10月24日、拓殖大学C101号室にて、第5回アジアの民主化を促進する東京集会が開催されました。参加者は約90名。午後1時半、司会の佐波優子氏が開会を宣言し、まず、当会副会長のイリハム・マハムティが開会挨拶。この集会の意義ならびに、中国政府はこのようなアジアの民主化や民族自決を訴える運動に対しては、常に内部に工作を仕掛け、私達の分裂を狙う、私達はそれに絶対に影響されることなく、団結して相互の連携を強めていかなければならないと述べました。
続いて、第3回の集会までこの大会の実行委員長を務められた、外交評論家加瀬英明氏のメッセージが司会により代読されました。
加瀬氏メッセージ全文
幕末に多くの武士が、ヨーロッパ、アメリカに渡る途中で、同じ有色人種が白人によって牛馬のごとく酷使されているのを見て、憤りました。
日本は欧米列強によって強いられた、屈辱的な不平等条約のもとで苦しみ、人種平等の世界をつくることが、大きな国民的な願いとなりました。
多くの日本国民が、日清、日露戦争以来、アジアの虐げられた民を解放し、アジアを興すために、尊い生命(いのち)を捧げてきました。そして先の大戦を戦ったことによって、アジア・アフリカの民が解放され、日本の手によって人種平等という、人類史における最大の革命が、もたらされました。
しかし、中華人民共和国から、チベット、ウィグル、モンゴル民族が解放される日まで、日本の戦いは終わりません。
先人の偉業を受け継いで、アジアを解放し、アジアを興す戦いを、続けてゆきましよう!
続いて、衆議院議員柿沢未途氏が登壇し挨拶、日本の保守系の議員は、日本の国益については確かに力強く主張するが、このような民主化という普遍的な問題に対してやや訴えが弱いように感じるときもある、もっとこのアジアの民主化に自分も今後取り組んでいきたいと述べました。
続いて本日の基調報告が、ジャーナリストの相馬勝氏により行われました。以下、全文を掲載します。
基調報告 「中国の国内情勢と今後の展望 ―習近平は本当に権力を掌握しているのか?」
相馬勝 氏(ジャーナリスト)
みなさん、こんにちは。相馬勝です。今日はアジア自由民主連帯協議会の第5回総会、非常におめでとうございます。また、会長のペマ・ギャルポ先生とは30年来のお付き合いをさせていただいて、大変お世話になっています。日ごろから先生の旺盛な執筆活動や積極的な活動には感服いたしております。
今回はアジアの民主化を促進する東京集会ということで、私は基本的には中国が専門ですので、皆さんのほうが専門かもしれませんけれども、いろいろな先生から今回のテーマであるアジアの覇権を狙う中国ということで、特に習近平政権が発足した2012年以降、チベットや新疆ウイグル自治区でいわゆる少数民族への弾圧を強めていることがあります。
また、南シナ海の岩礁を埋め立てて海軍の基地を作ってみたり、空軍の戦闘機が発着できるような基地を作ってみたり、また尖閣諸島の周辺に艦艇を派遣したり、抗日戦争勝利70周年記念軍事パレードを開いて日本についても反日的な政策をとっているところです。
しかし、習近平政権はこのようなアジア覇権を狙う動きを活発化はしているのですが、国内情勢は安定しているのかと問題提起すると、本当に彼が権力を掌握しているかとなると、それはクエスチョンマークをつけざるを得ないと思うのです。
逆に国内の権力基盤が安定していないがゆえに対外的にアメリカや日本あるいは東南アジアの国々を挑発して、国内の基盤を固めるためにチベットやウイグルの衆を弾圧する。さらに国内の民主化運動指導者や人権活動家を逮捕したり、そういう形で国内の情勢を固めようとしているのではないかということができるわけです。
例えば9月3日に抗日戦争勝利70周年記念軍事パレードをやったわけですけれども、その中で1万2000人の軍部隊を動員して500種類以上の軍事兵器をお披露目して、そのうちの8割が初登場ということで、大々的に宣伝していました。私もこの前日に北京に入ったのですが、テレビや新聞などは軍事パレード一色で、それ以外のニュースはないぐらい24時間そればかりで、チャンネルを変えてみると時々、戦争の反日ドラマをやっている感じで完全に反日一色の報道ぶりでした。
