【ヤンゴン=吉村英輝】総選挙後のミャンマーは、外交面でも注目を集めている。旧軍政の流れをくみ中国と関係が深かったが、アウン・サン・スー・チー氏率いる国民民主連盟(NLD)が政権を握れば、民主化を支援する米欧の関与が強まる見通しだ。ただ、中国もスー・チー氏に接近するなど危機感を強めている。地政学的要衝であるミャンマーは、経済開発でも「アジア最後のフロンティア」とされ、関係の深い日本にも影響が出そうだ。
「世界の友人からの理解と協力が必要だ」
歴史的な総選挙から約1年前の昨年11月14日。ミャンマーを訪問したオバマ米大統領との会談に臨んだスー・チー氏は共同記者会見で、そう強調した。
スー・チー氏が新政権を担った場合、最も支援を期待するのが米国だ。悲劇のノーベル平和賞受賞者の知名度は米国内で高く、ミャンマー民主化はオバマ政権の「実績」の一つだ。
米国は、1990年代から続ける経済制裁解除の条件のひとつに選挙の成功を挙げてきた。解除されれば、米企業の進出のみならず、米国内での活動への悪影響を恐れ及び腰だった日本などの投資も本格化し、経済成長を加速できる。
ただ、ケリー米国務長官は、民政移管後初の選挙の実現を「重要な前進」と歓迎する一方、イスラム教徒少数民族ロヒンギャの権利向上なども求めた。スー・チー氏が国内世論に配慮し、同問題と距離を置き続けることは難しくなる。
他方、中国は、ミャンマーをインド洋に抜ける地政学的に重要な隣国とし、旧軍政を支え続けた。政権交代を視野に今年、スー・チー氏を中国に初めて公式訪問させるなど接近。凍結中の中国による北部ダム開発の再開などにも理解を求めているが、親米のNLDとの関係構築は難しい。
現政権は10月15日、少数武装勢力8組織と停戦協定を結んだが、署名に応じたのは和平交渉を進めた15組織の半分にとどまった。中国は、中国国境周辺の勢力に署名しないよう圧力をかけ影響力温存も図ったとされる。スー・チー氏と国軍との距離に付け入り、暗に内戦をあおって揺さぶりをかける可能性もある。
署名式には、国境を接する大国の中国、インド、タイと並び、日本の代表も招かれた。軍政時代から中立的な立場で少数民族地域への支援を続けてきた日本財団など、民間の「草の根活動」が評価されたためだ。
日本製品の需要も高く、最大都市ヤンゴンの南東約20キロで今年9月に開業した「ティラワ経済特区」は、中国や韓国との共同開発計画が覆され日本連合の一括受注となるなど、「日本の独壇場で他国のねたみはすごい」(日系企業関係者)と指摘される。ミャンマーの安定と成長は、経済力と軍事力に物を言わせ東南アジアへの進出を強める中国への抑止力にもなる。
各国の思惑が絡み合うなか、最大の実力者となりそうなスー・チー氏はどんな外交をみせるのか。その判断は世界も揺さぶる。
ミャンマーは「アジア最後のフロンティア」、米中、日本の思惑絡み合う : 産経ニュース
http://www.sankei.com/world/news/151110/wor1511100034-n1.html