【第67回報告・動画あり】講演会 鈴木英司「中国政府の『スパイ罪』による不当逮捕の実態」

 3月16日、東京お茶の水の会議室にて、アジア自由民主連帯協議会主催の鈴木英司氏講演会が開催されました。参加者は約30名。

 ペマ・ギャルポ会長の開会あいさつの後、鈴木英司氏が登壇。鈴木氏は1980年代から日中交流事業に関わり、これまでも中国要人と交流、日中の民間外交と友好のための尽力され方です。しかし、2016年7月15日、北京の空港にて拘束されてしまいます。

 鈴木氏は、空港で6人ほどの怪しげな男性客がたむろしていたけれども、その時は特に意識したわけではありませんでした。しかし、いきなり彼らが自分を取り囲み「鈴木か」と問いかけ、そのまま車に押し込まれて連行されます。鈴木氏は、君たちは何者かと問うと、彼らは、北京市国家安全部のものだと名乗りました。車内ではアイマスクで目隠しされ、携帯電話、腕時計などを取り上げられ「日本大使館に連絡してほしい」と訴えても、「我々の仕事ではない」と聞き入れてくれません。1時間ほど走り、目隠しされたまま車から降ろされ、あるホテルの部屋に入れられました。

 鈴木氏の解説によれば、国家安全部とは、スパイの摘発とともにスパイ活動を同時に行う部署であり、秘密警察とはこの安全部を意味します。そして彼らが鈴木氏に示したのは、国家安全部部長の署名文書で「鈴木英司を逮捕してよい」というものであり、文書であって正式の逮捕状ですらありません。

 アイマスクをつける理由は、ここがどこなのか一切知らせないためであり、窓際にもカーテンがかけられ開けさせず、夜も電球が一つともり、24時間、交代制でその部屋には監視が付きます。中国ではこの安全部案件は基本公になることはないので、こうしてとらえられた人は闇から闇に処理されかねません。

 毎日取り調べられ、24時間4交代でつねに当局の人間が監視しています。部屋の四隅には監視カメラもあり、部屋は一晩中明るくされ、シャワーやトイレには扉がなく、ずっと見られている状態でした。本やテレビなどの娯楽や、時計やカレンダーもなく、ペンや紙も使えません。この状態が7か月間続き、鈴木氏はこの時が一番精神的にはつらかったと述べました。もちろん、弁護士にも家族にも大使館にもほとんど連絡は取れません。中国の刑事訴訟法75条に定められた「居住監視」です。逮捕前に監禁して取り調べ、自供を迫るシステムで、鈴木氏は、これこそまさに「冤罪の温床だ」と批判しました。

 中国側の言う容疑は、日本の公安調査庁との関係でした。鈴木氏は、中国政府は、公安調査庁をアメリカのCIAと同様のスパイ組織だと認定しており、そこの関係者と話しただけでスパイ容疑、スパイ組織の「代理人」とみなされます。鈴木氏が中国の元在日本中国大使館公使参事官湯本淵氏に、北朝鮮のチャンソンテク失脚について問うたことがその容疑とされました。これは食事の席での雑談にすぎませんし、相手も「わからない」と答えただけです。鈴木氏は、本当に情報を聞き出そうと思ったら、北朝鮮関連の中国担当は、中国共産党と北朝鮮労働党の交流なので、外交部ではなく中国共産党中央対外連絡部に尋ねる。単なる一般的な会話で、スパイだなどというのは根拠はないと断定しました。また、確かに公安調査庁と会ったことはあるが、それも逮捕の理由にはならないと述べました。

 弁護士はつけることができましたが、全く役には立ちませんでした。鈴木氏が事情を丁寧に説明して無罪を訴えても、弁護士は「安全部が捕まえた以上、無罪はありえない、絶対に有罪にするので、無罪を前提の弁護ができない」とまで言われました。要するに罪を認めて情状酌量を求めるしかない。

 裁判も非公開で、一度しか開かれず、2回目はもう判決が下されます。裁判官には書面も出し、弁護士には様々な事実を訴え、通訳に問題があると思い自ら中国語で鈴木氏は訴えましたが、何ら効果はありませんでした。

 鈴木氏は、中国当局が自分を捕まえた理由を、①ほかの日本人、日本企業への威嚇②日本政府の反応をチェックする③習近平がある意味ライバルである、国際局を攻撃する意思がありそれに利用された、の3点を上げました。

 そして、中国共産党政権はいくつかの派閥からなるが、上海閥は江沢民の死後力を失っている。そして優秀な集団である中国共産党青年団を習近平は嫌っており、明かにこの勢力を弱めて自分の派閥を作ろうとしている。その主体になるのは中国革命に功績のある幹部の子孫による太子党。だが、習近平はこの中では実はそれほど高い地位にはいない。

 そして習近平体制の危険性は、ひたすら「一強主義」習近平がすべて正しいという姿勢をとっており、同時に、彼の周りはイエスマンばかり。ただ一方で、習近平の強みは、農民と貧困賞に強い支持基盤を持っている。中国の主体はある意味農民であり、ここの意識が変わらない限り決して中国は変わらない。その意味では、習近平体制はそれなりの強みがある。

 また、先日青年団の出身で、政治家、経済専門家としても優れていた李克強が、昨年心臓病で急死したが、彼に心臓疾患があったなどとは聞いたこともなく、その死には様々な謎がある。習近平政権はライバルを排除しつつ、「社会主義強国」を作るといい、今後は反スパイ法を改正して、国家安全部の権限をさらに強化している。ここで重要なのはFESCOというある種の人材派遣サービス会社だが、ここを経由して、大使館、企業などに、人材派遣と称して安全部が送り込まれ、運転手から事務員などについて日常的な監視を行うことになる。すでに大使館の中には、車の中での会話を控えるなどの事態が起きていると鈴木氏は警告しました。

 そして、このような中国のスパイ行為に関する自己防衛は個人レベルでは無理で、国、政府がリーダーシップをとって国民の安全を守るしかない。しかし現実には、自分がつかまっていた時も、明確に発言してくれたのは故安倍首相のみで、習近平と三回会見した時、いずれも自分のことを話してくれた。習近平は、「日本人の気持ちはよくわかる、日中友好のために努力する」と答えた。しかし、この言葉をせっかく安倍首相が引き出してくれたのに、外務省や日本大使館はほとんど動いてくれなかった。また、釈放されて日本に戻ってからも、政党やマスコミは好意的に自分の訴えを聞いてくれているのに、公安調査庁も外務省も自分から情報をとり役立てようともしない、連絡すらしてこないと鈴木氏は語り、日本国政府が、中国で働く日本人を守る意思を持たねばならないと述べました。

 そしてその一つの例として、今、中国で拘束されている日本人を救うための国会決議すらなされていない。確かにウイグル問題などで人権決議がされるのはよいことだが、自国民の問題を真剣に考えないような国家では本来他国民の人権も救えない。自分は、中国というお隣の大国、国際的に強い影響力を持つ国がこのままではいけない、政治的にもよくなってほしいからこそ、こうして訴えているのだと講演を結びました。

 その後、約30分ほど積極的な質疑応答がなされ、今回の講演は午後4時40分に閉会となりました(文責 三浦)

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