アジア自由民主連帯協議会主催シンポジウム
「中国の覇権主義と領土拡張主義の脅威 今こそ必要『自由で開かれたインド太平洋戦略』報告
8月10日、当協議会主催の「中国の覇権主義と領土拡張主義の脅威 今こそ必要『自由で開かれたインド太平洋戦略』と題されたシンポジウムが、午後2時半から東京赤坂のワイム貸会議室で開催されました。参加者は約80名。
ぺマ・ギャルポ会長の開会あいさつの後、杉田水脈議員が登壇。アジアの人権問題、特にウイグルやチベット、南モンゴルなどの問題が、この協議会が結成された10数年前に比すれば、日本においても世界においてもかなりの理解が広がったことをまず評価し、日本の国会においても、自分自身が南モンゴル国会議員連盟で事務局を務めているが、ウイグル、チベット、南モンゴルそれぞれ超党派の議員連盟が作られており、またそれを横断する形でのアジアの人権問題に取り組む議員連盟も作られていることを述べました。
その上で、中国の人権問題について、例えば戦前の日本は、民主化を求める中国人留学生や運動家を支援した歴史もある、今、私たちは差別的な発想に陥るのではなく、今日この集会に参加されているようなアジアの人たちとは連帯してかなければいけないし、中国共産党の現在の独裁体制を変えるのは、アメリカでも日本でもなく中国の心ある人たちだということを忘れてはならないと述べました。
続いて松原仁議員が登壇、自分は国会でしばしば厳しい発言を外務大臣に対してしているが、決して個人攻撃や与党批判が目的ではない、日本のあるべき外交の姿を訴えているだけだと述べました。その上で、中国の覇権主義や不法な行為に対し、単に政府が口だけの抗議や遺憾の意を表するだけでは意味がない、実質的に結果を出さねばならない、そのことを常に日本外交に求めているのだと述べました。
さらに、自分も杉田議員も、与野党を問わず多くの議員が台湾に訪問した、それに対し中国政府は激しく攻撃をしているが、これは全くの越権行為で、他国の政治家の政治活動の自由について言われる必要はない。中国政府は習近平時代になってからますます、国内においては民族への弾圧、国外においては覇権主義を強めており、今日のシンポジウムを通じて、いかにこの中国政府の弱点を撃つか、どこを突けば最も効果的なのかを考えていきたいと述べました。
続いて、評論家・作家の石平氏が登壇。「自由世界の連帯で覇権主義中国に立ち向かおう」というテーマで基調講演を行いました。
まず、石平氏は、中華人民共和国の歴史は、他民族を侵略してきた歴史であると述べました。そして、自分もまた漢民族、中国人の一人として、ぺマ・ギャルポ先生と対談した時にそのことを謝罪した、さらに言えば、パンダも中国の動物ではなくチベットの動物であり、それはパンダの住んでいる地域は、もともとはチベットの領土だったことからも明らかだと述べました。
さらに石平氏は、今日会場に参加しているイリハム氏、ダイチン氏の領土であるウイグルこと東トルキスタン、また南モンゴルも、中国が侵略してしまった。そしてさらに言えば、1950年に始まった朝鮮戦争において、北朝鮮の金日成が韓国を侵略し、国連軍がアメリカを中心に結成されて反抗、金日成が追い詰められると、今度は金を守るために介入、それによって北朝鮮という独裁体制は生き延びることになったと石平氏は指摘しました。
また、1960年代になると、中国共産党政府はインドとの間に紛争を起こす、それ以後の歴史を見ても明らかなのは、第二次世界大戦後、一貫して中国政府は覇権主義、侵略を繰り返してきたことだと石平氏は指摘しました。
さらに、中国共産党には、国境という概念も、他国の主権や民族の自決権を認めるという発想もない。だからこそ、いかなる侵略も覇権主義も悪ではないし、また、現在は「中華民族」という、全く現実には存在しない概念を作り出し、要するにすべての民族が漢民族に従属することを正当化していると述べました。石平氏は、この中華民族という概念は、民族を「サラダボウル」にしてしまうもので、チベット、ウイグル、モンゴルのすべては「中華民族」に一体化される。万が一日本が中国の支配下に入れば、日本人もまた同じ運命をたどるだろうと警告しました。
石平氏は、中華人民共和国は、毛沢東の死後、鄧小平時代に、確かに一時的に柔軟路線をとった。しかしそれは戦略的なもので、文化大革命によって疲弊した中国が立ち直るために、西側諸国と仲良くして経済支援を引き出すためのものだったと指摘しました。ある意味世界をだましたのだが、残念ながら、それにもっとも騙されたのが日本で、大量の経済支援やODAによって中国を強くしてしまい、中国は、経済的にも軍事的にも大国となると、それまでの柔軟なポーズを棄てて、覇権主義をあらわにし、今や世界の平和が脅かされていると石平氏は警告しました。
そして、現在の中国の世界制覇の作戦というのは、まず経済侵略、これは一帯一路政策であり、中華経済圏を世界に作り上げること。もう一つはまず南シナ海を抑えることで、中国は南シナ海のほぼ全域を「九断線」で囲み、内側の島嶼の領有権と海底資源の権利と管轄権を勝手に主張、フィリピンなどとの間に緊張が高まっている。中国がこの地域を抑えることに成功すれば、台湾にとっても最悪の事態が発生すると述べました。
