2014-10-10 12:27
平成26年(ワ)第95号
控訴人 長瀬猛 外1
被控訴人 兵庫県 外1名
意見の要旨
平成26年10月8日
大阪高等裁判所第2民事部3係 御中
原告 長 瀬 猛
果たして、朝鮮学校に対する補助金の交付は、公益上の必要に基づく公明正大な支出と言えるのでしょうか。私たちは予てより兵庫県が支払い続けてきた全国でも突出した巨額の補助金について疑いを持ってきました。
疑問の第1は、朝鮮学校における教育の事業が、北朝鮮労働党と一体となって活動する朝鮮総連の支配によって行われていることにあります。特定の政治勢力による教育の支配によってなされる「誤った知識や一方的な観念を植え付ける教育」は、教育基本法が禁じる「不当な支配」そのものであり、個人の尊重を基礎におく憲法13条、同26条に違反するものだからです。
疑問の第2は、北朝鮮の最高指導者を礼賛する思想教育の事業に毎年1億数千万円に上る膨大な経常費補助を行うことは、朝鮮総連による「不当な支配」と生徒たちに対する人権侵害を助長・強化し、結果として拉致事件を解決しようとしない非道な北朝鮮を援助することになるからです。
神戸地裁での審理では、私たちは朝鮮学校で使用されている歴史教科書を提出するなど精一杯の立証に努めました。しかし、判決は、私たちの主張を認容するに至りませんでした。遺憾ながら、朝鮮学校における教育は、未だ朝鮮総連の秘密主義のベールに固く閉ざされており、その実態の全容を明らかにする十分な証拠がなかったからでした。
しかし、私たちは、この控訴審において、新たな、そして決定的な2つの証拠を裁判所に提出しました。
1つは、昨年11月に東京都が公表した「朝鮮学校調査報告書」です。そこで初めて朝鮮学校における教育全般の実態が明らかにされました。国際的に定まった歴史的事実に反する誤った知識を教え、造られた最高指導者の神話を事実として教え込む「歴史教育」。最高指導者に対する絶対盲従を説き、これを無批判に礼賛するチュチェ思想を刷り込む「社会科教育」。そして、ただただ最高指導者と朝鮮総連に対する賛美と忠誠を連呼する「音楽授業」。そして生徒たちは、「朝青」或いは「少年団」と呼ばれる団体への帰属を強制され、そこで最高指導者の「偉大性」を教え込まれ、チュチェ思想の実践と称する各種イベントへの参加を強要されていました。加えて、「朝鮮学校調査報告書」には、朝鮮学校の教育の事業が、準学校法人や教育会の組織を傘下に置いて、予算や人事の実権を握り、教育内容を決定する権限を持つ朝鮮総連によってなされていることが、しかも、それが北朝鮮の直轄的指導のもとで行われていることが数々の具体的かつ客観的証拠によって明らかになりました。最早、誰もこのことを否定することはできないでしょう。
2つ目の決定的な証拠は、2月に公表された北朝鮮国連人権調査報告書です。そこには朝鮮学校において礼賛されている北朝鮮における徹底した思想統制と人権状況の実態が生々しく報告されています。思想統制による恐怖政治は、ジョージ・オーウェルが「1984」で描いた全体主義のそれです。そして北朝鮮における洗脳思想は、朝鮮学校で教え込まれているチュチェ思想でした。北朝鮮における組織的で深刻な人権侵害を支えている洗脳教育は、拉致被害の継続を支える教育でもあります。これを、直ちに終わらせなければなりません。少なくても、その維持と延命を、市民の税金をもって行うことは許されません。
次に、日本国憲法は89条後段で、「公の支配に属しない教育の事業」に対する補助金の交付を禁止していることに触れます。ご承知のように、私立学校補助に関する政府見解は、私立学校法及び私立学校振興助成法によって憲法上の問題は解決されたというものです。そして、各種学校についても私立学校振興助成法の準用規定によって憲法上の問題は解決されているというのが、本件一審判決が依拠した論拠でした。
私たちは、この控訴審に至って、遂に、真の「問題の所在」に気付きました。兵庫県が朝鮮学校に交付してきた毎年1億数千万円もの補助金は、単なる補助金ではなく、教職員の人件費を含む「経常経費」の補助であるということに気づいたのです。経常経費の補助に道を開いた私立学校振興助成法は、「経常費の補助」(9条)と「その他の補助」(10条)とを分けています。経常経費の補助については、その他の補助と違って、これを受け取る学校法人に公認会計士等による監査報告書の提出を義務づけているのです(14条3項)。専門家による監査は、経常費補助の適正をチェックするうえで絶対必要な措置です。他方、朝鮮学校を含む各種学校については、学校法人が経常費の補助を受ける場合に義務付けられている公認会計士による監査報告書の提出を義務付けられていないのです。
そのことは、法が各種学校に対する経常費補助を予定していなかったことをうかがわせるものですが、朝鮮学校も経常費補助を受けるのであれば、公認会計士による監査報告書の提出を免れる合理的な理由はありません。免れているのだとすれば、それは不当な「特権」だとの非難を招くことでしょう。ところが、これまでの朝鮮学校側から公認会計士の監査報告書が提出されたことは1度もありませんでした。監査報告書の提出もないまま莫大な補助金の交付が続けられてきたのです。このようなことは私立学校振興助成法の趣旨に違反し、憲法89条後段に違反し、憲法14条の法の下の平等に反しています。
最後に申し上げたいことは、これまで兵庫県は、朝鮮学校における教育事業について、その内容や実態について、実態調査や会計監査によって適正に把握することなく、巨額の経常費補助を行い、これを「丸抱え」的に援助してきました。いくら朝鮮総連の秘密主義があるとしても、それはおかしいではありませんか。税金によって支援する事業については、その内容と実態を把握し、公益性を確認したうえで行うのが筋ではないですか。兵庫県における朝鮮学校に対する補助金行政は、その当たり前のことが当たり前に行われていなかったのです。これを正すのは、まさしく裁判所に託された責任であり使命です。
以上
兵庫県の朝鮮学校に対する補助金裁判の控訴人意見要旨 : 北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会
http://hrnk.trycomp.net/news.php?eid=01107