「東南アジアの難民と人権問題 現場からの報告を聴く」報告と動画 : 日本ウイグル協会

10月20日 日本ウイグル協会主催講演会
「東南アジアの難民と人権問題 現場からの報告を聴く」報告

 10月20日、東京四谷の会議室にて、日本ウイグル協会学習会「東南アジアの難民と人権問題」が開催されました。最初にイリハム・マハムティ会長より、今後、中国では最早ウイグル人がウイグル民族の伝統や信仰を守って生きていくことは中国政府の弾圧により出来なくなるかもしれない。その時は難民が出現する可能性もある、その事を踏まえて、現実に東南アジアで難民を救援している方々のお話を今お聞きしたいと述べました。

 まず、タイの人権活動家、チェリーダ・タジェロエンスック氏が登壇。彼女はタイにてピープルズエンパワーメントという団体を立ち上げ、長く難民問題に取り組んできました。

 チェリーダ氏は、東南アジアで今大きな難民問題として3つの例を挙げました。

 第一にロヒンギャ難民(ミャンマー)。80年代、ビルマ政府(当時)は、彼らの存在を認めないという決定を行い行き場を失うことになり、それ以後国内外で弾圧を受けている。90年代以後はボートピープルも出現した、しかし、彼らの存在は多少国際的に認められるようになったので、ここでは簡単に紹介するにとどめますとチェリーダ氏は語りました。
※ロヒンギャ難民についてさらに知りたい方には、以前のものですがアムネステイの下記リンク先をお勧めします。
PDFファイル http://www.amnesty.or.jp/library/report/pdf/the_rohingya_minority_fundamental_rights_denied.pdf#search=’%E3%83%AD%E3%83%92%E3%83%B3%E3%82%AE%E3%83%A3′

 第二にベトナムのクメール・クロム。南ベトナムに住むカンボジア系住民のクメール・クロムは、人権弾圧からしばしばベトナムを脱出、タイに難民として出てきているが、国連が彼らを難民として認定するのは困難で、10年、20年間をそのまま法的には不法滞在者のまま過ごしているのが実情だとチェリーダ氏は述べました。
※このクメール・クロムについても、その実情は下記サイトを紹介します。
http://www.hrw.org/ja/news/2009/01/21-0

 第三にラオスからのモン族難民。彼等はベトナム戦争の時にアメリカ側の支援を受けて戦った歴史があり、現在ラオス政府によってCIAのスパイという嫌疑がかけられ、戦争が終わってこれだけの年月が経つのに未だにそうきめつけられている、タイ国内には何千人というモン族が今も定住しており、彼らのリーダーは最近第3国に移住できたが、今現在も数百人のモン族が弾圧されることが分かっているのにラオスに強制送還されていると述べました。
※モン族についてはこちらを参照ください。
http://www.amnesty.or.jp/human-rights/topic/minority/world/minority_thailand_laos.html

 その上でチェリーダ氏は、本来東南アジアで主体的な役割をなすべきASEAN(東南アジア諸国連合)は、このような難民問題に対してほとんどちゃんとしてシステムを持ちえていないと指摘し、彼らの個々の人権は侵害され、滞在も不法状態のまま不安定であること、今の出た3つのケースだけでも難民問題は大変深刻で、一国単独で解決できる問題ではなく、ASEANの中で国家間の人権・難民問題を取り扱うセクションが必要だと述べました。しかし、現実のASEAN各国の姿勢からすぐにそのような国家間の連携は難しく、私たち個々人が、市民の立場からどのような連携と救援体制を作れるかを考えていく必要がある。一人一人の行動と意識が大切であり、各自がアイデアを出していかなければ、今各国の入国管理局の拘置所で、希望も自由もなく、人権も奪われている難民を助けることは出来ないと述べました。

 そして、ロヒンギャ族について一言。彼らはイスラム教徒であり、タイの拘置所内では、悪意はないのだけれど、食事に豚肉を入れてしまったりすることがあったり、彼らのイスラム教の礼拝の習慣を知らずにその信仰を傷つけたりすることがある。また、難民には子供たちも多く、子供の権利とは教育を受けることと、のびのび自由に遊び心を健康にすることなのに、それが奪われているのが現状だと述べました。

 続いて、ミャンマーで活動を続けている井本勝幸氏が登壇、まず自己紹介として、自分は現在、ミャンマーの少数民族の抵抗組織(武装勢力を含む)23組織をまとめたUNFC(統一民族連邦評議会)を2011年に立ち上げ、そこのコンサルタントをしていることを述べた上で、ミャンマーとの関わりは、2007年のサフラン革命、2008年に襲ったハリケーンの災害に対し、当時の軍政が外国からの支援を拒否し実情を調査もさせなかったときに、ミャンマーの僧侶に変装して現地入りし、逮捕されて強制送還されたころからはじまりますと述べました。その後も少数民族の支援を通じて彼らと深く関係する中で、彼らとの交渉を必要としている現政府のアウン・ミン大臣とも関係ができ、現在は政府と少数民族の対話や、農業支援などに携わっていると自らを紹介しました。