石平氏は、台湾の歴史を考えれば、17世紀まで、台湾が中国の領土になったことはただの一度もない、そもそも中国は歴史的に台湾に関心を持たなかった。17世紀にオランダが台湾を統治したが、当時の中国は全く傍観するだけだった。オランダから台湾を解放したのは鄭成功であり、彼の母親は日本人、彼自身も日本で生まれている。しかし20世紀まで台湾は未開のままで、この地を近代化したのは日本統治の時代だったと石平氏は台湾の歴史について述べました。
そして、習近平は台湾を「解放」という名のもとに侵略しようとしているが、それに成功すれば、台湾でもチベットやウイグルのような虐殺が行われるだろう。さらに、台湾に中国の軍事基地がおかれれば日本にとっても悪夢であり、その意味では、台湾はまさに日本の生命線であると石平氏は述べました。
現在の中国の脅威は、まとめると、一帯一路政策、南シナ海制覇、そして台湾の侵攻である。これが今まさにここにある危機であり、同時に、中国は長きにわたる反日教育の成果から、日本人を完全に敵とみなしており、仮に日本を征服した場合は、日本人を虐殺することに何のためらいもないだろう。その恐ろしさを考えるとき、私たちはの命を守るためにも、また、私たちの子供たちの世代を守るためにも、中国の侵略に備えなければならない、私たちを、私たちの子供たちを中国の奴隷にしてはならないと述べて石平氏は講演を結びました。
ここで香港の民主化を日本で訴え続けている、アレック・リー氏が登壇し、弾圧された香港の民主化運動のドキュメント映画『香港、裏切られた約束 因為愛所以革命』が、この8月末から9月にかけて日本で公開されることを報告しました。
以上で第一部は閉会し、続いて第二部に移りました、
まず、矢野義昭氏が登壇。矢野氏は、中国の覇権主義に対して総合的に説明しました。
1947年の印パ戦争に始まり、1972年のニクソン訪中、ベトナムからの米軍撤退までは、中国にとって、インド・パキスタンとの関係が中国に対し大きな脅威であり、インドが最大の敵国だったことを矢野氏は指摘しました。しかし、インドとの間に一定の和解を成立させた後、今度は70年代から80年代にかけて。中国は南沙諸島などに乗り出していく。また、フィリピンから米軍が撤退すれば、そこに付け込んでいくように、中国は常に力の空白があればそこに付け込んでいくことを指摘しました。
さらに、2012年には、スカボロー諸島、尖閣列島などへの侵略など、中国の進んだ軍拡がアメリカのアジアにおける軍事力に切迫する時期になると、ますます中国の侵略は止まらなかった。これに対し、日本政府は安倍政権時代、クアッドという国際的な連帯でこれに対峙することになった。そして、2020年以後、今度はカシミール地方やラダックに対しても攻撃を仕掛けてきている。
そのうえで矢野氏は、中国の覇権拡大の特徴は、力の空白ができればすぐにそこに侵食してくる、和平交渉は時間稼ぎに過ぎない。中国の外交は、力しか信じない外交、利己的な国益概念に属するものであり、他国との平等対等な外交関係を築く意志などないと指摘しました。そして、これに対峙するためには、①力の空白を決してつくらない②過度の挑発はすべきではないが、依存してもならない、特に経済面において、サプライムチェーンの多角化が必要である③各国との横の連帯で中国に隙を作らない(クアッドなど)④現実の戦争以外の様々な形での「戦争」、技術戦、情報戦、人権面での中国への抗議、そして日本国内の媚中派政治家や言論人の退場、などを挙げ、中国への対峙を訴えました。さらに、中ロは今は便宜的に協力しているようだが、必ず分裂し、国益上対立する、我々は外交的に中ロ分断を図っていかなければならないと講演を結びました。
最後に澁谷司氏が登壇、現在、中国政府は公式に表れている情報だけでも混乱していることがわかる。健軍記念日に新しい司令官を任命し、北京を守るための最も重要な司令官が北部に飛ばされ、いまだにそのままになっていることなど以前ではありえなかったことが起きている。そして「解放軍報」という軍の新聞の中で、「家父長制批判」など、明らかに習近平批判と思われる表現がなされている。一時力を失った李強首相が勢力を盛り返してもおり、政権中枢に大きな力の変化が起きている可能性が高い。このことを、今の日本のジャーナリストがきちんと分析や情報収集を行っていないのは致命的だと澁谷氏は述べました。
ただし、しょせん以上のことは党内人事であり、仮に習近平が倒れても大きく中国がよくなるというわけではなく、真の民主化はまだまだ先のことだろうが、今の中国経済がほとんど崩壊に近づいていることは、その発表された数字があまりにもでたらめであることで明らかであると述べ、日本や世界がそれに備える必要性があることを指摘しました。
最後に、再びぺマ・ギャルポ会長が登壇、参加してくださった皆様と登壇者へのお礼を述べ、また、バングラデシュの政変や、インドが今後ロシア・ウクライナ情勢をはじめとして大きな影響を持つ可能性などについてコメントし、このシンポジウムは閉会いたしました(文責 三浦)