ただ、これだけ習近平政権が自らの力を誇示するのであれば、軍事パレードなどもすべてオープンにして、道路や海上もすべて市民に開放する。そもそも軍事パレードとは自分の国がどういう兵器を持っているかを見せるわけですが、今回の場合は全く逆でした。
前日からレストランや商店、また日頃24時間営業のコンビニエンスストアまでもが政府の命令で全部営業停止状態です。空いている店がないので市民は食料を買うこともできない。赤ちゃんのミルクも買えない。病院も2日間閉鎖され、急病になっても病院にも行けないという、まるで北京がゴーストタウンになったような感じでした。
市民に聞いてみると、旧正月の状態とまったく同じで、みんな田舎に帰って北京の街ががらんとしている状態だといっていました。地下鉄やバス、電車もすべて止まっていまして、ゴーストタウンというよりも「戒厳令下の都市」と形容したほうがいいかもしれません。
私は1989年春の天安門事件の時の民主化運動、あの時6月4日の事件を挟んで3か月間北京で民主化運動を取材していました。当時の北京の戒厳令がどういうものかはよく知っているわけですけれども、その時でさえ、公共の交通機関が止まったり、全ての商店が閉鎖や休業したりということはありません。今回と違って結構自由に動けたのです。今回のほうが行動は全く制限されていたわけです。
これは中国の市民にとっても全く同じで軍事パレードで行われた長安街という片側5車線の大きな幹線道路の出入りが厳しく禁止されていまして、その幹線道路に沿って鉄の柵が張り巡らされて、その50メートル先から結局、そこの幹線道路に近づくことさえできない。軍事パレードを見るのも、こういう感じで全然見えないわけです。
その前にマシンガンなどで武装した武装警察が厳重に警備していまして、北京の一般市民も北京の街を自由に行動できないような状態でした。我々外国人も軍事パレードの際は前日の夕方から当日のパレードが終わってから2時間後ぐらいまで、大体丸一日間、ホテルから一歩も出られない状態でした。ホテルの出入り口には監視や武警など、いろいろな方がついて、いちいち監視しているわけですから出られないのです。
蟻も漏らさぬ厳重ぶりで、まるで、習近平はテロが起こるのを恐れているのではないかというほどの厳重警戒ぶりでした。報道によると習近平を狙った暗殺未遂事件が6回も起こっているということなので、実際に習近平は最近狙われやすい車での移動を控えるようになって、ヘリコプターで移動したり、あるいは北京の地下に縦横に走っている地下道から移動するような警戒をしているということです。
また、地方視察の際も民衆の間に警官や武警の秘密警察を紛れ込ませて、あるいはそういう不満を起こすような人間がいないか、厳重に警戒しているといいます。とはいえ厳重警戒した軍事パレードの長安街に陳情に来た農民が紛れ込んで逮捕されてしまったこともあったようです。それほど国内で民衆の不満が高まっている証拠だと思います。
私はこの軍事パレード翌日の9月4日に、8月に大爆発を起こし、173人が亡くなった天津の爆発現場に行きました。現場はぐしゃぐしゃに変形したコンテナがつぶれた紙風船のようにいくつも地面に積み重なって、吹き飛んで破裂して黒く焦げた樹木がそこらへんに落ちており、吹き飛んでいました。
コンクリート製の5階建てのビルが鉄筋だけを残して蜂の巣のように四方八方に穴が開いている、それががれきの山の中に埋もれている状況です。爆心地の入り口は武警などが厳重に守っているのですけれども、爆発現場を制御するために工事車両、重機やトラックがどんどん通っていて、たまたまそこに居合わせて、私も工事車両に間違われて中に入ることができたのです。
当時武警もそういう点ではぬかった感じもありますけれども。当時は雨が降っていて、現場はぬかるんでいて、雨に残留化学薬品が反応しているように視界が全体的に薄く白い煙に覆われているような感じに見えました。武装警察の方も全員が防毒マスクをしている。政府は、残留化学物質は全然ないと発表していましたけれども、現場はやはり怖いわけです。そういう点で武装警察も軍も警察もみんなマスクをしているわけです。
