脱北者の経済的自立支援へ模索 ― イチゴ栽培に取り組むも、まだ効果は霧の中- : 北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会

北朝鮮難民救援基金ニュースに寄稿した山田代表の文章を、こちらにも掲載させていただきます。関西における脱北者定着支援の実例としてぜひお読みください。また、彼らの手になるイチゴジャムなどもどうか注文していただければ幸いです(三浦)

脱北者の経済的自立支援へ模索 ― イチゴ栽培に取り組むも、まだ効果は霧の中-
北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会 代表 山田文明

1、日本に入国した脱北者に自立の道を

脱北者の日本入国と定着の支援にかかわって、すでに15年になります。200人ほどの脱北者が日本で暮らしていると思います。
私たちNGOがかかわった脱北者が日本に到着すると、私たちが空港でその人の引き渡しを受けます。脱北者は日本に密入国しているわけではありません。北朝鮮脱出後、何らかのルートを経て、外務省の職員に引率されて日本に入国するのです。
しかし、空港で私たち、あるいは親族が脱北者の引き渡しを受けた後は、一般の外国人が日本に入国した場合と同じで、脱北者だからといって政府との何らかの関係が続いたり、特別な支援があったりするわけではありません。そこで、早く仕事を見つけ、経済的に自立してもらうよう努力することになります。

2、脱北者の職場づくりで農業に挑戦!

北朝鮮では多くの工場が原材料欠如とエネルギー不足で操業を停止して久しく、軍関係などの事業所や鉱山、貿易関係など一部の事業所が機能しているに過ぎません。そのため、一般の脱北者では、闇商売へのかかわりを除けば、事実上職業経験はないといえます。
各種の危険を伴う作業現場に動員されたりして、体に傷を受け、今も後遺症が残る人も少なくありません。また、公開処刑を見せられたり、生死にかかわる悲惨な経験をさせられたり、餓死者などの処理に携わらされたりしたことで、心に深い傷を受け、時にその記憶が蘇って鬱状態に落ち込む人もあります。そんな状態にある人に、すぐに仕事を見つけることは容易ではありません。仕事を見つける上で、大きな障害になるのは、日本語ができないことです。

脱北者が北朝鮮で教えられ、信じ込まされてきた意識から解放され、意識転換を行うためには新しい情報が必要ですが、日本にいる以上その情報は日本語で提供されます。したがって、日本語力を早く身に着けることが意識転換の前提条件となり、それがないと何時までたっても北朝鮮の意識で判断し、行動することになります。それでは新しい日本の環境に適応してその後の人生を考えることができないままになります。

こんなことから、脱北者が日本社会の一員として定着できる支援の仕組みが作れないかと模索し、日本入国直後から脱北者が日本人に交じって仕事に就き、自分の力で生活保護程度の収入を稼いで経済的に自立し、日本語も身に着ける機会を合わせて提供できないかと考えました。

職場としては何らかの物づくりを考えました。物づくりなら、自分が作った物の良し悪しが分かり、良い物を作り上げようと努力しやすく、良いものを作り上げた達成感も感じられます。人付き合いが下手な脱北者でも、物づくりならできるでしょう。
しかし、作った物が何の役にもたたなければ意味がありません。その点、農業なら、買い手が見つからなくても、自分たちで買って食べれば無駄にはならないと考えました。

3、2014年から準備、水耕栽培も学ぶ

農業に的を絞ってから、知り合いを頼って現場を見学して回りました。農業の中でも水耕栽培でイチゴを育てることに決めたのは、私が住む八尾市で古くから水耕栽培をしているMさんの勧めがあったからです。Mさんを何度も訪ねて水耕栽培の現場を見せてもらい、いろいろと助言をもらいました。
農業を始めるとなると、農地が必要です。耕作放棄地など、借りられそうな農地を探しましたが、適当な農地がなく、また私が農民ではないため、簡単に買うことも借りることもできません。そんな中、知人の紹介で、良い農地を見つけることができ、高齢になっている所有者の手伝いをする形で、そこで水耕栽培に取り組むことになりました。私はまだ勤務があるため、近所の人に協力をお願いし、Mさんのところなど2か所へ半年間ほど水耕栽培の研修に行ってもらいました。

4、今期収穫は少なくとも、味は好評!

