【動画あり】第80回協議会主催講演会 アリック・リー氏「香港を通じてアジアの民主化と人権を考える」報告

アリック・リー氏講演会報告
 10月26日、東京文京シビックセンター会議室にて、在日香港人による民主運動組織、「香港民主女神(レディーリバティー香港)」創設者のアリック・リー氏による講演会が開催されました。参加者は約20名。

 まず、アリック・リー氏は、香港の現状について、2019年から2024年にかけて、香港では人口750万人に対し1971人の政治犯が捕らわれたことを報告しました。実はこの数字は中国本土における公表された政治犯の数よりも多く、香港における弾圧が厳しさを増していることをリー氏は強調しました。

特に、2020年、国家安全維持法(国安法)制定後は、ごく当然の権利である民主主義的な言論や政治行動が「国家政権転覆共謀罪」とみなされており、昨年2024年11月19日には、被告45人に禁錮10年~4年2ヶ月の量刑を言い渡されている、彼らは2020年の民主派の予備選前に起訴され、立候補の権利さえ奪われていることが指摘されました。

 また、言論機関への弾圧も強化されており、蘋果日報(アップル・デイリー)が2021年に廃刊に追い込まれ、STANDNEWSをはじめ、9か所以上の独立メディアが活動停止に追い込まれている、ジャーナリズムの報道や記録の自由も失われているとアリック氏は指摘しました。

 労働組合にも弾圧の手は伸び、民主派労働組合を束ねる香港職工会連盟(職工盟)も解散、香港最大の教職員組合やデモを主催してきた団体も解散に追い込まれている、香港は1989年の天安門事件の追討を訴えてきた団体も活動はできず、すでに平和的な運動により民主化は不可能な段階にまで弾圧は進行しているとアリック氏は述べました。

 ここでアリック氏は国際的な視点を展開し、確かに香港における弾圧は深刻だが、今、世界の先進国全体において、分断が進み、民主主義への信頼が失われつつあることも重要な問題だと指摘しました。

 まず、台湾では今年リコール運動が起きたが、結果的にはほぼ失敗、政治的な成果はなく終わった。残ったのは社会の分断であり、民進党と国民党の間にはほとんど対話ができない状態に至った。本来、民主主義社会においては、議論や政策で勝つこと以上に、豊かな言論空間ができること、違う立場の意見を持つ同氏が対話によってお互いを理解することが大切なのに、分断と相互の敵対に終わってしまったとアリック氏は指摘しました。

また韓国では、昨年末のユン大統領(当時)のクーデター未遂事件以後、左右の対立が激化、大統領支持派と糾弾派はともに街頭に繰り出し、ともに相手を罵倒、国民間での分断が決定的になった。同じ事件を見ているのに、それぞれ全く評価が違い対話もできない状態になっている。

イギリスでは移民問題で、移民を規制するといっていたはずの政府が移民を入れ続けていることへの批判が、やがて移民そのものへの憎悪にまで転嫁し、逆に移民の権利を守れという人たちは、移民反対派を人種差別主義者と呼んでいる。ここにもまた大きな分断が起きている。

アメリカにおいても、保守派運動家のチャーリー・カーク氏の暗殺事件は、本来なら、その悲劇を党派を乗り越えて追悼するべきだったのに、悲しみや追悼よりも、保守派とリベラル派との対立が激化させ、それぞれがお互いを否定、保守派はこの暗殺は左派リベラルの責任だといい、左派リベラルの一部にはカークの暗殺を歓迎するかの言説すらあった、ここでも、政治が対話では無く怒りや不信感をぶつけ合う場所になっていると、アリック氏は民主主義諸国で起きている分断の現象について述べました。

そしてアリック氏は香港について話を戻し、2014年の雨傘運動の背景として、中国本土からの大量流入、住宅の高騰と中国人の公営住宅への定住、そしてオーバーツーリズムによる中国人観光客の大量増加などから、香港人自身が、自分たちの香港をこのままでは守れないという意識が強く生まれたことを指摘しました。

