「台湾の政局とリコール運動 中国政府の干渉をいかにはねのけるか」講師 林省吾
4月19日午後2時半から、協議会主催講演会「台湾の政局とリコール運動 中国政府の干渉をいかにはねのけるか」(講師 林省吾)が開催されました。参加者は約20名。
林氏は2005年に来日、現在は日本台湾基進友の会会長、台湾独立建国連盟日本本部などを務めています。まず林氏は、現在台湾で大きな政治テーマとなっているリコール運動について、その本質と背景について語り始めました。
林氏は、台湾の本質的な問題は、今日の大きなテーマでもあるが、台湾がいまだに「中華民国体制」のままであることを指摘しました。そしてリコール運動がおこった背景に対し、①暴走する立法院(台湾国会)②中華民国体制は中国に隙を与える③大罷免時代(リコール運動の到来)という3つのポイントを挙げました。
まず、この400年間、台湾は常に自分の国を持ったことはなく、オランダ、明国、清国、日本などに統治されてきて、今は中華民国の植民地統治下にあることを述べました。そして、中華民国の支配下、台湾人を統治するために、ジェノサイドと戒厳令を通じて強制的なアイデンティティの変更を行ってきたと述べました。
1947年の228虐殺事件により、台湾の知識人やエリートはほとんど抹殺され、著名な画家、陳澄波など、事件の解決のために対話を求めた人々も殺された。台湾語も全面禁止されたわけではないが、遅れた軽蔑すべき言葉とされ、例えばドラマなどでは、悪役は常に台湾語をしゃべり、正義のヒーローは美しい北京語を語るように演じられていた。このような虐殺と文化破壊は、まさに今チベットやウイグルで行われていることと本質的には何も変わらないと林氏は批判しました。
その結果、自分は明確に「台湾人」であるというアイデンティティを持つ台湾人は、現在約30パーセント、自分は中華民国人であり、同時に台湾人であると考える人は34パーセント、私は中華民国人であると考える人は約25%という、台湾人のアイデンティティはそれぞれ分かれていることを林氏は指摘、台湾情勢の難しさを指摘しました。
その結果もあり、台湾人として純粋に民進党を支持している人は約30%、総統選では民進党に入れても、国会選挙では国民党や民衆党にも入れる、いわゆる中間層が35%、ある種のアンチ民進党の人たちが25%ほどに分かれ、それによって立法院(国会)において様々なねじれ現象が起きていること、そして、それは単なるねじれ現象ではなく、国民党と民衆党は、明らかに国会の秩序と民主主義を破壊する行為を行っていることを説明しました。
たとえねじれ国会でも、与野党が議論して、妥協しつつ法案が成立するならよいのだけれど、今起きていることは、野党・国民党と民衆党は各部会(省庁)の事業に関する予算計3000件余りを削減または凍結する案を提出し、このすべてをチェックするのは不可能。しかも国民党も民衆党も、自分たちが何を提出したかわからない状態で、このような立法院を破壊するような行動をする議員はリコールに値すると林氏は述べ、リコール運動は民主主義を守るためのものであることを強調しました。
さらに、台湾の憲法裁判所の無力化を野党は試み、国民党はどのような極端な法案を提出しても違憲にはならない状態にある、国防予算は1000億円のカット、国産の潜水艦の実現が困難になっている、政府機関の必要経費カットによる機能不全の状態など、中国大陸のために、台湾の外堀を埋めるような行動を野党はしていると指摘しました。
その上で林氏は、国民党は基本、中国政府の傀儡であること、その理由は、もともと中国で出来上がった政党であり、また現在も中国マネーが入っている、そして中国政府は明らかに国民党や野党を通じて台湾立法府をコントロールしていると述べました。
そして、国民党は「中国人配偶者の台湾公民権取得の条件緩和」を求める法案を提出している。台湾人と結婚した中国人配偶者は、現行制度では、台湾の公民権を取得するには結婚から6年、台湾に住むことが条件だが、国民党は「4年に短縮すべきだ」と主張していることを林氏は指摘し、もちろん、純粋に愛情での結婚もあるだろうが、現実にはこのような夫婦は離婚率が高く、離婚後はまた再び大陸から呼び寄せた中国人と結婚する。これは明らかに偽装結婚や大陸からの侵略に利用されかねないと林氏は警告しました。
このような事態に対し、現在の頼政権は明確に強硬策に出ており、中国を「敵対勢力だ」と断定、国内のスパイの摘発に乗り出した。林氏はそれ自体は高く評価しつつ、問題の根本は「中華民国」とは中国である、この認識を明確にしなければならない、台湾が「中華民国」としてのシステムを維持する限り、中国大陸からの侵略には抗しえない。同時に、中国共産党は「台湾を統一したら台湾人を再教育する」と公然と述べており、それはウイグルやチベット同様の収容所に送られること、また、臓器売買の対象にされかねない危惧を表しました。
その上で、現在のリコール運動は、私たち台湾人は中国に飲み込まれたくはない、中国人になりたくない、有権者は有権者の立場から台湾を守るという精神に根差していると結論付けました。罷免:リコールのための法的手続きは決して簡単ではないが、この運動は、①より多くの有権者に台湾の現状を訴える②あまり政治に無関心な層にも問題を提示し関心を持ってもらう、などの効果が表れている、特に、私たちが東京で行った署名運動は本国台湾においても大きな励ましとなり、運動の高揚につながっている。リコール運動は台湾が台湾としてのアイデンティティを復興し、台湾を守るための最後の平和的な手段であり、これに敗北することは逆にもう平和的手段では問題を解決できなくなる、それくらいの覚悟と意識で運動は進んでいると述べました。そして最後に、日本で長く独立運動をつづけた史明氏を挙げ、この人の精神を現代の中でも再評価し引き継いでいくことを述べて講演を終わりました。(文責 三浦)