【第44回】アジア自由民主連帯協議会主催講演会 「香港の現状と今後の運動展開」報告

 1月30日、東京四谷の会議室にて、香港建国聯盟のケン・マー氏、香港民主化運動(Stand Up With Hong-Kong)のウイリアム・リー氏のお二人による講演会が開催されました。参加者は約30名でした。
 冒頭、ペマ・ギャルポ会長が挨拶。アメリカの新大統領はバイデン氏に決定し、日本では保守派を中心に中国に対し融和的になるのではないかという危惧の念が挙がっているが、少なくとも現政権の閣僚、関係者の中には、これまで中国の人権問題やアジアの問題に深くかかわってきた人たちが含まれている。トランプ大統領の対中姿勢は評価するとしても、バイデン政権も、またもっと同盟国との連携を大事にする形で対中国問題に取り組むはずだし、むしろ日本が自由民主主義国として、主体的にアジアの問題にかかわっていかなければならないと述べました。

 続いて、ケン・マー、ウイリアム・リー両氏が登壇。いつものように一人ずつ講演するのではなく、独立派、民主派がそれぞれ意見交換のような形で講演会を進めました。

 まず、香港民主派のウィリアム・リー氏が、香港には民主化を求める人々、ケン・マー氏のように独立を目指す人々などいろいろな人がいる、その複雑な政治情勢をまずわかってほしいと述べました。そして、今日はケン・マー氏からまず、香港独立派の考えの基本的な部分を解説してほしいと求めました。

 それに対しケン・マー氏は、先ず原則的に、自分たち独立派はいわゆる「一国二制度」そのものに反対であり、香港の民主主義は一国二制度下では絶対に実現できないことが明らかになった、それが我々の基本認識だと述べました。そして、それは2014年の雨傘革命のときに明瞭になった事実だと付け加えました。

 さらに、我々独立派は香港民族党や香港本土民主戦線などを結成して選挙に立候補しようとしたが、直ちに候補者たちの資格は剥奪された、今、香港民主派の議員たちが立候補の資格を奪われたことが報じられ批判されているが、あれと同じことは2016年にすでに独立派に対し行われていたことだと述べました。

 これに対し、ウイリアム・リー氏が補足する形で説明し、もともと香港における「普通選挙」とは、親中国派が多数を占める選挙委員の承認を得ねばならず、日本の常識で考えるような普通選挙は制度的には一度も成立したことはないと述べました。その上で、例えば日本ではしばしば香港民主化の象徴のように語られるアグネス・チョウ氏やジョシュア・ウォン氏は、実は香港における民主派の中ではそれほど影響力のある存在ではない、香港民主派の中心となっているのは、その上の世代、これまで30年、40年活動をしてきた人たちで、実は民主化運動の中でもある種の世代の相違があると指摘しました。

 これに対し、ケン・マー氏はもっと厳しい形で民主派の上の世代を批判しました。マー氏によれば、確かに香港の運動は世代間の考えの違いがある、これまでの上の世代の民主派勢力は、立法府に議席を持っていたにもかかわらずこれまで十分な法案提出も権利も駆使してこなかった、先述したように、独立派に弾圧が加えられた時にも抗議の意思を示さなかったし、今も独立派の存在を無視、もしくは時として敵視している。

 また、確かに一部に乱暴な議員がいたことは確かだが、それを抑えるために議会において香港当局の力を強めるような法律が出された時、民主派の政治家はむしろ賛成した。そして、今のような事態に陥る前に、この3年前、4年前から、アメリカなどを訪問した際、一国二制度の危機を訴えるべきだったのに、国際的な発信も、実際に民衆や学生が立ち上がるまではほとんど行われなかった。ある意味、先輩の民主派、政治家たちは、自分たちの手で香港の民主主義を守り抜こうという姿勢が乏しかったと批判しました。

 ウィリアム・リー氏も、実は旧世代の民主派指導者には自分たちもあまりいい印象を持っていない、その人が民主化を語っているかどうかだけではなく、その全体の行動や思想をよく見てほしいと述べました。

