【第41回・動画あり】チュイデンブン理事 講演会「『中華・中央アジア諸国連合憲法』及び、『チベット国憲法』草案発表」


8月23日に行われました協議会主催講演会『中華・中央アジア諸国連合憲法』及び、『チベット国憲法』草案発表」の動画です。
講師はチュイデンブン理事でした。


講演会報告

 8月23日、東京四谷の会議室にて当協会理事であるチュイデンブン氏の講演会が開催されました。まず、ぺマ・ギャルポ会長が、今回、チュイデンブン氏が約4年をかけて執筆した「中華・中央アジア諸国連合憲法」及び「チベット国憲法」を正式に始めて私案として公開すること、これをきっかけに、チベット、ウイグルなど各民族も意見を戦わせ、今後のアジアの未来像を考えていくたたき台となってほしいことを述べました。

続いてチュイデンブン氏は登壇、まず、今回この試案を発表する理由と基本姿勢について、次のように正式に述べました。

中華・中央アジア諸国連合憲法及びチベット国憲法の草案に関する私案

本日、この日本の大地において、我がチベット国の最高指導者・ダライ・ラマ 14 世によ
って提唱されている、いわゆる「中道路線」への入門として執筆してきた「中華・中央アジ
ア諸国連合憲法」及び「チベット国憲法」の草案を、まず、私個人の提案として正式に公表
致します。
「中華・中央アジア諸国連合憲法」は、中国人、ウィグル人、南モンゴル人、満州人、台
湾人、香港人、マカオ人及び我がチベット人とが共有すべき「道」として、「チベット国憲
法」は、我がチベット人同胞たちが共有すべき独自の「道」として作成したものです。
我々南モンゴル人、ウィグル人、チベット人は、約 70 年に渡って共産主義中国の支配下
に置かれ、今や民族的な危機に直面しています。共産主義中国による真実の歪曲と植民地主
義的且つ非文明的な政治のやり方はとうてい容認することができません。
我々が今日においても依然と共産主義中国による抑圧から脱出できていない理由の一つ
は、この 70 年に渡って「団結の力」を養えなかった点に要因があることを深く痛感してお
ります。釈尊は、「自分は自分の救い主であり、自分は自分の敵でもある」と述べているよ
うに、我々は、単に「ウィグルに人権を」、「南モンゴルへの弾圧をやめろ」、「チベットに自
由を」と叫ぶだけでは、本当の「変化」をもたらすことはできません。我々の救い主は、結
局、我々自身です。
共産主義中国による植民地主義的且つ非文明的な政治体制と、日本や欧米など自由民主
主義の政治体制は同時に存在したままでは、決して世界の歴史が進歩しません。現在、共産
主義中国による植民地主義的且つ非文明的な政治体制の力が増殖し、世界規模で自由民主
主義を破壊しています。
我々人類は、戦争や抑圧のない・平和な世界で暮らすことを望んでいますが、そのために
は、慈悲、博愛、自由、民主、平等、公平、公正、法の支配など人類普遍的価値観に基づく
政治体制を採用する以外に良い方法はありません。そして、平和な世界で暮らすためには、
これらの普遍的価値観を 24 時間体制で守り、支えていかなければなりませんが、そのための前提条件は、独裁と隷従、圧迫と偏狭など腐敗した政治の力を地上から永久に駆除することです。
従って、この二つの憲法の案は、我々の団結の力を強めるための一石となり、中国の再生
及び共産主義中国の支配下で苦しんでいる我々の自由を取り戻す運動の新たな力になるこ
とを切望しております。同時に、共産主義中国の脅威から慈悲、博愛、自由、民主、平等、
公平、公正、法の支配など人類普遍的価値観を守り、支えるための新たな力になることを心
より期待しております。
2020 年 8 月 23 日 チュイデンブン

この上で、今回の憲法私案について簡単に説明が行われたのち、この日は会場の参加者からの質問を受ける形での様々な討論がなされました。
この私案の基本的な立場として、基本理念、およびこの連邦国家の構成国の部分を紹介します。