それでその自動車から降りて、ちょっと外に出ても強い異臭を感じたほどで、私も車内で慌ててPM2.5用のマスクをしました。工事車両は現場の出入り口付近で浄化剤入りの水を洗浄機で液体にかけるように、車体を消毒してから外に出るような状態でした。また、近くの川で報道でもありましたけれども、無数の魚の死体が浮かび上がったということで、かなりの化学薬品が残留しているのではないかという状況でした。
この模様を、少し宣伝になりますけれども今月号の月刊『SAPIO』に書いていますので是非読んでいただければ幸いです。
そこでたまたま爆破されたマンションの、そこは管理区域で普通は入れないのですけれども、たまたまそこで保険会社の説明会があって、そこが開放されていまして、入ることができたのですが、そこでマンションの住民の方のお話を伺ったところ「賠償交渉も進んでいなくて、もう政府は信用できない」と多くの住民が強い不満を漏らしているのです。
実際マンションは爆発の中心部から600メートルしか離れていませんでした。こんな近くの倉庫に、爆発したとき3000トンの危険な化学物質が貯蔵されて、そのうち水と酸と反応すると引火性の猛毒ガスを発生するシアン化ナトリウムという化学物質がそこに700トンもあったというのです。わずかマンションの600メートル近くにそんな危険なものがある。そこが消防隊の放水によって化学薬品と水が化学反応を起こして、第二次、第三次の大きな爆発が誘発されたのです。
このような大量の化学薬品が保管されていることはまさに住民軽視と言わざるを得ない。マンションの住民が怒りをあらわにするのは当たり前です。ところがこのような危険物は現場から10キロほど離れた倉庫に最近移されたと言われているのですが、最近も天津の同じ場所で爆発が起きたことが確認されているわけです。全く中国側の安全対策はどういうふうになっているのか、これは疑問を生じざるを得ない状況です。
また、環境汚染の問題ではかなり前から北京や上海などでPM2.5の環境汚染がかなり進んでいます。私も北京や上海に行くと、3日間ぐらいでのどが痛くなって、風邪と同じように鼻水が出て、日本に帰ってきてようやく治るという状態で、付近の住民たちも太陽の光が出ないので洗濯物が乾かないと、身近な生活の不満があって、異常なほど皆さん不満がたまっているようなのです。
日本の大手製紙会社がパルプ工場を上海の空港に作ろうとしたのですが、住民の反対運動が起きて、デモや集会で結局できなかったことがあります。これは日本製の公害を除去する機械をつけているにもかかわらず、住民はそういう形で敏感になっているわけです。
相馬勝氏
ある意味で、そういう危険物や汚染物を扱うような工場の建設には住民運動で反対され、武装警察との衝突が起きることも日常茶飯事化しているようです。こういう団体での暴力事件は年間20万件、一日に500件以上起きているという2011年の統計もあります。
なおかつ習近平政権はそういう住民の不満をわかっていますから、住民の不満を抑えようと2012年に政権が発足した当時から汚職に手を染めた腐敗幹部の取り締まりを強化している。党最高幹部の政治局常務委員を逮捕したり、軍の元最高幹部など、党、政府の高級幹部を逮捕しているので、タクシーの運転手や一般市民に聞くと習近平は「最高だ」「大したものだ」「なかなかよくやっている」というのですけれども、しかし多くの幹部を逮捕すればするほど、共産党の幹部の大多数が腐敗に手を染めていることがわかってくるわけです。逆に市民の中国共産党への不信感を高めていることになってしまう。すなわちマイナスの効果を生むことになるのです。
皮肉にも中国では「幹部=腐敗」という図式がもはや定着しているわけです。このため残った幹部は摘発を恐れて何もしなくなる、すなわち仕事をしなくなっているというのです。下手に新しいプロジェクトに手を出して精力的に働くと、あいつはまた業者と組んで汚職しているのではないかと疑われてしまうというのです。
ですから、いま中国の幹部は疑心暗鬼で、全く働かないで9時~5時で仕事を終えてまっすぐ家に帰っている状態で、これにより困っているのが習近平指導部です。汚職を摘発すると幹部は働かない、そうすると経済プロジェクトが動かない、経済が悪化するわけです。住民の不満が高まる。
