ティン・ウィン氏「平和を維持するために:日本が中国のハイブリッド戦略に対抗すべき理由」

以下はティン・ウィン氏の英語論文Peace Through Preparedness Why Japan must counter China’s hybrid Coercionの日本語訳です。
原文は以下のPDFです。
Peace Through Preparedness Why Japan must counter China’s hybrid Coercion



ティン・ウィン氏より

私は1954年11月28日、ビルマ(ミャンマー)のマンダレーで生まれました。初めて祖国を脱出したのは1996年9月で、同年11月17日に日本に到着しました。1999年2月に難民認定を受けました。

2015年の選挙でアウンサンスーチー氏と国民民主連盟(NLD)が勝利し、帰国が安全になったため、2015年1月5日にミャンマーへ永住帰国しました。2021年に軍が再びクーデターを起こしたため、再び逃亡せざるを得なくなり、2021年4月6日に日本に到着しました。

現在、岐阜女子大学南アジア研究センター(CSAS)の特別研究員を務めるとともに、日本における難民支援や市民社会活動にも積極的に関わっています。研究テーマは民主主義のレジリエンス、ハイブリッド強制、アジアにおける避難民コミュニティが直面する課題に焦点を当てています。


平和を維持するために:日本が中国のハイブリッド戦略に対抗すべき理由

ティン・ウィン(CSAS特別研究員)
中国はもはや単に友好や外交関係を求める新興勢力ではない。世界に服従を要求する支配的勢力として自らを主張している。協力ではなく圧力を通じて地域秩序を再構築し、経済的強制、軍事的威嚇、デジタル監視、さらには国境を超える犯罪ネットワーク構築などの権威主義的影響力を総合的に行使している。台湾の未来、日本の安全保障、アジアにおける民主主義の存続は、現在行われるべき断固たる我々の選択にゆだねられているのだ。
国際ルールが自由な人々の集合的意志によって構築されるのか、それとも強大な国家の無制限の覇権主義的野望によって構築されるのか、その選択はまさに今現在が分水嶺となる。

台湾の未来は台湾の人々にのみ委ねられている

台湾についての明確な原則:国際社会は台湾の人々の選択を尊重しなければならない。その選択が独立であれ現状維持であれ、決定権は台湾の人々にのみ帰属する。
いかに声高に主張されようとも、歴史的主張は民主的正当性を凌駕することはできない。主権は現在に生きるものであり、過去から借り受けるものではない。北京が台湾を恐れるのは、台湾が中国文化と自由民主主義が共存しうるという否定しがたい証拠として存在しているからだ。この現実は、いかなる通常兵器よりもはるかに深く中国共産党を脅かしている。これが中華人民共和国が台湾を「内政問題」と主張する理由である。自らの支配外に繁栄する中国民主主義の存在を許容できないからだ。
高市早苗首相が最近警告したように、中国が軍艦と武力による台湾攻撃を実行すれば、それは日本にとって「生存を脅かす事態」となる。これは挑発ではなく、戦略的真実を率直に述べたものに過ぎない。台湾が吸収されれば、次は日本が体系的な強制と戦略的包囲の対象となる。

中国の戦略:一発も撃たずに勝利する

中国は孫子の兵法「戦わずして敵を屈服させるのが最高の戦略」を綿密に実践している。
北京は即時的な直接侵攻ではなく、持続的な多領域圧力を用いる
—消耗を目的としたハイブリッド戦争の一形態であり、一発の銃弾も発射せずに降伏を迫る。
この強制は多様な形態をとり、曖昧性と非軍事的手法を悪用することで、公然たる衝突という「レッドライン」を越えることを回避している:
• 海上威圧(グレーゾーン):中国は沿岸警備隊、海軍艦艇、そして大規模な海上民兵(表向きは民間漁船団)を日常的に動員し、台湾周辺及び尖閣諸島/釣魚台諸島において脅威を引き起こし、さらに監視、出動を行っている。これらの戦術では、船舶が自動識別システム(AIS)を操作したり、民間船を装って領有権主張を強化したりすることが多く、この戦略は南シナ海でよく記録されている。
• ナラティブ・ウォーフェア:浸透的なプロパガンダと影響工作により社会的分断を煽り、台湾の民主的プロセスに対する国民の信頼を損なう。しばしば「認知戦争」と呼ばれる。
• 経済的強制:台湾と関わる国々の産業や製品を標的とし、中国市場へのアクセス、投資、観光を制限する。
• 軍事的威嚇:航空機や艦艇を派遣し、台湾防空識別圏への定期的な侵入や台湾海峡中央線の越境を継続的に実施し、新たな不可逆的な現状を創出する。
究極の戦略目標は恐ろしいほど単純だ:相手を脅迫により沈黙させ、従属させ、そして吸収することである。

