去る2月3日、市ヶ谷アルカデイアで、アジア自由民主連帯協議会結成一周年を記念し、中国問題研究家にして、文芸評論、国際政治・経済全般について深い探求をしてこられた宮崎正弘氏をお招きした講演会が開催されました。まず最初に、ペマ・ギャルポ会長から、この一年間の活動についての簡単な報告と、全アジアの自由と民主化のためにこれからも努力していくことが述べられ、今年是非報告をしてほしい人の一人としてバングラデシュのサーカー氏が紹介されました。また、会場に参加された、台湾団結連盟(台連)に所属する許忠信・立法委員(国会議員)より、日体連携の必要性についてご挨拶をいただいたのち、宮崎氏の講演が開催されました。
許忠信立法委員(台湾国会議員)
まず宮崎氏は、自分は先日まで東南アジアを取材していたことを語り、何故チャイナウオッチャーとされる自分が東南アジアにと疑問を持たれる方がおられるかもしれないが、これからは中国を研究するためには東南アジア、アジア全体の調査と取材が必要になる、今日の講演を聴いていただければ、その理由がわかるだろうと語りました。
そして、今日の講演のテーマである現代中国の問題だが、その問題は簡単に言えば、凶暴な覇権主義大国である中国がいま何を始めようとしているのか、それにどう対するかという問題に尽きる、これまで大陸国家だった中国は、現在は台湾、尖閣列島に明らかに侵略を試みるなど、海洋国家としても行動しようとしている、特に習近平はそのメッセージの中で「海洋強国」という言葉まで使っていると述べ、実際の中国は、フィリピン、ベトナムにもこれまでその近くの諸島を中国領土にしようとしてきた、次は尖閣であり、台湾であえい、そして沖縄だ、この前の中国の反日運動で掲げられたプラカードには明確に琉球回復のスローガンも書かれていたのだからと、中国の脅威を指摘しました。
そして、中国はこれまでの制空圏、制海圏という言葉を超えて「制天圏」という用語まで使っているが、これは宇宙を支配する、具体的に言えば、アメリカの軍事衛星を打ち落とすことでネット社会そのものを成り立たなくさせることをも考えている、これらの脅威だけを見ていけば、確かに中国は脅威と恐怖の対象としか思えなくなるのだが、その上で、中国の本質についてさらに深く見ていくことが必要だと述べました。
そして、中国という国家の本質は、近代化とか共産党とか言っても、実は水滸伝、金瓶梅といった中世の小説社会とほとんど変わらないとし、水滸伝の論理とは簡単に言えば、必要なものがあれば他人の者でも盗んでも構わないということで、これこそ中国の政府の本質だと述べました。そして、金瓶梅的な色と欲の社会、欲望と腐敗の社会は、まさに中国共産党幹部に蔓延しており、ある説によれば、共産党幹部がくすねて海外に持ち出したお金は総額6000億ドルとも呼ばれている。これは、そろそろ共産党の転嫁も持たなくなるかもしれないと幹部自身が思いはじめ、蓄えた私腹を海外に移してしまうという現象が起きているのだと述べました。
そして、中国というのは本質的に未だ近代国家ではない、国家とは何かと問われれば、最低限、行政システムが機能して国民の末端までそれが行き届いていなければならないが、今の中国はまったくそうではない、かつての王朝時代、国王とその周辺の貴族・宦官一族郎党が権力と富を握り、その権力を防衛するための傭兵、つまり軍と警察がおり、そして一般人民は奴隷と、そういう構図と未だに本質的には何も変わっていないのだと指摘しました。ただし、トウ小平の改革開放政策以後、確かに一点中国社会に変化は生じていて、それは8000万人ほど生まれたとされる中間層の出現だ、これがもしかしたら中国社会に何らかの変化をもたらすかもしれないと述べました。
そして、例えば中国における軍拡ももちろん脅威だが、同時に、国防費1000億ドルといっても、同時に治安対策、つまり国民への監視と公安の強化には1100億ドルと、もっと大きな金がかけられている、要するに中国共産党は暴力と監視で国民を抑え込み、同時に情報・教育を独占して例えば歴史教育において洗脳・反日教育を行っている、おそらくこのシステムは、中国が仮に明日民主化されても、そののち100年間はこの統治ノウハウは変わらないだろう、こういう国にとって、敵とは何かといえば、まさに、自由、人権、民主主義、そして法治の原則など、近代国家が価値としている者すべてなのだと述べました。
