11月8日午後2時から、虎ノ門ホールにて、第13回アジアの民主化を促進する東京集会が開催されました。参加者は約40名。
まず基調講演として、「中国の覇権主義にどう対抗するか チベットの現状とその解決策」と題し、台湾在住のチベット人、ケドループ・トゥンドップ氏の基調講演が行われました。トウンドップ氏は、ダライ・ラマの兄ギャロ・トンドゥプの息子。ダライ・ラマ法王の私設補佐官を務め、1979年の最初の訪米に同行。1980年から1993年まで、ダライ・ラマによって北京に派遣され、非公式の形ですが、習仲勲、胡錦濤と交渉にあたっています。チベット亡命国会議員を3期務めました。
まず、トゥンドップ氏は、チベットの現代史についてから講演を始めました。1959年、自分が7歳の時、ダライラマ法王がインドに亡命、それ以後、チベット人たちはずっと抵抗運動を続けてきたと語りました。
チベットは独自の文化、歴史、伝統を持っており、チベット人はチベットの大地で数千年にわたって定住してきた。その文化も生活習慣も、信仰も、中国とは全く違う。そして、最近中国はチベットという言葉も変えて、西蔵と呼ぶようになった、これは中国が完全にチベットを抹殺しようとする意識の表れだと、トゥンドップ氏は批判しました。
チベット人には自分の文化伝統と、国家主権を守る当然の権利があるのに、1950年に始まった中国の侵略はそれを奪い取った。多くのチベット人が殺され、拷問され、外国に亡命せざるを得なくなった。特に、中国の弾圧に抵抗した人たちが最もひどい虐待を受けた。そして、中国は大量の移民をチベットに送り込み、それによって中国化を進めている、これは文化ジェノサイドと呼ぶべきだとトゥンドップ氏は指摘しました。
そして、1950年に人民解放軍が「兵赤井奉」という名目で侵略を始めた時、チベット側は自国を守るための準備ができていなかったし、それまである種の鎖国政策をとっていたため、外国の支援も受けられなかったと、トゥンドップ氏はチベット側の問題点も率直に認めました。そして、過去70年にわたり、100万人以上のチベット人が犠牲となった。中国はチベットの平和解放を祝うといっているけれど、チベット人として何一つ祝福するものはないとトゥンドップ氏は語りました。そして、習近平は平和解放70周年ということでチベットを訪問したが、その時も、当時締結した17条条約については何も触れず、平和という言葉も使わなかった。そしてチベットで習近平が会ったのは中国軍の幹部だけだったとトゥンドップ氏は述べ、中国は軍事占領しているに過ぎないと指摘しました。
しかし、どんなに力でチベットを支配しても、中国はチベット人の心を従わせることはできていない。チベット人の精神的支柱はダライラマ法王であり、チベット人の信仰心は誰にも破壊することはできない。中国政府は自分たちでパンチェンラマをでっち上げたが、チベット人は無神論の共産主義者が押し付けるパンチェンラマを受け入れることはできないとトゥンドップ氏は批判しました。そして、習近平の政治が続く限りチベットの状況がよくなることはない。国際社会が、中国に対して圧力をかける以外に方法はないと力説しました。
そして、2011年には750名のチベット人が国境を越えて亡命することができたが、2020年は5名しか脱出できていない。それほど警備と国境封鎖が厳しくなっている。また、これまでチベット人が行ってきた焼身抗議も、現在は抗議した人の家族がすべて罪に問われるため、行うことができなくなっているとトゥンドップ氏は指摘しました。
また中国は、チベット人すべてのDNAを採取し、ビッグデータとして管理、また全土に隠しカメラを設置し、チベット人すべてを監視している。そのうち、活仏の転生までもデータ化して支配しようとするだろう。最もひどいことは、100万人のチベットの子供たちを親から引き離し寄宿舎に入れて、チベット語も学べないようにして、中国人化する教育をしている。これまでの中国の指導者の中でも、習近平は最もひどいことをしているとトゥンドップ氏は述べました。そしてこれはウイグルやモンゴルも含め、すべての民族を「中華民族」として市販し、各民族の自治も文化も奪って、一つの大中華にし、チベット人すべてを中国共産党に隷属させようとしているとトゥンドップ氏は述べました。