水耕栽培に取り組むとしても、何を栽培するかが問題でしたが、栽培方法も確立していて市場性も高いイチゴ専用にして、イチゴ狩りを主にした経営を考えるのが良いだろうとの助言を得ました。この提案を受けて、施設の設置に着手したのが、2014年の初夏でした。施設の準備が少し遅れたため、イチゴの苗の発注が遅れ、施設の半分だけしかイチゴを植えることができませんでした。収穫したイチゴは農家の直売所で販売してもらったり、友人たちに買ってもらったり、ほんの少しでしたが、脱北者が営んでいるアパレル店や、理解者である韓国料理店でも販売してもらいました。

二期目である今期は、施設全体でイチゴを栽培しましたが、天候不順や栽培方法の未熟さで目標には遠い収穫実績で終わりました。今期は地元の農産物を販売するお店がイチゴハウスの近くにオープンしたので、そこへ出荷し、小さな直売所も2か所開いて販売しました。手塩にかけて育てたイチゴを摘み取って、すぐに店頭に置いて販売することで、新鮮なイチゴを供給することができました。購入者にはとても好評で、「新鮮で美味しい」「イチゴを買うならここで買う」と言っていただきました。
経営としてはまだ赤字ですが、来期は単年度黒字を実現しなければなりません。

5、脱北者の就労先としての課題

日本に入国した脱北者の就労先を作ることが第一の目的ですが、現在の就労者は、イチゴハウスと販売店の両方で、短時間の就労者も含めて、日本人6人、脱北者3人です。ボランティアで時々手伝ってもらっている脱北者が他に2人ほどいます。一時、仕事をしていたが、やめてしまった脱北者が3人います。
現状では、仕事の中心は日本人が担い、脱北者は補助的な仕事を担っています。補助的といっても、欠かすことのできない大切な役割を果たしています。
日本に入国して1年になる脱北者Fさんも仕事をしている一人ですが、右膝に事故の障害があり、イチゴハウスでの仕事に耐えられず、販売の仕事に移りました。5月には人工関節を取り付ける手術を受け、今は休職状態で、リハビリに専念しています。それまでは生活保護を受けずに努力してきましたが、手術後のリハビリ中は仕事に就くことは困難であるため、生活保護をお願いし、認めてもらったと連絡がありました。本人は安心したようで、とても喜んでいました。私としては、2・3か月で回復するはずであり、できるだけ早く生活保護から離脱してもらいたいと思っています。

6、厳しいがジャム、スコーン作りも挑戦

実は、他の2人の脱北者も、私のイチゴハウスで仕事をする前から生活保護を受給していました。一人は高齢で、一人は難病であるため、止むを得ないことと思います。イチゴハウスの仕事で得た給与は各自が市に申告し、その分、生活保護費は減額されています。ただ、この減額が大きく、収入の上では、ほとんど仕事をした意味がないようになるため、仕事への経済的なインセンティブは働かない状態です。もう少し就労意欲を刺激する制度であるべきではないかと思っています。
現在のところ、日本語の力を養成する仕組みを組み込むことができていません。Fさんには漢字ドリルを渡して取り組んでもらうようにしています。

今はイチゴの季節を終わっていますが、取れたイチゴで作った良質のジャム(イチゴとビート糖だけで作っています)、それにスコーン(良質の原材料で丁寧に焼いています。プレーン、クルミ入り、レーズン入りがあります)、そして大分から取り寄せた栄養豊富で知られる烏骨鶏の卵を販売しています。ジャムは1瓶(170g)500円、スコーンは1個100円、烏骨鶏卵は1個150円です。
ご注文は下記までご連絡ください。
bunmeiyamada@yahoo.co.jp

http://www.asahi-net.or.jp/~fe6h-ktu/news9506.pdf


脱北者の経済的自立支援へ模索 ― イチゴ栽培に取り組むも、まだ効果は霧の中- : 北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会
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