【動画あり】第79回協議会主催講演会 梅田邦夫講師「中国の対外政策と諜報活動」報告

梅田邦夫講師「中国の対外政策と諜報活動」講演会報告

 9月13日、東京赤坂の会議室にて、梅田邦夫(元ベトナム大使、元中国日本大使館主席公使、中曽根世界平和研究所理事長)の講演会が東京赤坂の会議室で開催されました。参加者は20名。

 まず梅田大使は、中国の現状として、習近平が去る9月3日、抗日戦争80周年記念式典及び軍事パレードを開催し、プーチン大統領、金正恩主席、アンワール首相(マレーシア)イラン大統領、ベトナム国会議長、そして鳩山元首相が参加したこと、自分としてはインドネシアのブラボー大統領が、国内で暴動が起きているにもかかわらず、参加したことが最も残念でショックだったと述べました。

 そして、政治・軍事情勢としては、2025年の軍事予算において中国が前年比の7・8%増を示しており、これは日本の約4.3倍にあたる。そして中国は天安門事件から2008年ころまでは、世界の目も厳しかったこともあり、平和的台頭路線(中国が経済的に発展したとしてもそれは世界に脅威を与えない)を表向きは取ってきた。自分(梅田大使)は中国で胡錦涛時代に勤務していたが、あの時代はまだ平和的な面もあったと述べました。しかしこれは同時に鄧小平が唱えた「力を隠してたくわえる」路線でもあったと梅田氏は指摘しました。

 しかし、中国がその姿勢を大きく変えたのはリーマンショック以後で、中国は「米国経済は今後衰退し、中国経済が世界をリードする」と考え始めた。「もはや欧米諸国の決めた国際秩序に従う必要はない、自分たちは大国だ、自分たちが国際秩序を決める」という意識から、2010年ごろから、日本に対する言動も、極めて傲慢な姿勢がみられるようになりました。そして最終的には「大国は小国をお金や力で言うことを聴かせることができる」という脅迫・人質外交に至るようになったと梅田氏は指摘しました。

 2010年に習近平が中央軍事委員会副委員長に就任、後に12年総書記、13年に国家主席就任となっていく過程と共に、対外強硬路線は進展していきます。2010年、中国のGDPが世界第二位になった年、中国は尖閣諸島及び南シナ海に「九段線」を勝手に主張し覇権主義をあらわにし、中国漁船が海保の船に衝突する事件が起きる。さらにスカボロー諸島をフィリピンから強奪、これは国際司法裁判所で無効とされるが、中国はその判決を無視。2014年には南沙諸島に7つの人工島を造成し、軍事拠点化、これまでは中国に対し融和的だったアメリカも、ついにこれに対し警戒を強めるようになったと梅田氏は解説しました。

 中国の大国意識は、さらに、2010年アセアンフォーラムで「我々の間には基本的に大きな違いがある。中国は大国、あなた方は小国だ。それは厳然たる事実だ」(楊潔篪外相の発言)さらに、習近平主席の「中国の夢」 「中華民族の偉大なる復興」、「一帯一路」、そして2049年(建国百周年)までに経済力、軍事力で世界の頂点となる(2017年党大会、習近平総書記)につながっていくと梅田大使は指摘しました。

 そして、このように中国に自信をつけさせたのは、ある意味民主主義陣営の分断もある、特に、中国が2015年、AIIB(アジア投資開発銀行)を発表して中国優位の経済圏を作ろうとしたとき、アメリカは民主主義国には参加しないように呼びかけたが、日本を除いたほとんどは参加した、ここにもアメリカの力の低下と、同時に民主主義陣営の分断による弱さがあると梅田氏は指摘しました。

 さらに、2017年にあるベトナム人から聞いた言葉として「中国の衰退期にベトナムは平穏な時期を迎え、中国が強国になると災いが及ぶが、万が一、中国が覇権を有する世界になると、人類全体の不幸が始まる」を紹介し、これはおそらく中国人自身もそう考えているのではないかと述べました。

 そして、中国は2020年のコロナ流行以後は、「全方位対外強硬路線」をとり、いわゆる「戦狼(せんろう)外交」を展開すると梅田氏は指摘し、外国からの批判に対し強硬に反論、弱いとみた相手には服従を要求し、経済制裁を課す傾向が表れたとし、その例として  豪州への経済的脅迫(20年以降)、インド及びブータンとの国境紛争(20年以降)、香港・ウイグル・台湾問題等で欧米諸国との対立を鮮明化させ、また香港の民主化を封殺し、香港国家安全維持法施行と香港併合(20年)を強行、またウイグルにおける強制労働や収容所建設を進めたと梅田氏は指摘しました。

