【報告と動画】第18回講演会「産経新聞連載小説『アキとカズ』出版を記念して」講師 喜多由浩氏

第18回講演会「産経新聞連載小説『アキとカズ』出版を記念して」講師 喜多由浩氏

 9月12日、東京の星陵会館にて、アジア自由民主連帯協議会主催の喜多由浩氏講演会が開催されました。参加者は約30名。

 喜多氏はこの8月、産経新聞の連載小説「アキとカズ」を集広舎から発刊したばかりで、本日の講演内容は、その小説のいくつかのテーマとなった歴史的事実を解説するものとなりました。

 まず、フィリピンにおけるモンテルパ刑務所についての話から講演は始まり、戦後、マニラにおける軍事法廷が米軍により始まったこと、そしてフィリピン攻防戦の最後の司令官だった山下奉文は昭和21年2月23日(当時の皇太子殿下の誕生日)に囚人服のまま絞首刑が執行され、また、マッカーサー将軍を敗走させたバターン戦の司令官本間雅晴は、昭和21年4月3日、まさに4年前に総攻撃を命じたのと同じ時刻の0時53分に銃殺されており、このような象徴的な処刑のやり方を見ても、復讐裁判としての意味合いが強かったことを指摘しました。

 喜多氏は、マッカーサー将軍が父の代からフィリピンに強い利権を持っていたことにも触れ、米軍内には、何もフィリピンを無理に攻撃しなくても硫黄島から直接沖縄など日本国に攻め込んでもいいのではないかという意見があったにもかかわらず、マッカーサーは断固フィリピンの再占領を主張してやまなかったことにも触れ、マッカーサーが戦争初期にフィリピンで敗走し同地を日本軍に占領されたことへの屈辱と、それへの復讐の意識が執念に近いものだったことを述べました。

 さらに、このマニラの軍事法廷では、昭和22年以後フィリピン政府に引き継がれましたが、24年まで続いたこの法廷で、起訴された151人中、死刑判決は半数を超える79人であり、他の国で行われた戦犯裁判はいずれも五分の一強であることに比べても際立って高いことを指摘しました。この理由としては、フィリピン政府の対日感情の悪さと、そしてフィリピン政府が巨額の戦時賠償金を日本から取ろうとしていたことの反映ではないかと喜多氏は述べました。

第18回講演会「産経新聞連載小説『アキとカズ』出版を記念して」講師 喜多由浩氏喜多由浩氏

 そして、マニラの南約30キロ、ヨーロッパ風の瀟洒な白亜の建物が、モンテルパ刑務所であり、ここには死刑、終身刑の判決を受けた人々が次々と送り込まれて来た。処刑は夜半に行われることが多く、夜、監房の前を日々看守が通り過ぎ、自分の部屋の前で止まった時がその知らせとなる、このような精神的な状態が何日も何カ月も、戦争が終わってからも4年近く続いていたこと、囚人たちはおそらく正常な精神ではいられなかっただろうと喜多氏は述べました。しかし、当時の日本では、この悲劇はほとんど知られることもなかったのでした。

 戦犯死刑囚の教誨師、加賀尾秀忍は、この悲劇を日本国民に伝えるために、ぜひこのことを歌にして伝えようと囚人たちに訴えました。これは、シベリア抑留者の悲劇が「異国の丘」という歌がNHKのど自慢大会で帰還者によって歌われたことから広まったことにヒントを得ていたと喜多氏は指摘しました。そして、作詞代田銀太郎、作曲伊藤正康(ともに死刑囚でしたが、この二人は帰国できました)により「ああ、モンテルパの世は更けて」が作られ、日本で渡辺はまこが歌って大ヒットになり、香川京子主演にて映画化もされ、このことは日本国民に知られるようになったと喜多氏は述べました。その映画の内容も、戦犯でいつ帰れるか分からぬ夫のことを待ち続ける妻の心情と、やはりほかの男性に魅かれていく切なさがテーマのもので、当時の時代背景や価値観を善く表した佳作だと喜多氏は指摘しました。この悲劇は、昭和28年、フィリピン大統領が特赦を決定するまで続いたのでした(日本に帰国したのは108人)。

第18回講演会「産経新聞連載小説『アキとカズ』出版を記念して」講師 喜多由浩氏 喜多氏はさらに、シベリア抑留の取材体験にも触れ、戦友の遺骨を何とか日本に持ち帰ろうと、彼の遺体を埋めた場所を覚え込んで日本に帰国した囚人がいたが、ソ連は遺骨収集などほとんど認めず、やっと認めた時期にはすでに現地は全く様相が様変わりしており、再開発までされていて、とても遺骨を収集できる状態ではなかった。しかし、その元囚人はあきらめず、戦友の娘に遺骨を届けようと何度も現地を訪れ、おそらくこのあたりだと思った場所に埋まっていた遺骨を掘り出し、それを日本でDNA鑑定したところ、確かに娘の父親のものだと分かった。娘はその遺骨を白木の箱に入れて、自分は父親に抱いてもらったこともなかったけれど、今こうして、父を抱きしめることができたと語っていたと喜多氏は語りました。