そうすると市民の気を引くために幹部を逮捕すると、幹部が働かなくなって経済が悪くなって市民がまた不満を抱くという悪循環に陥っている。負のスパイラルです。かつてこのような社会不安や経済悪化によって崩壊した国がありました。それが1990年代のソ連でした。
旧ソ連ではゴルバチョフ大統領が改革であるペレストロイカ、あるいは政治の自由化、情報公開の促進、透明性、いわゆるグラスノスチという改革を実施しました。ところが経済が極度に悪化し、大変なインフレになってしまう。ソ連の通貨ルーブルの価値が暴落してし、住民は何万ルーブルもかかってチョコレート一つ、パンが一枚とか、その日の食糧さえ買うことができなくなってしまう。
ついに市民の不満が爆発してソ連共産党の一党独裁体制が崩壊してしまった。問題はそんなに単純ではないかもしれませんけれども、簡単にいえばそういう形です。
私は当時モスクワに取材で1か月ほどいましたけれども、その際、猛烈なインフレを経験しました。その一例ですがデパートでワイングラスやウイスキーを飲むロックグラス、水を飲むグラス。この20個入りのチェコグラスのセットが売られていたのですけれども、それが今ネットで値段をみますとロックグラス一個だけで日本円で3000円ぐらいです。それが20個ですから全部で6万円ぐらいでしょうか。それが当時はわずか1米ドルでした。
当時の円ドル相場は160円ぐらいでした。だから1ドルが何万ルーブルにもなったのです。当時それほどルーブルは安くなってしまっていた。超インフレでルーブルの価値が激減していたという経済状態でした。
先ほどの中国の天安門事件の話もしましたけれども、当時の中国経済の状態も大変悪化していましてインフレ率が二ケタになっていたり、庶民の大好きな豚肉が2倍にも3倍にもなっていて経済的に苦しく非常に悪化していた状態でした。
ただ、中国の場合は言論の自由や、政治的な改革はしていませんでしたので、市民や農民の広範な国民運動、政治運動に発展せず、最終的に指導部が軍を投入し、戦車で運動を踏みつぶした。
それから中国共産党政権は天安門事件やソ連崩壊を教訓にしてとにかく経済政策を優先する、インフレ率を高めないという政策を重点的にやってきました。その効果もあって天安門事件後10年以上も経済成長率が10%以上も成長しまして、経済状態が良くて住民の生活も向上してきました。これが今まで中国共産党の一党独裁体制が維持されてきた理由の一つだと思います。
ところがさきほども述べましたように、最近ではこのような環境保護を求める住民運動が頻発したり、マンション価格が暴落する、高い時に買った住民が保証を求めてデモや集会をしたり、社会不安的な状態が続いているわけです。
ここ数年の経済成長率は8%から7%と低下して今年7月~9月までの第3四半期の成長率は6.9%に落ち込みました。7%を切ったのは6年半ぶりなのです。中国経済の減速は明らかなのです。
今年の目標も7%に届くかどうかというところが疑問視されているわけですが、この一つの原因として挙げられるのは先ほど触れました天津の大爆発です。世界第4位の規模を誇る天津港の機能がマヒしてしまう。この影響で8月の中国の輸出額が前年同月比5.5%減。特に天津港を主要な貿易拠点としている北京の輸出は今年7月~8月までの総計で17.3%も減少したといいます。
周辺の工場も操業を停止したり、被害額が730億元、約1兆4600億円にも達するとみられています。北京の第3四半期の経済成長率は6.7%で、平均の6.9%に届きませんでした。全体的な経済成長の足を引っ張っている。これは極めて珍しい現象です。それほど天津の爆発の影響が大きかったわけです。
これまでの経済成長率、中国の経済を引っ張ってきた原動力であった不動産、製鉄、鉄鋼、製造業、あるいは株価も低迷しています。中国の経済の低迷は明らかです。その6.9%という数字そのものさえ、疑っている専門家もいるわけです。
こういう形の経済が悪い上に習近平政権が発足してからは、さきほども申しましたけれども政治的な弾圧を強めているわけです。共産党一党独裁体制下で国民を守ろうとしている人権派弁護士が100人以上逮捕されている。中国で唯一のノーベル平和賞受賞者の劉暁波さんもずっと監獄の中のままです。
