チベットの最新情報とこれからの若い世代のチベット運動
チュイデンブン
皆さん、こんにちは。
今日は、このテーマについてお話をさせて頂きます。同時に皆さんと共にこのテーマに関する議論を深めていくことができればと考えております。
1.チベットの最新情報
まず、チベットの最新情報についてですが、これは、基本的には中国人やチベット人が中国のネット上に書き込んでいる中国社会の様々な問題及び中国当局に対する不満の声をそのまま日本語にしたものです。また一部の現地の人々との交流を通じて得られたものもあります。
(1)マスメディアについて
まず、中国のマスメディアについてですが、これに関しては、中国の微信などネット上には次のような書き込みが頻繁に現れています。例えば、中国人の一人が次のような意味を中国語で発信しています。
アメリカの政治智慧は、メディアに自己批判を許すことにあり、中国の政治智慧は、メディアに自己称賛を勧めることにある。
香港のメディアは真実を報道しないとクビになるが、われわれ(中国)のメディアは真実を報道するとクビになる。
これは、現代中国のマスメディアの現状の一部をそのまま反映しています。そのため、海外の人は勿論、一般中国人も自分たちが属する社会の真実を知ることが非常に難しくなっています。「中国人民」の声を代弁する存在であるはずの「人民日報」も人民の声を代弁する存在にはなられていないのです。従って、一般中国人の中には、「人民日報は、そのページ番号と日付しか信用できない」と言う者もいます。真実を語らない人民日報をボイコットすべきだと言う人もいます。
(2)汚職について
また政府幹部の汚職問題を風刺する書き込みもたくさんあります。例えば、別の中国人が次のような意味を中国語でネット上に流しています。
給料は少ないのに、貯金が多い。スピーチは上手じゃないのに、拍手がすごい。
外国語は知らないのに、出国が多い。学問は低いのに、職位が多い。
食べている分量が少ないのに、脂肪が増えるばかり(太ること)。
最も豊かな政府、最も貧しい市民、最も高い権力、最も低い法治、最も汚い環境、最も多い行政、最も少ない監督、最も多い検査、最も低い道徳、誰の罪?
市民はお金が無くて困っているのに、政府は金持ちで顔に油が流れている。
幹部は市民に対しては雷鋒を学びなさいと指導するが、自分たちは自ら汚職する。
この異質な現象は長く続きないでしょう。
等々の表現で中国当局の汚職問題の深刻さを上手に指摘しています。そして、この問題を次のような会話で表現している者もいます。
中国人:お国では妻や子供を海外に置いて、自分が官僚を務める人いますか。
ドイツ人:もしそんな官僚がいたら、マスコミが興奮しちゃうぞ。
中国人:では、お国の官僚の中に秘かに海外で貯金している人いますか。
ドイツ人:もしそんなことがあったら、政府が潰されてしまうよ。そんな国があるんですか。
中国人:(無言)。
以上のように中国の幹部たちの腐敗問題は非常に深刻です。80%以上の幹部が汚職されているとも言われています。いずれにしても、人民の政府であるはずの政府の幹部は、実は自分自身の利益を追求する存在しか人民に利益をもたらす存在にはなっていないのです。
(3)チベット人の苦しい状況について
またチベット人の人権が侵害され、文化や言語及び環境などの保護及び維持が難しくなっている状況も次のような言葉で表現されています。
兄弟姉妹やチベット人同士が団結すると、‘反政府の準備’として制限されてしまう。
チベット文化や言語の保護活動をすると、‘形を変えた分裂活動’として制限されてしまう。
生態系や環境の保護活動をすると、‘違法行為’として制限されてしまう。
私は、自分のふるさとで昼間のフクロとなってしまった。
これは、チベット・アムド州出身と見られる者によって発信されているものですが、彼が述べている通りに、いまの中国共産党独裁支配のもとではチベット人はチベットのために語ることもチベットのために動くことが許されていないのです。まるで昼間のフクロのように何も見えないふりをして、じっとしているしかできないのです。
またチベット・カム州出身と見られる者が、最近カム州で相次いで発生しているチベット仏教寺院の火事についても次のように表現しています。
チベットでは、独立や文化保護などに関するビラが貼られると、5分以内に警察や軍人が現れてくる。
しかし、火災など災害が発生した時、5時間経っても現れてこない。
このように「人民」の安全を守る存在であるはずの警察もその本質は「人民警察」にはなられていないし、「人民」を苦しみから解放してくれる存在であるはずの軍人もその本質は「人民解放軍」にはなられていない。