第一章 共通規定
第一節 目的と価値観及び行動原則
第 1 条 目的
1. 連合は、各加盟国の国家主権の平等の原則に基き、平和で繁栄した連合社会の構築を
促進し、それを子孫のために維持していく。
2. 連合は、共同で加盟国の国防と外交及び安全を保障する。
3. 連合は、近隣諸国及び世界から加盟国に対する安心と信頼を受けることを保障する。
4. 連合は、加盟国の言語的及び文化的な多様性の尊重と保護を促進し、各加盟国間の平
和且つ協力関係を深めていくために働く。
5. 連合は、戦争、独裁、専制、隷従、圧迫、摂取、テロなど平和を破壊する行為を地上
から永遠に除去し、各加盟国の国民が等しく平和のうちに慈悲、博愛、自由、民主、
平等、公平、公正、法の支配など人類普遍的価値観から生じる諸権利を享受できるよ
う働く。
6. 連合は、地球温暖化及び自然生態環境破壊を防止するために、自然環境に害のない経
済政策の実地を通して平和で繁栄した連合社会の構築を推進していく。
7. 連合は、核兵器を初めとする生物兵器、化学兵器など危険兵器を禁止し、戦争のない
世界を構築するために働く。
第 2 条 価値観
1. 慈悲、博愛、自由、民主、平等、公平、公正、法の支配など人類普遍的価値観は、連
合の各加盟国が達成すべき共通の基準である。
2. 前記の普遍的価値観から生じる権利は、すべての加盟国の国民が差別されることが
なく、偏見されることがなく、暴力を受けることがなく等しく享受することができる。
但し、如何なる者もこれらの権利を濫用してはならないのであって、常に個人並びに
社会に害をもたらす如何なる暴力行為を抑制し、公共の福祉のためにこれらの権利
を利用する責任を負わなければならない。
第 3 条 行動原則
連合は、この憲法の目的の実現のために、次の原則に従って行動しなければならない。
1. 連合は、各加盟国の主権平等及び民族同権の原則を基礎において行動しなければな
らない。
2. 連合は、慈悲、博愛、自由、民主、平等、公平、公正、法の支配など人類普遍的価値
観の尊重と保護及び発展はあらゆる紛争の解決に当たって最も適合した方法である
ことを常に自覚して行動しなければならない。
3. 連合は、この憲法は各加盟国が等しく共有する共通の基本法であり、平和で繁栄した
連合社会の秩序を守る基本として認識し、これを常に自覚して行動しなければなら
ない。
4. 連合は、この連合の連合議会と連合政府及び連合裁判所は各加盟国が等しく共有す
る共通の組織として認識し、これを常に自覚して行動しなければならない。

(1)第二節 連合の構成主体
第 42 条 中華人民共和国
現在の中華人民共和国の統治下にある北京市、天津市、上海市、重慶市、河北省、山西
省、江蘇省、浙江省、安徽省、福建省、江西省、山東省、河南省、湖北省、湖南省、広
東省、海南省、貴州省、陝西省、四川省と雲南省及び甘粛省の漢民族の居住地、広西チ
ワン族自治区、寧夏回族自治区は、歴史的に一つの集団を形成していた主権国家として、
この諸国連合の構成国とする。国名を中華人民共和国と、略称を中国とする。
第 43 条 チベット国
現在の中華人民共和国の統治下にあるチベット自治区、青海省、甘粛省の天祝チベット
族自治県と甘南チベット族自治州及び四川省の阿巴チベット族チャン族自治州と甘孜
チベット族自治州と木里チベット族自治県、雲南省の迪慶チベット族自治州は、歴史的
に一つの集団を形成していた主権国家として独立を回復し、この諸国連合の構成国と
する。国名をチベット国と、略称をチベットとする。
第 44 条 東トルキスタン国
現在の中華人民共和国の統治下にある新疆ウィグル自治区は、歴史的に固有の一つの
集団を形成していた主権国家として独立を回復し、この諸国連合の構成国とする。国名
を東トルキスタン国と、略称を東トルキスタンとする。
第 45 条 南モンゴル国
現在の中華人民共和国の統治下にある内モンゴル自治区は、歴史的に固有の一つの集
団を形成していた主権国家として独立を回復し、この諸国連合の構成国とする。国名を
南モンゴル国と、略称を南モンゴルとする。なお、南モンゴルは、モンゴル国と統一し
た国家として、この諸国連合に加盟されることを妨げない。
第 46 条 香港国
現在の中華人民共和国の特別行政区となっている香港特別行政区は、自ら統治能力を
有する国家として認め、この諸国連合の構成国とする。国名を香港国と、略称を香港と
する。
第 47 条 澳門国
現在の中華人民共和国の特別行政区となっている澳門特別行政区は、自ら統治能力を
有する国家として認め、この諸国連合の構成国とする。国名を澳門国と、略称を澳門と
する。
第 48 条 台湾国
台湾は、自ら統治能力を行使している主権国家として認め、この諸国連合の構成国とす
る。国名を台湾国と、略称を台湾とする。
第 49 条 満州国
現在の中華人民共和国の統治下にある黒龍江省、吉林省、遼寧省は、一時満州国として
独立国家を形成していた国として再建し、この諸国連合の構成国とする。国名を満州国
と、略称を満州とする。

