9月20日、東京の会議室にて、東京基督教大学教授で救う会全国協議会会長の西岡力氏による、アジア自由民主連帯協議会主催第16回講演会が開催されました。
西岡氏は、今日は協議会のテーマに沿って、北朝鮮の自由化、民主化というテーマで話をしてみたいと思うけれども、現実的に北朝鮮を自由化するには、韓国による朝鮮は当の自由統一という方向しか自分には道はないように思う、だからこそ、韓国の現状や問題を考えながら今日は話をしていきたいと述べました。
そして、今韓国の朴現政権が、左傾化し、またポピュリズムに走って反日的な言動をしてることを、自分の知る韓国の保守派やアメリカの軍関係者も大変憂いている、しかし、この朝鮮半島における韓国と北朝鮮の戦いは、このアジアを民主化するためのある意味では「準決勝」的な意味を持っていると、アメリカ軍関係者の人は語っていると述べました。そしてこの準決勝で韓国が勝てば、日本を中心とするアジアの自由民主主義勢力が、中国という大独裁国家と闘う、アジア民主化のための決勝戦が待っているとその関係者は語っているし、自分もそう思うと述べました。
いま日本国内で、反韓、厭韓国感情、また反中国感情が起きていることは事実だけれども、自分としてはそこまで議論を持っていく前に考えるべきことは、共産党一党独裁国家がまだアジアでは存在し、アジアにおける冷戦がまだ終わっていないことを原則として考えるべきで、またその中国共産党独裁体制は、中国人自身の人権を奪い抑圧している、そしてウイグル、チベット、南モンゴルなど他民族を帝国主義的に植民地化し、台湾の独立や自由民主主義をどう守るかということも含んでいる。この体制の違いを無視した上で、日本人と韓国人の民族的な違いとか、中国人と日本人の発想の違いとか、そういう民族的な違いに議論を持って行ってしまうと、本質が見えなくなってしまうと述べました。
そして、勿論そのような発想が日本で起きてしまっているのは、韓国の現政権が、韓米同盟や自由民主主義の擁護という姿勢を失い、独裁体制である中国に反日という一点ですり寄る姿勢を見せていることにあることも事実だが、共産党の一党独裁と全体主義が歴史の進歩であり結論なのか、我々の自由、民主主義、法の支配という価値観が、人類の普遍的で正しい価値観なのか、その決着がついていないことを見失ってはならない、あくまでも敵は中国人、漢民族ではなくて中国共産党であると述べました。
中国共産党は、根本的に今矛盾した存在となっている、元々共産主義の理想というのは、生産手段を国有化して格差をなくし、搾取を止めさせ、平等な世の中を実現するはずだった。しかし、現実の共産主義国家で起きたことは、生産手段を国有化すれば人々が働かなくなるという事態だった。「ひとりがみんなのために、みんなが一人のために」という実験は、この20世紀に失敗に終わったと西岡氏は述べました。
そして、今は亡くなったけれども、韓国の友人で金正剛(キム・ジョンガン)という、60年代に共産主義者として地下運動を行っていた人の言葉を紹介しました。韓国の左派運動というのはいくつかの流れがあって、一つは北朝鮮が工作員を送って作り上げた統一革命党、一つは自分の意志で共産主義の本を読んで左派になった人民革命党だが、金氏は、立場としては後者に近いけれどその党派にも入らず、まだ前衛政党を作るのは早い、労働者を啓蒙し、覚醒させ、その後で左派前衛政党を作るべきだと主張し、ソウル大のエリートだったにもかかわらず、学歴を偽り、労働者の中に入って行ったと西岡氏は述べました。
キム・ジョンガン氏が実際に労働者と接してみて、現実の労働者は革命の戦士になるどころか、基本的には自分と家族、そして生活のこと以外考えていない、ばくちもすれば酒も飲む、とくにモラルが高いわけでもないという現実に直面し、自分達左派は、労働者を、いや人間そのものを全く自分たちの理念の中でしか考えていなかったんじゃないか、人間の本質を見誤っていたんじゃないかと考えるようになったと、韓国の左派のある種の転向、現実を知った上での思想の変化を説明しました。
※西岡力氏
