【第87回 主催講演会/動画有】佐伯浩明氏(北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会代表)『北朝鮮帰国者と政治犯収容所』2026.7.18報告


第87回アジア自由民主連帯協議会 主催講演会 報告
『北朝鮮帰国者と政治犯収容所』
   講師:佐伯浩明氏(北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会代表)

※文末に参考資料【北朝鮮民衆のための人権宣言(1999年11月発表)】掲載

 7月18日、東京文京区の会議室にて、佐伯浩明氏(北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会代表)を講師として『北朝鮮帰国者と政治犯収容所』と題した講演会が開催されました。参加者は約20名。

 まず佐伯氏は、1999年11月に発表した「北朝鮮民衆のための人権宣言」(文末に資料として掲載)について、今、見返すと声明文に賛同してくれた方々の中にも物故者が多いことをあげ、確かに声明文を発表してから時間がたちすぎているが、この文章の内容はいまだに自分たち北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会の基本精神となっていると述べました。

 そして佐伯氏は、近年、北朝鮮の帰国者問題や人権問題については、優れた著作がいくつも出版されているとし、川島高峰、高世仁などの名前を挙げ、守る会の機関誌「軽め儀」の次号では、それらの書籍を紹介する特集を組む予定だと述べました。

 特に川島高峰氏の『北朝鮮帰国事業と国際共産主義運動』(現代人文社、2024年)を挙げ、北朝鮮帰国事業とは、本来は戦後、北朝鮮に残された残留日本人を日本に戻すことを目的とした交渉から始まった。しかし、北朝鮮はそれに対し「人道問題」という切り口で自分たちの主張(在日朝鮮人の北朝鮮帰国)を、日本の世論までも利用することで盛り上げ、いつの間にか北朝鮮の在留日本人問題をほとんど消し去ってしまったと述べました。

 そして、90年代、最初に、兄夫婦が北朝鮮に帰国して処刑された在日韓国人チョヘンさん(兄のチョ・ホピョンさんは東北大学にまで進んだが、日本人妻小池秀子さんとともに一九六二年北朝鮮に帰国。六七年以後、チョ・ホピョンさんは行方不明。北朝鮮は、ホピョンさんはスパイ罪で逮捕され二十年の判決を受け、七四年に脱獄して妻子と逃走を図ったため一家全員銃殺と発表)芝田弘之さん(弟孝三さん(日本人夫)は一九六〇年、北朝鮮に妻申性淑さんとともに渡り、孝三さんは日本人妻の里帰りの嘆願書を取りまとめたため、六四年スパイ罪で逮捕、その後音信不通。アムネスティインターナショナルの努力によって、北朝鮮は九〇年に釈放後、列車事故で一家死亡と発表)などの勇気ある証言者によって、帰国事業の悲劇が明らかにされたと述べました・

 そして、北朝鮮で日本でごく普通に行われるような政府批判をすれば、直ちに政治犯収容所に送られる。もともと総連の活動家だった金民柱さんは、ご自分の家族も帰国後収容所に入れられ、周囲の在日朝鮮人に問い合わせた後、帰国者のほぼ10分の1は、収容所に入れられている可能性があると推察していたと佐伯氏は述べ、帰国事業はいかに多くの犠牲者を出したかを指摘しました。

 そして、北朝鮮を脱出した脱北者(帰国者及びその子孫)たちが言うことには、現在、ほとんど北朝鮮との家族との連絡が取れていないが、わずかに伝わってくる情報だけでも、北朝鮮でも体制への不満や反体制分子は確実に存在していると述べました。同時に、北朝鮮の闇市場、自由市場であるチャンマダンに対し、金正恩体制は徹底した東征をしようとしてきたが、事実上それは聴かなくなり、北朝鮮でも自由経済が定着しつつあることも指摘しました。

 しかし同時に、中国やロシア同様、北朝鮮も、経済的には自由主義を導入しても、一党独裁の本質は変わらない。中国にせよ、経済的には改革開放がなされ一定の経済発展もしているが、その影でどれだけの民族が弾圧され人権活動家が亡くなっているかわからないと佐伯氏は指摘し、日本、韓国、また台湾など、アジアの自由民主主義と人権を尊重する国々の連帯が必要だと主張しました。

