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https://freeasia2011.org/japan/archives/5618
6月30日、東京市ヶ谷の会議室にて、アジア自由民主連帯協議会主催による、グエン・ハー・キエン・グオック氏「ベトナムの現状と今後の民主化運動」講演会が開催されました。グエン氏は、難民二世として現在日本で通訳などの仕事をしています。
グエン氏はまず、亡くなった前ベトナム革新党の日本におけるリーダー、アウン・ミン・ユンさんのことから話しをはじめました。ユン氏は、このような運動には、自分の意志で入らない限り、いつか後悔することになると、自分からは人を誘うということはほとんどなかった。しかし、子供のころから、ベトナム難民である両親の運動などについていったりしており、ユン氏が亡くなった時、一つの決断として、ベトナム革新党に参加したと語りました。
グエン氏はまず香港における民主化運動に触れ、これはベトナムにも大きな影響を与えていること、しかし、ベトナムは未だに共産主義の独裁体制で、ベトナムも大きなデモなどにはなかなか踏み切れないと述べました。
そして、ベトナムに3か所、中国の経済特区を設けようという計画が起き、しかもそこは99年、無償で付与する、という法案が国会で通りそうになり、これはベトナムの領土を事実上中国に売り渡すことに他ならないとして、これに対してはベトナム人が大きな抗議行動を起こしたと述べました。そして、ベトナム人は国民感情として、中国とは関係を持ちたくない、中国とは距離を取りたいというものが広範にあり、それはベトナムの現在の共産主義政権の一部の幹部以外には共通のものだと指摘しました。この時のデモは、国全体で、10数万人のデモが起き、インターネットでも広まったとグエン氏は述べました。
この特区法案の時には、同時に、サイバー治安法という法案が同時に出されており、それに対しては、ベトナム国内でも、外国のベトナム人も抗議行動を起こし、一度はベトナム政府も引っ込めたのだけれど、その後いつの間にかこの法案が成立しており、それ以後、ネット上でも、ベトナム政府に都合の悪い言論は弾圧されるという状態が進んでいるとグエン氏は述べ、ベトナムにおける言論弾圧の深刻さを語りました。
もう一つベトナムで起きた深刻な事態は、フォルモサという台湾の、しかも中国人系の企業による海洋汚染で、その企業の進出するベトナム中部の魚が取れなくなり、それに対しても大きな抗議行動が起きたことをグエン氏は紹介しました。しかし、近年ではこの二回くらいが目立った抗議行動で、ベトナムの共産主義政権下では、抗議した人々に対し、公安当局による酷い報復が行われることもあって、中々民衆も立ちあがるのが難しいとグエン氏は述べました。
しかし、国民のすべてが沈黙しているわけではなく、訴えるのをやめない人もいる、しかし、そのような人たちは今次々と逮捕されており、私たちはその人たちを「良心の囚人」と呼んでいるとグエン氏は語り、既に160名以上が、いい加減な裁判と判決を受けて投獄生活を強いられていると述べました。
そしてグエン氏は、実際に逮捕された人々、また彼らの救援を訴えている人々の写真を紹介し、実際に彼らが裁かれている「法廷」では、彼等には弁明の機会も、何の罪で捕まっているのかの説明もなく、獄中に送られていく、このような弾圧のさまを見せることで、共産主義政権は民衆を恐怖で支配していると批判しました。
さらに、20代前半で、ごく最近逮捕された若者の写真を紹介し、「誰もが恐れていたら、いつ、自由になれるのか」「私の行為や言論が、現行のベトナムの法律に触れるものかもしれないけれど、自分は信念に従って間違ったことはしていない、それがベトナムの現在の法律に違反するのなら、処罰は堂々と受ける」と語っていることを紹介し、グエン氏は、20代の若者がこのように訴えている、逮捕を恐れずに戦っている姿には、感動するしかない、と語りました。
また、あるベトナム人は、将来、自分の子供たちに、お父さんは、祖国ベトナムの地が、中国に売り渡されそうになった時に何をしていたの、と聞かれた時、きちんと自分は抵抗したと語りたい、だからこそ今99年特区に反対するのだと呼びかけていること、また、さらに若いベトナムの女性が、今ベトナムで最も罪とされているのは、国を愛すること、祖国を愛することが罪にされているのだと訴えていることを紹介しました。
そして、去年から今年にかけ、サイゴンの近くにある小さな菜園があり、そこには150人ほどの人が住んでいるのだけれど、ある日ベトナム政府が来て、この家を全部なぎ倒して、この土地は国有のものだ、と言って取り上げてしまい、住民は追い出され、彼らはカトリックの熱心な信者だったけれど、教会の壁が一部残るばかりで、子供も含め人々が路頭に迷っている例をグエン氏は紹介しました。他にも、突然料理店が壊されてしまうなどの弾圧がいくらでも起きているとのことです。
そして、公安の男性と結婚したある女性の写真を紹介し、結婚後、夫の公安がたまたま気分が悪かったのか、写真で見るとあまりにもひどい、一生消えないような暴力を全身に振るわれたのに、公安ということで罪にも問われていないという現状をグエン氏は報告しました。また、抗議活動に対し、国外から参加したベトナム人が袋叩きにされたこと、しかも、その暴力をふるったのは私服の公安で、彼らは全部中国人だったともいわれている、中国人があちこちの公安に参加していると指摘しました。
グエン氏は、現在のベトナム政府は完全に中国べったりであり、中国軍の魚雷の不発弾が、ベトナムの海岸に打ち上げられても、それに対して抗議などしようともしない、また、ベトナム中部のリゾート地には「この地域は、中国人観光客だけのもので、他の人間は立ち入り禁止」などという看板までたっている、ベトナム人が入れない土地がベトナムにあるというのはどういうことかとグエン氏は指摘しました。