さらに民衆の不満が高まる中で習近平政権はかつての天安門事件のような大きな民主化運動が再発するのを恐れているわけです。民主化運動の主体はどこの国でも学生あるいは若者です。中国政府は失業率を3から4%としているのですが、毎年、大学卒業生が750万ほどいるのですがそのうち200万人は就職ができない、かなり就職が厳しい状況です。ですから、学生さんたちもアルバイトをしたりという形で、正社員になれない、就職ができない。そういう状態の中で根強い不満を抱いています。
そういう地位もなければ財産もない彼らが、守るものもないのでかつての天安門事件のような運動が起こった際に、自分の命を懸けてでも運動に情熱を燃やします。それが一般市民の共感を呼んで運動が拡大し、最終的に政権が倒れる状況も考えられるわけです。
今年のノーベル平和賞は中東の民主化のアラブの春の先駆けとなった2011年のジャスミン革命の原動力となったチュニジアの国民対話カルテットが受賞しました。また、エジプトの民主化運動であるアラブの春もまず学生さんたちが動いて、それに共感した既存の団体、労働組合や政治家あるいは軍がこの運動の輪の中に入ってくる。やはりこの若者の力がなければ成功しなかったと思います。
また、これらの民主派勢力がアメリカの政府系の組織の支援を得て民主化運動を成功させたという情報もあります。習近平政権は中東や北アフリカの民主化運動が中国に波及しないように警戒を強めているわけです。この過程で習近平が警戒しているのが中国の民主化運動、民主化勢力と国外の勢力が結び付くことなのです。
習近平政権は昨年11月に反スパイ法を制定して施行しました。このため今年5月~6月にかけて日本人が4人も逮捕されています。また、アメリカ人が1人、カナダ人夫妻が2人、計7人です。これはわかっているだけの数字なのでもっと多いかもしれません。この容疑のほとんどが国家機密を盗んだという容疑なのです。また、中国の民主派勢力などの特定のグループと接触したということも取り沙汰されています。
習近平政権がこのように対外勢力と国内の民主化勢力が結び付くことによって国内が不安定になることを極めて警戒している証拠です。こう考えると習近平政権の政治的な基盤が安定しているとはとても言えないわけです。
さらにその不安定な状況、政策運営に拍車をかけているのが、江沢民元主席ら長老指導者の存在です。習近平は3年前に最高指導者の座についてから幹部の汚職撲滅を掲げて反腐敗運動を発動したのですが、ところが、逮捕されるのは江沢民ら上海幇。江沢民の部下だった幹部が多いわけです。また、習近平と敵対しているといわれる共産主義青年団、胡錦濤主席のグループにあたる共青団の幹部も多いわけです。
これとは逆に習近平のグループである幹部高官の子弟、習近平も習仲勲という元副首相の息子ですから、そういう幹部子弟グループ、太子党グループというのですが、太子党グループが逮捕されるというのは極めて少ないわけです。ですから、習近平は反腐敗運動を権力闘争に利用して目の上のたんこぶである江沢民らの部下、あるいは胡錦濤のグループに属する幹部を根こそぎ逮捕して、その代わりに習近平の側近を幹部に登用して権力基盤を固めようとしている情報もあります。これはあながち外れてはいないと私は思います。
中国の場合、皆さんもご存知の通り指導者を選ぶのに民主的な選挙で選ぶわけではありません。党内のごく少数のエリートと、チャイナ7やチャイナ9などと言われている党政治局常務委員。これに江沢民らの党総書記を経験者、あるいは常務委員経験者が加わって10人から20人前後のグループで誰がいいかを選出する。最終的に党中央員会という形で400人とか500人の党中央委員会で選出することになっていますけれども、これはあくまでも一つの形式であって基本的には10人から20人のグループで決めてしまう。
そういう点で、江沢民らの場合、党の長老指導者としていまだに発言力を持っている、その影響力は侮れないわけです。特に江沢民の場合はいわゆる現在の常務委員、チャイナ7のうちの4人が江沢民の部下だった幹部で占められています。
