【動画あり】第73回講演会報告「激動する韓国情勢 講師:久保田るり子(産経新聞客員編集委員)」


 1月22日、アジア自由民主連帯協議会主催による「激動する韓国情勢」と題した講演会が東京お茶の水の会議室で開催されました。参加者は約15名。

 まず久保田氏は、昨年12月以後の韓国情勢を理解するためには、①なぜ今回、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は突如戒厳令を敷いたのか②韓国における、80年間に及ぶ左右のイデオロギー闘争の歴史の下、今何が進行しているのか③今後韓国はどこへ行くのか この3つの面からの分析が必要だと述べました。

 今回の戒厳令をめぐる一連の動きについて、久保田氏はまず時系列を追って説明しました。12月3日午後10時半、突如尹錫悦大統領は戒厳令を敷き、午後11時に宣布、軍隊が深夜国会に突入しようとし、議員と衝突。議員は断固抵抗し、逆に戒厳令の解除を要求、軍は撤退。翌日には野党を中心に大統領弾劾決議、14日には採択、大統領の職務停止。12月31日は大統領に拘束礼状(これは日本の翻訳で、韓国ではまず逮捕前に拘束礼状が発行され、48時間後に正式に逮捕令状が出る仕組み)。1月19日、尹錫悦大統領は、現職大統領としては初めて拘束されました。尹錫悦大統領はこの段階では流血の自他を避けるため拘束には応じましたが、今後は憲法裁判所に出廷して弁論に立ち、大統領罷免の可否を決する法廷闘争に乗り出すことにいなったと久保田氏は説明し、もともと法律家の尹氏は今後法廷の場で戦うことになるだろうと述べました。

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その上で久保田氏は、韓国における非常戒厳令とは、敵国と戦闘状態にあるか、あるいは、暴動などで社会秩序が極度に攪乱されているような場合、公共の秩序を守るために憲法を一時停止することを指すと説明し、これは45年前、朴正煕大統領が暗殺されたときの1979年、全斗煥大統領が戒厳令を敷いたが、その時以来韓国では45年ぶりのことになると述べました。

この戒厳令をめぐる情勢として、韓国は現在、国会は300の議員定数の中、野党である共に民主党が170議席を占めており、過半数を超える議席を握った野党は、尹大統領からすれば「立法独裁」を行っている。政府官僚の22人を弾劾訴追、事実上の職務停止に追い込み、予算案も通さないだけでなく次々と予算案の削減をお紺会う。尹大統領は「国家機能が停止し、これは実情の内乱である」と語っていることを久保田氏は指摘しました。

そして今、尹大統領をめぐっては二つの捜査が進行中であり、一つは刑法における内乱罪、職権乱用の罪。もう一つは憲法上、非常戒厳令の案件を満たしていない中、戒厳令を布告したという違法・意見の罪。今後は、内乱罪という、最高刑では処刑も課せられる罪が成立するかどうかが一つのポイントだと久保田氏は述べました。

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また久保田氏は、尹大統領は、文在寅政権において検事総長を務め、その過程で文政権の内部不正をただそうとして逆に追放された過去を持ち、逆に言えば政治経験がほとんどない大統領であったことも、今回の戒厳令の失敗を考える上では重要かもしれないとしてきました。

しかし、仮に尹大統領がこのまま失脚した場合、韓国の次期大統領になる可能性が高いのは共に民主党の李在明氏であり、彼は貧しい家に生まれ、苦学して法律家になり、さらに市長や自治体の長を務めてきた人間ではあるけれど、その過程で常に不正や利権疑惑を重ね、また北朝鮮にも送金を行った疑惑があるなど、きわめて問題の多い政治家であると久保田氏は述べました。さらに、日本に対しても徹底的な反日であり、かつて安倍首相と朴槿恵大統領の日韓合意を「強姦法」「売国奴と侵略者の合意」と罵倒したこともある、それなのに、今回政権をとれる可能性があると思ったら、1月8日に日本の全メディアを読んだ記者会見で「自分は日本を重要視している」「韓米同盟は重要だ」と、これまでの言説を簡単に翻している、これがまさに機械主義としか言いようがないと久保田氏は批判しました。

そして、この李在明が今や尹大統領を締め上げており、事実上、現在の韓国の捜査当局は、野党主導で捜査が進み、まるでショーアップするような逮捕劇を繰り広げているが、その理由としては、とにかく早く決着をつけて尹大統領をやめさせたいことにある。そのタイムリミットは5月半ばで、その理由は李在明は選挙法違反で昨年11月段階で有罪判決を受けており、この5月に大法院で有罪になれば、それで彼は大統領選に立候補できなくなる。そのために、尹大統領を5月までには能面したい。

