7月13日、東京五反田の会議室にて、当会常任副会長のイリハム・マハムティ氏の講演会が開催されました。参加者は約20名。
イリハム氏は、2009年のウルムチ事件の背景について、当時のウイグルでは、穏健で伝統的なイスラムの教えを説く人は次々と弾圧されていたが、過激なイスラム原理主義的な言説はなぜかさほど弾圧されず、それに影響を受ける人が出てきていたことを指摘しました。特に一部の若者がかなり悪影響を受け、両親に対し逆らうような傾向が生まれたと、追い詰められたウイグルの若者の一部に過激な思想が広まった可能性を指摘しました。
ウルムチ事件以後の2010~2011年ごろには、ウイグル人は村から村、町から町に自由に移動することも厳しく取り締まられたのに、ヒジャブをつけたウイグル人はなぜかウイグルを脱出して東南アジアに難民として逃れることができた。そして、中東に亡命し(これにも海外のウイグル人が何らかの形で関与していると思われるが)シリア内戦に参加したウイグル人もいる。またそれを中国は大々的に宣伝し、ウイグル人がテロや戦争を肯定している過激な民族だという印象を広めたとイリハム氏は指摘しました。
そして、イリハム氏自身も、東南アジアで一時期難民救援に携わっていたが、確かに、それまでのウイグルではほとんどいなかった原理主義的なイスラム信仰を持った人たちがいた。この、寛容なイスラムを弾圧し、逆に過激な原理主義の言説はネットなどである程度流されていたことに、イリハム氏は、何らかの中国政府の工作を感じずにはいられないと述べました。
そして、現在指摘されているウイグルの収容所が最初にできたのは2014年あたりで、この背景にも、シリアなどでウイグル人が戦争に参加していることから、ウイグル人は危険な信仰を抱いているので「再教育」しなければならないという理由で作られていったとイリハム氏は述べました。
また、ウイグルで難民を救援する人や組織も、本当に人道的に命を救うために活動していた人もいるけど、シリアのような地での「ジハード」に送ろうとしているような団体も見られた。ウイグル難民はとにかくまずトルコを目指すのだけれど、イリハム氏は、トルコと中国の間にも何らかの悪しき関係があり、ウイグル難民を利用していたのではないかと述べました。
そして、2016年ごろからは、中国はウイグル人に、ほとんど強制的にパスポートを申請するように命じ、そのあと1年ほどしてから再び回収、一度でも中東に行ったものは全員、危険な思想を抱いたとして逮捕、収容所送りとなった。この2017年ごろからは完全に収容所体制が全土に敷かれている。ただ、今年になって、状況が少し変化してきたとイリハム氏は述べました。
それは、中国政府が、海外のウイグル人に、ビザを申請すればウイグルに帰れると宣伝している。実際に帰れる人もいて、そして、家族と再会すれば、その模様は大々的にネットなどで宣伝される。それで、中国は政治を変えたとか、これまでウイグル人が訴えてきたことは嘘だというキャンペーンを貼ることもできる。こうして中国はウイグル人内部の分断を図っているとイリハム氏は述べました。だから今海外のウイグル人の中でも、帰るべきかどうかという議論ばかりが起きているのが現状だとイリハム氏は述べました。そして、中国の分断政策はこれまでのしばしば成功しており、これが中国の恐ろしいところだとイリハム氏は述べました。
そして、自分もイスラム教徒だが、現実のイスラム社会や国家には問題もあり、特にイスラムを信ずる国でも国家が独裁体制・強権体制をとっている場合は、中国と極めて親和的になる。この問題からも目を背けるべきではないと講演を結びました。(文責 三浦)