第81回協議会主催講演会【動画あり】協議会主催『内・外亡命者のあなたと私』(ツェリン・オーセル&劉燕子 未来社)出版記念講演会報告


12月13日、東京五反田会議室にて、中国文学者にして詩人の劉燕子氏による、内・外亡命者のあなたと私』(ツェリン・オーセル&劉燕子 未来社)出版記念講演会が開催されました。参加者は約20名。石平参議院議員、民主中国陣線の王戴氏、香港民主化運動のアリック・リー氏なども参加されました。
まず劉氏は、自分は約20年にわたる取材を通じて『不死の亡命者』をまとめたけれど、その第6章をチベット人作家のツェリン・オーセル氏にあて、一つの典型的な「国外亡命者」として論じたことを述べました。そして、自分自身、かつては中国共産党の、チベット人は人民解放軍によって封建的な抑圧から解放され、経済的にも発展しているという宣伝を信じてしまっていたこと、そのことを率直に反省し、中国知識人としての道徳的責任も感じていると告白しました。
2005年、劉氏は「雪山」という詩に出会ったこと、それがいかに自分に衝撃を与えたかを語り、その詩を次のように朗読しました。
「雪山よ もし君が人間のように立ち上がらなければ たとえ世界の最高峰でも ただその醜さをはっきりとさらすだけだ 最高峰として寝ているよりもむしろ最底辺でスクッと立つべきだ 兵士よ もしどうしてもぼくを撃たなければならないのなら ぼくの頭を撃ってくれ ぼくの心臓は撃たないでくれ 僕の心には愛する人がいるから」
これは傅正明氏という亡命知識人が伝えたチベットの無名の人の詩で、劉氏は、この「愛する人」には、恋人だけではなく、チベットやダライラマ法皇などへの愛がすべて込められており、この詩の背後には中国による虐殺と数万人のチベット人難民の存在があることを気づかされたと述べました。
そして2006年、劉氏はチベットの文学者ツェリン・オーセルと出会い、彼女の両親が中国共産党のエリートで、まったくチベット語の教育を受けずに育ったこと、しかし、2003年に著書「チベット・ノート」を書き、中国共産党の中央宣伝部と中央統一戦線部によって「政治的錯誤がある」とみなされて発禁処分にされたことを知ります。
中国共産党はオーセルに自己批判を要求しますが、オーセルは、文学者として、またチベット人として自らの作品と精神に責任を持つと自己批判を拒否。それによって、パスポートを失い、職場は追われ、生活基盤も最低限の市民権も奪われますが、それでもオーセルは信念を曲げずに、中国国内では発表できない詩を書き続けている、これこそ「国内亡命者」の姿だと劉氏は述べました。
そして、来年2026年は文化大革命勃発から60年を迎えるが、文化大革命時、チベットをはじめ、各民族の文化や伝統がどれほどひどく破壊されたか、いまだに中国は認めようとしていない。実はオーセルの父親は、中国共産党員でありながら、カメラで、チベットの文革時代の凄惨な悲劇をすべて写真に写し取っていた。父親は誰にも見せずにその写真を秘蔵していたが、死後、娘のオーセルがその写真を見つけ、そこに映っていたチベット人を一人一人訪ねあてて、チベット現代史の悲劇をまとめあげたのが『殺劫 チベットの文化大革命』であり、今年、その完全版をクラウドファンディングで多くの人々の善意の元発表することができたと劉氏は述べました。
そしてオーセルとの共著『内・外亡命者のあなたと私』から『祖国という言葉はほんとうに怖い』という題の次の詩を劉氏は朗読しました

「祖国という言葉はほんとうに怖い うかつには口に出せないほど
だから彼らが気軽にこの言葉を口に滑らすのも私は認めない
私にとってここはただ身を寄せるだけの場所
他人の家の軒下の仮住まい
その証拠が暫住証
祖国という言葉を簡単に使えるものが羨ましい
生まれつき自信満々で
権力を笠に着る奴ら
祖国を失ったものの運命は風前の灯だが
私は屈せずに証拠固めをしておこう(以下略)」

劉氏は最後に、オーセルや自分の詩は、もしかしたら重い政治的な詩として受け入れにくいのかもしれない、しかし自分もオーセルも、政治的な人間ではなく文学者だ、だが、今中国で文学者であることは政治から逃げることは逆にできない。中国政府の政治イデオロギーと権力支配はすべての人間精神に及んでおり、私たちは政治から離れることはできないのだと述べて講演を結びました(文責 三浦)

内・外亡命者のあなたと私 – ツェリンオーセル 著 / 劉燕子 著・訳|未來社
http://www.miraisha.co.jp/np/isbn/9784624610456

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