「中国民主化運動の現在と展望」と題して、王戴(中国民主陣線)氏を講師に行われた7月25日講演会の様子です。
アジア自由民主連帯協議会講演会
中国民主化運動の現在と展望 報告(1)王戴氏(民主中国陣線)
7月25日、東京のTKPスター会議室四谷にて、民主中国陣線の王戴氏を講演者に、中国民主化運動の現在と展望についての講演会が開催されました。冒頭のぺマ会長のあいさつののち、王戴氏は、まず現在の中国には様々な豪雨や災害が報じられているが、被害者のことを思うと心が痛む、しかし、中国政府はこの災害においても被害者数を隠蔽し少なく発表しているにちがいない、この犠牲者は、ある意味中国政府の人災に遭っているのと同じだ、と述べました。
その上で王戴氏は、まず、中国民主化運動の歴史について、その歴史を追って説明していきました。中国共産党が政権を握って以後、最初の民主化運動としてとらえるべきものとして、第一次天安門事件、周恩来が死去した時、天安門広場に追悼のため集まった民衆が、当時のいわゆる「四人組」とされた文化大革命の指導者たちへの批判を叫び、軍隊に鎮圧された1976年4月の事件を挙げました。王戴氏は、自分は周恩来を支持する気はないが、当時彼は鄧小平に代表される改革政策の支援者とみなされていたこと、民衆が初めて自由と民主化を求めて共産党指導部を批判したことの意義は大きいと指摘しました。
そして毛沢東が死去、鄧小平の改革開放路線が「4つの近代化」を打ち出したとき、魏京生をはじめとする最初期の民主化運動の指導者たちが「経済の改革開放をいうだけではなく、政治の民主化も近代化には不可欠だ」と主張、彼らは激しい弾圧を受けたと王戴氏は指摘、この時期に「民主中国陣線」という世界的な民主化運動組織が結成され、日本でもその指導者だった趙南氏が、中国人で初めて政治難民として認定されたことを指摘しました。
そして1989年6月4日の天安門事件と、民主化運動への大弾圧により、中国国内での民主化運動は不可能となり、運動は海外で行われていくようになったこと、そしてこの時期香港、台湾は天安門で闘う市民や学生に多大の支援を行い、弾圧された民主化運動の指導者たちを海外に亡命させるためにマフィアまでもが協力したことを述べました。マフィアたちは現在は香港でも民主化運動の敵に回ってはいますが、この時期、彼らが裏ルートを使っても民主化運動家たちを亡命させたことは事実として評価すべきだと王戴氏は付け加えました。
そして、現在の中国共産党独裁体制に抵抗する運動は、あえて分ければ、民主化運動と、反体制運動の二つに分けることができると王戴氏は述べ、反体制運動とは、現在の中国政府に、財産や地位を奪われ、自分の権利を直接侵害された人々に多い。その典型は郭文貴という人物だと指摘しました。そして王戴氏は、郭文貴と連携している人物の一人としてスティーブ・バノンをあげ、バノンの中国共産党への的確な批判は自分も深い共感を覚えるけれど、郭文貴に対しては正直疑問を持っていると述べました。
王戴氏によれば、郭文貴はもともと中国共産党内部で甘い汁を吸ってきた幹部の一人であり、確かに、だからこそ共産党内部の様々な腐敗に対する暴露記事などは事実だろうと思うし意味もある、しかし、彼は自分が権力の座から追われたことは意識していても、民主主義や民族自決などの問題を真剣に考えているとは思えない、また、彼の周囲に集まる活動家の中には、単に郭文貴の財産を当てにしているように見える人もいるのではないかと疑問を呈しました。
他に、このような反体制運動を行っている人たちの中には、実際に迫害されている宗教者や信仰を抱いている人たち、地下教会などの存在を王戴氏は指摘しました。そして、法輪功もまたある意味における信仰者と思うと王戴氏は述べ、法輪功は元々は健康のための気功集団だったのだけれど、その勢力があまりに強くなったため、自分たち以外の権威や集団を認めない中国政府により残酷な迫害を受けるようになったと述べました。
このほかにも、中国の現独裁体制に迫害を受け、それに抵抗している反体制派には様々な人が存在するが、それと民主化運動とは若干異なる点があると王戴氏は述べ、反体制運動は、ある意味個人的な被害から始まるが、民主化運動の場合は、何らかの民主化運動組織に属し、そこで民主的に決められたルールと活動方針にのっとって行われる。その目的は個人的被害の回復や告発ではなく、あくまで、中国の国家、社会、組織の民主化が目的であると述べました。
さらに王戴氏は、確かに反体制運動の人たちは、直接の迫害体験を証言する時は説得力も迫力もあり、激しい情熱で闘う姿勢は立派なのだが、逆に、自分の受けた迫害が保証される、例えば奪われた財産が返却される、共産党が一定の譲歩をするような時、意外と運動をやめてしまうことも多い、社会全体の矛盾を民主化によって解決する、組織の一員として民主化運動を継続的に展開するという意識が弱い人も少なくないように思われると述べました。