そして中国でも、毛沢東は、一人がみんなの為に、みんなが一人の為にという理想を現実に無理に合わせようとして、人民公社という形で土地の私有を完全に否定し、無理な経済計画を立て、大躍進運動の時代に大量の餓死を生み出してしまった。具体的には、村全体の農地が人民公社のもので、農民は出勤して、その日の決められた時間まで仕事をする。私有地はないから、努力して働いてもただ決められた時間いても同じこと。これは実は、北朝鮮でも全く同様で、日本からの帰国者の手記を読むと、帰国者が工場に派遣されて、そこで、一生懸命に働くとかえってみんなにいじめられる、何故かというと、一生懸命仕事をして、決められたノルマ以上に結果を出すと、その職場全員のノルマが増やされる。90年代に平壌に行った人が見た労働の現場でも、まさに不合理な、ノルマを増やさず、働くふりをしている労働者の姿を見た人の話を聞いたけれど、これがまさに共産主義体制の現実だと西岡氏は述べました。
その後毛沢東批判が起き、鄧小平や劉少奇は、物質的な刺激を与え経済を再生しようと、土地に於いて負制を導入し、人民公社の中の土地を一年なら一年農民に請け負わせ、ノルマを超えた生産はある程度個人に還元させようとしたが、それに反対した毛沢東は「無償で働かないのは思想が悪いからで、人間の思想を作りかえる」と文化大革命を引き起こしたと西岡氏は述べ、この大失敗から、復活した鄧小平が、人民公社を解体し、事実上資本主義を大々的に導入したのが改革解放だと述べました。
そして、本来のマルクス主義者の論理からすれば、資本主義における民主主義というのはブルジョア民主主義である、つまり資本主義下では資本家がお金も社会的な力も握り、民主主義と言ってもブルジョアが独裁しているのと同じだと言ってきた。それに対し社会主義下では、労働者が権力を握って搾取をなくす、プロレタリア独裁による人民民主主義を確立する、というのが左派の論理で、だからこそ北朝鮮も中国も一党独裁であるにもかかわらず「人民民主主義」と堂々と国名につけている。そして、労働者は自分自身で政治は出来ないから、労働者を代表する前衛政党が変わって独裁体制をとり、そのかわり労働者への搾取はなくすというのが本来のありかただったと西岡氏は述べた上で、しかし鄧小平が敷いたのは、資本主義は導入する、搾取も認める、しかし、共産党は一党独裁を行うというものだったと指摘しました。
西岡氏はこの矛盾を指摘した上で、もしも市場経済を認めるのならば、複数政党を認め、選挙をして、そして共産党が正しいなら国民の投票によって政権に着くという自由民主主義のルールを取り入れるべきなのに、それは一切行わない。資本主義を堕し搾取は認めるのに、共産党が独裁するという矛盾の中、共産党が政権を維持できる正当性を、日本帝国主義と闘ったというところに置くしかないからこそ、共産党は、南京大虐殺などを持ち出して反日姿勢を強めるようになったと、西岡氏は、中国共産党が一党独裁を取り続けている限り国内矛盾も無くならず反日姿勢も無くならない必然性を述べました。そして、このような体制の問題、共産党の一党独裁が理論上も現実政策的にも崩壊しているのに、その独裁体制を権力者や利権を持つものが維持している、そこに今のアジアの危機の本質があるのであって、それを、先述したように、中国人、韓国人と日本人の民族性の問題にしてはならないと述べました。
そして、西岡氏は安倍総理の、自由と民主主義、法治の原則といった価値観を尊重する価値観外交を評価した上で、自由、人権、法治の原則を認めない中国の独裁体制と、わが日本がどう対峙するかを考えなければならない、さらに北朝鮮はどういう状態にあるかというと、まだ中国にたとえれば文化大革命をやっている状態であり、大躍進と文革を同時に行っている、世襲の独裁体制下、北朝鮮は資本主義的手法を導入することを拒否し、思想統制を徹底するという、中国に二周遅れた状態にあると指摘しました。
しかし、北朝鮮で90年代以後大きく変わったのは、配給制度が止まったことであり、それによって、95年から99年にかけ、300万人の餓死が出たと西岡氏は指摘し、96年、韓国でごく最近韓国に来た脱北者の話を聞いたところ、配給が途絶え、闇市場ができ、そこで商売のできる人以外は飢えて死んで行く、死人が道端に転がり、植えた人は雑草ばかり食べ、そして草の毒にあたると顔がむくんでくる、生きるために、農場の種を盗んで庭で育てたり、山の中で焼畑も始まったとなど、生々しい話を聞いたと西岡氏は語りました。そして、共同農場にも食糧が無くなっている、軍が来てすべて持って行ってしまうと、これが先軍政治というものだと西岡氏は驚愕したと述べました。そして、ファンジャンヨフが亡命したのも、この時期の大量餓死の中、金正日が何の対策も取らずに軍拡のみを続けていたことに絶望したことだと述べました。
