前半の荒木和博氏の講演についての報告を掲載しております。
後半のイラン人の方による証言についてはこちらの記事を参照ください。
アジア自由民主連帯協議会主催講演会
北朝鮮拉致問題の本質 なぜ被害者を取り返せないのか
報告(1)荒木和博講演報告
2月12日、アジア自由民主連帯協議会主催講演会「北朝鮮拉致問題の本質 なぜ被害者を取り返せないのか」が東京お茶の水の講演会で開催されました。参加者は約30名。
講演者は特定失踪者問題調査会の荒木和博氏。荒木氏はまず、2月8日に北朝鮮で行われた軍事パレードの後の宴会に、金正恩は娘ジュエを伴って現れたことに触れ、それに対してはいろいろな意見があるけれども、自分の推測では金ファミリー内、特に金正恩の妹金与正と妻の李雪主の争いが背後にあるのではないかと述べました。
そして、金正恩にはいろいろな女性関係があり、子供がほかにもいると噂されている、ある意味、韓流ドラマならぬ朝流ドラマというべき一族内に問題が起きている、これは笑い事ではなく、これまでの北朝鮮の現代史でも金一族内の熾烈な権力闘争が繰り広げられてきたことを指摘しました。
例えば、金正日が後継者になったのは継母金聖愛を追い落としたことによる。その後、金日成と金正日はやがて対立していくようになった、金日成は90年代の核危機の時に、やはり朝鮮戦争を体験していることもあり、少なくともアメリカとの戦争は避けようという意識があったと荒木氏は指摘しました。しかし、金正日は一切妥協する必要はないと言って核開発を進めようとした。金日成はその最晩年、もう、息子には任せられないと思って、アメリカとの交渉の場に自ら出て行ったが、金正日は出席すら拒否している。その後、金日成は経済的にも多少の改革開放に乗り出そうとして、この点でも金正日と対立、ストレスの中心臓発作で死んでいる。
また、金正日も70歳で死んでいるが、北朝鮮でおそらくもっともよい食事をし、医師団にも守られた金正日が70歳で死ぬということは、よほどの精神的ストレスを抱えていた可能性が高い。あれだけたくさんの人を殺して来た独裁者は、逆に信じられる人は周りに一人もなく、孤独の中で精神も体調も病んでいったのだろうと述べ、北朝鮮という国は、ある意味「上も下も決して幸せになれない国」だと述べました。
そして、そんなひどい国に拉致被害者が捕らわれの身でいる。そして、ひどい寒さの中、コロナだって拡大しているだろうし、十分な治療薬もない中、すべての被害者が元気でいるという保証などない、と荒木氏は厳しい現実を指摘しました。
現在特定失踪者問題調査会では、四百数十人を失踪者として登録している。かつ、警察が拉致の可能性を否定できない人々は900人近い、そして、またそのいずれも把握できていない被害者もいるはずだと荒木氏は述べ、失踪者のうち最も早い段階では1948年、最後の段階では2003年であり、戦後日本が「平和」だったというのはとんでもない幻想だと荒木氏は述べました。
しかし、戦後日本では、「拉致などという事態はあってはならない」のだから「そんなものはなかった」という隠蔽体制が支配してきたと荒木氏は述べました。そして失踪者の中でも、藤田進さん、大澤孝司さんの二人については、拉致被害者で間違いはないと、拉致担当大臣を務めた松原仁議員が明確に発言している。しかし、日本政府は拉致認定しようとしないと荒木氏は批判しました。
そして、暗殺された安倍晋三前首相について、荒木氏は、評価は様々であろうけれども、自分自身が拉致問題に対しての取り組みには批判的だと明言しました。まず、安倍首相は、自分の時代に拉致問題を解決すると述べたけれど、厳しくいえば「解決」などということはあり得ない。例えば横田めぐみさんは拉致されて40数年の時間がたっている、この時間を彼女に返すことは誰にもできないし、万が一、北朝鮮で亡くなっている被害者がいた場合、その人の事件を解決することは永遠にできない、その意味で解決などという言葉は軽々しく使うべきではないと荒木氏は指摘しました。
そして安倍首相は「認定にかかわらずすべての拉致被害者を救出する」と述べたけれど、たとえばストックホルム合意の後、北朝鮮側が田中実さん、金田龍光さんが北朝鮮にいることを告げてきたとき、日本側は、最近の外務省の斉木氏の発言で分かるように受け取ることを拒否して突き返した。おそらく、この二人を受け取ったら、それで拉致問題を幕引きされると思ったのかもしれない。しかし、もしもこの二人が、たとえば横田めぐみさんとか、有本恵子さんだったら日本側は同じ態度をとっただろうかと荒木氏は述べ、まず、助けられる人から助けていかなければならないと強調しました。そして、このお二人については、協議会事務局の三浦と共に本を作ることを企画していると報告しました。
そして、現在調査会が行おうとしている様々な活動を説明しつつ、なぜ拉致問題が解決できないか、動かないかの本質的な問題点は、戦後体制そのものにある。自分は、拉致問題解決のために、自衛隊も何らかの形で活用することを呼びかけてきたが、全く動かないのは、戦後日本は、アメリカに防衛や外交面をゆだね、また、アメリカも冷戦下、日本が自分たちに逆らわない範囲で管理してきた。ある意味、国家としての自立を奪われる、あるいは自ら放棄してきた、自分の国の主権、国民の人権を、自力で守るということに真剣にとりくんでこなかったのが戦後日本だと述べました。
そして荒木氏は、日本が本当にアメリカと対等になろうと思ったら、極論を言えば【1】アメリカともう一度戦争する もしくは【2】アメリカとともに敵国と実際に戦う しかないと、極論ではあるが思っていると述べたうえで、少なくとも、拉致問題に関しては、アメリカであれどの国であれ、第三国に頼るのではなく、日本が自分で主体的にやるしかないと述べました。
朝鮮半島の問題は、拉致に限らず、北朝鮮、韓国、ロシア、中国、日本、アメリカの6か国の立場が絡み合う「6次方程式」であって、台湾を加えればさらに7次方程式になる。そのような複雑な問題であるからこそ、日本が主体的に取り組むしかない。逆に言えば、この拉致問題を解決することは、日本がまともな国になるための一里塚だと荒木氏は結論付けて公演を終えました。
そして、講演の中で、今北朝鮮に対しUSBを送り込むことを企画している、その中には、特定失踪者の情報、そして協議会広報の古川郁絵の詩が録音されており、北朝鮮国内に様々な情報を入れていくことを強化していくべきことが指摘されました。(文責 三浦)
講演後、イランの人権問題に取り組む日本在住イラン人の発言が行われました。
イラン人の方による証言についてはこちらの記事をご参照ください。