 しかし、それを実現する上で障害となっているのは、日本においてはマスコミの問題点が大きいと佐伯氏は指摘し、ジャーナリズムはまず何よりも事実に基づき、その上で論を立てねばならないはずなのに、日本のジャーナリズムは逆で、日本の歴史を単純に悪とみなす贖罪史観に根ざしており、その上で事実を都合よく解釈する、あるいは不都合な事実には目を背ける。日本と韓国の関係であれ、日本の韓半島統治がどのようなものだったのか、現在の北朝鮮では事実としてどのような人権弾圧が行われているか、などを率直に見る視点が欠けている。このことが、日本と韓国の間の相互理解や連帯を妨げてきたと佐伯氏は批判しました。

 続いて佐伯氏は北朝鮮の政治犯収容所問題について、安明哲『図説 北朝鮮強制収容所』双葉社、安明哲『北朝鮮 絶望収容所 完全統制区域の阿鼻地獄』ベストセラーズ〈ワニ文庫〉、姜哲煥 安赫『北朝鮮脱出 上・下』文藝春秋などの証言に明らかなように、わずかな食糧で強制労働を課せられ、中では拷問や女囚へのレイプは日常茶飯事であることを述べました。その上で、現在北朝鮮でも、収容所内で無用な殴打はやめるようにという指令が出ていたり、収容所の改築などが行われている、今後少しでも人権状況が改善されるかどうかを注目していきたいと述べました。しかし収容所問題で何よりも必要なのは国際機関による人権査察であることを述べました。

 また拉致問題について、おそらく高市政権になってからも、表向きはともかく、裏では北朝鮮と日本とは何らかの交渉は続いているはずであること、そして北朝鮮の核開発については、抗議や反対は当然として、日本の科学技術が長きにわたってどれほど北朝鮮に流れ、核開発を助けてきたかをきちんと調査する必要があると述べました。

 そして、今年1月26日、脱出者や守る会が努力してきた北朝鮮に対し帰国事業の責任を求める裁判が、ヒューマンライツウオッチの土井香苗弁護士らのお力を得てついに勝訴したことを大きな運動の成果として挙げたうえで、しかし、この歴史的な勝訴を日弁連の人権擁護委員会がきわめて冷淡な態度でほとんど触れようとしない、佐伯氏はここにも、戦後も左翼イデオロギーや、朝鮮半島と日本との関係を常に日本を否定的に見る歴史観が反映されていると批判しました。

 そして、北朝鮮の独裁体制を民主化、打倒するためには、様々な運動団体の知恵と力を結集する必要がある、同時に、日本もまた過去の歴史伝統を正しく学び、我が国の独立や平和、民主主義の理念が日本の伝統といかに共通するものであるか、武士道などのモラルの復興などが、これからの世界を日本が生き抜くために必要であるかを再認識する必要があると述べて講演を終わりました。(終)