(4)民族の差別について
また民族の差別についてもチベット・ウィツァン州に住んでいる者と見られるチベット人が次のような書き込みをしています。
ラサでは、5人以上のチベット人が集まると取り調べの対象になってしまう。
しかし、漢人(中国人)は、1500人と言う大集団でラサを平気で歩き回ることができる。
なぜでしょうか
たぶん2012年末頃だと思いますが、この時、チベット・ラサではチベット自治区政府の支持で「ラサを歩き回ろう」と言うイベントが行われました。参加者は、中国人の芸能人や歌手など中心となるラサ駐在の中国人や中国人学生で1500人が集まったと言われています。心の修行の一環として精神性を高めようと言うスローガンで行われたと言われていますが、参加者たちは自分たちが聖者のような存在になったと言う自慢を持っていたと言う。このイベントを見たチベット人の一人は、「チベット人の人権はこんなに酷く弾圧されているのに、歌手や芸能人たちがこんなイベントに参加し、精神性を高めようとか言って、恥ずかしくないのか」と皮肉なことを言っています。
(5)生活や教育の差別について
また中国の農民と公務員が受給されている年金の格差や、幹部など特権者の子供と一般中国人の子供が受ける教育環境の格差などについても次のような皮肉な言葉があります。
中国の最大の不公平は年金のことだ。公務員は6000元を受けているのに、農民はたった55元。同じ人間なのに、生命の価値はこんなに違う。
アメリカ大統領は、スクールバスの安全性を最も重要視する。なぜなら、その中に未来のアメリカの大統領がいるかもしれないからだ。だから、アメリカのスクールバスの安全性は中国の40倍になっている。しかし、中国の指導者は、如何なるスクールバスの中にも未来の中国の主席が存在していないと考えている。なぜなら、自分たちの子供はスクールバスを利用しないからだ。
欧米諸国では、最も壮大な建物は教会である。
なぜなら、そこに彼らの信仰―博愛・自由・平等―が置いてあるから。
日本では、最も贅沢で派手な建物は学校である。
なぜなら、そこに彼らの信仰-知識・技術・勤勉的精神-がおいてあるから。
中国では、最も壮大な建物は政府と銀行の建物である。
なぜなら、そこに彼らの信仰-権力・金銭・傲慢-がおいてあるから。
(6)中国少数民族の言語の危機について
また満州語、モンゴル語、ウイグル語、チベット語など、いわゆる「少数民族」の言語が直面している現状についても次のようなデータがあります。
満州語:話せない、読めない人95%。
モンゴル語:話せない人30%、上手に話せない人40%、文字がちゃんと読めない人70%。
ウイグル語:話せない人10%、上手に話せない人20%、文字がちゃんと読めない人30%。
チワン語(壮語):話せない人65%、文字が完全に読めない人80%。
チベット語:チベット語を話せない人25%、文字がちゃんと読めない人70%。
このデータの具体的な調査方法や正確性に関する記事が確認されていないため、それは、チベット語やモンゴル語などの現状を正確に反映しているかどうかは分かりません。しかし、チベット語やモンゴル語など少数民族の言語が危機的状況に直面しているには変わりがありません。例えば、チベットの場合、ウィツァン州では、既に小中学校では外国語の中国語が母語チベット語に代わって主語となっています。これは、現地のチベット人たちが自発的に受け入れたものではなく、当局から計画的・政策的に推進されたものです。そして、アムド州でもそれと同じ問題が起きています。こうした諸問題の背景に大漢民族主義者(中国人)の「中華思想」が存在し、彼らはその思想に基づいて異民族の漢民族への同化政策を進めているわけです。それは、次のパンチェン・ラマ十世と中国人幹部の会話からも読み取れます。
中国人:中国語が分からないチベット人たちはただの文盲に過ぎない。
パンチェン・ラマ:それなら、欧米人も文盲人ですか。彼らも中国語をしゃべれないから。
中国人:15年後にチベット自治区がチベット語を使わないようにするよ。
パンチェン・ラマ:では、それをどうやって「自治」と呼べるんですか。
中国人:……
そのようにチベット語やモンゴル語など各少数民族の言語が危機的状況になっているのは、決して自然発生的現象ではなく、人為的に発生している重大な問題となっています。
(7)一般庶民の生活状況について
また一般中国人及び一般チベット人の生活及び考え方などについても、その実体は、次のような記者の取材内容を見れば十分把握できます。
①生ゴミで生活している中国人の老人に対する取材の内容
記者:お爺さん、あなたはこんな生活をして幸せですか?