そして、大量餓死と同時に起きたのが脱北であり、最盛期はおそらく30万人くらいは中国に脱北者は存在したと思われると西岡氏は指摘し、彼らが出稼ぎなどでお金を稼いだり、家族の為にそのお金などをもって再び北朝鮮国内に戻ることで、大量の外奥の情報が国内に入った、特に中国が韓国と国交正常化したことから、韓国人が90年代に中国に訪れ、また逆に朝鮮族が韓国に出稼ぎに行くなどする中、中国朝鮮族の間でも韓国の豊かな現実が知られていき、それが脱北者を通じて北朝鮮に入って行くようになったことも、北朝鮮の民衆意識を大きく変えたと述べました。
既に北朝鮮の民衆に既に権力者への忠誠心はない。そして、労働党の中も、このままでは国は持たない、中国同様、一党独裁は維持しつつ経済は改革開放に持っていこうとする勢力と、それを止めようとする勢力が存在し、民衆はそんな権力内部の事とは関係なく、闇市で生き延びているというのが北朝鮮の実態だと述べました。そして、仮に国家を維持するためならば、確かに今の中国のように改革開放に向かった方がいいに決まっている、しかし金正日も、そして今の金正恩にも絶対にその道は選べない、金正日は、自分が300万餓死させた責任など取りたくないし、もし改革開放を目指せば、それによって自分がなぜ90年代にその対策を取らなかったかの責任を取らされる、だからこそ改革開放はできない。そしてなぜ金正恩が後継者になったかというと、金正男はもともと改革開放をやろうとしていたからこそ遠ざけられた。そして金正恩は、今の独裁体制を、弾圧を強め、飢えている人を見捨てても維持しようとするからこそ後継者に選ばれたと述べました。
※司会の古川郁絵
そして、中国と北朝鮮は、このような経済的な方針の違いはあっても、軍拡を続けているという共通性はあると西岡氏は指摘し、そして、北朝鮮の国家目的は韓国を革命化する事であって、戦術としては、核開発に成功し、そのミサイルが日本の米軍基地を無力化することであり、同時に韓国内で、米軍の出動を抑えるためには反米反日運動を拡大することだと、北朝鮮から亡命した軍人たちは率直に語っていると述べました。そして北朝鮮は、すでに小型化の核兵器をミサイルに搭載することに成功している可能性もあり、韓国内では反米勢力が力を持ってきており、3年後の韓国大統領選挙では親北派が勝つ可能性もありうると、西岡氏は今後の危険性を指摘した上で、日本は地政学的にも、朝鮮半島全体が反日化する、もしくは中国の勢力圏に入ることは非常に危険であり、それは古代の白村江の戦いののち、日本が防人を九州に送った時からはじまっていると述べました。
さらに、近代の日清日露戦争も、帝国主義的侵略ではなく、朝鮮半島を清国やロシアが勢力下に置くことが日本の危機をもたらすからこそ、それを防ごうとして起きたものだと歴史的経緯を述べた上で、日本が韓国と歴史論争を抱えているからと言って、韓国にはもう無関心でいいとか、関係を立ってもいいと言った説には自分は反対であり、地政学的にも、アジアを自由と民主主義の価値観を守り、また中国の民主化や各民族の解放を実現するためにも、日韓、そして他の自由民主主義を尊重し共産党独裁・全体主義に反対するアジア、中国国内、そして国際社会が連帯する価値観外交を貫かなければならない、そして歴史観や、民族性の違いは、お互いの文化的差異として寛容に認め合うべきだと講演を結びました。
(文責 三浦小太郎)
【動画】
第15回講演会「テロ国家北朝鮮の本質と拉致被害者奪還」講師 西岡力氏
https://www.youtube.com/watch?v=zf2yhDhDqq4
2014年9月20日に東京の北沢タウンホールで行われたアジア自由民主連帯協議会第15回講演会「テロ国家北朝鮮の本質と拉致被害者奪還」の動画です。
※告知より
日朝協議に期待が集まっているかに見える現在、私たちが何よりも見失ってはならないのは、北朝鮮というテロ国家の本質です。
今回のアジア自由民主連帯協議会主催講演会は、救出運動に取り組んできた西岡力氏をお迎えし、現状の分析とともに朝鮮半島とアジアの民主化のために、日本国がどのように北朝鮮に対峙すべきかをお話しいただきます。
皆様のご参加をよろしくお願いします。
・講師
西岡 力氏(東京基督教大学教授)
・司会
古川郁絵(アジア自由民主連帯協議会)
制作・協力 ラジオフリーウイグルジャパン
http://rfuj.net