また、現在の韓国の世論を見ればわかるように、時間がたてばたつほど、尹大統領に対する同情や支持が集まってきている。これは、野党側のやり方があまりにも強引であるためで、実際、現在国会が機能しない中、野党側は100本以上の法律を無理やり通そうとしており、国民に、尹大統領が批判していた野党の「立法独裁」という言葉が一定の説得力を持ってきていることがあると久保田氏は述べました。この件に関しては、久保田氏が産経新聞1月25日に掲載した記事から一部引用します。

「強引な捜査、勝手な法解釈、捜査機関の主導権争い、拘束劇のショー化などに、韓国世論は司法への不信と不満を募らせている。仰々しい拘束劇を、韓国メディアは「公捜処の一連の行動が『共に民主党』の圧力が理由であれば、取り調べのための逮捕(拘束)ではなく、『逮捕のための逮捕』に過ぎない」(朝鮮日報社説)と批判した。
李在明(イ・ジェミョン)代表が率いる共に民主党は戒厳令以降、公捜処に対し尹氏の逮捕を急ぎ、弾劾罷免に持ち込むための世論を形成するよう圧力をかけ続けてきた。同党の複数の幹部が公捜処に「(大統領拘束には)棺を持って(公邸から)出てくる血気を持て」などと暴言に近い発言を繰り返した。また、野党は公捜処に「閉鎖」をちらつかせるなどして行動を促してきたとされる。
こうした共に民主党の独善的な政治姿勢に世論の反発が強まっている。共に民主党は戒厳令以降、マヒ状態の国会で、自らに有利な法案を議論不十分なまま強行採決してきた。公聴会を開かず野党が多数を占める司法委員会で制定・改正した法律は100本以上に上るという。
数にモノをいわせて繰り返してきた尹政権幹部の弾劾訴追案もすでに約30本となった。尹氏の職務停止後、大統領代行を務めた韓悳洙(ハン・ドクス)首相はわずか13日で弾劾され、現在の「代行の代行」崔相穆(チェ・サンモク)経済副首相兼企画財政相も弾劾の脅しを受けている。
在野からの野党批判を「フェイクニュース」と呼び、韓国版「LINE」の国民的メッセージアプリ「カカオトーク」を監視対象にすると言い出した。
韓国で戒厳令後に起きている対立は、お互いが相手を「内乱勢力」「反国家勢力」と呼んで敵意をむき出しにしており、内戦の様相さえ呈している。」
(韓国大統領の弾劾政局はまるで内戦、「左派のゲシュタポ」公捜処に抗する尹氏)

続いて、久保田氏は韓国という分断国家のイデオロギー対立、というより建国以来の「内戦状態」について解説しました。一般的に先進国では、経済成長とともに極端な左派勢力は減退し、保守的な政治に向かうものなのだが、韓国においては、経済成長すればするほどむしろ左翼が強くなる傾向がある。この理由を、久保田氏は以下のように説明します。

まず、韓国は第二次世界大戦後の建国時、その基本理念は反共。親米・反日だった。そして北朝鮮は、朝鮮戦争後、武力による韓国支配が困難であることを知り、韓国国内の共産化を進めるため、韓国における労働運動、司法、学生組織、文化面(特に映画界)に対する浸透工作を数十年にわたって続けてきた。韓国における左翼運動も思想も、それだけの下地があると久保田氏は指摘しました。

続いて、1987年に実現した韓国民主化ののち、左派勢力は積極的に民族主義と結びつき、韓国は自力で抗日戦争を行ってきた北朝鮮と比して、日本統治下に日本に協力した政治家や軍人、官僚が作り上げてきた国であり国家的正当性がないという宣伝を行った。そして、民主労組という巨大な労働組合を作り出し、その中には教職員組合である全教組が存在、ここが、例えばロウソクデモのような大規模な反政府デモの時は動員組織となり、日当をデモ参加者に払い、バスなどで運動家を動員する。このような工作の成功によって、21世紀以後は、韓国国会内に、事実上北朝鮮のシンパというべき政党が(民主労働党及びその継承者)議席を得るまでに至ったと久保田氏は韓国のっききを指摘しました。

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最後に、韓国がこれからどこへ向かうのか、というテーマについて、久保田氏は、まず、韓国国民は、革新的な左派、保守派はそれぞれ約30%。残り40%はいわゆる中間層で、この人たちがどちらにつくかで流れは変わる。最近の世論の傾向を見ても、この中間層が常識的な判断をし、バランスをとれた政治に移行することをまずは期待することを述べました。

また、現在革新的な左派層は50~60歳代であり、この世代の退場までにはまだ時間がかかるが、若い層にはもう少し現実的、客観的な見方ができる人が増えており、その世代交代とイデオロギー政治からの脱却(約10年ほどはかかるが)が必要だと指摘し、公園を結びました。その後も約30分間、積極的な質疑応答がなされ、参加者の韓国に対する関心の高さがうかがわれました。(文責、三浦)

(追記)韓国の尹錫悦大統領による非常戒厳をめぐり、検察は1月26日、内乱を首謀した罪で尹大統領を起訴しました。

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