習近平自体も最高指導者に選ばれる際、江沢民のお墨付きをもらって最高指導者に就任したわけで、もし3年前に江沢民が「No」といっていたら今の習近平はないと思います。ありません。
ところが習近平が最高指導者に就いてから、いろいろと政治に介入してくる江沢民がうるさくてたまらないわけです。そこで江沢民の息のかかった幹部を次々に摘発する、政治生命を奪ってしまう。それによってほかの幹部に「俺に従わないとこのように失脚するぞ」という脅しにも使えるわけです。
習近平は反腐敗闘争を使って、江沢民の部下だった周永康という元政治局常務委員や、軍の最高幹部だった徐才厚や郭伯雄という元中央軍事委員会の副主席を逮捕してしまうわけです。徐才厚はがんで刑が決まる前に亡くなるという非業の最期を遂げているわけですが、また、江沢民の部下の20年来仕えてきた大幹部だった令計劃という官房長官的な存在の幹部も逮捕してしまうわけです。
こうして胡錦濤グループに打撃を与える。とはいえ、胡錦濤や江沢民といっても最高指導者を務めた人物ですから逆襲してくるわけです。軍事パレードの当日、天安門籠城、天安門の前に胡錦濤や江沢民と政治局常務委員経験者が一斉にそろって登場し、そこで自分たちの権力を誇示するわけです。
習近平としてはこの軍事パレードは晴れの舞台だけに自身の権力を誇示したいところで、本音では江沢民などを登場させたくない。横に並ばせたくなかったのですけれども、それを拒否するだけの力がなかった。逆にいうと長老指導者にはまだ政治的な影響力が残っているという見方もできるわけです。
特に習近平はこの軍事パレードの30万人の軍縮を発表しました。これが突然の発表だったわけです。軍内では非常に評判が悪いわけです。とりわけ軍の削減でリストラされる陸軍の将校クラス中心に悪評芬々だという内部情報が伝わっています。クーデターも起きかねないのではないかという情報も流れているわけです。
このため軍事パレードでああいう形の厳しい厳重警戒態勢を敷いたのは、軍による暗殺事件、暗殺計画を恐れたためだとの情報もあるわけです。
さらに結果的に見ると今の中国は経済情勢が悪化している、環境汚染も加わっている。社会の不安定化も進んでいます。政治的に江沢民ら長老指導者の指導力も侮れない政治的に不安定化、軍内にも不穏な空気が流れている。とても習近平の政治基盤が安定しているとは言い難いわけです。
ですから逆に対外的に虚勢を張って強く見せようとしているといえます。また経済が悪いとはいってもまだ7%足らずですので、世界的に見ればまだ高いほうです。これがここ数年でインフレ率が高くなって旧ソ連のように国民が食料を買えなくなるとか、農民が騒ぎ出すとか、そういう状況は今の段階では想像しにくく、このため、来年や再来年に、習近平政権が崩壊するかというと、そういう状況は短絡的には言えないわけです。ただ、一党独裁体制は今の国際的な民主化の潮流の中では逆行しているわけです。いずれこの国際的な大きな流れの中に飲み込まれて一党独裁体制は崩壊していくことは間違いないと思います。
これは希望的な観測ではなく、やはり人間はそういう形の抑圧された空気の中にいるとその中から出たい、要するにソ連共産党の一党独裁体制が崩壊したことが一つの証明だと思います。ただ、中国の場合それが10年後か20年後か、あるいは1年後か2年後か、それは予想ができないわけですが、かつて清王朝が滅んだ時のように群雄割拠状態になって、内乱、内戦状態になるとこれは世界情勢に大きな影響を及ぼします。それが今のシリア情勢でありアフガニスタン情勢。同じテロが頻発する状況になるわけです。こうなりますと日本やアジアの国々に大きな影響を及ぼす。
一番いいのは、一党独裁体制崩壊といっても共産党政権自体が自発的に野に下る。内乱状態にならない。つまりハードランディングではなくてソフトランディングに持っていくということです。
アメリカの政権は中国との関係についてはエンゲージメントあるいはコミットメントという言葉を使うのです。関与や取り込むという意味で、常に密接に中国指導部と話し合いの場を持っていく、中国共産党自体が野に下る際も国際社会が一致団結して中国大陸の混乱を回避する形でコミットメントしていけば、そういう国際体制を創りあげていくことが重要ではないか。皆様がそのような中核となることを希望して私の話を終えたいと思います。ご静聴、ありがとうございました。(終)