 これに対し、アメリカのバイデン民主党政権は、中国に対する国際的包囲網として、2021年以後、クアッド、G7・NATO・EU結束強化、AUKUS創設、IPEF(インド太平洋経済枠組み)等を施行。そして2022年2月、ウクライナに対するロシアの侵攻で、力による国際秩序破壊に抵抗するために西側諸国の結束が進んだ。2022年8月:ペロシ下院議長の台湾訪問後、中国は、①軍事演習、②経済制裁(2066品目輸入禁止、天然砂の輸出禁止)、③台湾独立分子への制裁を実施、④「台湾白書」公表(22年ぶり)などを行い、2022年10月、台湾統一や武力侵攻の可能性を公然と語るようになったと梅田大使は述べました。

 これに対し、中国は2023年ごろから、米国、台湾以外に対する「微笑路線」の外交を取るようになったと梅田氏は述べました。その理由としては、国内経済の低迷、若者の失業と社会不安増大、外国投資減、又バイデン政権時代の対中包囲網が一定の効果を挙げたことがある。しかし、現在トランプ大統領の時代となり、無理な関税政策やアメリカファーストの姿勢から、インドなどグローバルサウスの中に反米意識も高まっており、これは再び中国に付け入るスキを与えかねない、事実、中国はこのチャンスに影響力の拡大を狙っていると梅田氏は警告しました。さらにこの7月、台湾の頼清徳総統が中南米を訪問する途上でアメリカに立ち寄るのを、トランプ米政権が拒否するという事態が起きた。さらに、8月には中国人留学生を60万人受け入れるとまで発言している。おそらく米中首脳会談がすでに予定されており、そこでトランプ大統領がより中国に融和的な姿勢をとるのではないかと梅田氏は危惧の念を表しました。

 そして、部分的な微笑外交を行ったからと言って中国の国際秩序をわがものにしようという野望そのものは何ら変わっておらず、そのために行われているのが、しばしばいわれる「超限戦-制限のない戦争」であり、これは1999年、中国軍人2名の著書によって明らかになったものだが、武力を使って敵を服従させることではなく、戦争と非戦争、軍事と非軍事、軍人と非軍人との境界がないあらゆる手段(24種類を例示)を使って政治目的を達成する戦いである。その方法としては、軍事においては核戦争、通常戦、生態戦、生物化学戦、宇宙戦、電子戦、ゲリラ戦、テロ戦、超軍事的戦争としては、外交戦、インターネット戦(ハッカー戦)、情報戦、心理戦、威嚇戦、麻薬戦、密輸戦、非軍事の面でも、金融戦、貿易戦、資源戦、経済援助戦、法規戦、制裁戦、メディア戦、イデオロギー戦があげられており、すでにこの戦争は始まっていると梅田氏は指摘しました。

 また微笑外交の例としては、日本に対しては2024年10月の日中首脳会談、12月岩屋外務大臣の訪中(1年8か月ぶり)、25年3月:王毅国務委員兼外相訪日(日中韓外相会議)4月:李強首相、日中友好団体「日本国際貿易促進協会」訪中団(河野団長以下100名)と会談、7月:日本産牛肉の輸入再開協定の発効、日本産水産物の輸入再開などをあげ、また対インドにおいても、24年10月に、国境紛争めぐるパトロール権に関する合意を取り付け、11月のロシアにおけるBRICS首脳会議の機会にモディ首相と習近平国家主席が会談(19年以来5年ぶり)25年7月のジャイシャンカール・インド外相の訪中(5年ぶり)25年8月:モディ首相の「上海協力機構首脳」会議(天津)出席(7年ぶり中国訪問)などが続いていると梅田氏は指摘しました。そしてその背後には、アメリカがインドに関税率50%を掛けたことが確実にモディ政権を怒らせた面があると述べました。

