessed 16January 2013].
10) Integrated Regional Information Networks (IRIN) 2012, ‘Myanmar: Kachin fighting hits IDP health’, Integrated Regional Information Networks, 15 November, [accessed 16 January 2013]
11) Hodal, K 2013, ‘Burma steps up military offensive against Kachin rebels’, The Guardian, 14 January, [accessed 16 January 2013]
12) The United Nations News Centre 2012, ‘Myanmar: UN official urges stepped-up efforts to address humanitarian issues causing instability’, The United Nations, 6 December, [Accessed 16 January 2013].
13) The United Nations News Centre 2012, ‘UN relief chief asks Myanmar Government to allow aid deliveries in off-limits area’, The United Nations, 7 December > [Accessed 16 January 2013].
14) Reuters 2012, ‘Up to 10,000 Myanmar refugees seek refuge in China’, The Asahi Shimbun, 8 February, [Accessed 16 January 2013].
15 )IRIN 2012, ‘Myanmar: Growing number of Kachin IDPs’, Integrated Regional Information Networks, 29 October, [accessed 16 January 2013]
16) Ibid.
17) The United Nations Secretary-General (SG/SM/14750) 2013, ‘Taking ‘serious note’ of reported air strikes in
Myanmar, Secretary -General urges end to actions that could endanger civilans, intensify conflict’, the United Nations, 2 January [13 Jan. 2013].
18)Ibid.
19)http://www.bbc.co.uk/news/world-asia-21107440

ヒューマンライツ・ナウ (2013年1月21日)


ビルマ(ミャンマー)軍によるカチン州での空爆、人権侵害に対する声明 : ヒューマンライツ・ナウ
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