中国の現代的強制:デジタルと権威主義的インフラ

現代の戦場は陸と海を超え、データ、金融、犯罪組織にまで及んでいる。

制裁を無効化するデジタル通貨

中国はミャンマー軍事政権向けに、デジタル人民元(e-CNY)をモデルとしたとされるデジタル決済システムの開発を積極的に支援している。このシステムは国際金融秩序を迂回するよう戦略的に設計されている:
• SWIFT外:西側諸国の金融監視における主要経路の回避。
• ドルの影響圏外:取引を米国の管轄権から遮断する。
• 西側監視圏外:独裁政権に対し、国際制裁下でも貿易・金融業務を遂行できる経済的避難所を提供。
この能力は、ドルの支配力を弱め、独裁者に経済的保護を提供するという中国の長期目標の鍵となる。中国の大手金融機関(中国工商銀行など)やテクノロジー企業(ファーウェイなど)の関与が指摘されていることは、これが人道支援ではなく、計算された戦略的関与であることを示している。

2. 異論を消し去るデジタル監視

中国は高度な抑圧を可能にする監視技術を供給している:
• 抗議者の自動識別。
• 反対派グループやモバイル端末の監視・追跡。
• 逮捕を迅速に効率化し、かつ、他人の目に触れぬうちに行う。
この技術は抑圧を効率的で拡張可能な権威主義的機構へと変容させる。

3. 犯罪技術ネットワークによる影響力資金調達

シュエ・コッコやKKパークのような無法地帯では、中国の犯罪組織が工業規模の詐欺を運営しており、国連薬物犯罪事務所(UNODC)などの機関から主要な不安定要因と認識されている:

・人身売買詐欺センター。
• デジタル資金洗浄事業。
• 暴力に基づく支配区域。
これらのシステムは数十億ドル規模の不正資本を生み出し、権威主義体制を強化するとともに、地域全体の民主主義を不安定化させる慢性的な不安定地帯を形成している。
これが統一された権威主義的構造である:
デジタル通貨(生存)→ デジタル監視(支配)→ 犯罪資金(拡大)。
これは21世紀型の強制モデルである:ステルス性、拡張性、そして阻止が極めて困難。ミャンマーは中国の実験場となりつつあり、台湾が次の標的と目されている。

日本の決定的な対応:戦場全体を見据えて

日本は平和を愛する国として当然の称賛を受けている。私は数十年にわたりこの国に住み、日本が過去の軍国主義に戻ることはないことを知っている。しかし抑止力のない平和主義は単なる希望に過ぎず、高度な強制を止めるには希望だけでは不十分だ。
日本の安全保障における真の最前線には以下が含まれる:
• 日本の経済を支える海上補給路。
• 日本の産業を支える台湾の半導体生産能力。
• デジタル主権と国家サイバーセキュリティの回復力。
• 違法資金と越境サイバー犯罪からの防護。
• 外国の影響工作から政治的独立を守る。
現代の抑止力には、軍事・デジタル・経済・情報領域における総合的な強さが求められる。
日本はすでに歴史的な転換を開始している:

• 財政的コミットメント:日本は2027年までに防衛予算をGDP比2%近くまで引き上げる方向英であり、戦後の1%上限を撤廃。スタンドオフ能力(改良型12式など長距離ミサイル)と統合防空システムへの大規模投資を進める。
• サイバー重視:防衛省は2027年までにサイバー防衛担当要員を5倍の約4,000人に増員する計画であり、デジタル脅威の緊急性を強調している。
• 戦略的支援:東京はフィリピンやマレーシアなど志を同じくするパートナー国に対し、装備・インフラ支援を提供する新たな協力枠組み「政府安全保障支援(OSA)」を設立した。これはODAとは異なる枠組みである。これにより主要海上交通路における抑止力を積極的に強化し、地域が単一大国への依存を減らす。
日本は今、以下のことを行う必要がある:
1. 敵国が軍事的侵略を実行不能なレベルまでの高コストにする防衛能力への大規模投資。
2. 米国以外のパートナー国との同盟関係及び共同対応態勢を強化すること。
3. 非軍事的手段を通じて台湾の民主主義を支援する。
4. 国際的な犯罪・権威主義ネットワークを暴露し、積極的に破壊する。
5. 基本的自由を守るために必要な経済的リスクを受け入れる。
日本が断固たる行動を取らなければ、一発の銃弾も発射されずに安全保障と繁栄を失うリスクがある。