 続いて樺太におけるソ連軍の侵攻について、昭和20年8月9日、条約を破って満州に侵入したソ連軍は、樺太でも8月15日以後も激しい地上戦を行い、そればかりか、暴行、略奪、民間人の殺戮などの暴虐な行為を行い、民間人を含む5000名が死亡。映画「氷雪の門」などで有名な真岡郵便局の女性交換手たち、また炭鉱病院の看護婦の自決などの悲劇が生まれたと喜多氏は述べました。そして日本軍の防御は、樺太南部に2万人を配置するのみで、海軍は皆無、戦車、航空機、高射砲などもなく、戦力は比較にならなかったこと、それでも、樺太恵須取(エストル)市の闘いでは民間人の義勇戦闘隊が勇敢にたたかったことも述べ、これも「アキとカズ」の大きなテーマの一つだと述べました。この闘いでは、女性たちも義勇軍として参加、防空監視隊として戦ったことも述べました。

 スターリンは北海道の北部をソ連領として獲得することをトルーマン米大統領にも要求しており、それを拒否されたことによって、侵略に打って出たこと、そしてこの侵攻で樺太はパニック状態となり、逃げ惑う人々は、時には歩けなくなった老人を、また幼児を見捨てなければならなかったこともあり、中に半狂乱になって死を選んだ母親もいたことなどを述べました。そして、樺太に住んでいた日本人は約40万、そのうち11万人は避難できたものの、残り29万人は、労働力としてソ連軍に避難所から町に戻されることになり、彼らの日本帰国は更にのちのことになったと述べました。

 特に悲劇的な事件が起きたのは、8月20日、「小笠原丸」「第二新興丸」「泰東丸」の三隻の船が避難民を乗せて北海道稚内をめざし、稚内からさらに22日小樽に向けて航行中、謎の潜水艦に魚雷攻撃を受けて沈没、しかも、海上に浮かぶ人々に向けて艦砲射撃がくわえられ、1700人が犠牲になった事件を紹介しました。そして、この潜水艦がソ連のものであったことは後に被害者たちの追及など判明したのに、乗組員たちは、命令なので仕方がなかったとしか答えておらず、かつ、現在に至るまでソ連も、ロシアも公式には認めず、もちろん謝罪もしていないことを指摘し、地上戦が行われたのは沖縄だけではない、このような歴史を私達は忘れてはならないという思いを込めて、「アキとカズ」を書いたことを語り、講演を終えました。

 続いて質疑応答に移り、樺太の残留韓国人の問題と、彼らをある意味利用した「サハリン裁判」の偽善性、拉致問題に対して日本国民がもっと政府の無策について怒るべきではないか、また、この問題解決のためには何ができるかなどについて率直に喜多氏が語り、講演会は閉会しました。(三浦小太郎)

第18回講演会「産経新聞連載小説『アキとカズ』出版を記念して」講師 喜多由浩氏ペマ・ギャルポ会長

第18回講演会「産経新聞連載小説『アキとカズ』出版を記念して」講師 喜多由浩氏司会の古川郁絵


【動画】

第18回講演会「産経新聞連載小説『アキとカズ』出版を記念して」講師 喜多由浩氏
https://www.youtube.com/watch?v=3MdpjAsIAvA

2015年9月12日に行われたアジア自由民主連帯協議会第18回講演会「産経新聞連載小説『アキとカズ』出版を記念して」講師 喜多由浩氏の動画です。

※告知より
 昭和元(1926)年生まれの双子の姉妹を主人公にした産経新聞連載小説『アキとカズ 遥(はる)かなる祖国』が、このたび、集広舎から出版の運びとなりました。
 戦前の樺太から、北朝鮮帰国事業、そして拉致問題まで日本という祖国に見捨てられた同胞の悲劇と彼らを救出できない国家の問題点を真正面から描いた作品です。
 今回は著者の喜多由浩さまを講師にお招きし、本書の歴史的背景や日本が今なすべきことについてお話を伺いたいと思っています。是非、多くの皆様方のご参集をよろしくお願いします。

・講師
喜多由浩 氏(「アキとカズ」著者)

プロフィール 喜多由浩(キタ・ヨシヒロ)
1960年大阪府出身。立命館大学卒。産経新聞社入社。社会部デスク、月刊正論編集次長などを経て、現在、文化部編集委員。韓国延世大学に留学。関心分野は朝鮮半島問題、日本の満州経営など。主な著書に『北に消えた歌声 永田絃次郎の生涯』(新潮社)、『満州唱歌よ、もう一度』(扶桑社)、『旧制高校 真のエリートのつくり方』(産経新聞出版)などがある。

・登壇
ペマ・ギャルポ(アジア自由民主連帯協議会会長)

・司会
古川郁絵(アジア自由民主連帯協議会)

・講演中に紹介した映画と本
映画「モンテンルパの夜は更けて」監督 青柳信雄
映画「野のなななのか」監督 大林宣彦
映画「樺太1945年夏 氷雪の門」監督 村山三男
本「サハリンの韓国人はなぜ帰れなかったのか」著者 新井佐和子

●第5回アジアの民主化を促進する東京集会開催決定
日時 10月24日(土)午後1時開場 1時半開会
場所 拓殖大学C館101教室
http://www.asiandemocracy.jp/

制作・協力 ラジオフリーウイグルジャパン
http://rfuj.net

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