そして、その危機意識から、香港では民主派だけではなく独立派(本土派)が生まれてきた,従来の民主派は、世代的には1950年代から70年代にかけて生まれた人たちが中心で、天安門事件も同時代に体験し、中国民主化運動に共感、中国と対話しながらの平和的な改革を求めていたが、独立派は、80年代から90年代にかけて生まれた世代が多く、中国からの移民の実態などから、中国と香港では価値観が違う、中国は香港人の生活を脅かす、香港は中国ではない、中国とは基本的に距離を置くという姿勢を貫くとアリック氏は分析しました。

その結果、独立派は民主派を、中国に妥協しすぎるという批判を持ち、2014年から18年にかけ、民主派と独立派(本土派)の対立は激化、結局民主運動全体が弱体化したとアリック氏は述べました。

2019年からの運動はこのことを反省し、リーダーはいない運動「リーダーレス運動」をテーマに、主として民主派の平和的運動も、独立派(本土派)の激しい闘争もともに否定しない「和勇不分」の方針を取って、民主派と独立派の連帯を目指した。雨傘運動が、そのリーダーが逮捕されたら急速に運動が後退したことの反省から、明確なリーダーを定めないリーダーレス運動、リーダーからの指示を待つのではなくSNSを使って平等な議論のなかで方針を打ち出し実行する水平的な運動などの方針により、リーダーがいないことでかえって運動が世代を超えた広がりを見せたとアリック氏は評価しました、

そして、2019年からの香港での逃亡犯条例に始まる民主運動は、確かに政治的には成功しなかったかもしれないが、現在の分断に向かう民主主義社会にとって貴重なヒントがあるのではないかとアリック氏は問題を提起し、さらに、民主主義社会における必要な精神について話をつづけました。

まず、民主主義の理念はいまだに有効であり、決して普遍性を失ってはいない。だが、特に現代のネオ・リベラリズムの影響から、民主主義は個人の独立尊重を強調しすぎて、自由とはただの自己責任論に帰着し、人間は共同体の一員であるという当然の事実から目を背ける傾向があった。これでは真の意味での自由を見失うとアリック氏は述べました。

さらに、民主主義とは道徳を基盤にすべきであり、釈迦的な道徳、道徳意識を失った社会における民主主義は、エゴイズムの衝突から内部から崩壊してしまう。現代社会は、人間を党派性に根差した怒り、自分の属する党派への過剰な忠誠心からの他者攻撃や、敵対者をひたすら悪魔的なものとみなす恐怖感に支配されている、この社会の分断と硬直化を、外から権威主義国家は利用して社会の分断をさらに進めさせようとしているのだ、とアリック氏は民主主義の危機について述べました。

そして、民主主義を再生させ、信頼を取り戻すためには、まず民主主義とは、意見を統一することではなく、相違点を認め合いながら共生する政治制度であることを再認識することであり、そのためには以下の3点が重要だと述べました。

まず第1に、感性を取り戻すこと、人間を右か左、敵か味方かと分断して認識するのではなく、政治イデオロギーやスローガンを振り回す前にまず自分の内面の声に耳を傾けること、意見は違っても、相手を同じ人間として暖かく見つめ、受け入れる感性を育てることが、民主主義社会の対話と信頼を復活させる。

第二に、人道精神に基づいて生きる。人道とは、人間がどうあるべきかという道徳的基準であり、これは民主主義社会において道徳は必要不可欠。ここには、リーダーに命令されなくても、自分が良心に従ってどう生きるべきかを判断する力を含む。

第三に、和(Unity)の精神。意見が違っても、同じ社会における隣人であることを認識し、世界はばらばらの個人の集まりではなく共同体であること、同時に、過去、現代、そして未来の世代の中で連続していくことを常に認識する。そして、この社会の中の少数派の権利を守ることは、実は多数派を含むすべての社会構成員を守ることなのだという、社会の一体感を常に意識すること。

アリック氏はこのような民主主義社会の在り方を述べ、現代の分断を修復し、民主主義を再生させることこそが、権威主義国家や独裁体制と対峙するためにも不可欠であることを述べて講演を終えました。(文責 三浦小太郎)

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