※参考資料
□■北朝鮮民衆のための人権宣言■□(1999年11月発表)
 今日、北朝鮮の民衆と、同国に抑留されている人々が遭遇している、餓死と人権蹂躙の惨状は座視しえない段階にきている。これを放置することは、良心と人道に反する行為である。われわれは、ここに世界人権宣言にのっとり、北朝鮮の民衆が置かれた窮状を打破すべく、日韓両国及び世界の人々に向けて以下の宣言を発する。
1 われわれは、北朝鮮民衆の大量餓死は自然災害によるものではなく、朝鮮労働党の一党独裁、全体主義体制の弊害によると判断する。この悲劇を終わらせるためには、独裁政治を排し、人権尊重の精神に基づく政治の民主化、経済の改革、法の公正な適用を図らなければならない。
2 われわれは、強制収容所・刑務所における政治犯、良心犯、一般服役者が置かれている苦境を決して見過ごしにはしない。過酷な拷問と飢え、死に至るまでの強制労働といったあらゆる悲惨な人権状況に一刻も早く終止符を打ち、自由と人権・人道の光を当て、収容所の1日も早い閉鎖を求める。
3 われわれは、シベリヤや中朝国境を越えて中国に逃れた十万人とも推定される脱北者たちが、見知らぬ土地を彷徨して経験している恐怖と束縛に目を向け、日・韓・米・中・露の5カ国と国連及び国際機関が、脱北者の置かれた状況を理解し、一日も早く難民と認定し保護するよう要望する。
4 われわれは、日韓両国と他の国々から北朝鮮に拉致された人々や在日北朝鮮帰国者、また朝鮮半島の南北離散家族の抑圧と飢餓との闘いと望郷の念に耳を傾ける。こうした人々は拘束を解かれ、世界人権宣言にある出国の自由、すなわち墳墓の地に帰り、自由に往来する権利を認めるよう、北朝鮮政府ならびに関係諸国政府に要望する。
5 われわれは、強制収容所と食料統制で縛る抑圧体制から、すべての北朝鮮の民衆が1日も早く解放され、尊厳と権利において平等で、集会、結社、言論、信仰の自由と権利が保障され、叡知と創造性を積極的に発揮できる社会が来たらんことを強く願う。
6 われわれは、以上の北朝鮮人権問題の解決のために国際協力を呼びかけた、去る3月10日付けフィガロ紙に掲載されたフランス知識人の宣言文、及び3月20日付け朝鮮日報に掲載された韓国知識人の宣言文の趣旨に賛同し、これを支持する。
7 われわれは、この北朝鮮現体制の人権蹂躙に終止符を打つために、日韓両国の政治家・言論人・宗教者が自らの良心に従って先頭に立つことを願う。また、関係各国及び諸国際機関が、北朝鮮政府に対して自由と人間の尊厳の確立を図るよう働きかける事を求める。われわれは、以上の目的の実現のためにあらゆる努力を重ねる事をここに誓う。

北朝鮮民衆のための人権宣言賛同者名簿(1999年11月10日現在)
▼荒木和博(現代コリア研究所)▼有田芳生(ジャーナリスト)▼石高健次(朝日放送報道プロデューサー)▼稲盛和夫(京セラ名誉会長)▼池田菊敏(翻訳家)▼衛藤瀋吉(東洋英和女学院院長)▼遠藤誠(弁護士)▼小川和久(軍事アナリスト)▼小川晴久(東京大学教授)▼太田耕一(評論家)▼柿澤弘治(元外相)▼加藤博(ジャーナリスト)▼加藤哲郎(一橋大学教授)▼金総領(ジャーナリスト)▼金美齢(評論家)▼工藤幸雄(ポーランド学者)▼黒川紀章(建築家)▼小林節(慶応大学教授)▼佐伯浩明(ジャーナリスト)▼櫻井よしこ(ジャーナリスト)▼佐藤勝巳(現代コリア研究所所長)▼椎名素夫(参議院議員)▼下村満子(ジャーナリスト)▼白井浩司(慶応大学名誉教授)▼白柳誠一(カトリック枢機卿)▼関川夏央(作家)▼副島廣之(宗教者)▼高世仁(ジャーナリスト)▼高沢皓司(ジャーナリスト)▼高橋三千綱(作家)▼張明秀(共和国帰国者問題対策協議会)▼鄭益友(ジャーナリスト)▼チョヘン(証言者)▼土屋たかゆき(都議会議員)▼鄭大均(都立大教授)▼遠山一行(音楽評論家)▼中平健吉(弁護士)▼中西輝政(京都大学教授)▼西岡力(東京都基督教大学助教授)▼野田正彰(京都造形大学教授)▼野村旗守(ジャーナリスト)▼萩原遼(ジャーナリスト)▼浜野輝(翻訳家)▼兵本達吉(拉致問題研究家)▼ピーター・バラカン(音楽評論家)▼朴春仙(証言者)▼朴鉄民(「セヌリ」編集長)▼前田日明(格闘家)▼松本健一(評論家)▼宮塚利雄(山梨学院大学助教授)▼横田滋(拉致被害者家族連絡会代表)▼李洋秀(音楽家)▼李英和(関西大学助教授)▼渡辺一民(共立女子大学教授)

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