オバマ大統領訪問後のベトナム : ベトタン ベトナム革新党

オバマ大統領訪問後のベトナム
文責:デュイ・ホアン
2016年5月30日

オバマ大統領の訪問でベトナム国内の風潮に変化が生じ、同国政府と中国政府との距離が開いた可能性がある。

昨年11月にベトナムを公式訪問した際、中国の習近平国家主席はベトナム政府から21発の礼砲をもって迎えられたが、同時に活動家たちの反対運動も巻き起こった。中国の指導者をひと目見ようと国民が車列の通るルート沿いにつめかけることも、若者たちが習国家主席と並んでセルフィーにおさまろうと騒いだとの報道もなかった。

今月訪問したバラク・オバマ大統領に対してその時のような派手な式典は行われなかったが、大統領は行く先々で大勢のベトナム国民の熱狂的な歓迎を受けた。ベトナムのメディアには一般国民と触れ合うオバマ大統領の写真が躍り、大統領の演説やコメントの動画は3500万人いるとされるベトナムのフェイスブックユーザーだけでなくフェイスブックコミュニティ全体にもシェアされた。

これの意味するところは何なのか?アナリストは大統領が武器の禁輸を解除したことと、その結果今後のアメリカ=ベトナム関係がどうなるかのみに注目してきた。しかし、両国の関係にはベトナムの外交および内政方針を左右する、もっと根本的な何かがあるはずである。

ソフト・パワーの勝利

アメリカのソフト・パワーは、他の国以上にベトナムで成功をおさめてきた。世論調査はベトナムの『街の声』がアメリカに好意的であることを常に示してきた。ベトナムのフェイスブックユーザーに対するオンライン調査では、回答者の92%がアメリカとの同盟を望み、中国との同盟を望んだ者は1%に過ぎなかった。

20,000人近くのベトナム人がアメリカに留学しており、また希望する者はそれ以上である現実を踏まえると、ベトナムがアメリカ指向になるのも無理はない。アメリカは成功の機会と自由の象徴であるのみならず、ベトナムの海の領有権を侵害する意図もない。また、カリフォルニアに親戚が住んでいるベトナム人は実に多いとされている。

最近までベトナム政府はアメリカとの融和に対して消極的であり、また過去の人権政策に批判を受けていたこともあって、関係改善は難しい状況にあった。ここ数年においても、国営メディアや共産党幹部は昔のような表現でアメリカの『帝国主義』を非難することがあった。しかし、オバマ旋風が吹き荒れた後――政府高官との会談を含めて――は、共産党が反米姿勢を固持するのは極めて困難である。

選挙によって選任されてこそいないが、ベトナム共産党幹部は国民からの圧力や支持母体の意見を無視できるわけではない。主要な問題においてアメリカとベトナムに利害の一致が見られ、親米感情の高まりと共に以前は反米の立場をとっていた政権も態度を軟化させる中、ベトナムがアメリカに歩み寄っていくことが予想される。必ずしも平たんな道のりではないかもしれないが、ベトナム共産党が中国寄りの姿勢を改めなければならない状況にきていることは明らかである。

ベトナム政府の要求により、アメリカとベトナムの共同宣言は両国が『それぞれの政治体制、独立性、自治、領土の保全』を尊重することを誓約した。政治体制についての言及は、ベトナム政府がアメリカの目論見に対して抱いている警戒感をやわらげるためと考えられている。

慎重なる批判

またオバマ政権もベトナム政府を刺激しないよう、訪問に際して細心の注意を払った。訪問に先駆けてアメリカ政府筋は数ヶ月にわたり人権問題の具体的な改善策を要求してきたが、カトリック教会のグエン・ヴァン・リー神父を8年の刑期満了まで3ヶ月を残して釈放した以外にめぼしい成果はなく、オバマ大統領が『若干の』改善と評したものはベトナム政府が誓約通りに法改革を実施する意向を示したことだった。

先日オバマ大統領がキューバを訪問した際に反体制派との会談を果たしたのとは異なり、在ハノイのアメリカ大使館はオバマ大統領との対話に招待された人権運動家が確実に来場できるよう配慮することはなかった。5月24日に市民活動家らと会った後、オバマ大統領は数人の活動家が『諸事情により欠席を余儀なくされた』としたが、政府の関与について公に言及することはなかった。人権問題に関して公然と圧力をかけなかったことについて、多くのコメンテーターや人権団体が大統領を批判した。

しかし、アメリカが政治的な開放と自由に対して真摯に取組んでいることに疑う余地はない。主要な活動家の参加は叶わなかったものの、市民活動団体との会談に招待されたのは、政府主導のNGO代表らではなく、実際の活動家たちであった。しかも、出席した6名の活動家は錚々たるメンバーとの面会を果たした。オバマ大統領の他にも、アメリカ国務長官、国家安全保障担当補佐官および副補佐官、そして駐ベトナムアメリカ大使が会談に同席していたのである。

演説の中で、オバマ大統領は人権と開かれた社会に関する説得力のある議論を展開した。生中継されたベトナム国民向けの演説や翌日に行われた若手リーダーとのタウンホールミーティングで、オバマ大統領はベトナムの社会体系を決めるのはベトナム国民であるべきだとの認識を再度示した。共産党政権を刺激する恐れのある『カラー革命』につながる表現は避けたが、ベトナムの未来は国民のものであるとの見解を明らかにした。

オバマ大統領のベトナム訪問は、同時に民主主義的に選出された指導者とそうでない指導者の差を白日の下にさらした。チャン・ダイ・クアン国家主席があらかじめ決められた質問に対して紙に書かれた答弁を無表情で読み上げたのに対し、オバマ大統領が気軽に記者と言葉を交わすのを目の当たりにした多くのベトナム人は驚きを隠せなかった。オバマ大統領はハノイの旧市街地で夕食をとったり、雨の中車列から出て露店に立ち寄ったりして、庶民派をアピールした。ベトナムの国営メディアはこれを賞賛し、現在の自国の指導者たちがこのような形で一般市民と触れ合うことはないことを示唆した。

中国政府の反応

中国の反応からは、中国政府もまたパラダイムが変わっているのを感じていることがわかる。今のところ中国政府は公式発表の中ではベトナム政府のスタンスとの乖離はないとしている。中国外務省は「中国とベトナムは山や河で結ばれている隣国として友好関係にある」とする。

そうは言うものの、アメリカの武器禁輸が解除されたことでベトナムがアメリカから最新のレーダー他の軍事設備を購入するようになった際の動向は注視に値する。また、ベトナム外交の再構築を支持する動きが国内で深く広く起こっていることは、さらに注目されるべきだろう。

これにより同国に政治改革が起こる可能性もある。オバマ大統領がタウンホールミーティングにおいて、ベトナムのミレニアル世代からその場で質問を受けつける姿を生中継で目にしたベトナム国民は、驚きを禁じ得なかった。このミーティングの後、ひとりの若者はこう述べた。「オバマ大統領にベトナムの問題を解決してもらおうとは考えていません。しかし、なぜこの国から彼のような人物が出ないのかが知りたいと思います。」

(デュイ・ホアンはアメリカ在住のベトタン幹部)


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