2月23日、ジャーナリスト、久保田るり子氏の講演会が守る会学習会として東京星陵会館で開催されました。テーマは、本日(2月25日)就任する朴槿恵新韓国大統領についての評価と分析で、韓国を長く本格的に取材してこられた久保田氏の深い視点を学ぶことができました。
まず久保田氏は朴槿恵氏について、議員時代から、他の韓国の女性政治家とは違い、冷静な語り口、ブランド物などは身に着けず国産品を着こなす地味な服装などが逆に冷静な政治家として強い印象を与えていたことに触れました。その上で、例えば2月22日の竹島の日に対しては極めて抑制された市政を韓国政府が示した事を指摘し、韓国マスコミや運動化の一部は確かに韓国ナショナリズムを煽ったけれども、政府は比較的自生していたと述べました。
その上で、何故朴槿恵大統領が当選したかについて、ある韓国知識人が、彼女は韓国の歴史そのものを体現する人でもあったからだと述べたと紹介し、具体的には次の3点を挙げ、彼女の波乱に満ちた人生を紹介しました。
(1)まず彼女は、人生で3回のテロに直面している、第一回は母が文世光事件で殺害されたこと、第2回は勿論朴大統領暗殺事件、そして第3回は、自分自身が2006年に暴漢に切り付けられたこと。(2)父親の朴正煕大統領はまさに韓国経済を発展する偉業を成し遂げたが、暗殺後は急にその取り巻きは逆に彼を批判し、朴槿恵は青瓦台を去って行った、この時の体験が、彼女を簡単には他人を信用しない姿勢を身に着けさせたと言われていること(3)しばらく彼女は政治から離れ、1989年には、日記に、非凡な父を持った辛さを切々と描いているほどだが、IMF危機が韓国を襲撃した時、国の根幹が揺らいでいるとき、自分だけが安穏としているわけにはいかないと決意して政局に打って出たこと、以上の3点が、まさに韓国現代史の縮図でもあると指摘しました。
その上で久保田氏は、現在朴槿恵大統領は人事面では専門家、官僚などを登用し、安定性をを優先するバランスのある政権を目指している、しかし、外交、安保はおそらく大統領自身が決断するだろうと述べ、その上で、これも新たな政権である日本の安倍政権に就いてここで触れたいと述べました。
久保田氏は、安倍政権は、竹島、尖閣問題について、支持者の領土問題や歴史問題では妥協してほしくないという声に対し、内閣にまず山本一太議員を領土担当として置き、積極的な姿勢を示しているが、同時に、かっての第一次安倍内閣が歴史問題や価値観外交を前面に打ち出して物議をかもしたことを忘れていないはずだと指摘し、安倍氏は今回はより慎重な姿勢を取るのではないかと述べました。
その上で、朴・安倍両氏は、2006年に一度日本であっており、そこでは、歴史問題は自分たちの時代で解決したいという趣旨のことを述べている。そして、今回は大統領選挙から今まで、朴槿恵氏は日韓関係についてはほとんど具体的なことは語っていないが、朴氏は朴正煕大統領の娘であり、安倍氏は岸信介氏の孫であるというこの運命的な生い立ちをここでよく考えてみる必要があると久保田氏は述べました。
朴正煕大統領は満州の陸軍士官学校の卒業生だったが、岸信介は同じく満州の経済官僚であり、朴正煕は韓国経済の発展の為に満州モデルを使おうと、岸氏に1961年協力を求めた。岸氏は「目の前の政治的損得を考えるのではなく、常に50,100年先を考えて日韓国交回復をしていくべきだ」と語り、また、国家の基本としての農業の重要性を強調し、これがのちのセマウル運動に繋がって行ったともいわれる。そして、竹島問題はそもそも1965年の日韓条約に根源があり、そこでは日本側と韓国側で、竹島については密約の形で、お互いが自分の領土だと主張してもいいが政治問題、外交問題にはできるだけしないという取り決めがあったのだけれど、韓国が軍事政権が終わると共にこの密約は事実上継承されず、現在のようにストレートにナショナリズムの衝突や外交問題に発展してしまった。しかし、安倍首相も朴槿恵大統領も、本質的にはプラグマチスト、リアリストであり、この問題は偉大な祖父、父の残した問題として、この二人の時代が必ず解決してほしいと久保田氏は期待を込めて語りました。
そして、朴槿恵新大統領の対北政策に触れ、今の人事では、統一部長菅に柳吉在氏が内定しているが、彼が有名な北韓学会の学者であることは時事だけれども、柳氏の主張は常によく言えば中道派だが、左派の一方的な融和政策にも反対だし反北派、保守派の強硬路線にもブレーキをかけるという、あえていえば焦点の不明瞭なもので、この人物が基本的な対北政策を描いている。これは安全保障は築きつつ、その上で対話路線や対北支援を行うという、基本的には融和路線に向かうのではないかという危惧を久保田氏は述べました。そして、2002年、朴氏は一度北朝鮮を訪問し金正日と面会しているが、どのようなルートでの招請だったのか、この時彼女が何を語ったのか、また金正日がどう迎えたのか、明確な記録はいまだに明らかではなく、朴新大統領の対北政策は正直いまだに不透明だと久保田氏は述べました。
そして、最後に北朝鮮の人権問題に触れ、この深刻な人権侵害は確かに一日も早く改善、解決されなければならないことは言うまでもないのだが、正直、例えば現在の一般の日本国民の中では、金正日、金正恩と、一般の北朝鮮民衆が同一視され、とにかく触れたくない存在とみなされている、そして、日韓両国の人権問題での対北連携は、歴史問題を含め、その前に解決せねばならない問題が多すぎて難しい。自分の希望としては、これまでの両国政府の流れとは違うタイプのリーダーが双方に出現してほしいし、また、朴政権、安倍政権共におそらく3年、5年くらいはやっと安定政権となるだろうから、その間に日韓の諸問題を完結し、その上で、北朝鮮のレジームチェンジに両国が連携していけるような流れができていくことを望んでいると述べて講演を結びました(三浦)
2月23日守る会関東学習会 久保田るり子氏講演「朴新政権をどう見るか」報告 : 北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会
2013-02-26 16:46
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