老人:何?
記者:(ちょっと大きな声で)あなたは幸せですか。
老人:耳が聞こえない。大きな声で。
記者:(もっと大きな声で)あなたは幸せですか?
老人:もっと大きな声で。
記者:……(仕方なく去って行こうとする)。
老人:全部聞こえたよ。そんな質問もう疲れた。なんで尖閣諸島や腐敗問題について質問しないのか。こんな83歳になってもゴミを拾って生活している私、幸せだと思うか。バカみたい。
②チベット・ラサ市のあるチベット人老人の生活に関する記者の取材内容
記者:お婆さん、いまの生活について何か言いたいことありますか。
お婆さん:ダライ・ラマ法王を早く帰らしてほしい。これだけ。
記者:それじゃなくて、生活について話してください。
お婆さん:では、ラサの漢人たちを連れ帰っていってほしい。それだけ。
記者:それではなくて、生活について。
お婆さん:では、生活には何も困りがない。
③過去のチベットと現在のチベットに関するチベット人への記者の取材内容
記者:新しい社会が良いですか、古い社会の方が良いですか。
お婆さん:当然、古い社会の方が良いです。
記者:(びっくりして)えっ、なぜ?
お婆さん:その時、私は若かったのか、病気もなかったし、何を食べても問題なかった。しかし、いまは色々大変。特に胃の調子が悪くなっている。いくら良いものを食ってもダメ。だから、毎日古い社会の方が懐かしいの。
これらの取材内容は、実際に行われたものかどうかは分かりません。しかし、仮に作り話であったとしても、それはいまの中国共産党政権の支配のもとの一般庶民の生活ぶりやチベット人のチベットの指導者や祖国及び文化などに対する考え方を正確して反映していると言えます。
以上は、一般中国人及び中国当局の支配下で苦しんでいるチベット人の悲鳴でもあり、同時に、その声には中国当局による統治方法への望ましい変化の期待も込められていると思えます。アジア全体の自由・民主主義及び法の支配の理念の更なる発展を求めるうえで、私たちは彼らの声を無視することができません。
2.若い世代のチベット運動
それでは、私たち若い世代のチベット人は、チベットの自由を取り戻すために何をすべきでしょうか。
紀元821年と822年に締結されたチベットと唐(中国)の間に結ばれた同盟条約には、「これ(今西安の領域にチベットと中国の境界線がある)より西側はチベット大国の領域と、東側は大唐の領域とし」、「チベット人はチベットの大地で幸せに暮らし、中国人は中国の大地で幸せに暮らす」と約束しています。そして、その約束は、子々孫々まで継承していくために三本の石碑にチベット語と中国語で刻み、一本はチベット・ウィツァンのジョカン寺の前に、一本は西安の唐朝の宮殿の前に、もう一本は境界線に樹立しました。その中で、中国のそれと境界線の石碑は行方不明になっていますが、チベットのそれは、私たちチベット人が自らしっかり守り続けてきています。
従って、私たちチベット人の狙いは、ただ中国人がその約束を守ってくれることのみです。国連憲章及び国際人権規約にも「すべての民族には自決権がある」と明記されているようにチベット三州(ウィツァン・アムド・カム)の独立を取り戻すこともわれわれチベット人の合法合理的権利です。しかし、いま、私たちは、ダライ・ラマ法王に提案されている「中道路線」に基づくチベット三州の「高度自治」を求めており、当然の権利である「独立」を放棄しています。これ以上譲ることはないでしょう。これは、中国当局の統治思想の原点ともなる「マルクス・レーニン主義」及び「毛沢東思想」、「鄧小平理論」、「和諧社会」と「科学的発展観」の理念とも一致するはずです。マルクス・レーニン主義も「民族平等」や「民族自決権」を主張しているし、毛沢東及び鄧小平もその理念を継承しているはずです。そして、「和諧社会」を築き、「科学的発展観」を推進して行くにも「民族平等」ないし「民族自決権」はその前提条件となるからです。