 その上でウイグルとの関わりについて、元々チベット支援の活動をしていて当協会のイリハム氏と知り合ったこと。そして決定的な出来事になったのは3年前、カンボジアに在住中、ウイグル難民22人がカンボジアに入国し、彼らは現地のUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)に駆け込んで保護を求め、UNHCRもそれを認めたのに、中国政府の圧力でカンボジア警察がUNHCR施設内に侵入、彼らを無理やり連れだして中国に強制送還したことを目の当たりに観たことだったと述べました。その時、警察は抵抗するウイグル人を、妊婦も子供もおかまいなしに殴りつけ、血を流しながら暴れる彼らを無理に飛行機に乗せていった。これは許しがたいことだと思ったと井本氏は怒りを込めて語り、おそらく彼らはもう生きてはいないだろうと付け加えました。
 そして、自分たちは二人だけは脱走させることに成功し、カンボジア国内の仏教徒の支援で寺に匿いながらタイに連れ出したと述べました(モスクは逆に警察の監視が強かったため寺院が使われたとのことです)。

 現在のミャンマー情勢は、民主化が順調に進んでいるように報じられることが多いが、現実はそうではなく、難民キャンプにいる少数民族は未だミャンマー政府を信用していない、実際に、先々月の8月には、アウンミン大臣が少数民族の連邦制、高度な自治を認める発言を行い、60年も続いた内戦がこれで終結するのではないかという期待を抱かせたのに、この9月ミャンマー国軍が少数民族との会議に参加すると、いきなりこれまでの話は白紙に戻す、連邦制は認めない、と言い出した。そしてミャンマー全土の停戦条約にも、最初は国軍も大統領もサインするその上で、反政府グループも少数民族組織も全員サインをすると決まっていたのに、何とサインは副大統領しかしない。アウンミン大臣すらサインは出来ないと宣告され、これでは話にならないと停戦合意は物別れに終わりつつあると、井本氏は厳しい現状を指摘しました。

 更に、国軍は今全面的に内戦に再び突入する構えを見せており、カレン民族同盟(KNU)との間に戦闘が始まっている、そして軍や政府との和解を模索するKNU内部の勢力を分裂させてこの組織を弱体化させようとしており、最悪の場合はKNUの分裂やUNFC(統一民族連邦評議会)からの脱退もありうる。このように、今のミャンマー政府は形式上は民主主義に向かっているように見えて現実には軍の支配下に未だあり、このままでは停戦はありえないと述べました。

 もう一つ、中国が関係している問題として、ウイグル、チベット、モンゴル難民は、東南アジアから先のカンボジアでの悲劇のように強制送還されることを怖れ、自らが中国から脱出してきたことも隠そうとせざるを得ない。それによって救援が遅れることも現実として起きていると指摘し、また中国政府の事実上の軍事援助を受けているワ州連合軍についても触れ、事実上ミャンマーのワ州は中国の実効支配が行われており、そこには現在北朝鮮難民が20数人捕らわれているが女性はまさに性奴隷、男性は強制労働をさせられていると述べました。

 最後に、自分がこのような活動をしてきたことで大変うれしかったのは、ミャンマーの少数民族が、日本人の協力へのお礼として、今でも内戦で誰も立ち入れない地帯に、大東亜戦争におけるインパール作戦の兵士たちの遺骨や、日本軍の車両などがそのまま残っている、その遺骨収集の手伝いをしたいと申し出てくれたことで、今年2年目になったが遺骨収集を行っていると述べました。来年は戦後70周年だが、白骨街道と言われたインパール作戦の戦場に、70年、置き去りにされたままの英霊たちもまた、ある意味日本の難民と言えるのではないだろうか、彼らを祖国日本にご帰国いただき、安らかな眠りについていただくことも、日本国の大切な仕事ではないか、と講演を結びました。(終)


【講演者プロフィール】

チェリーダ・タジェロエンスック 氏
(タイ出身・ピープルズエンパワーメント代表)
タイをはじめ東南アジア地域の人々の人権と生命尊重、平和、民主主義を推進するため、­市民社会ネットワークPeople’s Empowermentを組織して、各国の民主活動組織やASEANなどとの連携を模­索しつつ、様々な活動を続けている。

井本勝幸 氏
(UNFC ビルマ民族統一連邦評議会 コンサルタント)
1964年、福岡市生まれ。学生時代よりソマリア、タイ、カンボジア国境の難民支援に­関わる。28歳で出家。日蓮宗大本山・池上本門寺で随身修行。福岡県朝倉市「四恩山・­報恩寺」(単立)副住職として「四方僧伽」(Catuddisa Sangha)を組織しアジアの仏教徒20カ国を網羅する助け合いのネットワークを構­築。2011年1月より単独で反政府ビルマ少数民族地域へ。現在、UNFC(ビルマ民­族統一連邦評議会)コンサルタント。


【動画】

2014年10月20日 日本ウイグル協会講演会「東南アジアの難民と人権問題 現場からの報告を聴く」チェリーダ・タジェロエンスック氏、井本勝幸氏
http://www.youtube.com/watch?v=YQQvG6qpl5Q

2014年10月20日に東京四谷で行われた日本ウイグル協会講演会「東南アジアの難­民と人権問題 現場からの報告を聴く」の動画です。

※告知より
http://uyghur-j.org/japan/2014/09/20141020/
 私たち日本ウイグル協会は、今回来日した、タイ、ビルマなどで人権問題や地元の産業育­成に現場で尽力しておられるお二人を迎えて、東南アジアの人権問題、そして難民問題に­ついて学ぶ講演会を開催いたします。人権問題に関心の深い皆様方のご参加をなにとぞよ­ろしくお願いいたします。

・ラジオフリーウイグルジャパン Radio Free Uyghur Japan
http://rfuj.net


「東南アジアの難民と人権問題 現場からの報告を聴く」報告と動画 : 日本ウイグル協会
http://uyghur-j.org/japan/2014/10/20141020_report/

.