アジア自由民主連帯協議会島根県支部主催講演会
「戦わざる者は滅びる」ナザレンコ・アイドリー氏講演会報告
3月18日午後2時から、島根県出雲市民会館会議室にて、アジア有民主連帯協議会島根県支部主催、東アジア人権会議共催、国なおしの会協力による、ウクライナ人ナザレンコ・アイドリー氏の講演会「戦わざる者は滅びる」が開催されました。参加者は約50名。
まず冒頭、ウクライナ国歌、日本国歌斉唱ののち、主催者の林常彦氏が開会あいさつを述べ、ナザレンコ・アイドリー氏が登壇しました。ナザレンコ氏は、まず日本国のウクライナへの多大な支援への感謝の念を述べたのち、昨年2月の戦争勃発の時期から解説を始めました。
同氏は、昨年2月21日、駐日ロシア大使のガルーチン氏が「我が国は戦争する意思はない」と述べた数日後、24日にはロシアの侵攻が始まったこと、そして、今、私の生まれた町であるハルキウは、ミサイル砲撃を受けて、私の卒業した学校は今や存在していない。ロシアは、自分たちは軍事施設しか攻撃していないというけれども、私の学校の近辺には軍事施設などは存在しないとまず指摘しました。
そして、現在の日本の戦争報道はやや表層的ではないかと指摘したうえで、今ウクライナで起きていることは①小麦の輸出停止による世界的な規模の食糧危機;ウクライナは昔から農業国で、世界の小麦の11パーセントを生産していた、この小麦輸出の停止によって、国際的に1000万単位の食糧危機が起きかねない ②ウクライナの子供の拉致;ウクライナの子供たちが親の許を引き裂かれ、一部はロシアの家庭に入れられて洗脳教育を受けている。これは、中国共産党もウイグルやチベットの子供たちに同じことをしているが、許されない非人道的行為 ③ウクライナのインフラ破壊:ロシアは電撃戦の勝利に失敗したのち、大学、病院、発電所などへの攻撃を強めており、特に停電によってこの冬は本当にウクライナは大変だった。ウクライナは冬にはマイナス15度から20度にまで気温が下がり、子供や老人、病人は凍死しかねない状態だった。ナザレンコ氏はこのように具体例を挙げ、この戦争の悲劇と国際的影響を訴えました。
これは公的な場ではあまり言わなかったけれどと断ったうえで、ナザレンコ氏は、この戦争で、母と親しい友人を失ったことを述べました。友人とは二コラ・クラフチェンコという人で、彼は出版社を経営し、日本の歴史認識についての正しい本を出していたが、今回の戦争に、軍歴があったため自ら志願し、マリウポリの戦いで戦死。また母は、重い病気にかかっていたけれど、戦場になった街では入院できず、離れた町に避難したが、十分な治療を受けられずなくなったとナザレンコ氏は語りました。
そして、友人が戦死したマリウポリの戦いについて、町は完全に包囲され、町は砲撃で廃墟となったが、最後まで兵士たちは戦い続けたと述べ、そこで時間を稼いでくれたからこそ、ウクライナは反撃の準備をすることができた。テレビのインタビューでアゾフ大隊の兵士が、「この町は破壊され、守るべきものはすでにないかもしれない、しかし、日本の人にはわかってくれると思うが、この町は祖国であり、だからこそ最後まで戦う」と語っていたことを紹介し、彼らの戦いは決して無駄ではなかったと述べました。
さらにナザレンコ氏は、日本のマスコミには理解できない言論をする人がいると指摘し、橋下徹氏が、「ウクライナは一度撤退すればいい、プーチンだって後何十年も生きているわけではないのだから」という意味のことを語ったが、北方領土はスターリンに侵略され、しかもそのスターリンが死んで70年たってもまだ返還されていない、独裁者が一度獲得した領土を、再び変換することなどありえないと述べました。そして、領土を奪われる、失うということは、その領土を切り開いた祖先への裏切りであり、未来の世代からその領土を奪うことだということを、日本の皆さんはよく認識してほしいと述べました。
また、ウクライナの歴史において最もひどい虐殺が行われたのは、スターリン体制化のホロドモールであり、ウクライナの食糧をすべて奪い、その数もよくわからないが、600万人が餓死したとされる。そして、そこにやってきて住み着いたのがいわゆるロシア系住民であって、この時はスターリンは、食事をしているウクライナ民衆の食べ物まで奪い、すべてを輸出して外資獲得をしたと批判しました。ロシアにせよ中国にせよ、このように、先住民族を虐殺し、追放することを政策として行ってきていることをナザレンコ氏は強調しました。
そして、今、国際司法裁判所が現在プーチンを戦争犯罪人と指定しようとしている、これはウクライナでの虐殺や子供の誘拐が明らかになったからで、日本では、敵が攻めてきたら降伏した方が犠牲は少ないという左翼がいるけれど、今回プチャ市やイジューム市では、数日で陥落したのにその後虐殺が起きた。降伏はそのような悲惨な結果を生むとナザレンコ氏は警告しました。