その上で、中国民主化を大きく阻害したものとして、国際社会の対中国政策の過ちがあり、日本もその一端を担ってしまってきた、国際社会は、鄧小平のような改革開放が行われ、中国の経済が計画経済の共産主義から、資本主義に移行すれば、自然と民主化も実現していくと判断したが、それは全くの間違いだった、各国の経済人たちは中国に招かれて、その良いところ、発展した地域だけを見せられ、また、自由で知識を持っているかに見える中国側の経済人だけに会って帰国し、中国は発展し成熟していると信じ込まされたが、それは文革時代に紅衛兵の言うことをうのみにした各国共産主義者と同じく騙されていたのだと王戴氏は批判しました。
しかし、鄧小平以後の指導者はある意味ずるいけれども同時に賢いところがあり、国際社会をうまくだましてきたけれども、習近平はやることが全くの的外れで、ただ自分たち中国は超大国だと内外に宣伝し、一帯一路政策、南シナ海への覇権主義、人工島建設などを行い、「中華民族の偉大な復興」を叫んでいるが、自分たち民主化運動家には、これは「中国共産党崩壊の予兆」にしか見えないと王戴氏は述べました。
毛沢東時代同様に個人崇拝を、習近平は自分に対し共産党幹部にも要求しており、これはかなりの反発を買っている。象徴的なのは、2016年2月19日に習近平が中国中央電視台、人民日報、新華社通信を視察した後「党・政府が管轄するメディアは宣伝の陣地であり、党を代弁しなければならない」と命じたのに対し、著名な企業家で実力者の任志強が、「『人民政府』はいつ、党の政府に変わったのか。メディアが人民の利益を代表しなくなる時、人民は隅に捨てられ、忘れ去られる」と批判したことで、彼は最近も、習近平は皇帝にでもなるつもりなのか、その衣服はとっくにはぎとられている(正体はわかっている)という趣旨の発言すらしている、他にも鄧小平の息子が明確に習近平を批判しているなどの実例を挙げました。
またもう一つの例として、清華大学教授許章潤が停職処分となり取り調べを受けたこと、その理由は2018年に習近平体制を批判する論文をネットに発表したからだと指摘し、王戴氏は、この文章は習近平の政策は改革開放以前の文革時代に逆戻りし、恐ろしい毛沢東時代に中国を戻すことになりかねない、軍拡と戦争を引き起こし、経済を破壊しかねないと述べていることを紹介しました。
一方、王戴氏は、習近平体制を一定評価している庶民がいることも公正に認め、彼らは、習近平が腐敗した共産党幹部を叩いているように見えること、独裁体制下、逆に感染症を抑え込み、同時に、国際社会が皆経済成長率を落としているのに、少なくとも公式発表している数字では、中国は3%の成長率を示していることなどが評価されていると指摘しました。そして、このような幻想を打ち破るためにも、自由民主主義陣営は、連帯して中国に民主化を求めると共に、これまでの対中政策の過ちを認めねばならないと王戴氏は厳しく述べました。
そして、今回アメリカのボンペオ国務長官が、中国共産党に対する外交政策が根本的に間違っていることを、それも中国とアメリカの国交回復を推し進めたニクソン大統領記念図書館で行ったことを王戴氏は高く評価しました。王戴氏は、特に重要なのは、中国共産党と中国人民を明確に分け、前者を批判したことであり、これはボンペオ長官への中国問題に対するアドバイサーの余茂春(1986年にアメリカに亡命)の意見を取り入れている、余氏は、あくまで共産党と中国人民を峻別し、共産党から人民を切り離すことが共産党体制打倒への道だと主張してきた、ニクソン・キッシンジャー以後のアメリカの誤った政策がこれから糾されていくだろうと王戴氏は期待していると述べました。そして、これは次期大統領が誰であるかは関係なく、アメリカの対中政策となっていくだろうと付け加えました。
そして、今後の中国民主化への流れには様々な可能性が考えられる、(1)習近平が、共産党内部の反習勢力によって打倒される(2)人民解放軍が習の独裁体制に反抗してクーデターを起こす(3)アメリカが台湾を事実上承認し、それに刺激されて中国軍が台湾侵攻を決意、戦争の過程で自由民主主義陣営の対中包囲網によって習体制は斃れる(4)習近平が自分の身の安全の保障を取り付けたうえで引退する(5)中国共産党内部の、改革派・民主化勢力が起こり習体制が否定される、などを王戴氏はあげました。
ただ、一つ恐ろしい可能性として、習近平がプーチン体制をまねて、共産党という名称だけを変え、選挙も形式的には取り入れたうえで、独裁権力は事実上維持して第二のロシアのような独裁者として君臨し続ける、それを国際社会が受け入れる、これが最も危険な未来であると王戴氏は警告しました。
そして王戴氏は、中国の民主化によって、世界の独裁体制、例えば北朝鮮やアフリカの独裁国の民主化は自動的に実現するだろう、民主主義化した中国では、各民族の自決権、香港の自由民主主義も守られる、日本も中国に対しては其の経済関係も含め絶大な影響力を持っているのだから、習近平の国賓待遇での来日など絶対に許してはならず、中国の民主化にぜひ力を貸してほしいと講演を結びました。(文責:三浦)