 続いて、現在の香港についての議論となり、ケン・マー氏は象徴的な事例として、イギリスが香港市民に移住の自由を認めてくれる発言をしたことに対し、ただちに中国側が、1997年の香港返還以前に生まれた香港住民が持つ「海外在住英国民(BNO)」旅券(パスポート)について、1月31日以降は有効な旅券とは認めない方針を明らかにしたことを挙げました。そしてマー氏は、自分自身もこのパスポートを使っており、もしも今香港に戻ればおそらく二度と日本に来ることはできないだろうと述べました。

 また、ウィリアム・リー氏は、このパスポートで海外に出ている人は多いので、これは大量難民の出現につながりかねないと述べました。両氏ともに、このパスポートを使って「英国籍」の形で自分たちは出国している、それは絶対に「中国籍」にはしたくないからで、今後、JALやANAに香港人が載る際も、中国がこのパスポートを認めないことが大きな問題になるのではないかと指摘しました。

 そして、ケン・マー氏は、今後、中国による圧迫や支配がますます強化されていけば、香港にも現在ウイグル全土に置かれているような収容所が建てられてしまうだろう、もともと、香港が中国に返還されるときも、何ら香港市民に選択肢があったわけではない。イギリスの植民地だった香港が独立する正当な権利、香港市民が自分たちの未来を決める正当な権利を要求しているだけなのだと述べました。

 そしてウィリアム・リー氏は、独立という言葉は実は香港ではタブーだと指摘した上で、それは民主派に限らず香港の中で、独立を唱えれば国家分離、転覆の罪で弾圧されるという恐怖感もあると述べました。それに対しケン・マー氏は、もちろんその要素もあるが、これまでの民主派運動家をはじめ、上の世代は多く大陸にルーツを持ち、自分たちは「華人」だという意識に囚われている。しかし、自分は香港で生まれ、中国には2回か3回しか行ったことがないし、自分を「華人」とも「中華民族」とも思ったことはないと述べました。

 そしてマー氏は、香港と中国で明確に違うこととして、自分たちはクリスマスやイースターなど、欧米の祝日も祝う事、また、言葉としては広東語だが、そこにたくさんの英単語が混じるので、既に広東語とはいいがたい言語になっている、そして自分たちの名前も個人名は英語表記をほとんどの人が使う、などの明確な相違点を挙げました(その意味で、民主派運動家の周庭氏のことも、彼女を「アグネス・チョウ」と呼んでほしいと付け加えました)。

 また、香港の真実の歴史が全く自分たちには教えられていない。例えば、第二次世界大戦中に日本に支配された約3年8カ月のことはやたらと強調されるが、それを救ったのは人民解放軍だという嘘を教えている。現実に、イギリス軍、そしてカナダ軍が香港で日本軍と戦ったのだが、その事実も全く教えられていない。香港は教育によって、自分たちが中国人だと洗脳されてきたのだとマー氏は強調しました。

 最後に、今後の日本での活動について、ウイリアム・リー氏は、集会やデモなどが難しい現状、SNSを活用して訴えていきたい。そして、香港ではデモなども今弾圧下で行えない状況が続いているが、とにかく、香港人はあきらめていない、戦い続ける、というメッセージを発信していきたいと述べました。また、ケン・マー氏は、香港でデモなどができない以上、自分たち海外に住む香港人の努力がますます必要になっていること、そして政治活動だけではなく「メイド・イン・香港」の良い商品を紹介していく、また香港の文化、音楽、映画などの紹介を通じて、香港が中国とは全く違う歴史と文化を持っていることを伝えていきたいと述べました。マー氏は特に、今すぐ独立ができると思っているのではない、何年も、何十年も、もしかしたら百年、千年かかることかもしれない、それでも自分たち独立派はいつかその目的が実現できることを信じて運動を続けていくと結びました。(文責 三浦)

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