結論:平和の維持は抑止力が必要であり、抑止力は準備なくして生まれない

中国の現在の戦略は明確である:
• 戦車のような軍事力だけではなくデジタル制御による攻撃。
• ミサイルだけではなく経済的圧力による攻撃。
• 直接の侵略、占領以前の恐怖による支配。
もし我々が通常戦争の開始を待つならば、その戦争はとっくに始まっており、新たな紛争のルールを完全に理解する前に我々は既に敗北していたことに気づくだろう。
日本は今こそ行動すべきだ。中国を挑発するためでも、軍国主義に回帰するためでもなく、侵略を不可能にするためである。
平和は決して受動的なものではない。平和は主体的な努力で守られねばならない。守るには抑止力が必要だ。
日本は断固として立ち向かわねばならない。台湾の自由のために、アジアの安定のために、そして覇権主義国家ではなく、自由な諸国民が自らの未来を選択する世界人々が自らの未来を選択すべきだという原則のために。この試練に失敗すれば、専制政治は警告もなく、静かに訪れるだろう。最初の銃弾が放たれる前に、我々が屈服したからだ。
日本は屈してはならない。日本は立ち向かわねばならない。今こそ。

出典と補足資料

中国のデジタルインフラ、ハイブリッド強制力とミャンマー

• ウォール・ストリート・ジャーナル紙 — 中国がミャンマーのデジタル人民元ベース金融システムを支援し制裁回避を図っていると報じる
• CSIS(戦略国際問題研究所)― 台湾近海における中国の海洋グレーゾーン作戦分析(デュアルユース船舶の使用やAIS異常を含む)
• 民主主義防衛財団(FDD)― 中国のデジタル権威主義と金融ネットワークに関する分析
• ロイター通信 — 中国関連詐欺団地(特にミャワディ、KKパーク、シュエ・コッコ)に関する調査
• 国連薬物犯罪事務所(UNODC)― 東南アジアの組織犯罪及びサイバー詐欺ネットワークに関する報告書
• ヒューマン・ライツ・ウォッチ/アムネスティ・インターナショナル — 外国のデジタル支援を伴う監視、逮捕、軍事政権による弾圧の記録

台湾の安全保障と日本の戦略環境

• 防衛省(MOD)— 年次防衛白書及び防衛力整備計画(GDP比2%の予算目標、スタンドオフ能力、サイバー要員増員を含む)。
• 高市早苗首相 — 台湾侵攻を日本の「生存を脅かす事態」と位置付ける公式発言。
• 外務省(MOFA)― 新たな公式安全保障支援(OSA)枠組みに関する文書及び実施ガイドライン。
• ランド社及びCSIS — 台湾有事への対応と日本の軍事態勢への影響に関する研究。
• NATO及びG7声明——台湾海峡の平和と安定を再確認。

米国の政策変動と国際的反応

• 米国連邦官報及び米国市民権移民局(USCIS)— ミャンマー国民に対する一時保護措置(TPS)の保護変更に関する文書。
• ホワイトハウス及び国務省の公式声明 ― ウクライナ交渉及びインド太平洋地域の安全保障に関する立場。
• 議会調査局 — 米中台湾政策の力学に関する背景情報。

国際規範と人権

国連憲章 — 自決権及び武力による領土取得の禁止に関する原則。
• 国際司法裁判所 — 主権と民主的意志の優位性に関する判例。
• フリーダムハウス及びエコノミスト・インテリジェンス・ユニットの報告書 ― 民主主義の後退傾向と地域における権威主義的影響力。

歴史的・戦略的背景

• 孫子『孫子兵法』― 戦闘を伴わずに勝利を得る戦略的教義。
• インド太平洋地域における強制外交、グレーゾーン作戦、ハイブリッド戦争に関する学術文献。

.