そして今、中国では貧富の格差が、中国政府の発表を見るだけでも、1%の人間が62%の富を独占している状況であるとし、逆に、自分たち日本がもっと自信を持つべき点として、安倍政権の誕生以後、明らかに日本経済、そして外交も復活しつつあること、対中国に対し強い態度を取れる内閣が誕生したことを次のように述べました。
宮崎氏はまず、最近若手の経済学者三橋貴明氏の本を読んで大いに共感したのだが、アベノミクスに対し批判的な経済学者を同氏が「経済的自虐論者」とし、日本経済にとにかく悲観論のみをまき散らし、日本の正当な国力を評価しない経済学者を批判しているが、自分も全く同じ考えであること、日本経済はこれから確かに復活する、それは、ここ数年間の経済低迷の原因を分析し、それを解決する方針こそがアベノミクスなのだと述べました。
景気低迷の理由は、大きく言えば、GDP低下、それによる民間消費、とくに住宅投資の下降、また民間企業の設備投資の低迷、政府支出こと公共事業を民主党時代に抑え込んだこと、貿易黒字が赤字にここ数ヶ月転嫁したことなどだが、これを回復させるのは政府にできることとしてはまず公共事業とそれに伴う金融緩和しかない、これこそがアベノミクスだと述べました。
そして、翻って安倍政権がなぜ誕生したのかを考えてみれば、これは正しく、昨年9月、民主党が尖閣国有化を打ち出したことによる反日暴動、中国の実態が明らかになったことで国民も自民党も覚醒し、中国に対し明確に強い態度に出る政権が必要だという意識になったからだ、ある意味、それまでは石破、石原、また町村氏にも及ばない状態だった安倍氏が一躍自民党総裁選で有力になったのはこの中国の強硬姿勢によるものだと指摘しました。また、この9月、宮崎氏は中国瀋陽にてこの暴動を間近に見ましたが、最初は明らかに中国公安により組織されたデモであり、日本大使館の前におかれた卵も、お一人様投げるのは2個までとまで指示されていた、しかし、その後は面白半分というか、とにかく現況に不満を持つ騒ぎたいという分子、もっと言えば野次馬がデモをおこし、最後に出てきたのが、毛沢東の肖像画を掲げたいわゆる改革開放に乗れなかった左派共産党勢力だったと分析しました。
そして、安倍政権は誕生後、早くもこの12月末から2月にかけて、外交政策において、対中スタンスを無言のうちに変えていっている、まず、麻生氏がミャンマーを訪問し、今までの5000億の借金を棒引きにするとともに新たな500億融資を持ち出した、これによってもともと親日的なミャンマーには大きな工業団地を造るテコ入れができる。次に、岸田外務大臣がフィリピンに行き、巡視艇10隻を何らかの形で支援する方向だ、これによって中国との領土問題を持つフィリピンは、明確に日本の防衛力拡大を歓迎するとまで表明した。そして、安倍首相自らがベトナムやインドネシアを訪問し、「海洋航海の自由は法の支配に基づかなければならない」という、明らかに中国をけん制する発言をした。今、アジア全体が中国の侵略を脅威に感じ、マレーシアとシンガポールの一部、そしてカンボジアあたりを除けばみな中国離れが始まっているときに、日本がこのような形で中國に対峙する国々を支援する姿勢を無言のうちに示した意義は大きいと宮崎氏は述べました。
そして、宮崎氏は次は中国の経済情勢の分析に移り、実は中国ほど経済的に柔弱な国は少ないとまずその本質を指摘しました。まず、経済の根幹は金融であり、お金が回るシステムが潤滑であることだが、まずここから中国はでたらめだ、その一つの証明として、中国のお札は未だに100元札が最も高い札で、あれだけ経済発展したと言っているのに1000元札も5000元札も作ろうとしないのはなぜか、それは偽札が横行しているからだと指摘しました。そして、中国の通貨の約20パーセントは偽札といわれていて、だからどのホテルでも偽札発見器が置かれている、しかしその発見器自体が偽物だったりすることもあると、宮崎氏は笑うしかないような実態を述べ、日本ならば偽札が使われればすぐ警察が飛んでくるだろうけれど、中国ではこのような状態のため、単に支払ったお客につき返すだけでいちいち警察など呼びもしないと述べました。