そして、ネット上でも、サイバー治安法により、中国に都合の悪い情報は読めなくされており、すでにベトナムは中国の属国であるとグエン氏は批判し、そのことを風刺したネット上の絵画をいくつも紹介しました。
そしてグエン氏は、「労働力の輸出、それは地方政治への貢献だ」「貧困から逃れたければ労働力の輸出に関わるべきだ」という、現在ベトナムで叫ばれているスローガンを紹介し、これが、日本とベトナムの関係、特に今後の留学生、技能実習生の問題として重要になっていると指摘しました。
留学生と言っても、その中で本当に勉強のために来ている学生は少数で、多くは、海外への出稼ぎの意識として留学生ビザを取ろうとしている、技能実習制度がこの前日本でも法案で通ったが、ベトナム政府側も、日本政府側も、この制度は悪用される危険がある、日本で不足している労働力、3K労働力などを海外に求め、しかし、実際に来る外国人労働者には、必要な説明も、条件も示していない。また、技能実習生の多くは貧しい農村からの出身で、ほとんど情報を持っていなかったり、契約書の内容がいつの間にか変わっていたりする。多くの場合、技能実習生が、話が違うと思って逃げ出したり、時には犯罪に手を染めてしまうベトナム人もいると、グエン氏は、現在の留学生や技能実習生が、ある種の奴隷制度的なものになっていることを指摘しました。
また、実際の留学生や実習生は、日本に来るためにすでにベトナムで送り出す側に大きな借金をしており、だからこそ、日本で働いて借金を返済しようとする。しかし、その送る方法も、地下銀行が使われたり、知人に現金を持たせて国に運ばせたりするが、そこでお金が持ち逃げされるトラブルなども生まれている。しかし、そうして運ばれていく日本で稼いだお金が、またベトナム政府に、関税などいろいろな手段で巻き上げられ、ベトナム政府と中国政府に送られてしまったりする。このように、日本で中国に対する人権問題などをしておられる皆様には敬意を表するけれど、同時に、日本の中で起きている外国人労働者の問題が、意外と中国やベトナムなどの独裁政権に繋がっていることにも目を向けてほしいと述べて講演を結びました。
続いて、ベトナム戦争や、ベトナムの現状についてブログで様々な情報を提供しているブロガーの森泉氏が登壇しました。森泉氏のブログ「ベトナムウオッチ」から、グエン氏も触れた村の破壊と立ち退きの事例についての記事を紹介します。
ホーチミン市当局 カトリック難民街を強制立ち退き
今、ホーチミン市(旧サイゴン)市6区の一角にあるロックフン菜園(Vườn Rau Lộc Hưng)という住宅街に住んでいた124世帯150名以上の住民たちが、当局の暴政によって強制的に立ち退きを迫られ、家屋を破壊され、路頭に迷っています。
このロックフンでは住民の100%がカトリック信徒であり、彼らは元々、ベトナム北部に住んでいた人々でした。第一次インドシナ戦争中(1946-1954)、ホー・チ・ミン率いるベトミン/ベトナム共産主義勢力はキリスト教・カトリックをフランス帝国主義勢力と見なし、同じベトナム人であっても見境なく迫害・虐殺していました。さらに1954年にベトミンが戦争に勝利し北ベトナムにホー・チ・ミン政権が成立した事で、北ベトナム領からはカトリックを中心とする約100万人のベトナム国民が難民として南ベトナム領へと避難しました。
ロックフンの住民は全員、この時南ベトナムに避難したカトリック信徒とその子孫であり、彼らはパリ外国宣教会(MEP)が所有するロックフンの土地に60年以上、何世代にも渡って居住してきました。
土地所有に関する現ベトナム政府の通達(1999年)では、「1993年10月15日までに係争なく土地を所有していた者」は合法的に土地を所有できると定められています。ところが近年、ホーチミン市の再開発事業が加速し、地価が高騰すると、各地で当局による土地の強制接収・住民の強制立ち退きが横行しています。70年以上に渡って法の支配が存在せず独裁政権が続いているベトナム社会主義共和国では、地方から国家レベルまで政府当局者は権力を利用して私腹を肥やす事しか考えておらず、開発業者と共謀してあらゆる手段で地上げを行い、再開発の利権を欲望のままに貪っています。
そして今回も、ロックフンに高層マンションを建設する再開発計画が持ち上がると、ロックフンに住んでいた124世帯の住民たちには土地の所有権はおろか居住権すら認められず、ホーチミン市当局は住民たちが土地を『不法に』占拠しているとし、2019年1月4日の早朝、まだ人が住んでいるのにも関わらず、重機で家屋を潰す強制執行を開始しました。こうしてロックフンの住民は、1954年と2019年の二度も、共産主義政権によって故郷を奪われる事となりました。(以下略)https://watching-vn.blogspot.com/2019/01/blog-post.html
森泉氏はさらに、日本におけるベトナムへの関心は、保守リベラルを問わず、自分にとっての都合のいいベトナムしか見ようとしない、ベトナム戦争についても、現在のベトナムの独裁政権についても、ありのままの姿を直視してほしいと訴えました。そして、日本におけるベトナム民主化運動の希望として、ベトナム難民の人たちと、現在、出稼ぎや留学に来るベトナム人との交流が続いており、これが、ベトナム本国にもいい影響が必ずあるはずだと述べ、未来への希望を語りました。
その後、ベトナム革新党のグエン氏、森泉氏はベトナム大使館への抗議行動のため退出。当会会長のペマ・ギャルポが、チベットの弾圧の最新情報を伝え、講演会は閉会となりました(文責 三浦小太郎)