【第57回・報告・動画】「カンボジア フン・セン政権の人権弾圧の実態」露木ピアラ氏

7月30日、当協議会主催講演会より。露木ピアラ氏による「カンボジア フン・セン政権の人権弾圧の実態」です。


「カンボジア フン・セン政権の人権弾圧の実態」講演会報告

7月30日、東京の会議室にて、露木ピアラ氏による「カンボジア フン・セン政権の人権弾圧の実態」と題した講演会が開催されました。

露木ピアラ氏は、ポルポト政権とそれに続く内戦を逃れ、6歳から13歳までをタイの難民キャンプで過ごし、28年前、難民の家族として来日したことから講演を始めました。そして、カンボジアで、フン・セン政権下に野党への弾圧が次々と起こり、独裁体制が作り上げられていくことを見て、今後は日本でカンボジアの民主化や人権改善を訴えようと、カンボジア救国活動の会に参加するようになったと述べました。そして、大阪のあぼともこさんなどとの出会いを通じて、この協議会を含む多くの日本の方を紹介していただき、これから連帯を強めてきたいと述べました。

そしてピアラ氏は、現在、カンボジアでは、フン・セン政権は、一党独裁制を強めているけれど、それと同時に、親族が権力を独占し、利権も得ている、だから決して権力を手放すことはないと批判しました。

まず、フン・センの奥さんはカンボジア赤十字の代表を務め、娘は22の会社を経営し、放送局も手中に収めている。カンボジアの放送局は、一切政府を批判したり社会の矛盾を突くような放送はできない。
フン・センの長男、フン・マネットは、今事実上の後継者としてフン・センが指名しており、結局独裁体制はこのままでは世襲される。次男は陸軍の高官、次女は電力会社とショッピングモールを多数経営など、そのほかにも一族や政権に癒着した企業が完全に経済を支配しており、この利権体制をフン・センは守ろうとしているとピアラ氏は批判しました。

そして、カンボジアで政府を批判し、人権改善を訴えることは命がけのことで、事実、ケム・レイという人権活動家でジャーナリストはそれによって殺されてしまったとピアラ氏は指摘しました。
ケム・レイ氏は高名な知識人としてカンボジアの草の根の民主運動を展開するとともに、言論活動を行っていましたが、2016年7月10日、ケム・レイ氏はプノンペン中心部にあるガソリンスタンドのカフェで射殺されてしまいました。警察は、殺害現場から逃亡したエース・アン(Oeuth Ang)を逮捕し、警察の発表によれば、彼が、ケム・レイ氏が3000米ドルの借金を彼に返済していないから殺害したと自供したといっていますが、あらゆる状況証拠から彼は犯人とは考えられず、また、ケム・レイ氏の妻も被疑者の妻もそうした金銭の貸し借りはなかったと主張していることをピアラ氏は指摘しました。

しかし、2017年3月23日、半日の審理の後、プノンペン都裁判所はオース・アンをケム・レイ氏殺害で有罪とし、終身刑を宣告し手この問題は終わったことにされてしまっている、今に至るまで、実質的な調査は全く行われていないとピアラ氏は批判しましたそして、実は夫が殺されたとき、ケム・レイ氏の妻は妊娠中だったと、ピアラ氏はこの暗殺の悲劇の一つとして紹介しました。

そして、ピアラ氏は、写真を示しながら、現在も次々と政権を批判している政治家や運動家、ジャーナリストが逮捕されていることを述べ、現在、カンボジアには、実質的な野党はまったく存在しないと述べました。

また、「2012年7月、国外に亡命していた野党指導者、サム・ランシー、ケム・ソカーの二人が連帯して結成されたのがカンボジア救国党で、この党は、幅広い民主化勢力の野党として、2013年7月の国民議会選挙では、フン・センの人民党の独裁を批判し、多くの議席を確保したのに、2017年年6月3日にケム・ソカー党首が国家反逆罪容疑で逮捕され、救国党の解党が命じられてしまった。救国党の解党後の2018年7月に行われた国民議会選挙において、与党人民党は国民議会の全議席を獲得したけれども、それは野党なき制限選挙にほかなりません。
2019年11月、サムレイシー氏が、国内で民主的な運動と選挙を行うためにカンボジア帰国を発表しましたが、それを歓迎、支持する意見を表明した人は次々と逮捕され、すべて国家反逆罪、クーデター計画罪で、2年から20年以上に及ぶ刑が下されました」とピアラ氏は述べました。

(三浦注)ヒューマン・ライツ・ウオッチによれば、2021年3月1日にプノンペン都裁判所は、解散を命じられている救国党幹部で国外追放させられている9人を欠席裁判で有罪とし、その理由を「カンボジアへの帰国計画を発表し、9人がクーデターを起こそうとした」というあり得ない疑惑をその理由にしています。ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局局長代理フィル・ロバートソンは、「政治的動機に基づくサム・ランシー氏をはじめとする野党幹部の裁判、そして数十年という有罪判決により国内政治から永久追放しようとする手法は、独裁者の手本そのものだ」と述べた。「日本、欧州、米国はカンボジアの人権危機の重大さを認識し、これらに責任を負っている政府関係者に的を絞った制裁措置を発動すべきだ。」

判決によれば、裁判所は、救国党の現党首サム・ランシー氏に懲役25年、副党首のケム・ソカ氏とEng Chhayfh Eang氏にそれぞれ22年の刑を言い渡しました。同じく救国党の幹部であるTioulong Saumura氏、Men Sothavrin氏、Ou Chanrith氏、Ho Vann氏、Long Ry氏、Nuth Romduol氏はそれぞれ20年の有罪判決を受けています。加えて裁判所は、計18億リエル(44万米ドル)の罰金を科し、9人全員の投票権や被選挙(立候補)権、公職就任権を剥奪しました。

またピアラ氏は、アメリカ国籍、ノルウエー国籍のカンボジア人も、政府を批判した罪で逮捕されており、それぞれの国の大使館に救援を訴えていること、全体で50数名の野党政治家がまだ捕まったままであることなどを報告しました。

また、2022年6月の地方議会選挙では、カンボジアではろうそく党(キャンドルライト党)が、全投票数の18%を獲得して、フン・センと人民党の圧力をはねのけて健闘したことは希望であることにもピアラ氏は触れました。政党が弾圧され自由な投票ができない中ではン居をボイコットすべきだという主張もあったが、どんな状況下でも、救国党の流れをくむ政党が国民の支持を得たことには意味があるとピアラ氏は考えていました。

そしてピアラ氏は、日本国内でも、自分たちのフン・センへの抗議活動は妨害や嫌がらせを受け、カンボジア大使館は日本でのカンボジア人の抗議活動や民主運動を監視、妨害などを行っていることを述べました。カンボジアの実情がいまだ十分日本に知られているとは言えない中、貴重な講演会となったと思います。講演後も様々な質疑応答が行われました(文責:三浦)

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