以下、特に論じられた質問事項、およびそれに対するチュイデンブン氏の回答などをまとめて紹介します。

●(質問)著名な亡命者の郭文貴氏も、「中華連邦」という共産党支配を脱した新しい連邦国家を主張しているようですが、それとこの法案とは共通点がありますか。

(チュイデンブン)郭文貴氏の案を私が読む限り、郭氏が考えている中華連邦においては、チベット他各民族の民族自決権などはほとんど意識されていないように思います。私の案は、まず、各民族の民族主権、自治権を完全に認めた上での連邦制であり、そこに大きな違いがあります。

●この案は、欧州のEU構想を基本にしているように思いますが、EUが成立したのは、第一次世界大戦、第二次世界大戦という二度の戦争を経て、各国がそのような連邦制が必要だということを戦争の惨禍の中で学んだ面が大きく、また、キリスト教という一応の共通の価値観があったこともあると思います。そのような戦争や共通の理念のないアジアではなかなかそれは難しいと考えますが、そのあたりはいかがですか。

●(上の質問に共通して)この憲法は、中国の現体制の民主化を前提にしていると思いますが、それが平和的に実現する可能性はあるのでしょうか。各民族の高度な自治、自決が認められるためには、まず現共産党独裁体制が解体されることが必要で、それは平和的な実現は難しいのではないでしょうか。

(チュイデンブン)19世紀から20世紀にかけては、確かに戦争によって問題を解決することが政治の手段として正当なものとされた時代があった。しかし、その時代を経て、現在は平和的な手段での民主化がいくつかの国でも実現している。中国の場合も不可能としてあきらめるのではなく、例えば、現在アメリカを中心に行われている経済制裁をさらに強化し、中国との経済交流の条件を政治の民主化に置くなどの外交手段をもって、中国を平和的に民主化することは可能と考えます。
また、自由、民主主義、民族自決といった価値観は今や世界の普遍的なもので、そしてアジアの各民族文化を豊かに発展、共存させることをアジアの共通の価値観とすることは、平和的なアジアの実現のために可能であるし未来の目指すべき普遍的価値と考えます。

●この法案は、中国の民主化後のものと考えればとても意義のあるものだと思う。しかし、仮に中国が民主化されたとしても、ウイグル、モンゴル、チベット各地には現在すでに多くの中国人が生活している。彼らはこの憲法下においてはどのような存在となるのか。

(チュイデンブン)現在各民族地域にいる中国人が自由に出ていくのはかまわないが、既にそこで結婚したり、生活の基盤がある人を無理に追放するわけにはいかない。ただし、各民族地域において、自治政府、連邦政府に参加するには、各民族の言語を充分学んでいるなど、それぞれ条件を付ける。各民族連邦の法律に従うことが前提となり、それなくして権利は得られない。

●むしろ、この連邦私案からは中国を排除し、チベット、ウイグル、モンゴル、そして台湾、香港、マカオ、満州などで中国を包囲する連邦制を考えたほうがいいのではないでしょうか。そして中国共産党支配をある意味封じ込めること、それが逆に民主化や平和に通じると考えます。

●(関連して)仮にこの憲法のような連邦国家が実現したとしても、中国人がその後周囲の連邦国家に移民し、人口面で多数派になったり、また各連邦国の政治を支配するようなことが起きては、現在の中国に戻ってしまうのではないでしょうか。

(チュイデンブン)中国を排除する形でこの連邦制が成功するとは考えにくく、この私案の趣旨の一つは、中国をこの憲法によって民主化に導くことにあります。同時に私は中国の脅威、特にその「移民」という形での人口侵略の危機を無視しているのではありません。そのために、各連邦国家はその国民、民族固有の権利を法律によって守り、移民がその政治に参加するためには厳しい原則(各民族言語の習得、文化伝統の尊重)や条件を付けていくことを考えています。

他にも様々な活発な討論がなされました。チュイデンブン氏は、本私案をさらにこの日の討論も踏まえた修正の上、様々な有識者にネットや印刷物の配布などを通じて意見を聞いていくとのことです。既にチベット語版は亡命政府並びに議会に提出されており、様々な反応が返ってきている模様です。今後とも、チュイデンブン氏のみならず、各民族が討論を通じ、また自らの憲法私案、独立国憲法などを積極的に発表していくことを期待します(文責;三浦小太郎)


理事による「提案 中道路線をどう歩むか 中華・中央アジア諸国連合憲法とチベット国憲法」文書のPDF(8月26日現在のもの)を掲載いたします。「まえがき」だけでも読んでくだされば幸いです。
提案 中道路線をどう歩むか 中華・中央アジア諸国連合憲法とチベット国憲法 PDF

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