そして、中国人民銀行は政府に従属し、政府の命令で通貨を発行する、他もほとんどが国有銀行なので、当然国有企業に優先的に、しかも無制限にお金を貸し出すため、企業が赤字になっても、乱脈な経営をしてもつぶれないという悪循環になる。では民間企業はどうしているかといえば、これは地下銀行から借りている。そして、民間企業が成功して大きくなれば、そこに共産党が介入して来て、自分を会社の副社長にしろとか無理なことを言ってくるが、それを拒否すれば、今度は詐欺罪、脱税などで社長が逮捕される、そして時には死刑を求刑されることすらあると、資本主義のルールさえ守られていない実態を宮崎氏は指摘しました。
そして、リーマンショック以降、欧米の経済危機の中、世界の財界人が中国に過大な期待と評価をしたし、中国もまた自国の経済を宣伝したけれども、実はあの経済発展と称するものは、架空のビルを建て(習近平の姉も故郷に大きなビルを建てたが殆ど幽霊屋敷状態になっている)、架空の都市開発に巨額の融資をしたものであり、多くがゴーストタウンになっている。その結果100万都市に事実上3万人弱のひとしか住んでいなかったり、重慶の50万都市計画で5万人、山東省の30万都市も数万と、今中国全土で空き家が8000万存在すると言う指摘もあるが、多分実際は1億くらいはあるのではないかと宮崎氏は述べ、これはまさに独裁政権だからこそできた無駄で架空の開発だと指摘しました。
このような、正直はりぼてというべき中国経済の実態の中、良心的な企業家は自殺した人もいるが、多くは財産を持って社員を捨てて逃げ出している、しかし、なぜこのような中国経済が、これまでその実態を暴かれず、それどころか評価を得てきたかといえば、10年前のあるからくりがあると宮崎氏は述べました。それは、10年前、中国政府はその時の各企業の不良債権を、AMC、アセット・マネジメント・カンパニーという機構にすべて移し、企業を盛んに香港に上場、これに世界の投資家が引っ掛かったのだと指摘した上で、この時中国と手を組んだのが、ブッシュ政権時代のヘンリー・ポールソンら、そしていわゆるウオール街の投資家たちで、彼らが中国の銀行の香港上場の手助けやアドバイス、そしてアメリカでの宣伝まで行ったと、見失われがちな米中の経済的癒着を指摘しました。
しかし、今中国経済は危機にあり、これ以上のごまかしの発展やバブルはありえない、欧米の経済力の低下は輸出の不振を生み、日本での安倍政権の誕生と対中外交の、アジア諸国の中国への不信から、今後日本企業も中国よりもアジアに進出していくだろう、今年の終わりには、いよいよ中国経済の根本的な危機がやってくる。最初に述べた中国の軍事的脅威にしても、実は経済動揺はりぼての面が多く、例えば空母を持つと言ってもあの空母からは飛行機を飛ばすことも実はできない程度のものにすぎない、日本や諸国が、中国に対し強硬な態度で対峙すれば、必ず中国の方が屈せざるを得ないはずだと、宮崎氏は今後の展望を述べて講演を終わりました。
ペマ・ギャルポ会長、石平副会長、イリハム・マハムテイ専務理事、オルホノド・ダイチン常務理事、宮崎正弘氏、西村幸祐副会長
この後、ペマ会長を司会に、石平副会長、イリハム専務理事、モンゴル自由連盟党のダイチン氏が登壇、現状と今後の運動についてのシンポジウムが開催され、最後に西村副会長より閉会と総括が行われて、一周年記念公演は無事閉会いたしました(文責 三浦小太郎)
動画
一周年記念講演会「中国問題の本質~米中国の間~」講師:宮崎正弘
http://www.youtube.com/watch?v=waPn3S-Vyac
※講演会の告知はこちら
・2013年 新年のご挨拶 / 一周年記念講演「中国問題の本質~米中国の間~」講師 宮崎正弘
https://freeasia2011.org/japan/archives/2010
・講演「中国問題の本質~米中国の間~」
講師:宮崎正弘(評論家 作家)
・パネルディスカッション
ペマ・ギャルポ(アジア自由民主連帯協議会 会長)
宮崎正弘
石平(副会長)
イリハム・マハムテイ(専務理事)
オルホノド・ダイチン(常務理事)
・挨拶
許忠信(立法委員 台湾国会議員)
西村幸祐(副会長)
・司会
古川郁絵(事務局長)
制作・協力 ラジオフリーウイグルジャパン
http://rfuj.net