そして第二部に移る前に、来賓として、ジャーナリストで中国専門家の宮崎正弘氏、特定失踪者問題調査会の荒木和博氏、元ネパール大使の水野達夫氏らが紹介されました。その後、国際政治学者の藤井厳喜氏、ウイグルのグリスタン氏、チベットのチュイ・デンブン博士、ベトナム革新党のアウン・ミン・ユン氏、南モンゴル自由民主運動基金のオルホノド・ダイチン氏、中国民主化運動の王戴、南京男両氏、バングラデシュのプロビール・ビカシュ・シャーカー氏、ミャンマーのチョーウィン氏らが登壇しました。その発言内容は、宮崎正弘氏のニュースレターにて的確に紹介されており、私が付け加えることは何もございませんので、ぜひご一読ください。
http://www.asiandemocracy.jp/2015/10/28/205
ペマ・ギャルポ会長
そしてペマ・ギャルポ協議会会長が登壇し、本日のアジア諸国からの訴えの中に、日本と共に戦ったという言葉がいくつもあったこと、そしてこの運動がまだまだ小さいものではあるけれども、着実に積み重ねていかなければならず、今回は拓殖大学という大変ふさわしく、又使いやすい場所で開催できたことを喜んでいることが述べられました。さらに、本日は多くの協力者、そして参加者の方々によって大会が成功できたこと、同時に、有識者である宮崎先生、荒木先生、元ネパール大使の方、国会議員の方々のご参加によってこの会が価値あるものとなったことへの御礼と共に、匿名で多額の寄付をしてくださったり、また、寄付をいただいてもこのような場でお名前を出すことは喜ばれない謙虚で温かい人々の力によって集会ができていることへの感謝の念が表されました。
最後に、協議会の古川郁絵により決議文が朗読され、会場の拍手によって採択され、第5回アジアの民主化を促進する東京集会は無事閉会いたしました。(文責 三浦小太郎)
※第五回 アジアの民主化を促進する東京集会 決議文
https://freeasia2011.org/japan/archives/4267
イリハム・マハムティ 氏(アジア自由民主連帯協議会)、衆議院議員 維新の党 柿沢未途 氏
国際政治学者 藤井厳喜 氏、グリスタン 氏(日本ウイグル協会)
チュイ・デンブン 博士、アウン・ミン・ユン 氏(ベトナム革新党)
オルホノド・ダイチン 氏(南モンゴル自由民主運動基金)、王戴 氏(日本民運団体協調会)
南京男 氏(日本民運団体協調会)、プロビール・ビカシュ・シャーカー 氏(アジア自由民主連帯協議会 理事)
古川郁絵(アジア自由民主連帯協議会)、司会 佐波優子 氏
【動画】
2015年10月24日 第五回 アジアの民主化を促進する東京集会 : アジア自由民主連帯協議会
https://www.youtube.com/watch?v=UfMHWW0Z0S0
登壇者
開会挨拶 イリハム・マハムティ 氏(アジア自由民主連帯協議会)
メッセージ 外交評論家 加瀬英明 名誉代表
衆議院議員 維新の党 柿沢未途 氏
第一部 基調報告「中国の国内情勢と今後の展望」 ジャーナリスト 相馬勝 氏
第二部 アジア諸民族からの報告と民主化の展望「東京裁判を覆すインドネシアのステイルマン将軍像」国際政治学者 藤井厳喜 氏
ウイグル グリスタン 氏(日本ウイグル協会)
チベット チュイ・デンブン 博士
ベトナム アウン・ミン・ユン 氏(ベトナム革新党)
南モンゴル 南モンゴル自由民主運動基金 オルホノド・ダイチン 氏
中国民主化運動 王戴 氏 南京男 氏(日本民運団体協調会)
バングラデシュ プロビール・ビカシュ・シャーカー 氏(アジア自由民主連帯協議会 理事)
総括と展望 ペマ・ギャルポ(アジア自由民主連帯協議会 会長)
決議文 古川郁絵(アジア自由民主連帯協議会)
司会 佐波優子 氏
※「アジアの民主化を促進する東京集会」の情報は下記ホームページにまとめています。過去の集会の情報などご覧いただけます。
アジアの民主化を促進する東京集会ホームページ
http://www.asiandemocracy.jp/