9月1日、韓国在住の脱北者、イ・テギョン氏の講演会が、東京星陵会館にて守る会関東学習会として開催されました。参加者は約30名、
イ・テギョン氏は1951年に日本で生まれ、両親とともに1960年代初めに北朝鮮に渡りましたが、氏はこれを「帰国」と呼ばれることには深い抵抗感がいまだにあると語りました。自分の両親は韓国出身の在日コリアンであり、北朝鮮は故郷ではないのに、「帰国事業」という言葉自体が、ほとんど90パーセント以上韓国出身だった在日コリアンにとっては間違った表現だということでした。しかし帰国事業当時は、一部の日本知識人にも、北朝鮮は数年で経済的にも日本に追い付き追い越すということを言っていた人もいたし、何よりも、日本人妻は3年経ったら里帰りできると総連の人たちは宣伝していた、これは明らかに間違いだったとイ・テギョン氏は述べました。
そして、北朝鮮では総連の言う地上の楽園どころか、階層差別が明確で、金日成一族や幹部にとっては、おそらく世界でも一番豊かで幸福な生活をしているかもしれない、しかし、帰国者は外部の世界を知っている、資本主義の価値観を知っているというだけで、敵対階層、最も低い階層に位置付けられてきた、もちろん努力すればそれによって一定の役職に就くことができないわけではないが、それでも常に壁と限界があると述べました。
そして、自分自身も含め徹底的な監視体制が全国にしかれており、自分も、反抗的とみられ、軍隊にいたときに知らぬうちに自分の髪の毛や血液などは採取されて保存されていたらしい、何か事件が起きたときに、自分がかかわっていないかどうかを調べるために使われるのだろうと述べました。そして、これは恥ずかしいことだがと断った上で、自分の韓国在住の死んだ兄は、北のスパイとされて韓国で殺されたのだ、という嘘の報告をして、それによって自分自身も立場が多少良くなったこともあったと語りました。
そして、このような恐怖支配の体制の中、公開銃殺を含む多くの恐怖を味わって、とにかく我が家では、生き延びるために、たとえ他人に馬鹿にされても、何も考えていない、何もしゃべらない姿勢をつらぬき、それによって何とか生き延びたのだと述べました。そして、ひたすら努力し勉強して医師になったこと、しかし北朝鮮医療の実態は、無償医療とは最初のうちだけで、80年代から90年代にかけ、お金がなければ輸血もできない、治療薬もない状態になり、手を尽くすこともできず多くの人が死んでいったと語りました。
そして日本人妻たちに触れ、自分の故郷でも日本人妻の人たちがいたが、帰国者以上の最下層だったと思う、彼らの中には、夫が脱北に失敗するなどしてつかまり収容所などに入れられ、妻も食べるものもなく、餓死していった人もいる、日本政府は、彼女らも拉致被害者の同じ日本国民だし、3年後に里帰りできるという嘘の宣伝に騙された犠牲者なのだから、自国民救済の責務があるはずだと語りました。
そして朝鮮総連に対し、彼らが親族がいるから総連に残り、そして仕送りなどで帰国者を支援してきたことは自分も理解できる、しかし、北朝鮮の独裁政権を支持し、そのミサイル開発や軍拡を支援してきたことには何の正当性もないはずだ、総連は帰国者の支援団体であるべきで、北朝鮮の三代世襲金王朝を支援することはやめるべきだと述べました。
また、現在の金正恩政権が急速に倒れるとは思えないが、北朝鮮民衆は、金日成は偉大だと思っていた、金正日は、とにかく恐ろしい、恐怖の対象だった。金正恩については、幼稚で若い人間としか思っていない。もちろん金正恩を支える勢力は健在だし、またあの体制は簡単には倒れない。しかし、民衆の意識が変わって行けば、必ずそれへの弾圧も強まるけれど、いつか弾圧だけでは民衆の離反を抑えきれくなる、科学的真理として、必ずあの体制はいつかは崩れる、その時、総連をはじめ、北朝鮮を支持していた勢力は責任を足らねばならなくなると述べました。
そしてイ・テギョン氏は、韓国では、帰国者という視点はなくすべて同じ脱北者とみなされる、それは仕方がないが、自分としては日本に深いかかわりのある帰国者として、韓国でも帰国者の団結する団体を作ろうとしてきたが、中々うまくいかないところもある。このように日本でも守る会他、北朝鮮難民救援基金、ノーフェンス、レンクなど立派な人権団体があるが、日本在住の脱北者があまりその運動に参加していないようにも思える、それぞれ立場に違いはあっても、北朝鮮の人権改善と民主化という大きなテーマはみな同じはずだから、自分は韓国に守る会の支部を作るような気持ちで頑張ってみたいと講演を結びました。(三浦)
9月21日から23日まで、北朝鮮人権大学関西校が開催されます
詳しくは下記ブログをご覧ください
http://kalmegi.seesaa.net/
9月1日 関東学習会 イ・テギョン氏講演会報告 : 北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会
http://hrnk.trycomp.net/news.php?eid=01020