ウクライナは今持ちこたえているが、それは勿論国際的な支援があるからだし、それには感謝していると述べた上で、しかし、この支援は、あくまでウクライナが戦ったからこそ得られたものだ、最初ドイツに支援を求めた時、ドイツは、「2日くらいでウクライナは敗北するだろうから、今支援しても意味がない」と答えた。しかし、ウクライナは戦ってロシアの侵略を退けたからこそ今がある、これは、タリバンの侵攻の前にあっけなく崩壊したアフガニスタンを観ればよくわかるとナザレンコ氏は述べ、まず、国を守って戦うことの意義を強調しました。
そして、とにかく戦うよりは降伏した方がいい、どんな形であれ戦争を避けたいという「不戦主義」は戦後日本にも強く存在するが、これは全くの間違いで、かえって世界のパワーバランスを崩して平和を乱すことになるとナザレンコ氏は指摘し、たとえば、プーチンは今度の戦争で、極東の兵隊をほとんどウクライナに派遣している、なぜそれができたかと言えば、日本は北方領土問題があるというのに、絶対に動かないと考えたからだ。戦争は逆に、不戦主義や、平和主義こそが生み出すのだとナザレンコ氏は国際政治の現実を指摘しました。
ウクライナ自身の反省として、我が国も、ソ連崩壊と冷戦の終結を、平和の訪れと勘違いし、軍備を縮小し、核兵器を放棄したことが間違いであったこと、また、ロシアが、1991年チェチェンに侵攻、92年にモルドバ、2008年にジョージアに侵攻した時、それぞれ、国際社会はロシアを止めなければいけなかったのに結果として放置したことが、2014年のクリミアと今回のウクライナ侵略につながったとナザレンコ氏は述べました。
そして、日本の皆さんにとっても、このウクライナ侵略と、それを正当化するロシアのロジックは決して他人ごとではないとナザレンコ氏は強調しました。まず第一に、ロシアは、ウクライナがNATOに加盟しようとした、ウクライナに米軍基地ができるかもしれないから、戦争を起こしたという。それなら、日本が今、日米同盟と、軍備を強化しようとしていることは、例えば中国からすれば十分侵略の理由となる。
また、プーチンは、クリミアは正規のウクライナ領土ではない、そこに住んでいるロシア系住民を保護するために戦争をしたという。それなら、「沖縄は日本の領土ではない」「沖縄人の権利が蹂躙されている」という、中国、そして沖縄の一部言論は十分侵略の要因となる。また、ロシアは、アイヌは北海道の先住民族だと言い始めている。これは「ロシアの先住民族」であるという意味で、この言葉は今後侵略の正当化になる。ナザレンコ氏はこれらの例を挙げて、侵略のロジックは、中国やロシアが日本を侵略する時にも十分使われることを訴え、日本人の自覚を求めました。
そして、ウクライナと日本を比較すると、日本は素晴らしい文化や経済力を持っているけれど、実は侵略について、ウクライナより不利な面もあるとナザレンコ氏は指摘しました。①ウクライナには領土問題は本来存在しなかったが、日本には北方領土、竹島、尖閣などの問題を抱えている。②ウクライナは核シェルターが配備されているが、日本にはない。③ウクライナの敵はロシア一国だが、日本は、中国、北朝鮮、ロシアなど数か国が敵国。④ウクライナは食料自給率が100%だが、日本は低い。⑤ウクライナは軍役経験者が多く、一定の徴兵も敷かれているが、日本の自衛隊は兵員も武器も足りない。ナザレンコ氏はこれらの問題を列挙し、日本国民がこの現実を直視することを求めました。
ナザレンコ氏は最後に、今回のウクライナ戦争は、国際法の秩序を守り、侵略を許さないための戦いであること、同じように、中国による台湾侵略を許してはならず、日本はそのために準備すべきだと述べました。ウクライナ戦争で世界は覚醒しつつあり、日本もまた、あらゆる意味で正常化され、国防意識を高めなければならないことを訴えて講演を終わりました。
その後、アジア自由民主連帯協議会事務局の三浦が、ウクライナの国民詩人、シェフチェンコの詩を紹介。続いて、質疑応答ののち、山口県岩国市議会議員の石本崇氏が、現在岩国で進んでいるソーラーパネルの問題を強く訴え、現在、ウイグルで強制労働の中つくられているソーラーパネルが岩国に導入されようとしている、アメリカではそれは輸入禁止なのに、日米安保により米軍基地が設置されている岩国にそれが政党の利権がらみで導入されている。しかも、自民党の国会議員もこの件については関心が鈍い、国民の力でこの問題を訴えねばならないと語りました。
最後に、大田市議会議員の清水好氏が登壇、慰安婦問題について、アメリカでは特にこの問題への誤解や偏見が強いことを訴えたのち、実は島根県議会は、この慰安婦問題について、県議会として、平成25年6月26日、「日本軍「慰安婦」問題への誠実な対応を求める意見書”」を採択し、事実上慰安婦問題において韓国側の言い分を認めてしまっている。しかも、現在に至るまで、何度もこの意見書の取り下げが求められているのにそのままになっている。竹島問題を訴えるべき島根県議会がこのような状態では領土問題への説得力も疑われると訴えました。午後4時半、講演会は終了しました(文責 三浦)