映画『ビヨンド・ユートピア 脱北』公式サイト (transformer.co.jp)
https://transformer.co.jp/m/beyondutopia/
8月31日、北朝鮮人権映画祭実行委員会主催のイベントにて、映画「ビヨンド・ユートピア」が上映された。この映画では、脱北者一家が韓国に行くことに成功した事例と、もう一つは韓国に住む母親が息子を脱出させようとして失敗、収容所に送られてしまう悲劇との二つが記録されている。この問題の深刻さを改めて気づかされる作品だった。
支援者の牧師とブローカーに伴われて、北朝鮮を脱出してから、中国からベトナムへ、さらにラオスを経て、タイに逃れる脱北者一家(タイにたどり着けば、そこで警察に自首して脱北者だと名乗れば韓国に行くことができる)。山を越え、ジャングルを越えて逃れるさまがそのまま撮影されている。ルートや身分を守るために最低限の情報は隠されているが、彼らの旅路がほぼ全面的に移されただけでも、貴重な作品と言えるだろう。
北朝鮮と中国の国境を超える際も、また、中国国内を移動するのも、またベトナムやラオスを歩いて移動するのも、ブローカーの存在が必要となる。しかし牧師が「ブローカーは脱北者を人間とは考えていない。お金(になる存在)としか考えていない」というのは事実だろう。実際、何度かブローカーが金銭つり上げのためか、約束を守らなかったり、山中の移動で無駄な時間を使っているのではないかといったセリフも記録されている。
そして、正直、特にベトナムやラオスの「脱北ルート」は、「麻薬密輸ルート」とも紙一重である。私はそれを批判しているのではなく、そういう存在を利用しなければこの人たちの命も救えない現実がここにあるということを改めて考えさせられた。
脱北一家の中で老婆が、金正恩閣下は国民のために頑張っておられる、私たち国民が悪いのだという意味のことを言う場面がある。これは以前、北朝鮮の政治犯収容所の監視兵で、やはり脱出した安明哲の本で読んだと思うが、中国国内で、自分を保護してくれた人が、金日成や正日の悪口を言ったとき、思わず激高して手を出そうとしてしまった、と語っていた。ある意味、幼少時からの「洗脳」はそれくらい強い。逆に言えば、それ以外の考えを自ら排除しなければ生きてこれなかった人たちがいるということでもある。本当にこれこそ「精神の虐殺」であり「精神の収容所化」である。貴重なドキュメント映画であり、北朝鮮やアジアの問題を考える多くの人に見ていただきたい。(文責 三浦)