7月31日、東京のきゅりあん大会議室にて、ペマ・ギャルポ会長による講演会「習近平が目指す民族ジェノサイド」が開催されました。参加者は約40名。
まずペマ会長は、この6月初頭、習近平が青海省、つまり本来のチベットの地を訪問したことに触れました。
習近平総書記が青海省視察「青蔵高原の生態系保護と質の高い発展を推進」
http://japanese.china.org.cn/politics/txt/2021-06/10/content_77560040_2.htm
これは上記写真を見てもわかるように、一般のチベット人や僧侶が歓迎しているかのような演出がされている、しかし、宗教者でもない政治家に対し、お坊さんたちが列をなして歓迎してを併せている、そのこと自体がチベット仏教ではありえない。共産主義国によくあるプロパガンダであって、アメリカ議会が、この時期にチベットにて行われていることが文化的ジェノサイドであることを決議し、ダライラマ法王を支持することを再確認したことに対抗してこのチベット訪問を考えたのだろうと述べました。
そして、ペマ会長は、今回の習近平の青海省ことチベット訪問にはいくつかの目的がある、チベット支配がうまくいっていることを宣伝すること、そして、最近インドとの国境で紛争が起きており、チベットに駐屯している人民解放軍を激励し、「国境防衛」をしている軍を称えること。また、今回、中国が発表した「チベット白書」の内容を宣伝することなどだと述べました。
このチベット白書の内容とは、チベットが古来から中国の領土の一部だったことが強調されており、また「チベット解放70周年」という言葉も使われ、中国が平和的にチベットを開放し、経済的にも発展させたとしている。そこにはチベット人学者も動員されて論考を発表しているとペマ会長は指摘。しかし、ペマ氏は、チベットが完全に中国の自治区となったのは1965年のことであり、中国は平和的どころか、最初から軍隊と共にチベットにやってきて、その後のチベットと中国との間の17条条約も脅迫下で強引に結ばせた。そして、それすらも中国は守ろうとしなかったと述べました。
また、チベット白書には、かってのチベットは貧しく、農奴制の国で、民衆は餓死寸前だった、それが今は近代化され豊かな地域となったと記されている。しかし、ペマ会長は、確かに近代的な鉄道や工場が建設されたことは事実だけれど、それによってチベット人が報われたり幸福になったということは全くない。経済的には中国人が支配しており、チベット人は発展してはいない。また、以前のチベットには小作人は確かにいたけれど、農奴という存在はなかったと、白書の欺瞞性を指摘しました。
そして、中国はダライラマ法王を「分離主義者」と批判するが、これも嘘で、ペマ会長は、中国政府に比べて、法王の方がはるかに中国との間の約束を守っていると強調しました。文化大革命後、中国が一時的にチベット亡命政府との対話を求めて来た時、法王はその時の原則を常に忠実に守り、たとえ相手が中国であれ、こちらは常に誠実に接しなければいけないと説いてきた。
例えば、文革時代にチベットの知識人や教師が粛清されたので、亡命政府がチベット内に教師を派遣することになったとき、その教師たちに、ひそかにチベット内部で政治的な組織を作らせようとペマ会長が主張したとき、法王は、これはあくまでチベット語や文化を教えるためだけの人材の派遣なのだから、それを政治的に利用してはいけない、自分たちは中国の悪しき姿勢を批判しているのだから、自分たちの側も決して約束を破ったり、謀略を考えてはいけないときつく言われた。そのような法王を嘘つき呼ばわりするのは全く誹謗だ、とペマ会長は強く指摘しました。
また、中国側の最も不誠実な対応として、中国政府との対話の時期、チベットの領土、国境を明確にするために、中国人の学者も交えて、ペマ会長をはじめ亡命政府の派遣団はきちんと現地調査をした。そして、現在中国が青海省、四川省などに編入している元々のチベット領土についてきちんと本来のチベットであることを確認したのに、中国側は一方的にそれを破棄、今でも、現在の「チベット自治区」だけがチベットだと主張している。日本の報道もそれに追従する傾向があるが、現在も続く焼身抗議は、むしろ、自治区外のチベット人によってなされている傾向があるのだとペマ会長は強調しました。
そして、青海省とはチベットの「アムド地方」であり、習近平は、モンゴル、ウイグル等の各民族自治区の将来について「青海省を一つの模範とする」という趣旨の発言をしている、これはチベット人の自分としては本当に恐ろしい発言で、事実上「アムド」という本来の地域も、チベットの言葉もなくなってしまっている状態であり、まさに、民族を根絶するに等しい発言だとペマ会長は指摘しました。
同時に、7月1日、中国共産党結党100周年での演説では、習近平は、いかにも毛沢東をまねたような演説とパフォーマンスを見せたが、毛沢東に対しては中国人は熱狂的に崇拝していたが、今回の習近平演説の時はろくに聞いていないような表情の者も見られたとペマ会長は指摘。ただ、おそらく次の党大会で習近平は主席となることを目指しており、今回は台湾の統一を強調したことに触れ、この言葉に対し、麻生副総理や、防衛大臣、そして副大臣が明確に日台の連携を主張したことはとても意味があると述べました。
今、日本ではアメリカと中国の関係を「米中新冷戦」とか「米中対立」といった風に、まるで日本が局外中立であるかのように語る傾向がマスコミにあって、ペマ会長はそれは大変残念なことで、アメリカがどうあれ、日本にとって中国は危険な存在であることをもっと明確に認識すべきだとペマ会長は述べました。
そして、その危険性とは、中国の現体制が日本とは相いれない全体主義体制であることであって、その意味で、中山泰秀防衛副大臣が、「中国による台湾への圧力に対し、目を覚まし民主主義国家として対話を守る必要がある」と明言したことは高く評価できるとペマ氏は述べました。自由と民主主義を守る立場から、独裁体制、全体主義体制と対峙するという姿勢、これが必要なのであり、日本の政治家も言論界もその認識に立ってほしいとペマ会長は強調しました。
さらにペマ会長は、ビルマのクーデターの背後に中国が存在することはほぼ確実であるように、今、中国が支援する国はいつの間にか同じ独裁的、覇権主義的な傾向に移っていく。そしてその象徴が、今回中国とタリバンが北京で握手したことであって、そこで中国側とタリバンは、東トルキスタンを独立させるような組織はテロリストだから一線を画するべきだと述べた。しかし、これはまさに恥知らずの言葉であって、テロ国家に他ならない中国と、テロ組織であるタリバンが、ウイグルの自由を求める人々をテロリストと決めつける、まさに世界の欺瞞の象徴だと述べました。
そして現在のバイデン政権には、カート・キャンベルやブリンキンといった、自由民主主義のために全体主義と戦う意思を持った信頼できる人物がいること、世界の民主主義勢力が覚醒することで、中国全体主義と対峙することが、いま世界で最も大切な政治課題だと指摘して講演を終えました。
質疑応答においては、青海省出身のチュイデンブン当協会幹事も、現地の弾圧状況を詳しく説明し、午後5時、講演会は閉会しました。(文責 三浦)