中国の人権弾圧は民族ジェノサイドに対しては、世界各国で抗議の声が上がっているが、中国は全くその声に耳を傾けようとしない。本来ならば、このような犯罪行為は、正しい制裁と裁判を受けて当然だとトゥンドップ氏は述べました。さらに、これまで自分は中国の政治家と交渉したこともあったが、彼らは一様に、チベットを完全に中国化すること以外は考えていない。これまで、中国の支配に抵抗し、たくさんのチベット人が英雄的に戦ってきた。チベットが中国に決して屈しないことは、誰よりも中国政府が知っている。もしも中国がチベット支配はうまくいっている、チベット人は幸福に暮らしているというのなら、中国はチベットで自由な言論や選挙を認めたらいい。中国政府は決してそんなことはしないだろうとトゥンドップ氏は述べました。
そして、チベットはチベット人による独立国家になるべきであり、それによってこそ自由で豊かなチベットが生まれるだろうと基調講演を結びました。
第二部では、アジア諸民族の訴えが行われました。
まず、ウイグルのイリハム・マハムティ氏が、ウイグルでは若者を中心に次々と収容所に入れられているが、そこで臓器収奪が行われていることはほぼ確実であること、それはウルムチ事件の後から、ウイグルの若者が行方不明になった時点から始まっている可能性があることが述べられました。そして、特に2010年の段階で、中国政府はウイグル人全員のDNAデータを取り、それを分析することで、この臓器収奪に利用していると述べました。
また、近年、中国はごく一部のウイグル人に故郷への帰国を許している、そして、ウイグル人への弾圧は嘘だ、彼らは自由に出入国で来ているではないかというプロパガンダを振りまいていると、中国の情報工作を批判しました。
続いて南モンゴルのオルホノド・ダイチン氏が登壇、自分たちがなぜ南モンゴルという言葉を使うかと言えば、「内モンゴル自治区」というのは中国政府が勝手に使っている言葉であり、自分たちはモンゴルは現在のモンゴル国と分断された存在であり、民族自決権を持つという意味で南モンゴルという名称を名乗っていると述べました。さらに、文化大革命の時代、モンゴルではまさにジェノサイド政策がとられ、当時のモンゴル人は虐殺された。そして今では、モンゴルの母語までが教育で廃止されている。中には、いや、学校でもモンゴル語が学べているという人がいるが、授業がすべて中国語で行われ、母語のモンゴル語は幼年教育時に、しかも選択制で残されているに過ぎない。中国政府はしばしば人類共同体という言葉を使うが、中国政府が中心となった共同体は、悲惨なものにしかならないと批判しました。
続いて民主中国陣線のLu Kaki(卢家熙)氏が登壇。中国共産党は中華人民共和国建国以後、あらゆる人権を弾圧してきた、食料を得るという当たり前の権利まで許さなかったと批判しました。これは大躍進政策の時代、数千万単位の餓死が出たことでも明らかだ。そして、文革はもちろん、改革開放政策に移ってからも、格差社会が拡大し、貧しい人たちは失業し生きていけないと指摘しました。そして現在は腐敗撲滅を理由に経営者たちまで逮捕しており、また福島の処理水を汚染水とみなして日本製品を輸入禁止にしたため、日本料理店まで倒産していると述べました。
そして、ウイグル、チベット、南モンゴルはもちろん、香港も民主化運動が弾圧され、香港からは15%から20%の人が海外に逃れている。そして、中国はここ日本にも海外警察署を設置し、主権を侵害するとともに、海外の民主運動家を監視している。しかし、どんなに抑圧が厳しくなっても、民主化運動を止めるわけにはいかないと述べました。
ここで、特別ゲストとして、イランのエサニ・マジアル氏が登壇。イランはもともと多民族国家であり、しかも紛争もなく幸せに共存していたが、ホメイニのイラン・イスラム革命以後まったく状況は変わってしまった。そして、イラン・イラク戦争をはじめとして、現在のパレスチナに至るまで、中東はイスラム教同士が殺しあう戦禍が続いている。現在のイラン政府は、私の考えでは中国やロシア同様「悪の枢軸」だ。いまガザ地区でテロを行ったハマスにしても、その背後にいるのはイラン政府であると考えると述べました。
その上で、よく、中東に平和はいつ来るのかと聞かれるが、正直、石油があり、大国が様々な干渉を続ける限り平和は来ないとしか言いようがない。そして、今のイラン政府と国民の意思は全く違うことを理解してほしい、もともとホメイニーはインド系の人物であり、彼のイスラム教はシーク教徒の影響が強く、今のイラン指導者はイランの歴史や伝統とはほとんどかかわりがないと述べました。
続いてベトナム革新党のグエン・ハー・ギオック氏が登壇しました。最近、自分の友人がベトナムで逮捕されてしまった。最初は麻薬取締法違反ということだったが、彼は麻薬とは何の関係もない。証拠も挙がっていないのに、逮捕後に国家反逆扇動罪に変わり、今は8年の刑を受けている。