 そして、他にもオーストラリアや東南アジアに対する微笑外交の実例を挙げたのち、梅田氏は、沖縄に対しては、2013年の人民日報にて、琉球王国は独立国で中国の属国だったと主張する論文を掲載して以後、同様のテーマでシンポジウムを開催し、2023年の人民日報では、習近平総書記が、琉球は独立国であり、多くの中国人が移住、中国と深い縁がある国であることを述べ、玉城沖縄県知事を厚遇していると指摘。それ以後も「沖縄独立」を煽る偽動画をSNS(英文及び中国語)で拡散(24年10月 日本経済新聞報道)し、
①琉球は日本に帰属していない
②琉球人は日本人ではなく中国人だ
③琉球は中国に復帰したがっている
などの偽情報を流していると梅田氏は指摘しました。そして2023年8月には領土・領海を示す新たな地図を公表(10段線、南シナ海、尖閣諸島、ウラジオストックなど)し、2024年9月ー遼寧省大連海事大学に「琉球研究センター」を設立しており、沖縄に対しては自国の領土であるという情報発信や宣伝を行っている現実を警告しました。

 そして法律面に於て、2010年以降、中国は国防・治安・諜報に関する新たな法律を次々と制定し、「超限戦」実施の法整備を進めていると梅田氏は述べ、以下の6つの法律を紹介しました。

①10年国防動員法:有事の際、国家が民間人や施設を動員できる、中国国内の外資系企業も対象。23年全国各地に「国防動員弁公室」設置し、国家総動員体制がとれる仕組みを整備
②14年反スパイ法:国内外の組織・個人が行う中国の国家機密の提供など。23年反スパイ法改定:国家の安全と利益にかかわる文書、資料の提供・買収、通報義務14年以降17名の邦人を拘束、うち12名が実刑判決をうけ、5名が服役中
③15年国家安全法:売国、国家分裂、反乱扇動、政権転覆、機密漏洩等防止・処罰。20年香港国家安全法、24年香港国家安全維持条例(香港社会の閉塞感増大)
④15年反テロリズム法:テロ活動の警戒、処罰、対策の強化
⑤17年国家情報法:国民・企業は国の指示に応じスパイとして協力義務
⑥2011年の反中国制裁法、中国の基本政策に反対する発言をした者への迫害を法的に認めたもの、これは現在の石平議員に対して施行されている。

 そして梅田氏が、外交官としての実体験を通じ、中国が実際に行っている日本に対する諜報活動(目に見えぬ侵略)を以下のように指摘しました。

①「弱み」(異性、賭博、酒)をネタに脅迫・取込む(上海総領事館員自殺(2004年、ハニートラップにかかった領事館員が自殺、その遺書によって明らかになった。同じく危険とみられた防衛駐在官は任期途中帰国した)
②盗聴・盗撮機設置(東チモール大統領府・外務省、在北京トルコ大使館等)
③住宅への侵入(北京自宅アパート、邦人特派員宅等)
④外国人政治家に対する毒使用の噂(故橋本総理、故クアン・ベトナム国家主席)
⑤中国人職員・友人を使っての情報収集(某総領事秘書、大使館職員等)
⑥都合の悪い二国間合意や国際法を無視、歴史の捏造(日中ガス田「共同開発合意」、南シナ海判決、チベット等)
⑦愛国教育・反日デモ(G4安保理改革、尖閣国有化時期に起きた反日デモ)
⑧巧妙な情報操作(安倍総理を歴史修正主義者と世界中に喧伝等)
⑨根拠もなく平然と嘘をつく、人のせいにする (冷凍毒餃子事件等)
➉都合の悪い「真実」は無視(天安門事件、文化大革命等)
⑪地震とオカラ(手抜き)工事(四川大地震の学校崩壊、高速鉄道脱線事故、ミャンマー地震ビル崩壊等)
⑫報道・言論・信仰の自由なし、母語の消滅 (特派員拘束、民主運動家逮捕、チベット、新疆ウイグル、南モンゴル)
⑬「人」の輸出」(ブラジル、パラオ、ソロモン諸島、フィリピン市長なりすまし、台湾等)
⑭リストラされたエンジニア活用(青島、安価な競争力強化等)

 最後に梅田氏は、仮に自分に工作や諜報が仕掛けられたときは、とにかく一人で抱え込まず上司や警察など周囲に相談すること、現在の中国体制を助ける危険性がある中国株などに投資しないこと、中国発アプリの使用や、無料のUSBなどの使用は避けることなどに留意することが大切だと述べました。その上で、中国との間の歴史論争などは正直解決もつかず時間を浪費するだけで、むしろ、現在中国が行っている国内での人権弾圧や収容所、又国境を越えた弾圧などを批判することの方が重要だと述べて講演を結びました。
(文責 三浦小太郎)

.