第75回アジア自由民主連帯協議会主催映画上映会「夜明けの国」報告

 3月30日、午後2時半より、ワイム赤坂会議室にて、映画「夜明けの国」の上映会が開催されました。著作権上参加費は無料、日本在住の中国人を含む約20人が参加いたしました。

 映画「夜明けの国」は、1966年8月から1967年1月まで、当時の岩波映画が、北京、瀋陽、長春、ハルピンなどを撮影、文化大革命が始まった直後の中国を記録したドキュメンタリー映画です。冒頭、画面には、中国各地から集まってきた紅衛兵たちにあふれた北京の街を映し出します。事実は、この後北京では紅衛兵が次々と大学や伝統的な寺院などを襲撃、暴力闘争の中死者が続出したのですが、撮影隊はそのような光景はもちろん映さず(おそらくすぐに北京を離れたのでしょう)舞台は中国東北地方、旧満洲に移動します。

 ハルピン、長春、瀋陽と、撮影隊は、中国の「繁栄」「前進」を語る労働者の姿と、大衆の力による「自力更生」で作り上げられていく堤防、化学工場などが映し出されていきます。印象的なのは、化学工場で働く技術者が、中ソ対立によってソ連の技術者が引き揚げさせられたことを例に「ソ連修正主義国」への批判を語るところ、そして、川で水泳中の子供たちに、ナレーションで毛沢東の言葉がかぶさるところでした。

 毛沢東は1996年7月、70歳を超える年齢で揚子江を泳ぎ、民衆との触れ合いと自らの健康をアピールします。水泳にもプロパガンダが含まれるのもすごいといえばすごいのですが、毛沢東の「揚子江は大きいというが、大きいだけでたいしたことはない、アメリカ帝国主義は大きいが、我々は彼らを跳ね返したではないか」という言葉には、朝鮮戦争でアメリカを中心とした国連軍を少なくとも押し返して38度線で休戦に持ち込んだことへの自信のようなものを感じさせます。

 ただ、この映画は意外と文革特有のプロパガンダは薄く、画面はむしろ静かに進みます。労働者はしきりに「自力更生」を語り、自らのちからで工場を建設、稼働させ、現場労働者、技術者、知識人が連携して合同の会議で工場の改善を進めていることを誇らしげに語るのですが、当時の基準で見ても、まだまだ中国は貧しく、工業も農業も原始的であることははっきりと伝わってきますし、文化大革命に全土で繰り広げられた糾弾や暴力は画面にはほとんど現れません。これは中国側が隠しただけではなく、後述する王戴氏の証言にもあったように、まだ撮影時には文革の影響が地方にまでは行き渡っていなかったのだと思えます。

 ただ、国慶節における長春での集会は、確かに全市に赤旗がはためき、群衆が毛沢東万歳を叫ぶなか軍事パレードが行われ、少年少女の喜び勇んで行進する姿には、確かに文革の熱狂が感じられます。また、農作業の支援として学生が動員されたり、また、ニュースや共産党の宣伝映画を地方に伝えるための「移動映写隊」が農村に向かう場面、医者(と言ってもおそらく大学生か、大学を出たばかりの医者)が「巡回医療班」として村々を回り、「帝王切開以外の手術なら何でも行う」医療活動や、衛生面での指導に当たる姿などには、文革当時は毛沢東によって「走資派」とみなされた政敵打倒のために利用された紅衛兵たちが、やがて、過激すぎる行動のために厄介者となり、地方に「下放」されていった姿が、すでにこの時期から予見されていたことがわかります。偶然とはいえ、フィルムは確実に時代を、時として近未来を映し出すものなのですね。

 現在中国に特徴的な、反日プロパガンダはまだこの映像にはほとんど現れません。ただラスト近く、世界最大とアナウンスされる撫順露天堀炭鉱が写されたとき、ここには、日本軍の犠牲になった万人墓がある、という事が語られるだけです。そしてラストシーンは、まだ幼さが残る紅衛兵たちが、徒歩で北京や延安を目指して行進していく姿を映し出して終わります。そこにかぶるのは毛沢東の言葉「世界は君たち若者のものだ」という言葉です。これは私の私見ですが、こうして家族から別れ、同年代だけの集まりで長い距離を、赤旗を掲げ、毛沢東思想をたたえる歌を歌いながら長期間旅をすること、この過程ではかなりの「洗脳」がなされたのではないでしょうか。

 上映後、参加されたジャーナリストの高世仁氏、民主中国陣線の王戴氏から感想が述べられました。高世氏は、きわめて客観的に撮影された映像だけれど、やはり当時の日本左翼によって文革が美化されていく路線につながっていく映像であることが指摘されました。また王戴氏は、自分はハルピン出身だが、この映像にちらっと出てくるハルピンのロシア正教の教会は、この撮影時にはまだ無事だったのだろうが、文革時代に紅衛兵によって、反革命的な宗教施設として完全に破壊されたことを指摘しました。また、現在の私は文化大革命はまさに中国全土を吹き荒れたジェノサイドであると認識していること、本日参加した中国人たちは、様々な思いでこの映画を観たことだろうと述べました。

 この映画は、太田出版からDVDブックとして発売されています。古書ならば入手可能かもしれません。(文責 三浦)

『目撃!文化大革命 映画「夜明けの国」を読み解く DVD付 (DVDブック)』(太田出版)
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