しかしとんでもないのは、このような間違った司法を行っているベトナムの司法関係者は、ここ日本で、しかも日本政府法務省の支援を受けて法律学や司法制度について学んでいることだ。だが、その結果はこの有様だ。そして、この友人は日本でベトナムの民主化運動に参加したことが、弾圧の対象になったようだ。ここを日本の人たちも考えてほしいと述べました。
続いて、カンボジア救国活動の会の露木ピアラ氏が登壇。今回、カンボジアでは選挙が行われたが、野党のキャンドルライト党は全く立候補が認められないという不正選挙だった。これはかって日本も積極的にかかわった、パリ・カンボジア和平協定と、その後の国際的な監視団の下での民主的な選挙を裏切るものだ。しかも、キャンドルライト党副党首のタッチ・セター氏は不当逮捕されて獄中にいる。その理由の一つは、海外でカンボジア政府批判と民主化を訴えたことで、そこには日本の議員会館での証言も含まれていた。フンセン首相は不正選挙の後、政権を息子のフンマネットに譲っており、まさに、独裁政権の世襲が行われているとピアラ氏は批判しました。
最後にバングラデシュのプロヴィール・ビカシュ・シャーカー氏が登壇。まず、戦後日本は、中国に対し多額の援助をしてきたが、中国はそれに感謝するどころか、とんでもない覇権主義、侵略主義の国になってしまい、アジアの平和を脅かしている。また、アメリカのすべてではないが、アメリカの支配層の一部はこの中国と癒着している面もある。中国は現在、偽善的な平和主義を掲げ、ロシア・ウクライナ戦争やパレスチナ・ガザ地区などで調停役めいた役割をしようとしているが、本当は中国にはそんな資格も力も責任もない。
そして、中国が今狙っているのは台湾だが、その次は必ず日本となるだろう。私たちは今の情勢を分析するだけではなく、歴史を学び、戦前の日本が何をめざしたか、戦後が何が欠けているかをよく考えて未来を設計しなければならないと述べました。
そして、香港建国連盟のアラン・チョウ氏からメッセージが寄せられました。アラン氏は、日本の大学に留学していた女子大生が、香港に一時戻った際に香港国家安全維持法違反で逮捕されてしまった例を挙げ、その理由は、日本留学中の二年前に、香港独立を支持する文章を自分のFacebookに書いたことだったと指摘しました。彼女は釈放されましたが、パスポートは没収、二度と日本に来ることはできない状態です。
今や香港では一国二制度は完全に崩壊し、中国共産党は、ウイグル、チベット、南モンゴルでの民族浄化という国家犯罪を続けている。香港は独立する以外に、自由・法治・人権を取り戻すことはできないとアラン氏は訴えました。
この後は短い質疑応答の後、アジア人権賞が、ペマ・ギャルポ会長から、カンボジアのキャンドルライト党副党首のタッチ・セター氏に送られ、また、以下の決議文が古川郁絵広報局長によって発表され、拍手を持って了承され、午後5時に集会は閉会となりました。(文責 三浦)
第13回アジアの民主化を促進する東京集会
決議文
10月18日、英国の国連代表部は日米を含む51カ国による共同声明を出し、中国に新疆ウイグル自治区での人権侵害の停止を求めた。国連がウイグルにおける虐待や強制労働の改善を昨年の人権報告書において求めたにもかかわらず、何ら中国政府の姿勢に変化が見えないことを批判したものだ。ウイグルのみならず、南モンゴルにおいては母語教育が完全に廃止され、チベットにおいても、チベット人の子供約100万人を家族から引き離して寄宿学校に入れ、強制的に漢族に同化させるなど、中国政府は各民族に対する民族絶滅政策を続けている。
この中国の独裁体制は全アジアに民主主義の危機をもたらしている。北朝鮮の独裁体制は中国の支援のもと様々な軍事的挑発をおこない、カンボジアでは先の選挙で正当な野党であるキャンドルライト党は立候補自体を許されなかった。ミャンマーでは軍事政権と民衆、また各民族間の衝突がさらに激化している。今、アジアと世界は、自由民主主義と全体主義という二つの価値観の間で、妥協を許さぬ政治的決戦の時代に入りつつある。/香港における民主主義の圧殺、民主化運動への徹底的な弾圧、法輪功への迫害なども悪化の一途をたどっている。このような犯罪行為を看過してしまえば、国際法および、自由、人権、民主主義、民族自決権といった、私たちが守るべき普遍的価値観は踏みにじられ、世界は中国共産党の全体主義に屈する危機が訪れるだろう。
私たちはそのような未来を認めることはできない。本日、様々な立場から発信された、アジアの民主主義を守り、促進し、各民族の民族自決と、その固有の価値観や伝統を守ろうとする人々と共に。私たちはこのアジアで、そして世界で、全体主義を断固否定し、自由民主主義の側に立って闘うことをここに誓う。
2023年11月8日
第13回アジアの民主化を促進する東京集会参加者一同